海外進出事例集

marukyostjff

物流・運輸業

中国全土をカバーする物流ネットワークを構築した丸協運輸の中国進出事例

丸協運輸株式会社

国土面積約960万平方キロメートル。日本の約25倍にも及ぶ中国全土を網羅する物流ネットワークを築く――。東大阪市に本社を置く丸協運輸はこの壮大な夢に挑戦し、2009年にはラサ地区を除く中国全土に配送ネットワークを確立。今後もさらに競争力を強化していく方針だ。
※中小企業国際化支援レポートより引用

2016年4月21日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国土面積約960万平方キロメートル。日本の約25倍にも及ぶ中国全土を網羅する物流ネットワークを築く――。東大阪市に本社を置く丸協運輸はこの壮大な夢に挑戦し、2009年にはラサ地区を除く中国全土に配送ネットワークを確立。今後もさらに競争力を強化していく方針だ。
※中小企業国際化支援レポートより引用

各省に提携代理店を配置

西日本を中心に物流業を展開する運送会社、丸協運輸が中国に進出したのは1994年。当時の社長であった渡部司会長が、中国の知人から保税区への投資を打診されたのがきっかけだった。中国に進出した取引先からも「物流面でサポートしてほしい」と言われていた同社はこのタイミングをとらえ、同年4月、物流業界では中国初の外商独資企業である張家港保税区丸協運輸貿易有限公司(以下、中国丸協)を上海近郊の江蘇省に設立。2001年には上海市内に子会社の上海丸協運輸有限公司を設立した。

中国には独特の物流システムがある。全国各所に地方政府などが運営するトラックステーションがあり、このステーションに顧客から荷物を預かった中・小型のトラックが集まって来る。それを大型トラックに積み替えて次の中継地点のステーションまで輸送し、中継地点で再び中・小型のトラックに積み替えて配送先まで届けるという仕組みだ。

しかし、ステーションに集まるトラックはそれぞれ別の運送会社が管理しており、送り元から届け先まで一貫して責任を持つところがない。また、1台のトラックに複数の運送会社の荷を積む混載も多い。そのため責任の所在がはっきりせず、途中で荷物が紛失したり、破損することが多く、到着も遅れがちだ。このような状況から、中国に進出した日系企業は、荷物の配送にチャーター便を利用することが多い。当然、コストは高くなる。そこで、中国丸協はトラックステーションを軸にした既存の物流の仕組みを利用しながら、品質の高い物流ネットワークの構築を目指した。

2001年から、中国丸協の総経理として赴任している神並充氏によると、「広大な国土をすべて自前のネットワークでカバーしようとするととてつもない資金力が必要になり、時間もかかります。そこで中国の運送会社と代理店契約を結んで、代理店ネットワークを構築したのです。業務内容の安定している会社を探して業務提携し、問題があるとわかればすぐに提携は解消。頻繁に見直しを行い、良質な代理店だけを残すようにしました。現在では中国各省に2社ずつ程度、提携代理店があります。このネットワークにより、2009年にはラサ地区を除く中国全土に荷物を配送できるようになりました。扱う荷物については、当社が一貫して責任を負っています」とのことだ。

驚くほど高い社員の定着率

現在、中国丸協が保有するトラックは20台程度だが、代理店の保有する車両を入れると中国全土で1000台以上のトラックが同社のネットワーク上で稼働している。顧客の約8割は日系企業だ。

「荷物の紛失や破損といったトラブルはほとんどありませんし、指定された時間内に届けられる率は90%を超えています。中国の運送会社ではおそらく50%以下でしょう」(神並総経理)

中国丸協の社員ドライバーは約30人。彼らは運転業務以外に、トラックステーションの状況の把握や代理店の業務チェックなどの役割も担う。そうした情報を交換するために毎月、ドライバー会議も開いている。

社員の入れ替わりの激しい中国で、同社のドライバーは定着率が非常に高い。その理由について、神並総経理は次のように説明する。

「幹部が彼らの働きぶりをきちんと見ていることが大きいと思います。今日は誰がどこを走っているのか、今月は誰が一番頑張っているのか、会社は把握しています。お客様から『丸協のドライバーが一番だ』と褒められれば、それを彼らにも伝えます。人の期待に応えようとする力は、今の日本人より中国人のほうが高いと感じますね」

また、同社の賃金レベルはごく一般的だが、賃金の上昇カーブが独特だ。日系企業の場合、賃金は部長までは大きく変わらず、役員になって初めて急カーブを描く。それに対して同社の賃金は部長から一気に上がっていく。日本人でも役員になれる社員は限られているし、ましてや中国人の一般社員が役員になるケースはまれだ。そのため、中国人にとって通常日系企業はキャリアステップの目標を定めにくいという現状がある。中国丸協では部長になることをひとつの目標にして頑張る社員が多い、と神並総経理はみている。また、中国人社員の査定は中国人の上司が行っているところも「公正な評価を受けている」と受け止められているという。

高付加価値サービスでも差別化

このような理由から、ドライバーに限らず同社の中国人社員はほとんど辞めることがない。

「毎年3、4人の社員を日本に派遣し、1週間の意識改革研修を行っています。日本の丸協の倉庫やオフィスを見るだけなのですが、彼らはとても驚きます。トラックは毎日磨かれているし、お客様が来れば社員全員が立ち上がって挨拶をする。そういう光景を目の当たりにしてモチベーションが上がるようです。今までこの研修を受けたのは30人くらいですが、そのなかで会社を辞めた社員は1人しかいません」

2011年からは、勤続10年以上の社員を表彰する制度も始めた。表彰状に加えて1人あたり2000元相当の記念品を贈呈することになり、「社員に希望を訊ねたところ、彼らから『金の会社のバッジを作ってほしい』と言われたのです。中国の会社では、社員が社章をつけること自体、あまりありません。愛社精神というか、この会社に誇りを持っていてくれていると感じられて嬉しかったですね」(神並総経理)

こうして中国丸協は中国人社員の心をつかみ、帰属意識を高め、モチベーションを引き上げることに成功した。“丸協”という社名には「一丸となって協力していく」という理念が込められているが、中国でもその理念が着々と実践されている。

もちろん同社が毎年20%の成長を遂げてこられた要因は、人材教育だけではない。ネットワークの整備拡充とともに、輸送の品質向上に努め、付加価値の高いサービスを提供してきたことも大きい。

たとえば、他社との競争の激しい上海では最近、25度以下で商品管理ができる倉庫を新たに設けた。預かった品物が化粧品や樹脂材料などの場合、冷凍・冷蔵倉庫に入れる必要はないが、30度を超えると品質が劣化する恐れがある。だが、この倉庫であれば適温に管理できて、しかも保管料は冷凍倉庫に比べて半額程度で済むと顧客側のメリットも大きい。同倉庫は好評を得て、成都でも同様の倉庫を立ち上げている。また、現在中国全土に5カ所ある倉庫を兼ねた中継センターを新たに12カ所増やす計画も進行中だ。

日本の国内物流とも連係

日本の運送業界ではGPSによる荷物の追跡管理は一般的だが、中国ではまだ導入されていない。そこで中国丸協は2011年春から、荷物の伝票を入れる袋や伝票を束ねるクリップにGPSチップをつけ、荷物の位置情報をリアルタイムで確認できる試みを始めている。

これは中国丸協が日中両国で実用新案を取った技術で、理論的には荷物が中国全土のどこにあっても、電波の届く限り位置情報を把握できるという。競合他社にはない付加価値サービスとして、差別化につながることが期待されている。

同社は中国でこうした輸送業務のほかに、倉庫管理や引越し、貿易などの業務を幅広く行っている。日本から中国へ荷物を運ぶ際には2カ国間の輸送を一貫して手がけることも可能だ。

中国丸協について、丸協運輸の渡部智社長はこう評価する。

「円高で製造業の海外進出も加速し、日本の物流業者は限られたパイを奪い合っている状況です。しかし当社は中国丸協の存在により、中国国内での物流にも強いという特徴を活かしてサービスを展開していくことができます。中国に拠点を持っていることが、日本国内での事業にもプラスになっているのです」

日中の両拠点が連携し、日本人社員も中国人社員も一丸となって協力し合うことで厳しい競争を勝ち抜いていく。それが同社のサバイバル戦略なのである。

神並充総経理が語る「海外進出のためのアドバイス」

- 色眼鏡で見ない
日本人は中国人を自分たちと分け隔てて考えていることが多い。長年、中国で仕事をしてきた経験上、米国人より中国人の方がアジア人同士で考え方も近い。偏見は捨てるべき。

- 信頼できる人材を育てる
中国での事業がここまで発展できたのは、一緒に仕事をしている中国人に恵まれたことが大きい。信頼できる人間を探し出して、ナンバー2となるように育てる。中国で成功した外資企業はそこがうまくいっている。

企業名丸協運輸株式会社
業種・業態物流・運輸業
進出国
事業内容

一般貨物自動車運送事業
特別積合せ貨物運送事業
貨物自動車利用運送事業
通関業
倉庫業
不動産賃貸業

法人設立年1968年
海外進出時期1994年
日本法人所在地大阪府東大阪市長田3-6-10
資本金1,600万円
電話番号06-6788-9676
URLhttp://www.marukyo.jp/index.html
依頼したサポート内容

この事例が役に立つ!と思った方はシェア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
海外進出無料相談サービス