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海外ビジネス コラム

市場動向 2013年12月24日

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フィリピン進出企業情報——ソフトウェア開発以外のBPO/BPM事例とは?

安部 妙(SPICEWORX CONSULTANCY, INC.)

日本の大手エンジニアリング企業は軒並みフィリピンに設計拠点あり

連載第3回目は、フィリピンのIT/BPM産業への日系企業進出状況のうち、前回お伝えしたソフトウェア開発セグメント以外の状況についてお伝えします。
連載第2回目にお伝えしたソフトウェア開発に次いでPEZA(フィリピン経済区庁)認定日系企業の進出が多いのはエンジニアリングサービスです(28社)。エンジニアリングサービスのセグメントでは、日本の主要なエンジニアリング企業、重機械企業の大半はフィリピンに設計拠点を持っていると言っても過言ではないでしょう。最も大きなところは日揮(JGC)で、1,000名を超える規模ですが、その他にも三菱重工、千代田化工、川崎重工、住友重機、三井造船、常石造船などの子会社があります。エンジニアリング設計においては、プラント建設等の施行現場の多くが海外であることから英語の設計書が必要であり、日本語への依存度が比較的低いため、むしろ英語に堪能なフィリピン人が大いに活躍しているのです。その他にもCADを使った設計業務の海外拠点としては、ゼネコンや、住宅建設事業者などがフィリピンの人材を数多く活用しています。

コンタクトセンター/コールセンター:「英語で」という日系が増加傾向

英語が堪能で高い教育(大卒)を受け、陽気でホスピタリティあふれる若年労働力が比較的安価かつ大量に確保できるという強みを活かし、英語圏、特に米国向けのコールセンター/コンタクトセンター分野が、2000年以降のフィリピンのIT/BPM産業のめざましい発展を牽引してきました。

一方、欧米企業とは対照的に、日本向け、あるいは日系企業によるコールセンターやコンタクトセンター事業で大きく目立った動きはありませんでした。これは、フィリピンでの日本語人材の大量確保が非常に困難だからです。国民の大半が非常に親日的で、アニメ、コスプレ、ゲーム、日本料理(最近は特にラーメンやトンカツ)など日本文化の人気も高いフィリピンですが、仕事のために日本語を習得しようという人はかなりの少数派であると言わざるを得ません。日本語能力検定試験(JLPT)1回あたりの受験者数でみると、フィリピンは4,000人弱で、中国の25分の1、ベトナムの4分の1です。

筆者も、フィリピンで日本語のコールセンターやコンタクトセンターの立上げを検討して相談に来られる方々には、一貫して「規模が出ないからビジネスとして成り立たないですよ」と申し上げてきました。中には、英語留学で滞在している日本人をパートタイムでコールセンター要員にしようとしているモデルもあると聞いていますが、合法的に就労可能なビザを確保した上で営業ができるのかどうか、筆者は疑問に思っています。

そんな中、ごく最近(2013年11月)、ベネッセグループのTMJが、フィリピンでは数少ない日本語対応のコンタクトセンターをセブに開設しているガリバー・オフショア・アウトソーシング(GOO)社と業務提携し、日本語対応のセンターを構築すると発表しました。人材は、日本からフィリピンに渡航して就労する日本人、インターンシップを活用した大学生、フィリピン現地人材という3タイプを活用するということです。日本語対応センターとして成功するかどうかが注目されます。

また最近は、日本の企業であっても、日本語を求めず、フィリピンの英語力を活用したコンタクトセンター事業に参入する動きが出てきました。たとえば、マスターピースグループが2013年6月にマニラに開設した英語のコンタクトセンターや、通販企業向けのコールセンターを運営するテレネット社や、オフショアアウトソーシングサービスのサンクネット社(東京)がセブに開設した英語のコールセンターなどが挙げられます。その他にも、グローバル化する日系企業のオペレーションをサポートするため、英語を中心としたコールセンター/コンタクトセンターの拠点としてフィリピンに注目する日本企業による、既存現地企業との資本提携やM&Aを視野に入れた動きが見られます。

ノンボイスのBPO/BPM: 成功している先行事例は、やはり英語での業務

フィリピンにある日系のノンボイスBPM業務拠点としておそらく最大規模なのは、コンピュータセキュリティソフトウェアのトレンドマイクロ(日本に本社がある、という意味で日系に分類します)のトレンドラボでしょう。トレンドラボでは、約1,200名のフィリピン人エンジニアが、コンピュータウィスル等のセキュリテイ上の脅威の解析や、対策をパターンファイルに反映させる業務の他、グローバルサポートセンターとして365日24時間態勢でインターネット上の様々な脅威動向を監視/解析しています。

また、日本郵船(株) (NYK Line)と現地企業TDG社の合弁企業であるNYK-TDG eBusinesses社は、フィリピンに約400名の体制をもっており、世界20カ国以上のNYK拠点のB/L (船荷証券)処理、輸出入関連文書処理、ヘルプデスク、テクニカルサポートを行っています。2000年の創設以来、13年にわたって世界各国のNYKグループ拠点のコスト削減を実現して来た実績とノウハウを活かし、近々外部顧客向けのBPOサービスも開始予定との事です。

ニッチな分野でフィリピンでのBPOを成功させている中小企業の事例として、11年前から医学文献の検索・複写サービスのフィリピンへの移管を進めてきているインフォレスタフィリピン社があります。同社は約90人体制で、日本の顧客(主に製薬会社の営業、いわゆるMR)のリクエストに応じ、全世界の医療文献データベースや図書館から必要とされる文献を検索し、リストを作成し、入手が必要な文献については各国の図書館等へ発注、文献を入手、著作権許諾代行処理を行った上で顧客に文書を発送するという業務を行っています。同社の吉田社長によれば、フィリピン人は仕事が丁寧で早く、単純作業の生産性は日本人よりも上、優秀な人材が安価に確保でき、医学情報の検索においては英語ができる方が有利、など、同社業務のフィリピンへの業務移管の様々なメリット感じておられるようです。

もう一つのノンボイスBPO事例として、ソーシャルメディア関連のグローバルサービス拠点をフィリピンに開設したガイアックス社があります。東京を本社とするソーシャルメディアとソーシャルアプリ関連サービスのガイアックス社は2011年、マニラにガイアックスアジアを設立しました。フィリピン拠点設立後3年目となる現在、70名体制となっています。同社では、英語、中国語、韓国語による企業のソーシャルメディアページの管理や監視、ソーシャルアプリやモバイルゲームのユーザサポートを提供しています。フィリピンの人材を活用し、コスト削減を図ると同時にグローバル化する日本企業のソーシャルメディア利用に関わるサービス事業の拡大を狙ったフィリピン進出の事例といえます。

これらの企業全てに共通するのは、業務の全てまたは大半を英語で行っているという点です。日本の顧客に向けて日本語でのサービスや成果物が求められる業務ではなく、世界の顧客に向けたサービス、あるいは日系企業のグローバルオペレーションをサポートするための業務の拠点としてフィリピンを活用しています。このようなシナリオでの、日比間の企業のコラボレーションや、日本企業のフィリピン進出のケースは今後も増えてくると考えられます。

フィリピンのIT/BPM産業を支える周辺産業でも日系資本の動き

フィリピンのIT/BPM産業の雇用者数は80万人を超えています。規模の大きなところでは、1拠点で数千人規模、フィリピン国内だけで10ヶ所以上の拠点を持つ大手は1社で数万人規模を雇用しています。IT/BPM産業の飛躍的な拡大に伴い、これらの事業者が必ず必要とする大規模オフィススペース、ITインフラ、通信サービス、コンピュータ端末、ソフトウェア、人材採用、人材育成などに関わるサービスを提供する周辺産業のマーケットも大きく拡大してきました。

こうした周辺産業へ日系企業の動きとしては、NTT Communications (NTT Com)による現地SI企業との資本提携と、それに続く同社のフィリピン事業の提携先への全面移管があげられます。NTT Comは、フィリピンにおけるコンタクトセンターソリューションの提供能力強化を図るため、2012年5月、フィリピン国内のコンタクトセンター向けシステム構築でトップシェアをもつ現地企業DTSIグループと資本提携しました。その後、2013年2月には、2009年に設立していた100%子会社の現地法人NTT Comフィリピンの全ての事業をDTSIグループに移管し、フィリピン国内事業を同グループの下に一元化しての事業拡大を狙っています。

その他にも、まだ報道発表されていない様々な動きがある模様です。対日ビジネスでは日本語人口の少なさが弱みだったフィリピンのIT/BPM産業ですが、それよりもフィリピンの英語力に注目した動きの活発化が顕著です。2014年も、フィリピンのIT/BPM業界と日本企業との関係がどのような展開を見せるのか、大いに注目されます。

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安部 妙

(SPICEWORX CONSULTANCY, INC.)

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