海外進出事例集

samami03

磁石製品の製造・販売

希土類(レアアース)磁石を製造する相模化学金属社の中国進出事例

株式会社相模化学金属

1991年、電子機器や家電用マグネットなどの製造加工会社である神奈川県の相模化学金属・福田重男社長は、社内やメインバンクの反対を押し切って中国に進出。希土類(レアアース)磁石の現地生産に乗り出した。「そうすることが天命だと信じていた」と福田社長は言う。だが、その天命を成功に導くためには、福田社長の冷静な読みと果断な行動が必要だった。
※中小企業国際化支援レポートより引用

2016年4月21日

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1991年、電子機器や家電用マグネットなどの製造加工会社である神奈川県の相模化学金属・福田重男社長は、社内やメインバンクの反対を押し切って中国に進出。希土類(レアアース)磁石の現地生産に乗り出した。「そうすることが天命だと信じていた」と福田社長は言う。だが、その天命を成功に導くためには、福田社長の冷静な読みと果断な行動が必要だった。
※中小企業国際化支援レポートより引用

チャンスはピンチの形で現れる

1986年、相模化学金属は大きなピンチに見舞われた。主取引先が倒産し、大きな損失を被りそうになったのだ。そこで同社は少しでも資金を回収しようとその企業の在庫を引き取り、必死で売り回った。福田社長も自ら渡米し、同社が加工したフェライト磁石を現地の企業に売り込んだ。そしてこのとき、 “運命的な出会い”があった。福田社長は米国でネオジムという、レアアースを主材料にした希土類磁石を初めて目の当たりにしたのである。

「これだ!」

 福田社長は思わず大声でそう叫びそうになった。ネオジム磁石は同社が扱っていたフェライト磁石に比べると、10倍以上の磁気特性を持つ。磁力が強いということは少量で済むということであり、磁石を使うモーターや記録メディアなどの軽量・小型化につながる。

 「これからはこれが主流になる」

 そう考えた福田社長は、そのネオジムが中国産であることを知ると帰国後すぐに中国に太い人脈を持つ友人に連絡し、その10日後には中国に飛んでいた。取引先の倒産に会社中が混乱していたときに福田社長はひとり、もう次の新しい事業のために動き出していたのである。

 「チャンスというものはピンチの形で現れることが多い。私は独立する前も大手化学メーカーで磁気テープの仕事をして、ずっと磁石に関わっていましたから、フェライトより強いものはないかと常に探していました。だからネオジム磁石を見て、ピンときたのです」

天安門事件に遭遇

中国に行った福田社長は友人の人脈を活用し、希土類磁石に関連する情報をできる限り集めた。そして友人から紹介された自然科学分野の国家機関・中国科学院の系列企業である三環新材料高技術公司(以下、三環公司)に、希土類磁石のメーカーを合弁で立ち上げないかと申し入れたのである。三環公司は、かつて希土類資源を国家の戦略物資と位置づけた鄧小平の人脈につながる有力企業で、この当時ネオジム磁石の事業を立ち上げたばかりだった。

 「中国側としてもうちの磁石加工技術が魅力的だったようで、話に乗ってきました。最初は加工だけしてほしいというのが先方の要望でしたが、私はこれを機会に加工屋から自社製品を持つメーカーに転進したかったので、一貫生産をする合弁メーカーの立ち上げを主張しました」

 また三環公司は、出資比率などすべての面で自社に有利になるような条件を提示してきた。もちろん相模化学金属側も主導権を取るべく主張した。そのため交渉は長期化し、一時は中断したこともあった。その間に福田社長は、三環公司よりも良いパートナーを求め、北京以外の地域を探し歩いたこともあった。この頃、福田社長は年に10回程、中国を訪れていたという。

 「自分の体験による印象や実感が大事ですから、トップが行かないとダメですよ。そもそも社長がいつも会社にいる必要があるような経営では、将来性はないでしょう」

 その最中に起きたのが、1989年6月4日の天安門事件である。まさにその日、福田社長は上海にいた。だが、上海は平穏で、情報も規制されていたため、福田社長は帰国して初めて事件の全容を知って驚いた。もっとも福田社長は中国の情勢や合弁事業の先行きに「不安はまったく感じなかった」という。

社内の反対を押し切って発足

福田社長の読みは正しかった。天安門事件後、日本を含む多くの外国企業が中国から撤退したり中国への投資を控えたりするようになると、合弁交渉中の三環公司側の態度が明らかに軟化したのだ。その結果、相模化学金属が現物出資する製造設備などを含め、出資比率は同社側が65%となった。こうして1991年、北京市に同社と三環公司の合弁企業である、三環相模新技術(以下、三環相模)が発足した。希土類磁石の分野で中国に進出した日本企業は同社が初めてだったという。

 資本金1669万元、従業員数約100名で設立した同社は董事長と総経理を福田社長が兼務、三環公司からは副総経理のポストに幹部社員を配置し、設立から7年間は所得税免除などの優遇策を受けることもできた。同社の初期投資額は現物投資分も含めて約2億円。銀行借り入れも利用したが、当時は年間の売上額が5000万円前後であったから、大きな投資であった。

 「希土類で日本側が多数を持っている合弁は他にありません。うちが小さな会社なので、中国側も警戒しなかったのでしょう」

 福田社長はそういって豪快に笑う。その後、さらに増資を引き受け、現在の出資比率は84%になっている。

 この合弁事業について当初、社内では反対論が圧倒的に多かった。取引銀行も反対した。その反対を押し切って福田社長は合弁を押し通した。

 「希土類磁石は最先端の仕事だから、どうしてもやりたいという想いがありました。それにこれでうちもメーカーになれる。創業経営者だから押し切ることができたと思います」

安全のモデル工場に

そんな三環相模に突然、政府筋から移転の要請が来た。工場の敷地が、2008年に開かれる北京オリンピック用道路の予定地に引っかかってしまったのだ。ところが福田社長はこれを「幸運だ」と受け止めた。政府から移転するための補償金として2300万元が支払われたからである。これは当時のレートで約3億5000万円に上る。同社はこれに中国国内の銀行からの借り入れを足して総額6億円を調達し、増資するとともに北京市郊外に最新設備を整えた新工場を建設したのである。

「こういう点で中国政府は公正です。外資だからといって不利な扱いを受けたことは一度もありません」

 設立からすでに20年。その間には労働争議が勃発しそうになったこともある。ある従業員を解雇したことがあったが、その従業員がテレビや新聞などを使って三環相模を非難してきたのである。ところが、他の従業員はこれに同調しなかった。この件は後に裁判に持ち込まれたが、三環相模は法廷でも勝利することができた。

 「たとえば、中国の人は冷めた料理は絶対に食べません。弁当などは当然、論外。だから会社の食堂では常に温かい食事を出すように気をつけてきました。そのような配慮も十分にしてきたし、また当社は三環相模からの配当を日本には送らず、すべて現地に再投資してきました。そうしたわれわれの姿勢が従業員にも理解され、共感されたからでしょう」

 そう語る福田社長は数年前に総経理を長男の英男氏に譲り、今は年に2回ほど現地の様子を見にいく程度だ。英男氏は大手電機メーカーに勤めていた経験があり、14年前から三環相模に勤めている。4年前にはその英男氏と同じメーカーで定年退職したOBを5人、三環相模に迎え入れた。生産管理や労務などのベテランの彼らが入ったことで三環相模の労使関係や生産性、品質管理はさらに改善された。

 「三環相模は、ISOの9001と14001、それから有害物質プロセスマネジメント規格のQC08000の認定もすでに取得済みです。中国独自の清潔生産工場の認定も近々取れる見込みで、外資としては1社しか前例のないトリプル認定を達成します。ゼロ労災も実現していて、現地では安全のモデル工場となっています」

中国国内での営業を強化

現在、三環相模のネオジム磁石生産量は月に約30トン。中国のほかの希土類磁石工場に比べると「全然少ない」と福田社長は言う。

 「それでいいんです。分を知るというのは大事なことですし、大きいことが必ずしもよいことだとは思いません。うちは規模が小さいので、リーマン・ショックの影響もそれほど受けませんでした」

 だが、今後、希土類磁石の需要は急拡大することが見込まれている。最大の需要家は、電気自動車の生産に乗り出した自動車メーカーだ。

 「うちは電気自動車の市場には入りません。そういう量産品は大手に任せておけばいい。当社は電子機器や家電などの分野で、多品種少量生産に徹していきます。無理に大きくしようとしなくても、これからは売り上げが拡大していくでしょう」

 中国国内での日系企業向け営業を強化するため、2010年は上海に営業事務所を開設した。同社の中国事業がここまで大きく育ってきた最大の原動力は、やはり福田社長の冷静な読みと果断な行動力にあるといえるだろう。チャンスを活かし、ピンチを乗り切ることができるかどうかは、トップの経営判断に負うところが大きいようだ。

福田重男社長が語る「海外進出のためのアドバイス」

「情報収集はトップ自ら」
私はいつも自分で飛び回って情報収集している。中小企業の経営者は自らの感性で動く必要がある。

「他社追従では遅い」
みんなが出るからうちもそこに出ようという考え方では遅い。今後伸びる地域、自社の事業にとって本当にプラスになる地域を見極める。

「問題意識を常に持つ」
メーカー勤務の頃からフェライトよりよいものはないかと常に探していた。自ら問題意識を持たないと有益な情報は入ってこないし、チャンスが来たときも見過ごしてしまう。

企業名株式会社相模化学金属
業種・業態磁石製品の製造・販売
進出国
事業内容

マグネットの製造(機械加工)とマグネットの輸入販売
マグネット応用製品の開発と組立品製造
希土類磁石の製造及び販売

法人設立年1968年
海外進出時期1991年
日本法人所在地神奈川県相模原市緑区橋本台3-12-18
資本金1,000万円
電話番号042-773-2626
URLhttp://www.sagami-magnet.co.jp/
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