海外進出企業インタビュー

掲載日:2016年6月29日

海外進出企業

キッチンメーカークリナップ社の海外向け製品開発とタイの販路開拓への挑戦

プロフィール

クリナップ株式会社

海外事業部 西川美久

「使い捨てではなく、長く使ってもらえる、いい物をつくりたい」という想いから一生を通して使ってもらえるキッチンメーカーのクリナップに2003年に入社。1年間工場にてクリナップ生産方式を学んだ後、国内向けキッチンのデザインを担当。2012年末より社内公募制度で海外事業部に異動。海外向けキッチンのデザイン、商品開発、宣伝、新規市場開拓など海外事業に関わる全般業務を担当。

御社事業の海外展開状況について教えてください。

1979年の香港の展開からはじまり、1983年に中国の北京に事務所、各国に販売店を広げていきました。この当時から現在まで「クリンレディ」という商品を販売しており、今年で発売33周年になる当社のベストセラー商品になっています。

現在は、中国と香港に現地法人、台湾に支店があります。台湾は、2013年に駐在員事務所を設立したのですが、市場拡大に伴い、2016年4月より支店にしました。その他、シンガポールやマレーシアといった東南アジア、韓国や香港といった東アジアに、販売店を持ってビジネス展開しています。中国と香港は主に、日本国内で使用する資材の調達を行っており、中国では加えて、現地日系ハウスメーカー向けに現地でキッチンをOEM生産して販売しています。

耐久性の優れたステンレス製のキャビネットや、汚れが落としやすい清掃性の良いシンクなど、当社にしかない機能を持っているため、台湾などその他の国では、高級輸入商品として現地のマンションや戸建て住宅に採用されています。海外展開を強化してきた背景については、日本は大きな市場ではありますが、海外にはもっと大きな市場があるためです。

それから、私たちは「キッチンというものは人生の中で何回も買い換えるものではないからこそ、永く愛着を持って使っていただきたい」という想いで開発をしています。この高い日本品質の商品を、日本の方々だけではなく、海外の方にも使用していただきたいと想い、海外へ展開をしています。

私はもともと商品開発デザインの部署にいたのですが、2012年末から海外事業に勤務しています。ちょうどこの少し前から従来の国内向けの仕様を、そのまま輸出するだけのビジネスモデルでは成功が難しくなってきていました。そこで私に課せられたミッションは、現地のニーズに合わせた商品開発、新規市場の開拓でした。

新規市場への海外展開準備は、どんなことから取り組まれましたか?

まず、日本製品と海外現地で使用されているものを比べた際に、デザインに大きな違いがあり、その商品開発に取り組みました。海外のキッチンでは棚の扉は小さいサイズよりも大きいサイズが好まれます。例えば、日本では使い勝手を重視し、開き扉2枚にすることが一般的です。ですが、海外ではデザインを重視しますので、「扉が2枚ではデザイン的にすっきりしていないから嫌だ」という意見がよくでていました。

キッチンという場の嗜好性の高い商品の場合、こうした小さな部分ですが、重要な部分を少しずつ現地のニーズに合わせてカスタマイズしなければなりませんでした。とはいえ、日本の機能性は非常に評価されており、その部分を無くして全部ローカライズしてしまっては、日本製品の良さが出せません。そうかといって、日本での機能性の良さが各国で求められる機能性と全て一致するものでもないため、その部分の調整を、地道な現地調査をしながら行っていきました。

進出国はどのように選定されましたか?

調査段階では、自社のターゲットになる家庭やマンションのショールーム、現地のスーパーでどんなものがどう売られているかまで、現地の視察も行いました。様々なデータがネットで調べられるようになってきてはいますが、こういったデータは生で見に行かないと出てきませんからね。

新規市場の開拓の際は、前述した現地視察と国内での事前調査を行っています。ポイントとしていることは、まず第1に、親日国であるかどうかなど、日本製を受け入れ、評価してくれる土壌が整っていること。第2に、一人当たりのGDPが比較的高い国であり、高級品を購入できる層が増えつつあるかどうかです。また、当社の製品の強みが出せる環境として、第3に高温多湿な環境ということもポイントになります。海外で主に使われている木製のキャビネットに対し、高い耐久性を持った私どものステンレス製キャビネットの強みが生きるからです。

上記の理由などから直近はタイへ販売店を作りました。東南アジアには、シンガポール、マレーシア、ベトナムに販売店を持っていたのですが、タイにはまだ販売店が無かったためです。また、タイは陸路で多くの東南アジア諸国にアクセス可能なため、まだ販売店がない他の国への販売を考えた時にハブにできる可能性がありました。

Digima~出島~での情報収集はどんな点でお役立ちできましたか?

上記のような進出前の事前情報を収集する時に活用させていただきました。世界には多くの国がありますので、まず当社がどこの国をターゲットとすべきか、またその国に当社の商品を受け入れていただける土壌があるのか、といったことをセミナーに参加することで情報収集させていただきました。Digima~出島~では毎月多くのセミナーを開催されていますし、最前線で現地でビジネスをされている方々が講師のため、生の情報を得る場としては大変有意義に活用させていただきました。

普段現地にいる方などはコアな話をしてくれましたし、基本情報から始まり、事務所を設立する際のメリットとリスクについて話してもらえるので、進出した後のイメージが湧きました。セミナーで話を聞いたことがきっかけで、さらにタイについて具体的に調べてみようと思えました。

基本的には、国ごとに情報を並べて見てから、その中でターゲットとなる国をチョイスして実際に確かめにいきます。今回も、キッチンメーカーがどれ位あるのかを調べて、行ってみて自分の目で見て周りましたね。

進出準備で苦労されたことは何ですか?

製品を扱ってもらえる販売店を探すことに苦労しました。当社は基本的に海外では、自社でショールームを作るのではなく、販売店制度をとっています。そのため、良い販売店と組めるかどうかが、ビジネスが上手くいくかどうかに直結します。そういう意味でこの販売店候補探しが一番苦労しました。

日本で集めた情報を元に当たりをつけて現地に向かったのですが、ほぼ役に立ちませんでした。最終的に販売店になっていただいたところは現地で実際に自分の足で探したところです。様々な通りを歩いては高級ショールームを見つけて訪問し、そこからアポイントに繋げてといった感じです。その結果、現地の大手販売店と契約することができました。

当社の商材を売りたいと思ってもらえないことには始まらないので、例えば、高級志向のお風呂は扱っているけれど、キッチン商材をまだ扱っていなかったとしたら、両方扱えるチャンスになるとか、ヨーロッパの商材は扱っているけれど日本の商材をまだ扱えていないなど、どこに販売店側のメリットがあるのかを考えました。

そういった地道な足運びの中で、1社販売店が決定しました。たまたま、うちの製品のことを知っていてくれて工場視察にも来てくれたことがあり、事業を拡大したいという希望もあった販売店です。市場調査を初めてから販売店契約をしてショールームに展示してもらうまでは1年程かかりましたね。

海外ビジネスの成功の秘訣について何かアドバイスはありますか?

自分の目を信じることですね。何が正しいかどうかは自分が行って体感するしかないのだと思います。今の時代、情報は溢れかえっていますが、自分が欲しいピンポイントの情報はやはり自分で探すしかありません。逆に情報が出回っている場合は、既に誰かが開拓しており、新しく入り込む余地は少ない可能性があると言えます。

また、海外では相手が社長など代表の方のことが多いため、即断即決が求められます。きちんとその場で回答できないと「この人と話していてもしょうがないのでは?」と相手の信頼を失います。

現在、私がいる海外事業部では、ある程度の決定権を持たせてもらっています。そのため、自分の判断でその場で回答が出来たので、相手の信頼を得られたのだと思っています。日本サイドに都度確認していては、ビジネスチャンスを逃す可能性が高くなります。

今後の展望について

今後は、キッチンを完成品として輸出するだけでなく、もっと枠を広げるチャレンジをしていきたいと考えています。具体的には、キッチンの完成品を持っていくと、輸送コストがかかりすぎて競争力が無くなってしまう国や、価格が高すぎて販売が難しい発展途上国には、シンク単体といった部材レベルでの販売をするといった、新たなビジネスチャンスを探っていきたいと考えています。

当社は機能を持った商品開発が得意ですので、部材レベルでも勝負ができる商品が多くあります。また、地産地消ということが日本でも注目を浴びていますが、キッチンも現地で現地のニーズに合わせてローカライズした製品を売るようにしたいです。そうすることで、現在進出している国に対しても高級品だけではなく、中級品の価格帯にも販路を拡大することができますので。「made byクリナップ」という考え方で広めて行けるかと思います。

そうやって商材を広げていくと今中心としているアジアだけでなくヨーロッパなどにも広げていける可能性も出てくるかと思っています。これまでの進出ノウハウを活かしつつ、様々な可能性を探って行きたいと思います。海外ビジネスとしてはまだまだですが、今まで以上に市場を世界に広げて挑戦していきます。

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