まずはデリスキング（De-risking）とは何か？ その定義と、関連ワードであるデカップリング（Decoupling）に続いて、国際社会で盛んに言及されるようになった背景について解説します。

デリスキングとは「リスクを軽減しながら経済関係を維持する経済的アプローチ」

デリスキング（De-risking）は、デカップリング（Decoupling）に続いて、地政学的な観点から登場した新しい概念で、特に中国との緊密な経済関係内で発生する可能性のあるリスクを効果的に管理し軽減する概念です。

デリスキングは、グローバル化の進展と共に、国際的なビジネスや貿易が直面するリスクが複雑化し、増大する現代において、重要性を増しています。

後述しますが、デカップリングとは違って、企業や国が外部環境の不確実性に柔軟に対応し、経済活動を持続可能なものにするために、リスクを事前に特定し、対策を講じることに焦点を当てているのがデリスキングです。

デリスキングとは、単にリスクを避けるだけではなく、経済的な繋がりや相互依存関係を保持しながら、それに伴うリスクを最小限に抑える方法を模索することを指す言葉なのです。

デリスキングが国際社会で盛んに言及されるようになった背景

国際社会において「デリスキング」という用語が注目を集めるようになったのは、グローバル化が進む中で、経済の「デカップリング」（経済分断）に関する議論が国際社会において盛んになったからです。

近年、民主主義国と一部の権威主義国家間の価値観や安全保障を巡る対立が深まり、経済的な分断が提案されましたが、中国のようなグローバル経済に深く組み込まれた国との完全な分離は現実的ではありませんでした。デカップリングは、特定の国との経済関係を断つことを意味し、それに対してデリスキングは、リスクを軽減しながら経済関係を維持するという、より実現可能で柔軟なアプローチを提案しています。

デカップリングが引き起こす可能性のある〝経済的断絶〟に対して、デリスキングは、国際的な協力やパートナーシップを強化することを目的としています。

このように、デリスキングは、経済的分断を避けつつ国際社会の新たな課題に対して柔軟かつ効果的に対応するための政策および戦略として、国際社会の重要な舞台で盛んに言及されるようになったのです。

この項では、前項でも触れた、デリスキングに関連する用語でもある「デカップリング」の簡潔な説明と、両者の違いについて解説します。

デリスキングの目的は、経済的損失や法的問題を避け、経済活動の持続可能性を確保すること

デリスキングとデカップリングは、その目的において根本的な違いがあります。

デカップリングは、経済や技術の領域で、ある国や地域が他の国や地域との経済的、技術的な結びつきを意図的に減少させることを指します。このプロセスは主に国家安全保障の観点から行われ、特定の国との依存度を下げることで、外部からのショックや政治的圧力に対する脆弱性を低減します。

例えば、アメリカがAIやその他の機微技術に関して厳格な管理を行うのは、デカップリングの一例です。ここでの目的は、国家安全保障を確保し、敵対的な国家からの技術的、経済的な圧力を緩和することにあります。

一方で、デリスキングは、経済活動や事業投資に伴うリスクを特定し、これらを管理して軽減することに焦点を当てています。デリスキングの目的は、経済的損失や法的問題を避けることであり、サプライチェーンの多様化やリスクの分散化を通じて、安全で強靭な経済システムを構築することです。デリスキングなおもな目的は、経済的損失や法的問題を避け、事業および経済活動の持続可能性を確保することにあります。

デカップリングが国家安全保障に基づく経済的・技術的分断を目的とするのに対し、デリスキングは組織や国家が直面するリスクを積極的に管理し、軽減することに焦点を当てます。

現代のビジネス戦略において、これら2つの概念は互いに相互作用し、時には補完し合うことで、グローバル経済の不確実性や変動ヘの対応策として機能しているのです。

デリスキングによって企業は不測の事態でも事業の持続可能性を確保できる

デリスキングは、企業が直面する多様なリスクを軽減し、より強靭なビジネスモデルを構築する上で必要不可欠です。この戦略的アプローチを取り入れることで、企業は急速に変化する市場の状況や高度な不確実性の中でも、柔軟かつ効果的に対応できるようになります。

特に、グローバルなビジネス環境においては、国際的な貿易の摩擦、政治的な変動、経済的なショックといった外部からのリスクが常に存在します。デリスキングを通じてこれらのリスクに前もって対処することで、企業は不測の事態に迅速に適応し、事業の持続可能性を確保することができるのです。

企業が実施すべきデリスキング戦略および、それらがもたらす恩恵には、以下のようなものがあります。

まず、サプライチェーンの多角化や市場の多様化を進めることで、特定の国や市場に依存するリスクを減少させることができます。これにより、一国で政治的な危機が発生した場合や、特定の市場で経済的な不測の事態が起きた際でも、事業運営に致命的な打撃を受けることなく、他の市場での活動を通じてリスクを補填することが可能です。

さらに、DX（デジタルトランスフォーメーション）を積極的に推進することで、データ駆動型の意思決定を強化し、ビジネスプロセスを効率化することができます。これにより、市場の変化に迅速に対応し、デリスキングを通じて新たなビジネスチャンスを捉えることができるようになります。

次項では、それらのデリスキング戦略について具体的に解説していきます。

デリスキング戦略を取り入れることで、日本企業は不測の事態でも、事業の持続可能性を確保することができます。

日本企業がグローバル経済の変化の波に対応し、持続可能な成長を遂げるためには、以下のような戦略的な準備が必要です。

戦略① 市場を多様化させることによるリスク低減

市場の多様化を通じてビジネスリスクを効果的に分散させることが重要です。特定の市場への過度な依存から生じる経済的脆弱性を軽減するために不可欠な戦略のひとつです。

実践的な方法としては、新興市場への進出、地域ごとの消費者ニーズに合わせた製品開発やマーケティング戦略を採用することが挙げられます。複数の地域に製品供給基地を持ち、需要変動に柔軟に対応していくことが重要です。

日本企業が知るべき「カントリーリスク」の一覧・対策・事例

カントリーリスクとは、日本企業が投資対象となる国・地域にて海外ビジネスを展開する際に直面する、政治・経済・社会制度・法規制・自然災害・技術革新…といった様々な変化がもたらす影響（リスク）を指します。 具体的には、外国為替レートの変動、政治的不安定要因（例：政府の変更、紛争、テロ活動）、法制度の変更、社会的な不安定要因（例：デモ、ストライキ）、市場制度の問題、文化的な違い、自然災害などが含まれます。 これらの要因が影響を及ぼすと、企業の業績、投資、資産の価値に悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、カントリーリスクを適切に評価し、リスクヘッジ策を講じることが、海外ビジネスの成功に向けて重要な要素となります。

戦略② サプライチェーンの多角化とローカライゼーション

サプライチェーンの多角化とローカライゼーションは、供給の安定性を高め、リスクを軽減する上で欠かせない戦略です。

多角化により、一つの供給源が途絶えた場合でも他からの供給を確保でき、ローカライゼーションにより、地域ごとの市場の特性に合わせた製品の提供が可能になります。具体的には、代替供給元の開拓、地域ごとの生産設備の確保、ローカルパートナーとの協業強化が挙げられます。

サプライチェーンとは「モノ･金･情報」を伴う生産･流通プロセスのこと

サプライチェーンとは、商品や製品が消費者に届くまでの一連の生産・流通プロセスを指します。具体的には、原材料・部品の「調達」→商品の「製造」→「在庫管理」→「物流・流通」→「販売」といった一連のプロセスの連鎖になります。

戦略③ DX（デジタルトランスフォーメーション）による業務の効率化とリスク管理

デジタル変革は、業務プロセスの効率化と総合的なリスク管理の向上に寄与します。この変革には、デジタルトランスフォーメーション（DX）の推進のみならず、広範なデジタル技術の活用が含まれます。

AIとビッグデータを組み合わせることで、市場動向や消費者行動の予測が可能となり、ビジネス戦略の策定において重要な洞察を提供します。また、クラウドコンピューティングの利用は、リモートワークの促進や業務プロセスの柔軟性を高め、突発的な市場の変動や災害時でもビジネスの継続性を高めます。

貴社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介します

グローバル経済における環境の急速な変化に対応するためのみならず、リスキリングという概念の理解と、具体的な戦略の実施は、日本企業に新たなビジネスチャンスをもたらします。

「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。海外進出のサポート企業を探すにあたっては、1社だけに絞るのではなく、複数のサポート企業を「比較する」ことが重要です。当然、複数の企業の比較検討も可能です。

「海外ビジネスの戦略についてサポートしてほしい」「海外での事業計画立案のアドバイスがほしい」「海外に進出したいが何から始めていいのかわからない」…といった、多岐に渡る海外進出におけるご質問・ご相談を承っています。

ご連絡をいただければ、海外進出専門コンシェルジュが、貴社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介いたします。まずはお気軽にご相談ください。

（参考文献）
・「【1分解説】デリスキング（De-risking）とは？」第一生命経済研究所
・「「デリスキング」と「デカップリング」の政策的意味合い」日本経済研究所
・「デカップリングではなくデリスキング： 言葉の巧妙な言い換え以上のものか？」戸田記念国際平和研究所

（当コンテンツの情報について）
当コンテンツを掲載するにあたって、その情報および内容には細心の注意を払っておりますが、掲載情報の安全性、合法性、正確性、最新性などについて保証するものではないことをご了承ください。本コンテンツの御利用により、万一ご利用者様および第三者にトラブルや損失・損害が発生したとしても、当社は一切責任を負わないものとさせていただきます。
海外ビジネスに関する情報につきましては、当サイトに掲載の海外進出支援の専門家の方々に直接お問い合わせ頂ければ幸いです。