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海外ビジネス コラム

市場動向 2022年11月24日

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インドネシアへの越境ECを冷静に分析すると

佐藤 守彦(MRKS International LLC / マークスインターナショナル合同会社)

海外進出の最初のステップとして、越境ECを検討される企業も多いようです。特に、人口が多いインドネシア市場へアプローチする方法として検討される企業もますます増えてきているようです。

この記事では、インドネシアへの越境ECについて整理しながら、そのポイントについて冷静に分析していきます。

越境ECはセールスチャネル


マーケティングは、4P(Product、Price、Place、Promotion)で説明されることが多いですが、越境ECはセールスチャネルですので、4Pの中ではPlace(チャネル)ということになります。

通常、マーケティングプランの策定は、インドネシアの消費者をセグメントした上でターゲットを設定し、製品のポジショニングやコンセプトを決めるというマーケティングの上流工程を先に行います。ですから、いきなりセールスチャネルであるPlaceありきで(越境ECありき)で販売をスタートするのはおかしいことになります。

多くの「越境EC」にまつわる失敗の原因はここにあることを押さえておく必要があります。

事実、ジェトロが2018年から開始した「ジャパン・モール事業」での結果分析(※)では、現地の消費性向を把握しておくことの重要性が指摘されています。

※参照:
想定より売れない東南アジア越境ECのなぜ」JETRO


それでは、「インドネシアへの越境EC」について、理解しておくべきポイントを一つひとつ具体的にみていきたいと思います。多くの誤解があるかと思われますので、インドネシアへの越境ECを始める前に認識しておくことで、無駄な時間やコストを避けることができると考えます。

ポイント1.中国のような爆買いは、期待できない


2015年の流行語大賞(年間大賞)にも選ばれた「爆買い」。

中国から国慶節などの休暇に日本に大勢訪れ、特に日本製のトイレタリー商品や電化製品を大量に購入するという現象が見られました。ドラッグストアでは、それまでに起こることがなかった「品切れ」になる商品も出てくるなど、その購買力に圧倒されました。

その後、そのニーズを汲み取り、日本から中国市場向けにECサイト経由で販売する方法、つまり「越境EC」が始まり、年々拡大傾向にあります。
図01

画像出典元:
令和2年度 電子商取引に関する市場調査」経済産業省 商務情報制作局


圧倒的な中国のEC小売市場


その理由としては、そもそも中国市場は、越境ECに限らずEC小売市場全体の規模が大きいというのがあります。

経済産業省の調査結果によりますと、2020年の国別EC小売市場規模では、中国が1位となっており、その市場規模は22,970億ドルで、2位のアメリカ(7,945億ドル)の約3倍です。ちなみに日本の市場規模は1,418億ドルで、3位の英国(1,804億ドル)の次に位置しています。

(ここではECによる小売販売に限定しています。金融取引やB2Bなどを含めたEC市場全体にしてしまうと本質を見誤る可能性があるためです。例えば、2021年のインドネシアEC市場の市場規模が403兆ルピア[約270億ドル、約3兆6千億円]という推計値がありますが、これは小売のみの金額ではなくEC全体の規模を示すためミスリードする数値と考えた方が良さそうです)
図02

画像出典元:
新型コロナ禍を奇貨にEC取引が伸長(インドネシア)/ASEAN最大の人口を有する市場でデジタル化進展」JETRO


インドネシアは中国の1%未満


さて、インドネシアの市場規模は、同じく2020年は169億ドルで、2024年には284億ドルに成長すると予測されています。(インサイダー・インテリジェンス社のデータからJETROが作成した上記グラフを参照)

2年前の数字ですが、中国の市場規模は既に圧倒的(インドネシアの約136倍)であり、また地理的に近いため輸送コストや時間の面でもメリットがあります。事実、インドネシアのモール型ECサイト(ECモール)での、日本製品(越境ECによる販売)へのレビューでは、「デリバリーに時間がかかった」「忘れた頃に配達された」など配送に関するものが多いです。

ちなみに、前述の参照サイト「想定より売れない東南アジア越境ECのなぜ」(JETRO)でも、ジェトロは、東南アジアの市場規模が小さいことや地理的理由からの輸送によるコスト増が失敗の原因として挙げています。

ポイント2.プラットフォーマーの選択が難しい


インドネシアのECモールは、ジェトロや他の資料で公開されているアクセス数で見ると、トップ3が、トコペディア(Tokopedia、インドネシア地場)とショッピー(Shopee、シンガポール系)、それにラザダ(Lazada、シンガポール系)となり、全て総合型モールです。そのほか、Ticket.comを傘下に持つ総合型ECモールblibli.comも積極的に広告を出稿しています。

ところで、スーパーマーケットを展開するAEON MALL(イオンモール)が、2021年インドネシアのECプラットフォーマー、「JDドットアイディー(JD.ID)」と協業を始めました(日本企業の越境ECもサポートするとのことです)。

イオンのイオンリテールは、主戦場の日本のスーパー(GMS)の売上で、イトーヨーカ堂(セブン&アイホールディングス)の約2倍あるスーパーの勝ち組といえます。

そのイオンが、インドネシアで展開するスーパーであるイオンモールとの協業先ECモールとして、インドネシアでは外資系になる中国の京東集団のJD.IDを選びました。これにより、両社は、インドネシアにおいてオンラインとオフラインのオムニチャネルの協業に取り組んでいくとのことですので今後の展開が楽しみですが、このJD.IDも、アクセス数トップ10に入る総合型モールです。

これらの他、総合型モールは、インドネシア地場系大手のBukalapakもあり、多くのモールがひしめき合っており、それぞれ異なる特徴があるため、出品するにはよく検討し、自社製品とマッチしたECモールを選ぶ必要があります。

アクセス数で決めつけない。―TokopediaとShopeeは、フードデリバリーが押し上げている


さて、中国の1%未満とされるインドネシアのEC小売市場も、数字だけでは分からないこともあります。単純にインドネシアではトランザクション数が少ないのか、トランザクション数は一定規模あるが単価が安いのかは分からないのです。

事実、TokopediaもShopeeも、フードデリバリーをやっており、これによりかなりのアクセス数と売上を稼いでいると思われるからです。更に、Shopeeはアプリ内にSNS的機能や購入時に使えるポイントが獲得できるゲームがあり、これらにより一定数のアクセス数などを稼いでいると考えられます。

ちなみに、2022年9月に、Shopeeは効率化を理由に人員削減をしており、東南アジアの一部のチームも対象になりました。淘汰の時代に入ったと指摘できるかもしれませんが、このShopeeの状況だけ見ても、アクセス数だけでは分からない問題(アクセス数が、ストレートに実売に結びついていない可能性)を孕んでいるかもしれないのです。

図03

上記の画像は、筆者個人がTokopediaの画面をキャプチャーしたものです。

(写真は、Tokopediaのスマホアプリの画面。よく見えるところに、フードデリバリーのアイコンが配置されています。ちなみにこの画面レイアウトは、位置情報が分かるスマホに特化したものと考えられます。Tokopediaのウェブサイトを開いてもフードデリバリーのアイコンは表示されません)

ECモールも多様化


アクセス数の比較的多いECモールに、orami.co.idというのがあります。どのようなモールなのでしょうか?

orami.co.idは、2016年に開始された、「おもちゃ、ホビー&DIY」カテゴリー、特に「おもちゃ&ベビー」に特化したモールです。

今どきのお母さんは、ネット(スマホ)でベビー商品を買うということなのでしょうが、2019年のインドネシアの出生率は2.29となっており、これを世界第4位の人口に当てはめると、世界で最も新生児の多い国の一つということになります。(インドは2.20、中国は1.70となっています)

つまり、乳児を持つお母さんをターゲットにしても、モールが成立するのに十分なボリュームがあるということなのでしょう。

図04

画像出典元:
https://www.orami.co.id/

また、美容系のECモールとしては、インドネシア初のビューティテック系のユニコーンになると期待されているSocial Bellaが運営するSociollaが、インドネシアで最大の美容化粧品専門ECサイトとして注目を集めています。

2015年に創業されたSocial Bellaは、ECサイト、メディア、そしてリアル店舗を連携して運営するオムニチャネル戦略が成功し、急成長。ユーザー数が3000万人とも言われる。2019年には、インドネシアで「最も信頼される美容専門ECサイト」に選ばれています。

Social Bellaは現在、ECサイトのSociollaと同名のリアル店舗をインドネシア全土で6店運営するほか、インドネシア最大の美容・パーソナルケア商品口コミサイトの「SO・ CO」、ビューティおよびライフスタイル・オンラインメディアの「Beauty Journal」、ブランド向けにエンドツーエンドのディストリビューション・サービスを提供する「Brand Development」の各事業を展開しています。

図05

画像出典元:
https://www.sociolla.com

価格競争では勝てない


また、出品する費用に関して言いますと、前出のジェトロの記事の通り、インドネシアへの越境ECは輸送コストがかかることが問題視されています。

このコストは、ひしめき合う数多の競合の中で致命的とも言えます。詳しく説明すると、例えば、大手のプラットフォーマーへの出品を決めたとしても、そこにはインドネシアの企業だけではなく、すでにインドネシアに進出し、工場や物流拠点があるため価格優位性を持つ日系・韓国系・欧米系大手のメーカーなど、並み居る競合がいます。

つまり既にレッドオーシャンであると言えます。

結果として、出品だけでは足りず、消費者にアピールするためにサイト内でのプロモーションが欠かせないということになります。つまり、輸送コストの他に、広告コストも重くのしかかるとも言えなくもないのです。

さらに、売上が上がらないと、複数のモールに出品を勧めてくる業者もいます。そこまで行くと、さらにコストが上積みされるため、かなりの売上を上げなくてはなりません。競合がいないユニークな商品であり、それが現地メディアなどで取り上げられていて認知を獲得している商品でない限り、難しい、つまり時間とコストの無駄になり得ると言わざるを得ないのです。

ポイント3.テストマーケティングにならない


3番目の理由として、テストマーケティングとしての越境ECについて考えてみます。

そもそもテストマーケティングとは、日本の場合、全国販売は投資額が大きいため、世代構成比率など全国に近い傾向が見られる(例えば)静岡県限定で事前にテスト販売することを指します。そして、そこでの学びを全国販売に反映させることで、全体の投資の最適化を図るというものです。

つまり、チャネルのみならず4P全てをテストするということです。

例えば、清涼飲料水大手の日本コカ・コーラは、初のアルコール飲料を発売する際、福岡県のみで限定販売しました。そこでPOSデータの結果や小売店などへのヒアリング結果などを分析し学んだこと(販売チャネル評価やパッケージデザイン、価格、TVCMなどの広告効果など)を全国で発売する際に反映し、大成功を収めました。

これはテストマーケティングの典型的な成功例と言えるでしょう。

つまり、成功のためには、実際のマーケティング戦略(仮説)を策定した上で、市場が似ている小さなマーケットで試験的に販売し4P全ての戦略仮説を検証し、実際の販売に活かすというのがテストマーケティングなのです。

もし、インドネシアにおいて、インテリア製品を販売し◯◯百万円の売上を上げたいという目的があるとします。その際は、ターゲット層を設定した上で、見合うチャネルがインテリアショップチェーンだったとし、プロモーションはSNS広告でというマーケティングプランの仮説を持っていたとした場合、越境ECはその仮説を検証する手段になりえるか、つまり、PDCAを回せるかどうかということになります。

チェックポイント(PDCA)

(1)インドネシア市場参入の目標
(2)目的達成の手段検討・設定(Plan)
(3)テストマーケティングの結果を「手段」に反映(Do / Check)
(4)ロールアウト(Action)


まず、たまたま偶然にターゲットにマッチするのがインドネシアのあるECサイトだとします。しかし、この時点でインテリアショップでの店舗販売というチャネルの妥当性は検証できなくなります。それでも、テストマーケティングとして、実際に出品し販売されたとします。

結果、まずターゲットに対して、製品・価格・プロモーションの適切性を検証しなくてはなりません。

もしも、結果が…「多いのか少ないのか分からないけど、何となく売れた。越境ECサポート業者は『モール内の広告を増やせばもっと売れますよ』と言う」…のであれば、当然のことながら、これだけでは、仮説検証の手段にも、実際のロールアウト戦略への反映のためのデータにもなりません。

必要なデータが取得できなればテストマーケティングにならない


テストマーケティングとして機能させるためには、チャネルはもちろんのこと、製品デザイン、価格、プロモーションの決定に活かすことのできるデータ(購入理由、デモグラフィックデータ、所得水準など)を得る必要がありますが、実際は購入者アンケートは普通実施できません。さらに、ECモールの自社ページと自社SNS広告の連携が悪く、結果SNS広告の効果測定ができなければ広告の検証になりません。

しかし、これがインドネシアの越境ECの実情なのです。

また、モール内のプロモーション結果の学びは、そのモール内での販売にしか活用できません。

このためだけに、越境ECをサポートする会社へ支払う登録料や月々のサポート料、輸送コスト、ECプラットフォーマーへの支払いなどまでして行うことは、費用対効果が悪いどころか、意味がないと考えた方が良さそうです。

自社のみでやらないが鉄則


それでは、インドネシアでのテストマーケティングはどのようにしたら良いのでしょうか?

例えば、韓国コスメは、インドネシアでも人気商品の一つですが、彼らは積極的に美容(コスメ)展示会に出展しています。展示会には、インドネシアのディストリビューターやエステ・ビューティサロン経営者などバイヤー候補、さらには事業パートナー候補が、さらにはコスメファンが集まります。また、そこでテスト販売も可能です。

そこでのアンケートにより得られるプロやファンによる意見や感想は何ものにも代えがたいですし、実際にインドネシアで良いパートナー候補が見つけられれば成功に大きく近づきます。

このようなことをすでに理解している韓国コスメ業界は、展示会会場に韓国からの出展者のみが集まる「韓国パビリオン」を設置し、韓国ブランド全体も押し上げています。

一歩どころか数歩先に行っているのが韓国なのです。

図06

もし、展示会場で自社製品が評価され、良いパートナー候補と出会えれば、彼らのインドネシア市場の知見、販売に関するノウハウなどが得られたりするため、成功がグッと近づいてきます。

また、実販売に向けたテストマーケティングについても、そのパートナーと相談して行えば良いですし、そもそも、見込みのない製品はパートナーが見つかりづらいと言うことになります。つまり、展示会への出展自体が市場受容性を見るためのテストマーケティングになり得るのです。



ここまでインドネシアへの越境ECに関して考察してきました。

結論としては、インドネシアの市場参入を本格的に検討されるのであれば、定石の通り、情報収集、展示会出展、市場調査などといったフィージビリティ・スタディを慎重に行い、適切なマーケティング戦略を策定するというプロセスを経た進出の方が、結局、時間もコストも無駄にしないと考えられます。

そして、インドネシアのECモールへの出店は、策定したマーケティング戦略の落とし込みの結果、チャネルの選択肢と上がってきたら、その時点で検討するべきなのです。

このコラムの著者

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佐藤 守彦

(MRKS International LLC / マークスインターナショナル合同会社)

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