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- 新たなドローンビジネスで「日本発のグローバルベンチャー」を目指す
海外での土木測量事業に特化したドローンビジネスというブルーオーシャン
「テラドローン」の設立の経緯と、ドローンを使用した貴社のビジネス概要について教えてください。
2016年3月に、アジアの新興国でEV(電動バイク)市場を開拓してきた「テラモーターズ」(代表:徳重徹氏)による、新たにドローンビジネスを行う新会社として「テラドローン」が設立されました。
私は大学時代からインターンとしてテラモーターズに所属していましたが、もともとテラモーターズとして、従来のEVに続く新規事業を模索していたんです。それこそ、AIやVRやロボットや新エネルギーといった、多岐に渡る新規事業の候補が挙がっていたのですが、最終的に「ドローン」を使った新しいビジネスを立ち上げることに決定しました。
それらの新しいテクノロジービジネスの中で、最終的にドローンに決めた理由とは?
単純に言えば、ココなら勝てると思ったからです。もともと私たちテラグループは、代表の徳重を中心に「日本発のグローバルベンチャー」を輩出していくことを目標としています。海外で勝つ為の企業を育てるには、やはり事業ドメインの選定が重要です。
例えば、今から新たに検索エンジンサービスを立ち上げたところで、GoogleやYahooに勝つのは至難の業ですよね? だからこそ、まだビッグプレイヤーが存在していない新しいフィールドで、かつ世の中に対して非常にインパクトのある事業を選定することが大切で、ドローン事業ならば、それらの条件を満たした上で、非常に大きなチャレンジができると判断しました。
世界を見渡せば、中国のDJI(※1)やフランスのパロット(※2)、あるいはアメリカの3Dロボティクス(※3)といった、グローバルなドローンベンダーのビッグプレイヤーが複数存在します。
しかしテラドローンが、それらの企業が注力しているハードウェアを軸としたドローン事業はなく、土木測量事業に特化したドローンビジネスで勝負しようと思ったのも、その理由からでしょうか?
おっしゃるとおりです。ドローンビジネスを俯瞰すると、ホビーとしてのハードウェア市場は、すでにビッグプレイヤーが決まりつつあるのが現状です。そういった状況下でハードウェアビジネスに新規参入を果たすのは、テラモーターズでの経験から考えても、非常に難しいと思っています。
けれど将来的には、ドローンを取り巻くマーケットは、ハードではなくサービスの分野に移行していくはずです。いわゆる「Drone as a Service(ドローン・アズ・ア・サービス=DaaS )」と呼ばれる、ドローンを使った検査やモニタリング、あるいはマッピングや測量といった分野ですね。
それこそSaaS(「ソフトウェア・アズ・ア・サービス」)やRaaS(「ロボティクス・アズ・ア・サービス」)と同じ文脈で、ドローンを使った何らかのサービスが今後どんどん増えてくる中で、我々としては、そのプラットフォームを押さえていきたいと考えています。
※1
DJI:
世界No.1シェアを誇るドローン企業。本社は中国広東省深圳
※2
パロット:
デジタルガジェットメーカーとしてドローン市場に参入したフランス企業。レジャー用ドローンのパイオニアとして幅広い層のユーザーから支持されていたが、2016年第4四半期にコンシューマ向けドローン事業の再編を発表
※3
3Dロボティクス:
“ロングテール”“フリーミアム”という概念を提唱したクリス・アンダーソンが代表を務めるアメリカのドローン企業。中国DJIの市場独占に苦戦し、近年はコンシューマ市場から企業向け市場へとシフト
その“プラットフォーム”とは具体的に何を意味するのでしょうか?
ドローンによる測量に加えて、UTM(Unmanned Aerial System Traffic Management)と呼ばれるドローンを安全に飛ばすためのソフトウェアの自社開発および運用、さらにはドローンで現場を撮影した3D画像データを納品する際に提供する、ユーザーが簡単にデータを把握するためのWEBサービスであるTerra Mapperの開発を含めた、いわゆる“一気通貫型”のサービスを指します。
今後、世界的にドローンの認知がさらに広がったときに、それらの運行管理システムの重要性が高まるのは必然なので、そのために今の段階から取り組んでいるという感じですね。
ハードウェアの開発よりも、システムインテグレートとソフトウェアの開発を重要視しています。
それらのプラットフォーム戦略は、今後の中長期的なビジョンを見据えてのことだと思いますが、国内だけでなく、アジアやオセアニアに積極的に進出を果たしているのも、そういった理由からでしょうか?
はい。もともと海外進出を前提に事業ドメインを選定していましたから。ただ、進出国の選定に関しては、マーケット状況はもちろんですが、各国の“ドローン規制”にも大きく左右されますね。
現在、テラドローンとしては、2017年1月に海外進出第1弾としてオーストラリアのブリスベンに子会社を設立して以来、同年3月にはインドネシアにジャカルタ支店を、さる6月には同じくオーストラリアのシドニーとメルボルンにも支社を立ち上げました。
例えばですが、中国やインドといった軍事力がある国は、ドローン規制も強いんですね。やっぱりドローン技術が軍事転用されたときに問題が生じるからだと思います。
その点、それらの国と比較して、ドローンの規制緩和が進んでいるのが、北米やイギリスを含む欧州、そして私たちが進出しているオーストラリアだったりするんです。
オーストラリアを選んだ理由としては、規制が緩いことはもちろんですが、マーケット的観点から見ても、競合もあまり強くなく、何よりも広大な土地をベースとした鉄道業や鉱山業、さらにはパイプライン建設といった土木事業のニーズが非常に高まっているという背景があります。
またインドネシアに関しては、その経済成長に各種インフラが追いついていないという現状から、日本政府主導による大型のODA事業が行われているのですが、日本からインドネシアに進出する建設会社や建設コンサルタント各社のODA事業をサポートする形で展開しています。
もともとテラモーターズで蓄積してきた海外進出のノウハウがあるので、過去の経験を活かすことで、今後も積極的に横展開をしていきたいと思っています。
もちろん国内でも、東京本社に加えて全国に6つの支社を構えることで、地方からのニーズに応える体制を整えています。
では海外進出を決定するまでのリサーチでは、どのような方法を実践されましたか?
やっぱりその国のことを肌で実感しないと何も分からないので、まずは現地に行きます。それもかなり頻繁に複数回行きますね。代表の徳重の場合だとオーストラリアに12回ほど行っていましたね(笑)
それと、やはり情報がすべてなので、現地に行った際に、その市場に詳しい人を現地コンサルとして雇ったり、時には競合にもリサーチのオーダーをかけたりします。
あとは、現地でのパートナー選びも大事なファクターなので、その選定に関しては重要視していますね。
具体的な連携としては、事業譲渡や資本参加など、その形態は様々ですが、事業の立ち上げまでは、スタッフが現地に深くコミットしていくことは共通しています。
関さんも、テラモーターズのインターン時代からインドに駐在していた経験がおありですが、そもそもテラグループでは、若い人たちでも海外勤務のチャンスが与えられていますよね? それもかなり早い段階で、良い意味で無茶ぶりというか…?(苦笑)
はい(苦笑)。新卒はもちろんのこと、インターンでもドイツなどに派遣されたりしていますね。やっぱり若い人のほうがハングリー精神もありますし、経験がないからこそ物事を柔軟に考えられるという意味では、海外という環境に対応しやすいのかなと。
もともと私たちは結果にコミットしていくので、その人の年齢は問いません。社内でも(その仕事が)できる人に任せていくというカルチャーがありますね。「世界で通用する人材を育てたい」という代表の意思もあり、みんなが「世界で勝ちたい」と思いながら、仕事に取り組んでいるはずです。
また私たちの場合は、日本からの人材に加えて、現地スタッフも雇用して、現地のユーザーを対象にサービスを展開することを前提としています。かつ土木事業という比較的規模の大きいビジネスでもあるので、ハードワークな部分もあるのですが、その分とてもエキサイティングだと思いますよ(笑)
逆に経験不足だったからこそ大変だったことは?
めちゃくちゃありますよ。そもそも若手に任せるということは、その分リスクも大きいということですから。当然ですが私もいろんな失敗を重ねてきましたので…(苦笑)
海外のお客さんを相手にした時に、国内と比べて難しかったことは?
やっぱり違う国の違う人種の方々なので、顧客としてのニーズを明確に捉えるという意味では、難しいですね。もちろん現地語も学ぶようにしていますし、コミュニケーションは重要です。ただ、いわゆる非言語的な、その国ならではのビジネスにおけるテイストというかモード的なものを、きちんと理解するのは大変ですよね。
だからこそ現場に入り込んで、現地の方々と共に動いて感じることが大切だと思っています。私の場合だと、テラモーターズ時代に駐在していたインドでは、ヒンドゥー語も勉強しましたし、EV(電動バイク)を販売するにあたって、現地のリキシャワーラー(自動三輪車を運転する人)の方々と直接話すことを心がけていました。
これは海外に限らずですが、現場に行くことなく、ただオフィスで働いているだけではわからないことがたくさんありますよね。
では、世界を見渡したとき、現在の日本におけるドローンビジネスの立ち位置は、進んでいるのでしょうか? 遅れているのでしょうか?
一般的に、新しいテクノロジ−に関して日本は遅れているのでは? というイメージがあるかもしれませんが、ことドローンを使用した土木事業の測量に関しては、世界で一番進んでいると思いますね。
最近だと、ドローンによる上空からの立体地形地図の測量誤差を5cm以内に抑える技術が開発されたことが発表されたばかりです。
また去年(2016年)から日本政府主導で、「i-Construction」という、「建設現場の生産向上のために、測量・設計・施工・管理といった全てのプロセスにおける情報化の新基準」を推進しているのも、業界全体への追い風になっています。
そもそも土木事業の発注の多くが国からのものなので、それと平行して、今後も国内のドローン測量技術は大きく進化するはずです。
そういった背景から、貴社サイトのファーストビューにも掲げられている「空から、次の産業革命を起こす」というフレーズが生まれたのでしょうか?
ご存じのようにドローンの可能性は多様性に満ちています。ホビーや映像コンテンツのおける撮影技術はもちろん、私たちが取り組んでいる測量や点検や監視といった業務、宅配事業における物流サービスといったものまで、本当に多岐に渡ります。
それこそパーソナルコンピューターが誕生した時以来の技術革新であり、人々の生活を変える存在として捉えているんです。
今後、ドローン規制が緩和されていく中で、どんどんドローンの社会認知度は高まっていくはずです。
例えば、アマゾンが画策している「プライムエアー」に代表される、ドローンを使用した配送サービスは、現在物流業界が直面している再配達の「ラストワンマイル問題」(※4)を解決するとも言われていますね。
ドローン事業としては、3、4年ほど前から「撮影」という分野が広まって、さらに映像の高解像度技術が進化するのにあわせて、次に「測量」という分野が普及したんです。それが現在ですと、さらなる技術革新で、前段階の「測量」から、さらに精度の高い技術が要求される、ダムなどのインフラ設備の「点検」にまで進化しつつあります。
それらの要因は、ハードの進化によって、飛行時の安定性が確保されたことが大きいのですが、今後ドローン自体の飛行可能時間が伸び、さらに機体にかかるペイロード(積載量)の重量も増えるようになれば、次は「物流」の可能性が大きく広がっていくはずです。
当然テラドローンとしても、現在の測量事業の延長線上にある、将来的な物流事業の可能性には注目しています。
※4
ラストワンマイル問題:
物流業界において、配送拠点から配送先までの最後の1マイル(約1.6キロ)間での再配達が増加することによって生じるコスト問題
例えば、現在Google社でAI開発を行っているレイ・カーツワイル氏が2045年辺りに起こると唱えている「シンギュラリティ(技術的特異点)」(※5)に関連した、「RNG(ロボティクス・ナノテクノロジー・ゲノム)(※6)」と呼ばれる技術革新において、ロボティクスの分野を象徴するのがドローンであるという見方はどうお考えですか?
確かにテクノロジーとして俯瞰して見た場合、ドローンとは、AIでもあり、IOTのひとつとも言えますよね。
それこそ点検作業にしても、以前のように人間がやったら何日もかかるような作業が、ドローンを使用すれば数時間で済むケースが多々あります。具体的には、これまでだったら鉄塔などに人が上って目視で確認していたのが、ドローンを飛ばせばそれで終わりですし、時間はもちろん、安全面においても大きなコスト削減になりますから。
危険かつ時間のかかる作業をロボットが代用してくれるという意味では、大きな進化ですよね。
※5
シンギュラリティ(技術的特異点):
2045年辺りに、AIを中心とするコンピューター技術や生命科学の発展によって、技術革新スピードが指数関数的に爆発的に加速し、予測解読が不可能な時代が始まるとされる技術的な特異点を指す
※6
RNG(ロボティクス・ナノテクノロジー・ゲノム):
2015年〜2024年かけてロボット革命、2025年〜2034年にはナノテクノロジー革命が、さらに2035年〜2044年には遺伝子工学革命が起こり、2045年には人工知能の進化にともなって「シンギュラリティ(技術的特異点)※5」が発生すると言われている
そういったテクノロジーの進化はもちろんですが、実際の海外ビジネスの現場において、テラドローンが大事にしている理念とはなんでしょうか?
やっぱりビジネスとは顧客価値に尽きると思っています。それこそ業種業態および国内外に限らず、グローバルな価値観として共通することだと思うのですが、「これは顧客にとって本当に価値があるのか?」と問い続けながら、お客様にとって本当に価値があるのかを見極めていく。
国内外問わず、あらゆる既存の価値観や既成概念にとらわれずに、大胆に発想して、かつ行動していくことが大切ですよね。
最後に、テラドローンおよびご自身の将来のビジョンについて教えてください。
日本発のグローバルベンチャーとなるためには、新しい産業に携わることが近道だと思っています。今後の日本におけるドローン規制は、さらに緩和されていくはずですが、国内で発展したドローン技術を、海外事業で展開することに、私たちは大きな価値とチャンスを見いだしています。
そういった意味でも、やはり、世界で通用するドローンビジネスを手がける企業へと成長することがビジョンになりますね。その部分では、会社も私も共通しています(笑)