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海外ビジネス コラム

商習慣 2013年06月12日

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盛り上がる「ベトナムの憲法論議」。ベトナム進出に与える影響は?

吉田 雅之(株式会社マックアンドサンク)

 

ベトナム国会議長 Mr.Nguyen Sinh Hung (左)

ベトナムでは今、憲法改正案についての論議が盛んになっている

ベトナムの第13期国会 第5回会議が5月20日開催、6月22日までの日程で種々の討議が行われています。今回の目玉は憲法改正案の審議。

現行のベトナム社会主義共和国憲法は、1992年4月15日 第8期国会第11回会議にて制定された全147条からなるもので、2001年12月25日の改正を経て現在に至っています。

制定から既に20年、前回の改正から10年以上を経過し内容が実態と乖離しているとの認識のもと、憲法改正草稿策定委員会が設置され、63の省、特別市から徴集された1800万以上の意見書を基にした改正案を、今国会で審議しています。

改正案の内容については「国名」の変更が日本でも報道され話題になっていましたが、「党の指導的立場」に関する議論、公職、官僚、行政に係る職務要件規定、土地に関する権利、所有権の考え方、等々日頃問題になっている現行法の基礎の根本的な見直しも数多く含んでの論議が続いています。

最新の情報では、国名変更に関しては変更せず、また党の指導的立場を規定した第4条も現行条文通りとの結論の見通しです。

 

改正の背景は? ベトナムの憲法の歴史について

ベトナムの歴代の憲法は以下の4つ、

1946年 ベトナム民主共和国憲法 1946年11月9日制定
1959年 ベトナム民主共和国憲法 1960年1月1日制定
1980年 ベトナム社会主義共和国憲法 1980年12月19日制定
1992年 ベトナム社会主義共和国憲法 1992年4月15日制定

上記の他に、ベトナム共和国(南ベトナム)では1956年と1967年の2つの憲法を制定しましたが、1975年の南ベトナム政府の終焉により無効となりました。時代の大きな節目ごとにベトナムの憲法は変化、改正されてきていることがよく分かります。

ホー・チ・ミンによる独立宣言から新しい国家樹立の時期、仏との第1次インドシナ戦争の終結、ジュネーブ協定締結後の時期、ベトナム戦争終結、南北ベトナム再統一、ベトナム社会主義共和国成立後の時期、そしてドイモイが始まり市場開放経済の方向が定まり出した時期、それぞれの時代の趨勢から憲法の制定、改正は必須であっただろうと思われます。

1975年のサイゴン陥落による南ベトナム政府の崩壊、そして翌1976年南北ベトナム再統一、ベトナム社会主義共和国の成立から10年後、1986年にドイモイの提唱、市場開放経済の導入にむけて国の経済政策の舵を大きく切った時期、そしてその後の数多くの外資の進出を受け、現行憲法はその第二章「経済政策」第15条に「国は国家管理と社会主義的方針のもとに、市場経済による多分野の商品経済を開発する」と、市場経済政策を憲法で初めて明記され、社会主義下での資本主義経済を推し進めてきました。2001年に改正を加えたものの、ベトナムの現在の社会の実情から見れば多くの齟齬が顕在化しているのは言うまでもなく、そんな認識から今回の憲法改正案の審議が産まれています。

 

今回のベトナムの憲法論議の注目点はここだ!

アジア地域、経済関連の動きを見ても現行憲法制定の1992年以降、

1995年 ASEAN 加盟
1996年 AFTA への参加
1998年 APEC 加盟
2007年 WTO 加盟

という変化がありました。

世界標準での経済運営の指針、枠組、法的整備を進めることが必要とされ、諸外国との連携を進めていく上で、いわば外圧を受けながら国の根幹である憲法も変化を迫られています。行政の法整備の根幹である憲法が実情を反映していなければ東南アジア周辺各国との経済競争に遅れを取ることもまた事実で、その意味で今回の改正の持つ意味は大きいのです。

国を取り巻く経済的な状況が変化を続ける中、その一方で中国との関係を中心に領土問題も顕在化、国の防衛、軍の役割、党の指導体制といったものの強化もまた必要とする意見も多いです。ベトナムの権力構造を見る時に何時も注意しておくべきことは、ベトナムには3つの流れがあるということです。

即ち、「共産党」「軍」「行政府」。
現行憲法は、このそれぞれの流れの指導的立場と為すべき事柄と規定していますが、この規定のさらなる強化見直しが今、迫られています。

もう一つの大きな社会的変化といえば言うまでもなくインターネットの普及、IT化の進行。誰でも、何時でも、何処からでも必要な世界中の情報を収集することが可能である現在、この観点から、現行憲法第三章の「文化・教育・科学・芸術」に記載されている各条項を見ていけば、国がこの分野で指導的役割をどこまで果たせるのか、そもそも国家の思想に基づき、この分野の活動を何らかの形で制限することの是非にまで考えを及ばさざるを得ません。

そして大きな変化はもうひとつ。第五章に記載される「人民の基本的権利義務」に及びます。社会主義の立場からの自由とは一体どのようなものであるべきなのでしょうか?

移動、居住、言論、報道、情報、信条、宗教、財産、経済的利益、他からの不可侵性の保護、等々。
情報を収集するだけではなく発信することも簡単に出来得る今、ブロガーの逮捕等が実際に起こっています。

社会主義という思想的枠組、曖昧な基準による恣意的な規制の中で、党の指導という大義名分がどうやって折り合いをつけていくのか、これも今回の憲法改正の論議の中である程度方向が見えてくることでしょう。

今、国会の審議に注目しています。

(注) ベトナム社会主義共和国の現行憲法日本語訳は下記の東京大学のリンク先でご覧になれます。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/asiapacific/19920415.O1J.html

このコラムの著者

吉田 雅之

吉田 雅之

(株式会社マックアンドサンク)

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