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海外ビジネス コラム

市場動向 2015年12月09日

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アセアンの中心地・タイにおける和食ビジネス その7

水野 聡子(Infinitie Wings BP(Thailand)Co., Ltd)

もともと親日国であるタイには以前から和食店はいくつかあった。ただほとんどが在住日本人向けの価格高め設定店、またはローカル向けのいわゆる「なんちゃって和食店」の二極化した状態であった。

しかし、10年ほど前からの政府間経済協定によって、関税をはじめとする様々な規制緩和が行われた。そして、2013年からの短期訪日ビザ免除により日本を訪れ和食の良い点に接し、タイ人も「本物の和食を食べたい、和食の良い点を日常生活に取り入れたい」という要望が高まったこと、また、日本企業としては国内の少子高齢化で海外へ市場を求めようとする潮流、このほか複数の要因を背景にして現在バンコクには様々な工夫を凝らした多様な和食店が豊富にできている。そこで、そうした事例をいくつか取り上げ、バンコクにおける飲食ビジネスおよび食材ビジネスのチャンスを探りたい。

和食店経営者に聞く、飲食ビジネスおよび食材ビジネスのチャンス

多様な和食店があるということは、言ってみれば競合が非常に多いともいえる。和食店経営者は常に「いつ使ってもらう、誰に使ってもらう、何を楽しんでもらう、どういう風に維持運営する」を意識している。2015年現在の人気店を訪問し長年の人気の秘訣、進出する際に考えておきたいこと、そして店舗運営上重要事項の一つである食材の調達についても聞いてみた。

第7回は「Kenji’s Lab」

「店を持つとき、俺は何を創り上げるのか、と自分に問いかけた。答えは『自分が行きたい店を創る』であり、日々それを求めて活動している」とバンコクの隠れ家ビストロ・ケンジズラボの中山オーナーは言う。ほぼ口コミだけで周知され、高いリピート率を維持、夕刻に開店してほぼ満席で閉店まで稼動する超人気店。様々な拘りと旺盛な“実験精神”は店名の“ラボ”にも込められている。

「何事もシンプルかつ柔軟性を持たせることで次の展開に複数の選択肢を持たせることが出来る」と語る中山氏

客層やプロモーション方法について

日本人が7-8割で、他はタイ人やイタリア人、そしてそのほとんどがリピーター。広告は過去に少しだけ実施ししたこともあったが、ほとんどが口コミまたはリピーターがご新規さんを伴って来てくれる。SNSはそれなりに投稿しているがフォロワー数を誇るほどのものでもなく、やはり口コミが一番の周知方法となっている。

夕刻開店してほぼ満席のまま深夜の閉店まで稼動している。ビストロとしての夕食需要、バーとしての二軒目需要もあれば、残業後の空腹癒し需要など、時間帯によってそれぞれのカラーはあるが、途切れ目なく回転している。

食材や店の拘りについて

店を持つとき、俺は何を創り上げるのか、と自分に問いかけた。答えは『自分が行きたい店を創る』だった。自分が行きたい店とは何か。まず美味しいを優先。何事もシンプルだが洗練されていること、心地よいサービス、様々な自分が求めていることを体現する店にしたいと思い今も日々追求している。店名であるケンジズラボのラボは研究室という意味。料理の研究もさることながら今までにない飲食店に出来るかという実験室の意味も含んでいる。

飲食店には原価がこれぐらいで利幅がこれぐらいというある種のセオリーがありそれに則った運営手法を取るのが一般的。当社は原価率が他より高い。当然その分利幅は下がるが座席の稼働率を上げることでカバーするようにしている。

食材であれば6割強が輸入食材、酒類は日本産およびヨーロッパ産のものを採用。食材採用の基本原則は美味しいかどうか、自分が食べたいかどうか。コスト高であっても自分が美味しいと思う物を厳選し人気の高いものを継続して提供することで食材の回転率もあがる。

調理方法であれば特別な道具は保有していない。シンプルな作業を短時間で行えるかに拘り指導している。柔軟性を持たせ一つの食材から複数メニューが提供できるため食材の廃棄はほぼゼロ。これで高い原価率を償却するというのも拘りの一つ。

シンプルであることに関して

当社は大規模資本ではないため自分の意思と采配で運営している。まずこれが第一。社としての決断がシンプルであることは従業員に方向性を示し理解させるうえでも重要と思っている。次は仕事と生活。1階が店舗、2階は事務所およびグループ向けスペース、3階が住居。生活にも仕事にもコストも時間も掛けずに取り組める環境としている。そして調理場。飲食店向けの機材はほとんどなくガスコンロも家庭用とごくごく廉価で手に入る可動式のコンロの併用、特別な器具は何一つない。それでもきちんと調理ができる。もっと美味しく作る方法を模索するのもシンプルに「美味しい」だけを求めている表れ。シンプルであればその先の選択肢も増える、身軽であれば時間や資金を注ぐべきところに投入できる。


シンプルの追求を体現する店内。特別なものがなくとも積み上げてきた拘りを強く感じさせる。右手上の黒板で「本日のオススメ」として同じ食材を様々な形や味で提供し廃棄率ほぼゼロを達成する

会社として他のお店と差別化していることについて

飲食業であるが週休二日制でありオフィスワーカー並の給与を出している。仕事がきつく休みがなく給料が少ないと、従業員の入退社が繰り返し起こる。新スタッフへの教育が何度も必要となり、結果として時間の無駄でありサービスの質が落ちるという状況が生まれる。この現象に文句を言う経営者は多いと思うが、それならそうならないようにするにはどうしたらいいのか、という事を追求した結果が十分な休みと給与だった。実際自分が日本でそういう境遇であったからこそ「従業員や自分の店はこういう風に在ってほしい」を実践している。魅力的な職場はどのようにして作るのか、という実験をしている。この点は金銭的には店側の負担となるが総合的に見て大きくプラスになっている。

また、安い賃金で長時間労働が当たり前の業界であるからこそきちんとした待遇を与え、働く本人にプライドを持たせ、自分たちの社会的地位をあげようとする意識を持ってほしいと思う。業界の改善とは誰かの指導で実施されるものではなく働く人たちの意識改革によるものだと思っている。非常に実験的であるがこれも自分の意思で決定し自分の采配で行うことであり良い結果になればその選択肢で良かったのだと判断できる。

アセアンでビジネスをしたい人にメッセージ

固定費をかけない、最初から完璧を求めないをまず考えるのは非常に重要に思う。進出の際に店構えを完璧にし、毎月これだけ掛ければすぐ取り戻せる、だから多くの投資を、と呼びかける業者も沢山ある。しかし、最初の投資が大きいと運営開始後コスト意識や義務感が大きく自分が満足するものが創り上げられない。取り戻しがあるので仕方ないという気持ちは、仕事や提供するものにも如実に現れ、結局リピーターの創出ができなくなる。こうならないためにも与えられる情報には敏感になりいいことばかりを聞いているときはちょっと立ち止まって考えてほしい。そして開店後軌道に乗るまで6か月として、そこまでのランニングコストと生活費は確保しておくのを推奨する。

タイにはよくあることと聞いたのが店舗の契約が急に切られ立ち退きを迫られる、など。こういう時もすぐ対応できるようにメインのカウンターを含めほとんどのものを可動式にしている。動かして掃除が出来るので衛生面から見てもプラスである。

店名がラボであり料理はもちろん様々なことを“実験”している。週休二日を維持して売り上げをあげられるのか、理想と拘りを詰め込み手を抜かないのをどこまで追求できるのか、ビジネスとして効率はどうなのか。これから進出するなら様々な“実験”をし自分の創意と拘りを表現するお店になってほしい。

このコラムの著者

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水野 聡子

(Infinitie Wings BP(Thailand)Co., Ltd)

<タイ産業調査の専門家>

IWBPではタイの一般市場調査および産業調査、コーディネート業務、メディア対応業務などを承っております。

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