法律・制度 2022年08月23日
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中国法人の法定代表人を誰にすべきか
日系企業の董事メンバーの構成を見ますと、董事長=法定代表人:日本本社の社長、董事:関連部門部長クラス以上、董事兼総経理:現地駐在員、というパターンが多いかと思います。
中には現地駐在員に法定代表人を任せるケースもあれば、現地化が進み董事兼総経理を現地駐在員ではなく現地中国人社員にしているところもあるかと思います。総経理を現地のトップにはするものの法定代表人にしないのはリスクヘッジとして考えているところもあれば、法定代表人はやはり日本の社長じゃないとという考えのところもあり、いろんな考えがあろうかと思います。
しかしながら、法定代表人が中国にいない場合、不便な場面があります。具体的には銀行です。
銀行は何かの手続きに際して法定代表人の身分証(外国人ならパスポート)を提供させようとすることが少なくありません。日系銀行だとそもそも現地法人の口座を設けるにあたって日本の取引店からの紹介であるケースが大半でありますし、いちおう日本の支店で確認しようと思えばできるので、中国現地で法定代表人のパスポート原本を提供するのを要求するケースはほぼありません。
しかし、中国の銀行は違います。何かにつけて堅いのです。
以下に、いままで中国の銀行における手続きで法定代表人のパスポート原本を要求された事例を挙げていきます。
・口座の開設
・口座のクローズ
・ネットバンキング担当者用USBの発行
・登録住所の変更
・連絡住所の変更
・ネットバンキング担当者用USBの発行
特に後ろの二つは大した話ではないのですが、こんなささいなことでも法定代表人のパスポート原本を要求してきます。
冒頭に書きましたように、日系企業の場合法定代表人が中国にいないケースが多く、どうしても用意しようとなると中国に来てもらうか、送ってきてもらうしかありません。いまはコロナの影響もあってささいな用事で来ることはできないですし、パスポート原本をはるかかなたの外国に送付することに気持ち悪さを感じる人も少なくありません。
しかし考えてみますと、銀行手続きだけを考えた場合、法定代表人を日本にいる人にしておく必要ってあるでしょうか? お金を好き勝手に動かされるリスク、これを心配する人がいます。しかし現実的にはお金を動かすことに関しては窓口で手続きすることもあれば、ネットバンキングで処理してしまっていることも多く、ここで法定代表人がグリップを利かせていることはありません。
どうしてもここでグリップを利かせたいのであれば、銀行届出印を日本で保管する、ネットバンキングの承認者用USBを日本で保管し、日本で承認する体制にする、というほうが現実的です。
次に銀行だけではなく、他の場面で好き勝手されるのが怖いというのがあります。例えば、現地法人に何かしらの変更を行う、勝手に持分変更される、こういった心配ですね。順番に見ていきましょう。
現地法人に何かしらの変更を行う、例えば住所変更、董事変更、経営範囲変更、といったあたりが思い浮かびます。
しかし、これらを進めようとすると株主決議が必要、つまり一般的なケースにおいては日本本社が出資しているわけですから、日本本社が署名捺印する株主決議が必要になります。法定代表人が署名するだけでは手続きを進めることはできません。
次に、勝手に持分変更されるのではないかという心配。この手続きでも、そもそも持分変更する場合、上と同じく株主(株主)の決議が必要になります。法定代表人だけで完結させることはできません。
これ以外だと、例えば勝手に変なところと取引するのではと疑う場合、これはそもそも法定代表人じゃなくて総経理でもやろうと思えばできます。
こうしてみますと、法定代表人の権限ってそもそもかなり制限されているように見えます。《中華人民共和国公司法》を見ましても、「有限責任公司の株主会は全体株主により組成される。株主会は公司の権力機構である」と明記されています。株主会の行使する職権を見ますと…
(1) 会社の経営方針及び投資計画を決定すること
(2) 従業員代表を務めていない董事及び監事を選出及び更迭し、董事及び監事の報酬に関する事項を決定すること
(3) 董事会の報告を審議し承認すること
(4) 監事会又は監事の報告を審議し承認すること
(5) 会社の年度財務予算案及び決算案を審議し承認すること
(6) 会社の利益配当案又は欠損補填案を審議し承認すること
(7) 会社の登録資本金の増加又は減少について決議を行うこと
(8) 社債発行について決議を行うこと
(9) 会社の合併、分割、解散、清算又は会社形態の変更について決議を行うこと
(10) 会社定款を修正すること
(11) 会社定款に定めるその他の職権。
…以上のように定められており、重要事項は基本的に株主が決めることになっています。
では、法定代表人ってそもそもどこまで権限があるのでしょうか。1996年に公布されている《企業法人法定代表人登記管理規定》によりますと、次のように定められています。
「企業法定代表人は法律、行政法規及び企業法人が定款で規定する職権の範囲内で職権を行使する」
つまり、法定代表人の権限はあくまでも定款で決められた範囲内のものに限定されます。この文言を見る限り、法定代表人が独断で好き勝手するというのは難しいといえるでしょう。
外商独資企業はともかく、中外合資経営企業法がまだ有効であったころ、「董事長は合営企業の法定代表人である」という文言があり、中外合弁企業の法定代表人イコール董事長でしたが、外商投資法施行後はこの縛りもなくなっています。公司法第十三条において、「公司法定代表人は公司定款の規定に照らして、董事長、執行董事または経理が担任し、法に依って登記する。」とありますが、要するに、外商独資だろうが中外合弁だろうが、法定代表人は董事長でなければならないという縛りはなくなっています。
よって、董事長はどうしても日本の社長あるいは担当役員じゃなければだめということであればその考え方で日本にいる方が董事長を担い、法定代表人は現地総経理が担う、この方が何かと便利だといえるのではないでしょうか。
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