海外進出企業インタビュー

掲載日:2017年3月29日

海外進出企業

渋谷発の109系ファッションブランドが見据える世界73億人のマーケット

プロフィール

株式会社せーの

代表取締役

石川 涼

2001年に創業。2004年に「渋谷109系ブランド」としてVANQUISH(ヴァンキッシュ)をローンチ。2010年には、109系ブランドとしては史上初となる世界四大コレクションの次席である「東京コレクション」に参加。多くのメディアにて注目を浴びる。
現在、国内では6ブランド6店舗を展開。2010年より海外戦略に注力し、2015年3月に初の海外直営店をタイ・バンコクに出店。
海外での直営店は3店舗、卸先は30店を数える。

貴社のリーダーズブランドであるVANQUISH(ヴァンキッシュ)を立ち上げた経緯から教えてください。

僕、ファッション業界の友達ってホント数えるほどしかいないんですよ(苦笑)。個人的に親しくしていただいてるのは、業界以外の方ばかりで。
そもそもファッション業界の人、嫌いなんですよね。だからファッション業界の人は僕のこと嫌いだと思います(笑)。

もともと服が好きで、地元の静岡の服屋で販売員をやっていたのですが、つまらなくて、20歳のときに東京に出てきて。
それからは裏方の仕事をしたいなって思って、ブランドの委託生産を請け負うOEMの会社に就職したんです。
そこで服作りの基本を勉強させてもらって、24歳で独立。そこから5年くらいは、同じようにOEMの会社としてやっていたのですが、29歳で自分のブランドであるVANQUISH(ヴァンキッシュ)を立ち上げたんですね。

自分たちのオリジナルブランドをやるからには、売れなきゃイヤだった思ってました。でも、当時の周りの先輩方は、それこそカッコばっかりで、売上が追いついていない。僕はそうはなりたくなかった。とにかく売れるブランドにならなきゃ意味がないと。

じゃぁ、カッコばかりの諸先輩方とは違う、自分たちのブランドの在り方ってなんだろうって考えたときに、当時、渋谷にいる男の子たちのカルチャーが盛り上がり始めてるのが気になってたんです。でも、彼らが好んで着るようなブランドは存在していなかった。
だったら「自分たちはソコから始めよう」って思って、VANQUISHをスタートさせたんです。

かつてシーンを席巻した渋谷109ブランドのメンズ代表として、貴社のブランド「VANQUISH」が圧倒的な支持を受けた原因はどこにあるとお思いですか?

いわゆる“ギャル男くん”って呼ばれているような子たちが、自分たちのブランドのメインターゲットでした。

いまでこそ多様性が生まれていますが、当時の日本のメンズファッション業界って、今以上に一方的で。完全にユーザーを無視しているというか、作り手のエゴを押しつけるだけで、それこそ“オレが作ってるブランド、どうよ?”っていう(苦笑)。

だからこそ、僕らは市場に流通していない、よりユーザーファーストな服を作ることを目標としました。

例えば、渋谷で遊んでいる男の子がスーツを買いたいとする。それなりのモノを買おうとしたら、それこそ30万くらいのアルマーニくらいしかない。あるいは、あえて古着のスーツを購入して、独自のアレンジを加えるとか、なんらかの手間が必要だったりする。

つまり誰も彼らのニーズに応えていなかった、少なくとも自分にはそのように見えた。

だから僕らは、彼らが着たくなるようなデザインで、価格も3万円以内に抑えた、彼らのためのスーツを作ったんです。その結果たくさんの支持を得ることができた。
ボクサーブリーフもそう。当時はカルバンクラインとか、高価な海外ブランドぐらいしか商品展開をしていなかった中で、VANQUISHが先頭を切って流通させた。

いまでこそ普通になっちゃいましたが、これらは一例でしかありません。
僕らはブランドをスタートさせたときから、常にユーザーファーストで、そのときに消費者が一番欲しいと思ってる商品を届けることが重要だと思っていました。むしろ「そうじゃなきゃ意味がない」と思って、今日までやってきた自負があります。

それこそ日本のメンズファッションシーンにおける普遍的な地位を確立したにも関わらず、あえて海外へ進出した最大の理由は?

もう日本だけでやっていても意味がないって思ったからです(笑)。
ここ数年は、とにかく「世界の73億人にどう響くか?」ってことしか考えてないですね。
イヤな言い方をしてしまえば、世界で売れていれば、そのうち日本でも勝手に売れますから(苦笑)。

卸先は、いまのところ約30店舗くらいかな。国としては、南米とアフリカ以外はやっています。ただ、やっぱりアジアが中心ですね。直営店としては、タイに現地法人を作って3店舗。基本としてはタイを東南アジア進出の足がかりととらえていますが、香港もかなり評判がいいですね。

東南アジアのなかでもタイを拠点に選んだ理由ですか? やっぱりインドシナ半島のど真ん中で、ASEAN諸国のハブ的存在だと思ったから。それこそタイで上手くいったら、ほかも全部いけるなって。ありがたいことに日本のカルチャーに興味がある方もたくさんいらっしゃいますからね。

あとは現地の方々の体型も大いに関係ありますね。もともと東南アジアの商品も日本のそれもまったく同じですし、欧米中心に考えるとサイズも大きくしなきゃいけないし、当然もろもろのリスクも増える。だったら東南アジアが一番かなって(笑)。

進出にあたって現地の市場調査などはどのように行ったのでしょうか?

特に格式ばった市場調査とかは一切してないんですよ(苦笑)。タイに遊びに行って、現地の若い子の格好を見て、“あぁパンツが細い子が多いんだなぁ。じゃぁ自分らのも細くしようかなぁ…”ぐらいで(笑)。

でも、2010年くらいから、大体5年間くらいかな、日本と海外を行き来する、いわゆるデュアルライフをするようになったんですね。それこそ、アジアのいろんな国をまわってるうちに、それぞれの国で友達ができるようになって。

当たり前ですけど、ただ日本にいるだけで、“向こう(アジア)はどんな感じなのかなぁ”って想像したところでまったく意味がないし、まずは自分の足で現地に行ってみて、その国のことを肌で実感することが、大切なわけで。そういう意味でも、現地視察はとても重要だと思います。

あとは現地のパートナー選びですよね。僕らの場合はもっとカジュアルで友達感覚ではありますが、現地のパートナーと、ちゃんとお互いが信頼し合える関係性を築くことが何より大事ですよね。

業種や業態にもよると思いますけど、僕らの売り物は洋服なんで、やっぱりカルチャーが一番大事な部分だから。ちゃんと自らが現場に行かなきゃダメなんです。

例えば、タイに進出するなら、タイで人気の、それこそストリートで若者から支持されているような男の子と仲良くなっちゃうのが、一番手っ取り早い。
その男の子がVANQUISHを気に入って着てくれるようなって、それで現地で注目されるようになれば、自然な形で現地に浸透していきますから。

現地の信頼できるインフルエンサーとネットワークを築くということですね?

そうそう。でもお金でどうこうってことではないですよ。そのためには、自分たちがやっていることが、ちゃんと相手にとって、なんらかの価値がなければならない。
それこそ大人になったら忙しいし、友達とご飯を食べるのだって、ちゃんと時間を作らなきゃいけないじゃないですか。そのとき、せっかくなら、相手に「会ってよかった」って思ってもらいたいし、そのためには、ちゃんと常日頃から自分が頑張ってなきゃダメだと思うんです。そうじゃなきゃ相手にとってもメリットがないから。

だから、お互いの信頼関係を深めるのも、とにかくブランドの価値を高めるように頑張って、かつ常に面白いことを追求し続けることが大前提ですよね。でも、僕の中では、そうやって頑張ることが一番簡単な方法っていうか(笑)。

海外ユーザーをターゲットに選定するにあたって、貴社ならではのコンセプトやスタイルは、どのようなものだとお思いですか?

あるタイミングで、それこそ世界で同時多発的に、オンライン上のコミュニケーションが一気に写真中心のものに移行していきましたよね。
それこそFacebookやTwitterよりも、インスタグラマーっていう存在が注目されるようになって、言葉じゃない、いわゆる非言語のノンバーバルなコミュニケーションが、圧倒的に支持されるようになった。

自分たちの中でひとつ例を挙げると、こういうのもやってるんですよ(と、自社製のオリジナルマスクを見せてくれる)。

これは「gonoturn(ゴノタン)」っていうブランドなんですが、今って、若い子に限らず、マスクってファッションの一部にもなっている。ちょうど1年くらい前に思いついたんですけど、飛行機の機内ってスゴく乾燥してますよね。だから当時のANAの社長である篠辺修さん宛てに、「このゴノタンのマスクを機内ノベルティにしたら、飛行機に乗ったお客さんが、誰にも強制されずにANAの宣伝もしてくれますよ」という旨を書いた手紙をお送りしたんです。

その後2週間後くらいに社長室から直接「来てください」って電話がかかってきて、直にお話をさせていただく機会を得ることができた。
それで、篠辺さんいわく、「この企画は面白すぎる」と(笑)。ただ、身体に直接身につけるアイテムってことで、本来はNGだったらしいんですよ。でも、篠辺さんご自身がGOサインを出してくださって。
それで、去年の12月20日から2週間の間、ホノルル便だけでっていう限定ではあったけど、機内で提供するノベルティとして採用していただけたんです。

たとえ洋服ではなくても、こういうマスクのセンスって日本のカルチャーの特徴だと思うし、そもそも海外の方をターゲットにするなら、やっぱり非言語でいかに伝えるかってことが重要なポイントですから。

あくまで今回のマスクは一例ですが、自分たちならではのプロモーションって意味では象徴的ではありますね。

貴社では海外とのやり取りは、どのようなシステムで行っているのでしょうか? それこそアジア部署の専任担当の方などがいらっしゃるのでしょうか?

特別に置いてはないですね。ある程度英語ができるなら、それで決めちゃう感じです(笑)。

ただ、先ほどお話ししたように、グローバルに写真中心のコミュニケーションがメインになったのと同じ頃、ある時期を境に、それこそ僕のInstagramのアカウントに直接、海外からオーダーが来るようになったんです。
とにかく毎日のようにインスタのアカウント宛てにDMが届くんですよ。「この服はドコで、どうやったら買えるんだ?」って。

それまでは、お一人ごとに、こちらの海外担当者のメールアドレスを教えて、「ココと直接やり取りしてほしい」ってお願いしたんですけど、そんな効率悪いことをしててもラチが開かないから、チームラボ(※猪子寿之氏が率いる、デジタル〜アートにいたる、さまざまなスペシャリストで構成されている独立系のベンチャーIT企業)にお願いして、海外でも購入しやすいオリジナルのECサイトを作ってもらったんです。それこそオープンしたばっかりなんですよ。

もちろん日本のお客さんも購入できますが、ある意味それ以上に、海外のユーザーが買いやすいサイトとして情報設計をしてもらってます。
日本のマーケットも重要ですが、あくまでそれは、アジアを含む73億人の市場の一部であるという考え方ではありますね。

グローバル市場を重要視すると、おのずと日本のマーケットがおろそかになったりしないでしょうか?

確かに。でも、やっぱり僕らは渋谷からスタートして、ソコで大きくなったので、あえて渋谷っていう武器を最大限に活かしていきたいと思ってるんです。

いま東京でインバウンドっていったら、浅草とかが注目されがちですが、僕の感覚的には、圧倒的に渋谷ですね。渋谷区の方々とお仕事もさせてもらっていて、インバウンドに関する実際の数字も見させてもらっていますが、世の中で東京といったら、完全に渋谷です。それは間違いない。

ただ、渋谷に限らず、服なんてドコでも買えるし、安い服なんていくらでもある。正直、今後は世界的に服が売れなくなっていくと思いますし、それが現実ですから。

今後ファッション業界に限らず、海外に進出した日本企業は、どのような戦略をたずさえて市場に参入していくべきだと思いますか?

僕らの業界でいったら、UNIQLOさんや、AMAZONさんのような大きな企業に勝つためには、普通に良い服を作って、普通にマーケティングして売ってるだけじゃダメなんですよね。そこにあえて自分たちだけの付加価値をつけなければならない。

これはファッションに限ったことではなくて、「モノ消費」から「コト消費」などと言われていますが、それこそ何らかの体験をユーザーが求めているってことでしょうね。

今後の新しい展開ですか? 当然考えていますよ。まだ具体的には内緒ですけど(笑)。
…でも、ちょっとだけお話しすると、僕らの場合は、自分たちのホームでもある“渋谷”こそが重要だと思っていますから。それこそ海外から渋谷に遊びに来た方々をターゲットとするなら、まさに渋谷ならではの体験やストーリーを、僕らの服とともに提供したいと思っています。

結局のところ、いかに自分たちのお客さんのことを考えられるかってことでしょうね。常に消費者がどこを向いて、何を求めているのかってことしか頭にないです。それは日本のお客さんでも海外でも一緒だと思ってます。

ただ、昔と違ってイイことだなぁって思うのは、世界中のお客さんと直でつながれるってことですね。
たとえ言葉が通じなくても、ダイレクトに本質が伝わる。それって恐いことでもあるんだけど、だからこそ“本物だけが残れるいい時代”だとも思うんです。

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