異なる法律、税制、商習慣…国際貿易における障壁は多岐に渡ります。そんな複雑なプロセスにおいてスムーズな取引を実現するためには、共通の言語とルールが必要です。ここで重要な役割を果たすのが、「インコタームズ」という一連の国際貿易規則です。

インコタームズは、貿易契約における買い手と売り手の責任とリスクの所在を明確にし、全世界での商取引の透明性と効率性を高めることを目的としています。

今回解説する、インコタームズのひとつである「CIF（Cost, Insurance, Freight / 運賃保険料込み条件）」は、売り手と買い手の双方がより有利な取引条件を選択し、リスクを適切に管理することができる取引条件のひとつです。

この項では、そんなCIFの基本情報について解説します。

そもそもインコタームズとは

まず、そもそもインコタームズとは、「International Commercial Terms」の略称で、国際商業会議所（ICC）によって定められた国際貿易取引条件であり、貿易取引における費用とリスクの分担に関する国際規則を指します。

「インコタームズ2020」は、最新の国際貿易の実務や習慣を反映したルールで、11の貿易条件が明確に定義されています。これにより、国境を越えた取引における責任とリスクの所在が明確にされ、よりスムーズな商取引が可能になります。

インコタームズとは？簡単に理解する3つのポイント･2020と2010の違い

「インコタームズの基礎知識」として、インターコムズを簡単に理解するための3つのポイントを始め、2020年1月に10年ぶりに改訂された「インコタームズ2020」とそれまでの「インコタームズ2010」の違いについても詳しく解説します。 「インコタームズ（International Commercial Terms）」とは、国際商業会議所が1936年に定めた、世界共通の貿易条件の国際基準として定められた、世界でもっとも利用されている国際貿易取引条件のことです。 国際貿易では、〝運送料保険料〟〝関税〟〝通関費用〟など、輸出入者双方に数多くの費用が発生することはもちろん、天候やトラブルといった輸送時においても様々なリスクが存在します。 インコタームズは、そんな…「輸送の際の費用やリスクを〝誰がどの範囲まで負担するか〟？」を明記しています。正直、インコータムズの全てを覚える必要はありませんが、モノの輸出入業務に携わる方であれば、その概要くらいは知っておいてソンはありません

CIFの基本情報

CIF（Cost, Insurance, Freight）はそんなインコタームズのひとつで、「運賃、保険料および貨物運賃込み条件」を意味し、売り手が商品の輸送費、必要な保険、および輸送費用を負担することを義務付ける貿易取引条件です。

CIF条件下での取引にて、売り手は、商品を海外の買い手に輸送する際に発生する主要なコストとリスクを担います。以下より具体的に見ていきましょう。

▼ 売り手が運賃を負担
CIF条件では、売り手は商品を指定された目的地まで輸送するためのすべての輸送費用を負担します。これには、商品を売り手の国から買い手の国へと輸送する際に発生する費用が含まれます。輸送方法は通常、海上輸送がおもですが、インコタームズの定義により、他の輸送方法を使用しても適用が可能です。

▼ 売り手が保険の手配と負担
売り手は、商品が目的地に到達するまでの海上輸送リスクをカバーするために、保険に加入する責任があります。これは、輸送中に商品が紛失したり、損害を受けたりした場合に買い手を保護するためのものです。保険の範囲は、通常、商品の価値プラス10%程度をカバーすることが一般的とされています。

▼ 商品が船に積み込まれるとリスクが移転
CIF条件では、商品が売り手の国の港で船に積み込まれた瞬間に、リスクは売り手から買い手に移転します。つまり、商品が目的地に到着するまでの輸送中に何らかの問題が発生した場合、その時点以降は買い手がリスクを負担することになるのです。しかし、輸送費用と保険料については引き続き売り手が負担します。

CIFはおもに海上輸送が必要な国際貿易で使用されます。CIFは、特に売り手が輸送と保険の手配に関してコントロールを持ちたい場合、または買い手が目的地までの輸送プロセスに介入しない場合に適している取引条件と言えるでしょう。

CIF（Cost, Insurance, Freight / 運賃保険料込み条件）は、商品の輸送と保険の両方を売り手が負担することを義務付けることで、貿易の透明性と信頼性を高めることを目的としています。

ここではCIFのメリットについて、買い手と売り手の双方から解説します。

買い手にとってのCIFのメリット

① リスクが軽減される
CIFでは、商品が目的地に到着するまでの輸送リスクと保険が売り手によってカバーされます。これにより、買い手は商品が損失や損害を受けた場合のリスクから保護され、輸入プロセスがより安心して行えるようになります。

② 手続きが簡素化される
保険と運賃の手配が売り手によって行われるため、買い手はこれらの複雑なプロセスに関与する必要がありません。これにより、貿易手続きが簡素化され、時間と労力の節約につながります。

③ コストが予測可能
CIFは輸送費と保険料を含むため、買い手はこれらの費用をあらかじめ知ることができ、費用計算が容易になります。

売り手にとってのCIFのメリット

① 貿易の安全性の向上
売り手は自身で保険を手配するため、商品が適切に保護されていることを確認できます。これにより、輸送中のリスクを効果的に管理することができます。

CIF（Cost, Insurance, Freight / 運賃保険料込み条件）には、その便利さと安全性の裏側に、いくつかの制約と考慮すべき点が存在します。

ここではCIFのデメリットについて解説します。

買い手にとってのCIFのデメリット

① コントロールの低下
輸送ルートや保険の詳細に関する決定権が売り手にあるため、買い手はこれらの選択に影響を及ぼすことができません。これは、買い手がよりコスト効率の良い輸送方法を選択することを制限する可能性があります。

② 輸送と保険の選択に制限
売り手が選んだ輸送会社や保険条件が、買い手のニーズや期待と必ずしも一致するとは限りません。

売り手にとってのCIFのデメリット

① コストが高くなる
運賃と保険料の支払いは売り手の負担となり、これらのコストは商品の価格に上乗せされることが一般的です。高額な輸送費用や保険料は、売り手の利益を圧迫する可能性があります。

② 手続きが複雑
輸送と保険の手配を行うためには、売り手は多くの手続きと管理作業を行う必要があります。これは、特に小規模な売り手にとって、負担となることがあります。

インコタームズの中でも、CIF（Cost, Insurance,and Freight / 運賃保険料込み条件）とFOB（Free On Board / 本船渡し）は、もっとも多く活用される国際貿易取引条件です。両者の条件は似ていますが、コスト負担とリスク管理において重要な違いがあります。

この項では、CIFとFOBの基本的な違いと、それらの取引条件が貿易においてどのように機能するかを解説します。

FOBとは

FOB（Free On Board）では、売り手は商品を出荷港の船に積み込むまでの責任を負います。

具体的には、売り手は商品を港まで運び、輸出通関手続きを完了し、そして船に積み込みます。商品が船の甲板を越える瞬間、リスクと所有権が売り手から買い手に移ります。これ以降、海上輸送中のすべてのリスクは買い手が負担します。

FOBは買い手が輸送プロセスをよりコントロールできるため、自分で輸送手段や保険を選びたい買い手に適していると言えるでしょう。

CIFとFOBの違いとは？ どちらを選択すると良いのか？

CIFとFOBのおもな違いは、輸送と保険の費用負担にあります。CIFの場合、売り手は商品を買い手の指定する目的地港まで運ぶ費用と、その輸送中に必要な保険の費用を負担します。これに対し、FOBでは、商品が船に積み込まれた瞬間から買い手が輸送と保険の手配および費用を担当します。

CIFを選択すると良いケース
輸送と保険の手続きに関わりたくない、または取引におけるリスクを最小限に抑えたい買い手にとって適しています。

FOBを選択すると良いケース
輸送コストを抑えたい、または輸送手段や保険の選択に柔軟性を持ちたい買い手に適しています。

最終的には、取引の両当事者が互いのリスク許容度および、コスト負担の能力に基づいて、お互いにもっとも適した取引条件を選択できるようにすることが重要です。

最後に、貿易においてCIF（Cost, Insurance,and Freight / 運賃保険料込み条件）がどのように進行するのか、契約締結から貨物の積み込み、輸送、そして最終目的地への到着に至るまでのプロセスを段階別に見ていきましょう。

① 契約の締結

買い手と売り手はCIF条件を含む貿易契約を締結します。この契約には、商品の種類、数量、価格、配送先、保険の範囲など、取引の詳細が明記されます。

② 商品の準備と出荷

売り手は契約に従って商品を準備し、輸出通関手続きを行います。その後、商品はCIF契約に基づいて売り手の費用で指定された船に積み込まれます。

③ 輸送と保険の手配

売り手は商品の海上輸送と、目的地までの輸送中に商品を保護するための保険を手配します。この保険は、輸送中の事故や損害に対する買い手のリスクをカバーするためのものです。

④ 船積みと運賃の支払い

商品が出荷港で本船に積み込まれると、売り手は運賃（船賃）を支払います。積み込みが完了した時点で、売り手は買い手に積載証明書（Bill of Lading）を提供します。

⑤ 輸送と追跡

買い手は、貨物が目的地に向かう間、輸送の状況を追跡します。買い手はまた、輸送中のリスクに備えて、海上保険に加入することが一般的です。

⑥ 到着と輸入通関手続き

商品が目的地港に到着した後、買い手は商品の受け取りと通関手続きを行います。この段階で必要な書類には、売り手から提供された積載証明書、保険証書、商業請求書などが含まれます。

⑦ 保険の適用

万が一、輸送中に商品に損害が発生した場合、買い手は保険証書を使用して保険会社に請求を行います。保険の適用範囲と請求手続きは、事前に契約で定められた保険条件に従います。

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今回は、CIFの基礎知識として、そのメリットとデメリット、さらにはFOB（Free On Board / 本船渡し条件）との違い、そしてCIF取引の詳細な流れについて解説しました。

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（参考文献）
・「CIFの解説 貿易用語インコタームズCIF」ミカサ通商
・「CIF - 貿易用語集 Trade Glossary」内外トランスライン株式会社
・「CIF | ロジスティクス用語集」日本通運
・「貿易条件と外航貨物海上保険」損保ジャパン

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