海外進出企業インタビュー

掲載日:2017年11月10日

海外進出企業

「お好み焼」という食文化を世界に拡げる「オタフクソース」

プロフィール

オタフクソース株式会社

執行役員 / 国際事業部 部長

宮田裕也

「オタフクソース」海外事業の統括者。海外営業や輸出入関連業務を担う「国際事業部」のまとめ役として、今なお積極的に現場に赴く日々を送る。

お好み焼・焼そば・たこ焼等の「鉄板コナモノ文化」を世界に拡げる

「オタフクソース」が最初に海外進出をスタートした経緯と理由を教えてください。

最初に進出したのはアメリカで、今から約20年前になりますね。私たちは創業当初より、広島という地方都市を拠点として活動してまいりました。さらにローカルフードである「お好み焼」や、それに関連した商品、サービスなどを中心に取り扱っていることから、“いかにお好み焼を全国に広げていくか”ということは、常にテーマとしてあります。

ですから、最初にアメリカを目指した理由のひとつには、進出の延長線上に、“海外の人にお好み焼を知ってもらいたい”という純粋な思いがあったと言ってもいいと思いますね。

現在はアメリカ以外に、中国、マレーシア、台湾、韓国といった国々で事業を展開されていますよね?

はい。内訳としては、日本国内で生産した商品の輸出と、海外の現地法人が生産した商品の販売というふたつに分けることができます。現状、海外事業はグループ内全体の売上の7%程度ですが、その進捗率は、国内の状況と比較しても、高い割合を記録しています。

トータルでは、販売額が一番高い国はアメリカです。その次が中国。それ以降、台湾、韓国と続きます。海外事業では、それらの国の売上が、大体6〜7割くらいを占めています。

以前、他のメディアで、新規ターゲットとして、「一人暮らし」「関東」、そして「海外」を見据えているという記事を拝見しました。

それぞれのターゲットに対する根本的なアプローチは、ほとんど変わりません。特に「関東」と「海外」で言えば、“いかに現地に寄り添えるか”がポイントになりますね。

私たちの主力商品は「ソース」ですが、それ単体ではなく、惣菜の販売や実演販売などを通じて、「お好み焼」という具現化した商品を、現地の方々に広めることを心がけています。

ただ、海外で「お好み焼、いかがですか?」と勧めても、現地のお客様は「?」となってしまいませんか?

確かに、日本ではすぐに伝わることが、海外では理解してもらえない例のひとつですね(苦笑)

これは「お好み焼」に限ったことではありませんが、日本独自の商品やサービスの海外での入り口は、その多くが現地の日本マーケットです。そのため、その日本マーケットと関わりのある現地のお客様こそが、まずアプローチすべきターゲットとなります。

だからこそ、私たちが実際に鉄板の前に立ち、現地の方々に向けて「お好み焼はこうやって焼くんですよ」「このメニューはこういうものですよ」といった啓蒙的な活動を行う意味があるのです。

現場こそが、新しい市場開拓の場になっていると?

そうですね。ただ、勢いよくドーンと拡がるのではなく、ジワジワと、ゆっくり浸透していくイメージですね。

以前、中国の広州市に国際事業部のメンバーが派遣された際、まずは現地スタッフにお好み焼の味を知ってもらおうと、その場で焼いて提供したのですが、それを一口食べた現地スタッフの最初の感想は、「(味が)濃くて辛い…」でした。

しばらくすると「味がしない」という意見も出てきて、「そんなに味覚が違うのかな?」と疑問に思ったメンバーが、その食べる様子を見ていたら、彼らはお好み焼を、ソースがかかっている上の部分から順に食べていたのです。

そのため、最初は濃かった味が、次第になくなっていったのだと思います(苦笑)。結局、「食べ方」を知らなかっただけなんですね。

だからこそ、本当に基本的なところから理解を深めてもらうことが大事なんだと痛感しました。

まさに現地でのリードナーチャリング(顧客育成)こそが大切なんですね。

はい。ただ、このように現地の方々と商品について直接お話ができることは、私たちにとって貴重な財産でもあります。

それがそのまま現地での市場調査に繋がると?

そうですね。例えば、現地のとあるお好み焼店様では、その店舗でのお客様の8割は現地の方で、日本人のお客様は2割程度であるというお話をうかがったり、さらには、お店に来られる現地の方が好む、お好み焼の食べ方まで教えていただいたりと、非常にありがたい貴重な情報を得ることができました。

私たちの場合は、スタッフが直接現地の企業様とコンタクトをとり、海外ならではの特殊なニーズをヒアリングしましたが、専門のリサーチ会社に依頼することも有効だと思いますね。

そういった現地ユーザーならではの嗜好やニーズを分析することで、その国ならではのローカライズをほどこしていくということでしょうか?

はい。現在はアメリカと中国、マレーシアに現地の工場を持っています。

現時点での海外向けの商品構成は、全体の75%が業務用ですが、アメリカや中国では、それぞれ現地の味覚に合わせた商品の開発・販売を行っています。

そもそも、現在日本で販売されている「お好みソース」は、戦後の広島で、お好み焼店様一軒一軒を訪問し、店主の方々の声を聞きながら出来上がっていった商品です。つまり、元々の商品作りの原点はB to Bにあるのです。

また、業務用として開発した商品を元に、一般家庭のニーズや用途を考慮した上で改良を重ねて、小売り用の商品として市場に売り出すことも行っています。

いわば、“業務用と家庭用という異なる2つのリソース”を元に、自社の商品開発を効果的に展開するフローが確立されているんです。

現地向けの商品開発というのは、具体的にどのようにされているのでしょうか?

まずは、その国の規制に従うことが基本となります。国によっては、肉のエキスを使用してはいけないなど様々な決まりがあるので、それぞれ現地のルールに則った原材料の構成を考えます。

また、現地企業の方々にヒアリングしながら、その国ならではの味覚を研究して、開発に反映させることも行っています。

あとは、トレンドですね。例えば健康に配慮した商品とか、最近だとグルテンフリーだとか、そういったその時々の時流も意識しています。

2016年に進出をしたマレーシアにおいては、今年無事ハラル認証を得ることができましたね。

現地企業との合弁会社である「OTAFUKU SAUCE MALAYSIA SDN. BHD.」で製造するソースは、ハラル認証機関の中でもっとも信頼されているJAKIM(ジャキム)から認可をいただくことができました。

ハラルに関する知見も乏しい中で、そのような信頼性の高い認証を得ることができたのは、現地のパートナー企業がいてくれたからこそだと思います。おかげさまで、ムスリムの方でも安心して口にしていただけるハラル食品として、現地で商品を販売することができています。

そもそもイスラム圏での「お好み焼」や「たこ焼」の認知度はどのようなものなのでしょうか?

結論から言えば認知度は高いですね。それこそ、Googleのトレンドワード検索の料理カテゴリーで「Takoyaki」と入力すると、地域ランキングでは、マレーシアやインドネシアが上位に表示されるんですよ(笑)

この間も、本社のある広島で、ちょうどラマダン(※イスラム教徒が断食を行う約1ヵ月の期間)明けに、海外からの留学生を対象に、ハラルのお好み焼を焼くイベントを開催したのですが、ありがたいことに、みなさん「おいしい、おいしい」と食べてくれました。

広島を本拠地に全国の拠点で展開している「お好み焼研修センター」や「お好み焼教室」にも、年々たくさんの外国人観光客の方々にお越しいただいています。

まずは「お好み焼を知ってもらい、食べてもらう」。その上で「その国にローカライズしたお好み焼を作ってもらう」ことも大切なんですね。

そうですね。ここ半年くらいですが、香港で「たこ焼器」の売上が上がっているんです。それに伴ってソースの需要も高まっているんですね。メディアの影響が大きいようですが、現地の方々が「作る楽しみ」に新鮮な魅力を感じてくださってるようですね。

海外進出においては、市場を開拓することが第一の目標ですが、それと同じくらいに、お好み焼・焼そば・たこ焼等の「鉄板コナモノ文化」を広く知ってもらうことも重要なんです。

そういう意味では、海外事業を行うと同時に、文化の普及活動も行っていると言えますね。

さらに言えば、文化だけでなく、私たちが持っているなんらかのリソースが現地の方々のプラスになることが、長い目で見れば、ひとつの成功と言えるのだと思います。

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