市場動向 2016年05月24日
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日米の貿易における相互依存度の高さを分析
米国にとって日本は第4位の貿易相手国であり、日本にとって米国は最大の貿易相手国
上記は、世界経済の中心である米国の輸出入相手国との貿易の状況をイメージ化したもの(出所:2011年のデータに基づき、イリノイ大学のAnthony Cohen氏が作成)。近隣のカナダ・メキシコとは、NAFTA(北米自由貿易協定)もあり、輸出・輸入共に多い。それ以外では、中国からの輸入が圧倒的に多く、低コストの製品が多く流入しているものと思われる。
日本は、世界第4位の貿易相手国であり、輸出・輸入の両面において、米国との関係が深い。欧州は、EUとして括れば米国の世界最大の貿易相手地域となるが、ドイツ、英国、フランスといった個々の国としては、日本よりも貿易量が少ない。
米国は日本にとって最も重要な外国だが、米国にとっても日本は最も重要な国の一つ世界有数の貿易パートナーである事がわかる。
日本にとって米国は最大の貿易相手国
2014年の日本からの輸出先を見ると、米国は中国と並び18%を占める最大の輸出先であることがわかる。地理的に貿易がしやすい近隣諸国との比較においても、米国の存在感が際立っている。
(出所:The Observatory of Economic Complexity, 2014年までのデータ)
<米国の輸入額(製品別)の推移>
(出所:The Observatory of Economic Complexity, 2014年までのデータ)
注目すべき点は、アメリカの輸入額が、1995年の約6千億ドルから、2014年に約2.2兆ドルと約3.7倍に増加していること
2014年に米国は世界最大の輸入国で、世界全体の輸入額17.6兆ドルの12.5%を占めた。輸入額は過去5年間に年平均で8.5%成長した。
米国は産油国からの化石燃料の輸入の割合が多かったが、近年は米国におけるシェールガスの産出量増加により輸入量が減少している。一方で、機械類や輸送機器(上記グラフの青色の帯)は、金融危機における落ち込みを除いては、安定した増加傾向が続いている。この中には、米国企業が海外のコストが安い拠点で生産した製品を米国に輸入したものの、米国企業が海外企業に委託して生産した製品を輸入したものも含まれる。
比較のために、同じ期間における日本の輸入額と見ると、1995年の約3千億ドルから、2012年に約8千億ドルまで増加したが、その後減少に転じている。日米の輸入額の差は、約20年前には約2倍程度だったものが、2014年には4倍以上に拡大していることがわかる。
製造業の輸入が増加した理由:不可逆的な国際分業が進み、海外からの輸入が増加
A. 産業構造の変化:外注化・外部調達化
よく知られるように、米国は生産外注を積極的に進めた国で、米国で開発された多くの工業製品が中国・台湾など比較的生産コストが安い国々において生産されている。
また、米国は、製造業のみならず、サービス業においても、インドやフィリピンといった英語圏へのオフショア化を進めている。
米国の競争力は、絶え間ないイノベーションに加えて、このような積極的な国際分業にも大きく立脚していると考えられる。
B. 国際分業による効率化と国内雇用への影響(ご参考)
オフショア化を進めると、自動化などのテクノロジーの進化による影響も加わり、米国内における、比較的付加価値が低い雇用が減少する。
付加価値が高い仕事や、仕事を創造する仕事に対するニーズは尽きないが、外注されうる、又は自動化されうる仕事は減少し続ける。
米国において中間層が年々減少し、人口に占める中間層の割合が2015年に50%を割り込んだ(出所:Pew Research Center)。「熟練労働者がますます選好されるようになっており、技術や教育水準が低ければ、就労できない公算が非常に高い」(出所:同所)と説明されている。この現象と、上記の産業構造の変化は、関連している。尚、上記調査によると、中間層の減少に対して、貧困層よりも富裕層がより多く増加している。
C. 貿易赤字に対する賛否
輸入の増加は貿易赤字の直接の理由であり、米国は長期にわたり貿易赤字を継続している。
貿易赤字は国富とドルの流出であり、国内の生産能力を海外に置き換え、国内の雇用を減少させるという意見(出所:Economy in crisis, “The Perils of importing more than we export”より抜粋)や、貿易赤字は負債であり、国内の雇用を減少させ、将来の世代に残る負担であるという意見もある。
一方で、米国は豊かな国であり、米国は他国よりも多くのニーズがあり、他国よりも多く支出する余裕があるという意見(出所:Investopedia、”An analysis of US trade deficit”、 著者:Greg McFarlane氏)や、貿易赤字は悪であり将来世代への負の遺産という指摘は誤りであり、貿易赤字とはシンプルに、米国人が輸入に支出する額の方が、外国人が米国からの輸入に支払う額よりも大きいことを意味する(出所:Forbes, “The U.S. Trade Deficit Is Not A Debt To Repay”、著者:Dan Ikenson氏)という意見もある。
D. リショアリングは現時点では大きく進んでいない
企業が海外に移した業務・生産を、国内に戻すことリショアリングと呼ぶ。移管先での人件費の高騰などが理由とされる。
2015 AT Kearney Reshoring Indexによると、4年連続で、米国への生産を戻すリショアリングの動きは、米国から海外に生産をオフショアする動きに追いつくことはできず、同インデックスは、前年のマイナス30から2015年にマイナス115となった。この傾向をもってAT Kearney社は、経営における先端的な選択とみられたリショアリングは一時的な現象であった、またはその動きは本格的に始まっていない、としている。
以上から、米国における輸入の増加は、経済の発展と産業構造の変化における、自発的な動きと説明することができる。この動きを元に戻す要因は短期的には見当たらない。
食品類の輸入が増加した理由:米国はFTAを通じて食品分野においても巨大な輸入国となり、最もオープンな市場となった
米国の、過去20年間の食品類の輸入の状況(出所:The Observatory of Economic Complexity, 2014年までのデータ)を見ると、全産業の増加傾向と同様に、輸入額が約4倍程度に増加している。
世界で最も低い農産品の関税率と、3億人を超える購買力のある消費者
USITC Executive Briefings on Trade(2011年6月)は、米国は農産品に関して世界で最もオープンな市場になったこと、人口動態や食品産業構造の変化を、輸出増の理由に挙げた。
米国の食品類の関税率は世界で最も低い:米国のWTOによる農産品の平均関税率は9%で、世界平均の60%と比べて大幅に低い。米国の実行関税率も同様に低い。2010年に、米国の農産品輸入において計算された平均関税額は1%未満だった。
関税割当制(tariff rate quotas, TRQs : 一定数両以上の輸入には高い関税が課されるもの):米国の農産品輸入において、本制度が適用される品目は少ない。割当対象には、砂糖、エチルアルコール、ツナ缶、牛肉、乳製品、タバコが含まれる。
米国の人口動態要因:米国は3億人を超える消費者を擁し、広範な品質の高い生鮮・加工食料品を競争力のある価格で求めるニーズがあり、民族的なダイバーシティが、より幅広い種類の食品を求める。
供給側の要因:国際食品業界の集中とグローバル化により、農産品の調達と加工が世界規模で行われるようになり、世界のサプライチェーンとコールドチェーンなどの技術革新が統合され、品質の高い生鮮食品が競争力のある価格で、季節を問わず供給されるようになった。低コスト食品を世界から調達するメガ・リテーラーが台頭している。
FTA/WTOの影響で、米国は2005年に初めて食品の純輸入国に転じた。米国市民の声を発信するPublic Citizenは、これまでのFTAは、食品の輸入増加が家族農家などに影響を及ぼしてきたと指摘している。
輸入が大きく増加したのみならず、当初の期待より輸出が増加しなかったことで、特に小規模経営の家族農家・牧畜事業者の経営に大きな影響を及ぼし、全体の約21%にあたる17万事業者がいなくなったと説明している。
カリフォルニア州は、NAFTAを締結したカナダとメキシコ、及びFTAを締結した韓国との間で、NATFA/FTA締結国からの輸入は大幅に増加したものの、カリフォルニアからこれらの国々への輸出は伸びず、これら協定を締結していない国々への輸出増加率を水準にとどまっていいると指摘した。
加工食品の輸入の増加
最も顕著に増加している製品分野は、加工食品類(Food Processing)であり、1995年の約100億ドルから、2014年に約535億ドル、約5.4倍増加している。このカテゴリには、ワイン、プラスチックストレージコンテナ、その他フルーツ、その他食品、その他野菜、焼いた食品、調製フルーツ、チョコレート、その他飲料などが含まれる。
米国は、米国内の食品の安全性に対する懸念の高まりを受けて、2011年1月4日、食品安全強化法(Food Safety Modernization Act、FSMA)が成立し、食品医薬品局(FDA)の権限が多岐にわたって強化された。これには、米国に輸入される食品の製造などを行う米国外の施設に対して、食品安全計画の策定・実施を義務付ける内容が含まれる。日本を含む諸外国の事業者は今後公表される予定のガイドラインや細則に基づき、対応を行う必要がある。
上記の法律が施行段階に入り、今後米国に食品を輸出する事業者は、より高いレベルの安全管理及びトラブル予防策を講じる必要がある。
例えば、食品製造事業者は、製造、加工、梱包、保管にあたり、①影響する危害分析を行い、②それらの危害を予防・最小化するための管理措置を策定し、③管理措置の有効性のモニタリングを行い、④モニタリング記録を保管することを求められる。
これにより、米国向けの輸出のハードルは現在よりも高まる可能性があるが、元々きちんと安全管理を安全管理を行ってきた事業者にとっては高すぎるハードルではなく、安かろう・悪かろうの業者を排除する方向に作用するものと思われる。
米国は今後も多くの食品を輸入し続ける
上記から、米国においては、豊富な人口と消費ニーズと開かれた市場をもって、今後も海外からの食品の輸入は継続する方向にあると思われる。
食の安全強化に向けた規制が強化されるものの、安全性が確保された質の高い食品類に関しては、今後も継続しして輸入の機会が見込まれるものと思われる。
次回以降
日本との関係が深い製造業(機械類・輸送機器類)、及び食品類(加工食品類、動物製品、野菜類)について、直近の貿易データから、各セグメントにおいて、どのような製品を、どの国から輸入しているかを分析し、製品分類別・国別の輸入シェアを見る。これにより、主要分野における市場規模、日本の立ち位置と、今後の輸出拡大の余地を検討する。
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