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- あいや社の「抹茶」販売事業の米欧・中国進出事例
円高で挫折した初めての輸出
茶どころといえば静岡県や京都の宇治市を想起する人が多いが、実は愛知県西尾市も国内有数の茶葉生産地である。
あいやはその西尾市に本社を置く、抹茶の生産量で国内シェアトップのメーカーだ。1888年創業という伝統ある企業だが、抹茶業界で最初にISO22000の認証を取得、製品のトレーサビリティを実現するなど、先進的な経営で今日の地位を築いてきた。また、飲用以外の抹茶市場も積極的に開拓している。現在、業界全体では重量換算で抹茶生産量の約95%が食品、医薬品、健康食品用に使われており、茶道向けなどの飲用は5%程度に留まっている。同社が茶業界にこだわっていたら、おそらく今日の地位は築けなかっただろう。
もうひとつ、同社が積極的に開拓してきたのが海外市場だ。1983年には茶葉の形で緑茶の米国向け輸出を始めている。だが、このときは2年後のプラザ合意を引き金にした急激な円高で採算が合わなくなり、断念せざるを得なかった。それでも杉田芳男社長は「どうしても海外に出たい」という思いを持ち続けていた。
「お茶はいくら飲んでも体に害がありません。日本にお茶が伝わって1000年になりますが、健康に良いものだからそれだけ長く親しまれてきたのでしょう。カテキンに制がん作用があるなど、お茶が健康に良いことは科学的にも解明されています。本当に良いものだという信念があるから、もっと広く世界の人に知ってもらいたいのです」
食品市場にターゲット
そんな思いを胸に秘めながら、同社は国内での態勢を着実に整えていった。1992年には抹茶業界初となる滅菌製造ラインを導入。1997年には業界初で、日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会から有機栽培茶の認証を取得。1999年には品質保証の国際規格ISO9002の認証も取得した。そして2001年、満を持して米国市場への抹茶販売に再挑戦することになった。米国ニューヨークに現地法人あいやアメリカを設立したのである。
「最初、通関時に『パウダーのグリーンティー』と申告したら、『パウダー』という単語が薬物を連想させたようで2時間くらい質問されてしまいました。これはネーミングがよくないと思い、『MATCHA』とアルファベット表記にして販売することにしました」
米国市場では当初から飲用ではなく食品市場にターゲットを定めた。最初のうちは米国人も「WHAT is MATCHA?」という反応しか示さなかったが、同時期に偶然、現地の一部マスコミが「MATCHAは健康によい」と取り上げ、それが健康に関心の強い米国人の関心をひくことになった。その後、同社は現地法人をロサンゼルスへと移転。同地はオレンジなど農産物の一大産地であり、全米から多くの食品やバイヤーなどが集まるというのがその理由だった。日本人や日系人も多いロサンゼルスだが、最初からターゲットは米国企業と決めていた。
「商売としては絶対多数のアメリカ人をターゲットにしたほうがよい。そこで最初は、アメリカ人が大好きなアイスクリームに抹茶を混ぜた抹茶アイスのレシピを教えながら売り込みました」
アイスクリームから入り、チョコレートやクッキーなどに広げていくこの作戦は見事に成功し、MATCHAの販売量は徐々に増えていった。リーマン・ショック時は一時、急減したが、その後はまた回復軌道に乗り、あいやアメリカの売上高は2009年度で約2億円。リーマン・ショック以前の水準にほぼ戻ったという。
最難関の欧州有機栽培認定を取得
この間、同社は欧州市場の開拓にも乗り出している。「欧州で緑茶が売れている」という情報を得て、1998年に杉田社長らはフランクフルトの食品展示会を訪れた。
「確かに展示会にも緑茶がありました。健康によいということで、ハーブ的な飲み方をする人が多いようでした。出展されているお茶の大半が日本産以外の粗悪な品だったので、うちの製品なら確実に勝てると思いました」
欧州は食品の安全性に対する規制が厳しいことで知られる。そこで同社はIMO(欧州有機栽培認定)の取得にチャレンジすることにした。お茶のような多年性作物の場合、農薬を使用していないことが確認できてから3年が経過していないと認定されず、数ある認定制度の中でも最難関といわれている。実際、認定を受ける際には欧州から検査官が来日し、毎年同社が契約している農家の茶畑と工場をくまなく査察している。
しかし杉田社長には自信があった。というのも、同社はすでに約17年間にわたって茶葉の有機栽培に取り組んできた実績があったのだ。同社が契約している豊田市の生産農家の茶畑は標高500メートルに位置する。これくらいの高地になると昼夜の寒暖差が大きいため、害虫は繁殖しにくい。農薬を使う必要がないのだ。しかも周囲には他の畑や果樹園もない。したがって、別の農家が使用する農薬が飛散してくる心配もない。
同社はIMOの厳しい検査をパスして認定を取得。2003年、オーストリアのウィーンにあいやヨーロッパを設立した。ここで同社は米国とは異なる戦略を立てた。欧州で、ある程度飲まれていた緑茶を中心に販売して収益を上げ、欧州法人を黒字化してからじっくり本命抹茶を売り込んでいくという戦略だ。またその緑茶も、少し強めにローストして濃い目の味に仕立てた。
「ヨーロッパは硬水なので、日本と同じ製法ではまろやかなうまみが出にくい。そこで強めにローストして濃い目の味にしました。ヨーロッパの人と日本人とでは、おいしいと感じる味の基準が違います。そこは“これが日本の味だ”と強引に主張せず、相手の嗜好に合わせました」
バターを入れても構わない
2008年には、あいやヨーロッパのオフィスをドイツのハンブルクに移転した。ハンブルクは欧州最大級の港を持ち、世界中のコーヒーや紅茶が集まってくる場所。同社は同時に抹茶の販売を強化した。ドイツには茶道をたしなむドイツ人もいるが、シナモンやブラックペッパー、生クリームなどを入れて飲む人も少なくない。そこは杉田社長も「何を入れてもいいから、まず飲んでもらうことが大事」と、割り切る。
「ヨーロッパの人が本当に抹茶を美味しいと感じているかどうかはわかりません。彼らは味よりも、健康に良いからという理由で飲む傾向があります」
こうした販売が功を奏し、抹茶の売り上げは確実に伸びていった。3年前まであいやヨーロッパの売り上げは99%までが茶葉の緑茶によるものだったが、2010年には抹茶が約20%を占めるまでになり、売上高も米国市場を上回るようになった。
「ヨーロッパと米国では食文化の歴史の長さが違います。ヨーロッパの消費者は厳しい目を持っていますが、それだけによいものはきちんと評価します。今後は米国以上に期待できるでしょう」
中国では原料茶葉を生産
もうひとつ、別の観点で期待をしているのが中国だ。人口13億人の巨大市場としての期待もあるが、原料茶葉の生産拠点としても大きな期待を寄せている。
同社はすでに2003年から中国・浙江省でオーガニックの緑茶と碾茶を生産している。
もっとも中国での茶葉生産にも紆余曲折があった。杉田社長は1994年頃から個人的に中国での茶葉生産を試みてきたが、何度か失敗を経験している。出張ベースで現地の契約農家を管理していたのだが、こちらの指示がほとんど実行されていないことが相次いだ。うまくいくようになったのは、信頼できる中国人のバイヤーと出会い、彼が農家とのやり取りをしてくれるようになってからのことだ。
日本の抹茶を世界に提供したい――。その一念で杉田社長は多くの困難を乗り越え、海外事業を牽引してきた。決して強引ではなく、それぞれの市場ニーズに柔軟に適応するというスタイルが成功へと導いたといえるだろう。
杉田芳男社長が語る「海外進出のためのアドバイス」
「パテントを取ってから出る」
社名や商品名は必ず商標登録すること。登録しないと海外ではすぐ真似をされる危険性がある。
「心を込めての説明」
展示会などには足繁く通うべき。そういうところで名刺交換して「これだ」という相手と直接商談や標品説明をする。出展する際には補助金などを活用するのも手。
「海外へは体力があるうちに出る」
海外ビジネスは軌道に乗せるまで時間がかかる。継ぎ足しの資金が必要になることも多い。国内の事業が充実しているときに出ることが大切。
企業名 | 株式会社あいや |
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業種・業態 | 食品製造・販売 |
進出国 | |
事業内容 | 抹茶をはじめとする茶製品の緑茶などの製造・卸販売 |
法人設立年 | 1964年 (創業:1888年) |
海外進出時期 | 2003年 |
日本法人所在地 | 愛知県西尾市上町15 |
資本金 | 3,000万円 |
電話番号 | 0563-56-2233 |
URL | http://www.matcha.co.jp/ |
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