海外進出企業インタビュー

掲載日:2019年5月8日

海外進出企業

ターゲットは富裕層ではなく大衆層 | 海外売上比率42.3%を誇る「マンダム」のグローバル戦略とは?

プロフィール

株式会社マンダム

執行役員 第二海外事業部 部長

本郷 良和

1982年入社。1992年にマンダム シンガポールに出向後、現地の常務取締役に就任。2003年よりマンダム フィリピンの代表を務める。2015年にはマンダム ベトナムの責任者として駐在。2018年4月より現職。

プロフィール

株式会社マンダム

第二海外事業部 課長

伊藤 聡声

1997年入社。2000年〜2005年までマンダム インドネシアにて国内営業を担当。2008年よりマンダム チャイナの立ち上げに参加。2014年までの7年間、企画室として中国内陸部開拓などの様々な業務に従事。2015年より現職。

「日本」「インドネシア」「海外その他」の3つのセグメント

まずはマンダムの海外進出のきっかけについて教えてください。

本郷:マンダムの海外進出は、1958年4月にフィリピン・マニラ市にて、技術提携会社を設立したことが始まりです。日本の化粧品業界で一番最初に海外進出を果たしました。

その背景には、進出以前から日本国内でヒットしていた、「丹頂(たんちょう)チック」という整髪料の存在があります。

当時日本へ出張にきていた華僑・華人のビジネスパーソンが「丹頂チック」に関心を持ち、故郷にお土産として大量に持ち帰ったことで、次第に現地で評判になったんですね。そのような状況の中、とある華僑系のビジネスパーソンより、「丹頂チック」を現地で作りたいという話をいただきました。

そのオファーを受けて、当時のアジアにおける一番の国際都市であったフィリピンのマニラへ技術提携することで進出しました。

1950年代の進出当初から、それこそ21世紀の現在のように、海外(アジア)を安価な生産拠点ではなく、大きな市場としてとらえていたと?

本郷:そうですね。当初から私たちは、海外を、“生産地”としてではなく、あくまで“市場”としてとらえることで、“現地の生活者へのお役立ち”を目的に海外進出を行ってきました。

フィリピンに続いて、1969年には現在の大きな事業拠点となっているインドネシアに合弁会社を設立。その後も、シンガポール(1988年)、台湾(1989年)、タイ(1990年)、フィリピン(1992年)、香港(1993年)、中国(1996年)、マレーシア(1997年)、韓国(1999年)、中国(2008年)、インド(2012年)、ベトナム(2015年)と、現在では10の国および地域の12社(※現在インド事業は休止中)にて海外事業を行っています。

マンダムの海外売上高比率は42.3%、海外営業利益比率は34.7%(2018年3月期)と、日系化粧品企業としては先端を行くものだと思っております。このような数字は、単なる「結果」ではなく、長期に渡るグローバル戦略の「成果」とお見受けしますが?

本郷:ありがとうございます。マンダムでは創業当初から、一般的な生活者、いわゆる大衆層の方々のことを考えて事業を行ってきました。「優良廉価による大衆普及」の精神をもって、日本のみならず海外展開においても同様です。

だからこそ、日本での商品コンセプトのみにとらわれることなく、各国の大衆層のニーズやウォンツに対応すべく、徹底して現地化するローカライズを推進できたというわけです。

最近ですと…インドネシアでは「ギャツビー スタイリングポマード」という商品が、ここ2年で売上が伸長しています。そこには、2014年頃のインドネシアで、ハリウッド映画に登場する主人公の髪型や、欧米のサッカープレイヤーのヘアスタイルの影響で、クラシカルなバーバースタイル、いわゆるオールバックが大流行したという背景があるんです。

マンダムではいち早くその流行を察知し、先述の「ギャツビー スタイリングポマード」を発売しました。いまや2017年度のマンダムインドネシア出荷金額No.1アイテムにまで成長しています。

伊藤:各エリアで販売しているポマードの特徴も、もちろん国によって異なっているんですよ。

例えば、インドネシアではバイク文化が浸透しているため、ヘルメットをかぶっても髪がくずれないように、パリッと固まりすぎない処方を採用していますし、中国では“硬質感”が求められるため、他国のポマードと比較して、ハードポリマーを配合した処方設計になっているんです。

そのような各国の大衆層で、マンダムが“生活者”と呼んでいる市井の人々に徹底的に向き合うことが、BOPビジネス(※途上国における低所得者層を対象としたビジネス)ともとらえられる、途上国で人気のスタイリング剤の「サチェット(小袋)販売」だと思います。

本郷:はい。マンダムインドネシアの事業展開のひとつに、商品を小型化したり小袋化してサイジングを工夫して、現地のBOP(= Base Of Pyramid ※1)層の生活者の方々でも購入しやすい価格で商品を提供することが挙げられます。

※1 “経済ピラミッドの底辺層”の意で、1人当たり年間所得額が購買力平価で3,000ドル以下の階層を指す。世界人口の約7割の40億人が属するとされる

伊藤:そうですね。アジアのいわゆる“NIES(= Newly Industrializing Economies / 新興工業経済地域)エリア”と呼ばれる地域で、比較的1人当たりのGDPレベルが高いシンガポール、台湾、香港、韓国といった国々と、インドネシアを始め、タイやベトナム、ミャンマーやマレーシアやフィリピンといった相対的にGDPが低い国々では、それぞれ消費者の生活レベルは異なります。

インドネシアを始めとする新興国の都市部では、近代的で大きなスーパーマーケットが主流となりつつありますが、小さな島々から成り立っている地域などでは、小さな家族経営の雑貨店が一般的です。

そういった新興国の地方では、特別なイベントや催しで出かける時だけ、ヘアスタイリング剤を使うような生活者の方々が多くいらっしゃるんですね。

ですから、先述の小さな雑貨店などでは、生活者の購買力に合わせてサイズバリエーション化した商品が売れるんです。例えば「ギャツビー ウォーターグロス」という商品は、300g、150g、100g、75g、30g、15g、3gという7サイズで展開しています。

私たちがターゲットとしている生活者の方々にお役立ちする商品を開発した結果、小分けしたサイズバリエーション展開という形になり、それらがおのずとBOP層と呼べる方々に浸透していったという背景もあると思います。

BOP層に限らず、現地の生活者の方々の家に入っていき、実際に洗面所や浴室を見せてもらうといった、“足を使った”市場調査をされているともうかがっています。

伊藤:私の場合は、現地の知り合いの方にお願いして、家に泊まらせてもらったりしました(笑)。実際にご家族と一緒に普通に生活することで、気づいたことはたくさんあります。

例えば…インドネシアの場合だと、ムスリムの方が多いので、お祈りのために朝5時には起きます。そこで彼らの礼拝する姿を見て分かったのが、男性の場合、お祈りをするために(髪を)洗うということです。それこそ日本人が神社でお参りする際に、手や口を清めるような感覚で、その都度キレイにしてからお祈りをするという。

その結果、おのずと1日に4、5回はスタイリングする機会があるわけですが、そういうのを間近で見ると、「なるほど、こういうところにビジネスチャンスというものはあるんだなぁ…」などと思ったりとか(笑)

それ以外でも、日本と同じように、お父さんとお母さんとでは、使っているシャンプーが違っていて、娘さんはお父さんが使ってるシャンプーは使わないんだなぁとか(苦笑)。あとは、家族みんなで集まってご飯を食べる中で、こうやっておかずを分けたりしているんだなぁ…とか、それこそ一緒に生活をしていく中で、ひとりの人間として、現地の生活者の方々をとらえることができるのは嬉しいですよね。

それは嬉しい発見や気づきですよね(笑)。では、現地での店頭展示などで、具体的に行っている施策などはありますか?

本郷:マンダムでは、常に生活者の視点を大切していることから、商品を購入していただく場所を、「売り場」ではなく「買い場」と表現しています。それは海外に限らず、日本を含めた世界中の店頭施策として共通している考え方であり、生活者の方々にとって、見やすくかつ手に取りやすい「買い場」を創造することを心がけているんです。

ですから、店頭での商品陳列やPOPを含めたデコレーションにおいても、常にお客様にとって伝わりやすいかどうかを考えていますし、キャッチコピーや商品説明でも、わかりやすい現地語でお伝えできるように努めています。

伊藤:そもそも日本ですと、昔から雑誌などのメディアで、スタイリング剤の使い方など、いろんなノウハウが溢れていますけど、新興国の場合、そういった情報がまったく浸透していなかったりするんですね。「ジェルってきいたことがあるけど、それってどう使うの?」とか、日本でも売られている80gくらいの容量のワックスを見て、「こんな大きいのが1回分なの?」などときかれたりするんです。

そういった日本ではすでに当たり前のことを、現地でひとつひとつ啓蒙していくことが大切なんだと思っています。今後新興国がますます豊かになり、オシャレの一部としてスタイリングという化粧行動も拡がっていくなかで、我々の商品を使っていただければ、こんなにありがたいことはありませんから。

小さな島々からなるインドネシアにおいて、ほぼ全域にわたって商品を流通させているともうかがっています。

本郷:はい。ご存じのように、インドネシアの国土は東西5,000km超と長く、13,000を超える島々が存在しています。2017年の時点で139カ所の販売拠点を展開していますが、エリア別の人口構成比とマンダムの売上構成比がほぼ一致するという状態にはなっています。

そんな都市部の近代的な卸売業から、地方の伝統的な小売り業にいたるまでの、幅広い商品流通を可能にした秘訣をズバリ教えていただけますか?

伊藤:う〜ん…特に秘訣というものはないのですが(苦笑)…そもそも流通とは、国をまたいで移動できない会社の独自資産のひとつでもありますから。それこそ以前より赴任していた先輩方が作ってくれたものを、新しい担当者が大事に着実にブラッシュアップしていくという。

そのなかには、そのまま引き継ぐものもあれば、あえて切り捨てざるを得ないものもあるでしょうし…いわばそれらを代々繋げてきたということが、結果として大きな資産となっているのかなとは思いますね。

そうなると結局のところは、現地の小売店を含めた店舗や問屋の方々に直接尋ねたりして、少しずつたぐり寄せていくしかないんですね。それこそストレートかつオープンマインドに「どうやったらこの商品を流通させられるのか?」と、ひとつひとつ当たっていくしかないんです。

もちろん人それぞれのやり方があると思いますが、根本のところは地道で変わらない作業なはずです。でも、そのようにして代々の者が引き継いで繋げていったことで、それぞれの国の流通があるのだと思います。

ありがとうございます。そのような流通のみならず、アジア全域でシナジーを生み出す生産供給体制を敷かれているとうかがっています。それらの具体的な構造についてぜひ教えてください。

伊藤:マンダムグループでは、「日本」「インドネシア」「海外その他」の3つのセグメントでアジア全域においてグローバル事業を推進しています。そのようなアジア全域での適切な供給体制を実現するために、日本と中国とインドネシアという3つの生産拠点を保有しているんです。

具体的には、日本の兵庫県にある福崎工場は、グループをリードする技術や生産工程を担うイノベーションセンターとして、インドネシア工場は、ASEANを中心に中東・アフリカまでに及ぶグローバル市場のコスト競争を制するためのアジアグローバル生産センターとして、そして中国工場は中国国内の商品流通に加えてグループ全体の生産補完の役割もになっています。

より分かりやすく言いますと、日本や“NIES(= Newly Industrializing Economies / 新興工業経済地域)といった1人あたりGDPの高い国では、日本の工場で生産した商品を中心に販売、所得が高くないASEAN諸国では、おもにインドネシアの工場で生産した商品を販売、中国で自国の工場で生産した商品を販売しています。

化粧品の生産コストで大きな負担となるのは包材と中身原料になりますが、日本以外のインドネシアや中国に、自社の容器成型工場があるのは大きな強みのひとつです。自社でクオリティコントロールができる生産設備を保有することは、コスト競争力が確保され、各国の生活者の方々に高品質かつリーズナルブルな商品を提供できるからです。

アジア全域を網羅した生産供給体制のみならず、人材の面でも、いわゆるグローバル人材と呼ばれるスタッフの育成に力を入れているとうかがっています。

本郷:はい。2018年の5月より、グループのマーケティング機能を、いま取材をしていただいている、ここ東京・青山オフィスに集約しました。その目的は3つで、一つ目はグローバル規模でのトータルマーケティングの推進、二つ目は国を越えた人財交流によるマーケティングノウハウの共有、三つ目がグループ全体での新たな価値の創造となっています。

また、2012年度から毎年数名のインドネシアの生産、研究職スタッフに日本での研修を実施していましたが、この青山オフィスには、インドネシアのみならず、シンガポールや台湾、中国など、各国から選抜されたメンバーが、少なくとも半年以上、通常は1年程度、研修や人事異動という形で働いています。その業務も生産や研究だけでなく、マーケティングや商品開発といった、より幅広い業務に携わってもらっています。

日本人スタッフに関しても、当社(※株式会社マンダム 単体)の約4分の1のスタッフが海外での業務を経験していますね。

今後の更なるグローバル展開が楽しみですね。では最後に、ずっと海外ビジネスに携わってきたおふたりならではの、日本企業の海外進出について想うことをきかせてください。

本郷:そうですねぇ…日本のビジネスが縮小傾向にあるから海外にマーケットを求める…っていうのも当然あるとは思うんですけど、私自身が思っているのは、そういった考えよりも、“海外で事業をやらせていただいている”ということですね。

それこそ“やらせていただいている”以上は、いかにその国に貢献できるのかということが大事なわけでして。その国の生活者の皆さんはもちろん、取引先の方々ですとか、あるいは国家に対しても、いかに私たちの事業で貢献するのか? 弊社の言葉でいうと“いかにお役立ちできるのか?”ということを常に考えている状態なんです。

それこそ海外事業に従事している弊社の1人ひとりが、それぞれの国の役に立とうと思ってやってきたからこそ、今の結果があるんじゃないかなとは思っています。

伊藤:あえて違う視点でお話ししますと、BtoB、BtoCに限らず、成功している企業あるいは個人にしても、腰を据えてある種の覚悟を決めて、自らの事業として携わっていらっしゃいます。

そんな多くの方が、現地で10年あるいは20年と長い時間をかけて取り組んでいらっしゃるんですね。そういった事業に取り組むスタンスだったり、強い想いこそが、個人にせよ企業にせよ、各自の成功に繋がっているんだと思います。

あえて私自身のことをお話しますと、最初に海外赴任した国がインドネシアだったのですが、現地の言葉がまったく分からない状態でした。それこそ英語も特に得意ではありませんでしたし、今だから申し上げますが、赴任が決まったとき、最初はインドネシアがどこにあるか正確には分かっていなかったんです(苦笑)

言語はおろか場所さえもよく知らないまま事業に携わっていくからには、それなりの覚悟が必要であり、新たな市場のような何のセオリーもノウハウもない中でやっていくには、やはり腹を括らざるを得ないんですね。

でもそういった覚悟があったからこそ、なんとかここまで進んでこられたと思っていますし、海外でお仕事をされている方々は、多かれ少なかれ、みなさん同じような想いを持って、目の前の事業に取り組まれているんじゃないかなと思っています。

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