海外進出企業インタビュー

掲載日:2018年2月1日

海外進出企業

世界10ヵ国に進出した「株式会社オンデーズ」が掲げる海外300店舗体制

プロフィール

株式会社オンデーズ

代表取締役

田中 修治

2008年に、売上20億・負債14億・赤字2億という巨額の債務超過に陥り、倒産寸前の状態だったメガネ販売チェーン「株式会社オンデーズ」の代表取締役に就任。その後10年間で、売上150億を達成するという奇跡のV字回復を実現。2013年7月より海外展開を開始。現在は世界10ヵ国に進出を果たしている。

世界全体で早期に500店舗体制にすることを計画しています

2013年7月にシンガポールへの海外展開を開始されました。そもそもなぜ海外1号店がシンガポールだったのでしょうか?

う〜ん…たまたまです(笑)。たまたま知り合ったシンガポールのデベロッパーの方から、「出しませんか?」って言われて、で現地に見に行って、「じゃあ出そうかな」みたいな。

それこそノリといったら失礼ですが…?

大丈夫です。それで合ってます。ノリです(笑)。

万全の準備をして、脇を固めるだけ固めて、いざ海外進出!…という感じではないと?

そういう感じではないですね。実際に最初は僕を含めて3人で行ったので。さらに現地で3人加わって、計6人で最初の1店舗を始めました。会社全体で一丸になってというよりも、まずは社長である自分が中心になって、少人数のスタッフと共にイチから向こうで新しい店舗を作るという感覚でした。

実際に店舗を出してからの手応えは?

当初、想定してた基準がかなり低かったので、それから比べればとても良かったですね。

2014年以降は近隣の東南アジア諸国へも進出されました。

おかげさまで、海外1号店をシンガポールにオープンしてから4年間で、2017年11月のフィリピン出店で海外100店舗体制を達成できました。(※2018年1月時点で107店舗)

ズバリ、その成功の秘訣をうかがいたいのですが?

単純に、OWNDAYS(オンデーズ)のような「メガネのSPA(製造小売業)モデル」が向こう(東南アジア)になかったというだけで。それがうまくハマったってことだと思います。

もちろん事前に調べてはいました。それこそ、ZARAさんとかH&Mさんのメガネ版でもある「メガネのSPA」っていうのは、日本固有のビジネスモデルだってことは分かっていたので。もちろん、それは他社ブランドさんも分かっていて、すでに中国進出されている競合他社さんもいましたが、中国ではビジネスモデルが地場企業に模倣されるのも速いし、そもそも自分たちがファーストペンギンになることはできないので断念しました。

ただ、東南アジアを見てみたら、まだ向こうには、メガネのSPAというビジネスモデルは浸透していないし、今進出すれば確実にパイオニアになれる。「じゃあシンガポールでいいんじゃない?」みたいな感じで進出を決めました。

シンガポールは所得も日本と変わらないですし、それこそシンガポールに行ってダメなら、どこの国に行ってもダメですからね。シンガポールほどの所得があるお客様に受け入れられないんだったら、それより所得が低い国に行ったところで結果は見えていますから。だから「最初はシンガポールでいいんじゃない?」っていう。

…とは言っても、2014年時点で国内にも100店舗以上はあったので、そのうちの1店舗としてシンガポールに出してみたという軽い感じだったので、それこそ周りの社員も、毎月オープンしている新店舗のうちの1店舗を、社長がシンガポールで開けただけって感覚だったと思いますよ。通常の新店舗用の出荷業務をしている作業中に、担当のスタッフも「これ、宛先がシンガポールってなってるけど、いいのかな?」くらいで。福岡、沖縄ときて、その延長線上にシンガポールがあるっていう感覚でしたね。

敢えて言ってしまうと、「社長がなんかの趣味でやってる…」みたいに、社内では捉えられていたかもしれません。もちろん社内の取締役会では猛反対もされました。

具体的にはどのような反対意見が?

失敗する可能性が大きいと思ってる役員が多かったですね。2008年に債務超過に陥っていたOWNDAYSの代表取締役に就任してから、5年かけて再生して、ようやく金繰りも落ち着いてきて、銀行取引も正常化する見通しが出てきたタイミングでしたから。「ここでまた数千万も損失だしたら、また正常化が遠のく!」という声が。でも、反対する人に限って、ほとんどが海外に行ってない人ばかりでした。

でも、田中さんのメルマガ【僕は『絶対倒産する』と言われたOWNDAYSの社長になった】を毎週読んでいると、その意見も分かります。たった5年…というと語弊があるかもしれませんが、社長就任の2008年から短期間でV字回復を果たした後、そのまますぐに海外進出って、かなりのチャレンジだと思うのですが?‬‬

やっぱり無理はしましたよ。でもOWNDAYSは「メガネのSPAモデル市場」の中でも後発でしたし、既存の強いプレイヤーと同じことをしても、その差は中々縮まらない。それこそ国内に限っては、 プラスアルファのメガネ以外の事業をやるか、 もしくは扱う商品を変えるのか、あるいは地域を変えるのかといった、何らかのゲームチェンジをしなければその差は縮まらないと、ずっと思ってましたから。

既存の競合他社さんは知名度も資金力も桁違いにあるので、彼らが出てくる前に、先に出て行って場所を押さえないと勝てませんから、全ての決定のスピード感をもっとあげていかないといけないと考えてます。

だから(海外に)出たくて出てるというよりも、出ないと負けちゃうから。まずシンガポールの店舗が成功したから、後はとにかくスピード勝負で、市場をとりに行ったって感じですね。

そこでアクセルべた踏みのまま、2014年以降は、台湾、タイ、カンボジア、マレーシア、ベトナム、フィリピンといった近隣諸国に横展開をしかけたと?

そうですね。もちろんリスクもありましたよ。シンガポールでそれなりに上手くいったからといって、次の台湾でも同様に上手くいくとは限りませんでしたし。慎重になるのか、あるいはアクセルを更に踏むのかっていう経営判断には相当迷いました。

でも勇気を持って踏み続けたら、失敗も沢山あったけど、なんとかトータルでは今のところ上手くいってるって感じですかね。でもまだまだここからマイナスに転じる可能性も十分にあるんで、これからがようやく本当の勝負でしょうね。

そもそも東南アジアのアイウェア市場はどのような状態なのでしょう?

昔の日本みたいですよ。大体20年前の状態と同じイメージですね。

そのような市場に参入することで、現地のローカルユーザーさんからの反応はいかがでしたか?

やっぱり販売スタッフの接客レベルですかね。現地のメガネ屋さんは座ったままの状態で、それこそ携帯見て、お弁当食べながら接客するようなスタイルが未だに多いんですね。目の前に並んだ商品をカウンターで座ったまま、「で、あなたはどれにするの?」みたいな感じで(苦笑)。

でも、OWNDAYSは基本的に立って接客しますし、店舗内装も展示什器にも気を遣いましたし、レンズの追加料金などが発生しないシンプルな明朗会計、検査後から最速20分後に商品をお渡しするとか。…まぁ日本と同じというか当たり前というか、OWNDAYS独自のビジネスモデルが、シンガポールを始め、東南アジア各国の販売店には存在しなかったってことですね。

現地スタッフの育成にしても、日本から接客経験のあるスタッフをトレーナーとして派遣して対応しました。

現地の人材はどのようにして確保したのでしょうか?

FACE BOOKで求人を出しました。あくまで「試しにやってみようか?」って感じで募集したのですが、結果としては何百件もの応募をいただきました。わざわざ他媒体で求人広告を打たなくても、「なんだ、FBでいけるじゃん」みたいな(笑)。

それは大きな気づきですね。

そう。だけどシンガポールで最初に求人募集をかけた際に「シンガポール人のスタッフ募集」とは、敢えて書かなかったんですよ。シンガポール人以外の方が応募された時の為に「他国の国籍を持つ方は、このビザとこのビザを持ってる人に限ります」みたいな注釈文をつけて出したんです。

そもそも日本で求人を出すときに、いちいち「日本人のスタッフ募集」って書かないじゃないですか? それと同じ感覚で求人を出したんですね。そうしたら、ネット上で「人種差別だ」って凄い炎上してしまって問題になったんです。「お前らは、シンガポール人を雇わないで、移民を中心に雇って、シンガポールの求人を奪ってるとんでもない会社だ!」 みたいな…。そんな風にアっと言う間に炎上して、移民局からも連絡が入って、「これはどういうことなんだ?」って。

僕らもまったく自覚がなかったので、「一体何が問題なのか?」ってきいたら、「"シンガポール人の求人"って表記がないからだ」って。いや、シンガポールの求人なんだから、わざわざ書かないでしょ…って弁明したところで、それは日本人の感覚なんですね。

そもそも他民族の移民国家であるシンガポールでは、そういうことを充分に配慮しなきゃいけなかったんです。それで慌てて、謝罪の声明を出して事態は一応収束することができました。

そういった求人の話に限らず、そもそも海外進出って分からないことだらけなのが当たり前で。そんな一連のプロセスで学びながら、自分たちだけのノウハウやスキルを磨いていくしかないってことが実感できましたね。

現在、田中さんは、海外と日本にいる割合はどのくらいですか?

月に1、2週間くらいは海外にいますかね。必要な時に必要な場所にいるって感じで、別に海外にいるからって日本の仕事が止まることもなく、ネットが繋がっていれば特に何も問題はありません。

若い頃から海外にはあちこち行ってましたが、それこそプライベートで何度も同じ国を観光しても飽きてきちゃうので。でも海外に行くのは好きだから、「じゃあアポ入れておいてよ」みたいな感じで、自然と仕事になってるみたいな。仕事で行くと確実にやることがあるので、その方が楽しいじゃないですか。

では、そもそも日本企業が海外に進出することに関しては、どのように考えていますか?

う〜ん…でもね…やっぱりねぇ…日本は良い国ですよ。治安もとても良いし、かつ日本の市場って相当大きいじゃないですか? 誤解を恐れずに言えば、東南アジアなどの比じゃないですよ。だから、すでに「日本の市場は飽和状態で…」みたいな単純なステレオタイプの物言いは疑問に思いますけどね。

そもそもGDPにしても、アメリカと中国に続いて、いまだに世界3位ですよね。ある時期、中国が日本の約2倍のGDPになったって騒がれましたけど、そもそも中国って日本の20倍以上の国土があって、人口も10倍いるわけで。でも、それで2倍の経済規模ですからね。だって、従業員が1,000人と100人の会社があって、それぞれの売上の規模が2倍だったら、片や売上が200億で、片や100億だったら、どっちが効率の良い会社か誰だって分かると思いません?

平均年収にしても、労働時間や物価の違いなどもあって、ヨーロッパ諸国などには及びませんが、アジアの中では1位ですから。それでいて、日本語という独自な言語に守られた市場がいまだに存在していて、ローカル言語間の競争もない。確かに少子高齢化は進んでいますが、それは他の東アジアの国々も同じで、いまだに日本の人口は1億2,700万人です。こんな条件の揃った国ってないですよ。 イギリスやフランスも人口が6,500とか6,400万人ですし、後はドイツくらいじゃないですかね。

とは言いつつも海外展開を成功させたわけですよね。

成功はしてないです。「自分たちが成功してる」とか思った時点で会社はお終いです。それにOWNDAYSの場合は、このまま日本にいても競合他社に勝てないと思ったから勝負する市場を一時的に移しただけですし。

…でもね、ここ数年、日本とアジア諸国を行き来するようになって、「なんか歪んでいるなぁ」とは思います。なんて言うか…海外で仕事をしている人たちは、ちょっと"日本ディスり"が過ぎますよね。「日本は遅れてる、海外はこんなに進んでるのを知らないだろ? シンガポールや中国はこんなに凄いぞ。海外に出てきてないお前らは負け組だ!」みたいなWEBの記事や投稿を毎日目にする一方で、日本にいる人たちの一部には偏狭なナショナリズムが生まれつつある。

そもそも今の時代、単純にGDP=国力で捉えるのは難しいと思います。インフラとか生活環境とか文化的な価値観だとか、いろいろな要素から総合的に判断した上でも、僕は日本って世界で一番良い国だし、まだまだ可能性に溢れてるなと本気で思ってますけどね。

ただ、一つ大事なのは、これからは"国"単位じゃなくて、"都市"単位で見るべきだと思います。

同じ国内でも地域別で年収も生活レベルも全く変わってきますからね。

そうですよね。特に新興国になればなるほど、都市部と農村部の所得格差は大きいですから。中国などは地域によって関税制度もやや異なりますよね。よく「中国に出ないんですか?」って言われますけど、そもそも中国のドコだよ?っていう。それこそ周辺国にしても、ロシア、モンゴル、ベトナム、ミャンマー…と様々ですから。そんなザックリ言われてもって(苦笑)。

同じように、例えばフランス人の友達を「日本に遊びにおいでよ!」って誘って、最初に埼玉の郊外とかに連れて行ったら、きっと"コレジャナイ感"が大きいはずですよね?(笑)。彼がイメージしていたのは、東京かもしれないし、あるいは京都かもしれないし、あるいは沖縄かもしれないし、あるいは北海道かもしれない、日本と一口に言っても多様性があるし、どこをイメージするかでまったく変わってくるから。

それと同じで中国はもちろん、台湾だって台北と高雄では異なるし、ベトナムだってホーチミンとハノイでは気候もまるで違う。アメリカなどは言わずもがなですよね。だから、シンガポールくらいじゃないでしょうか、ひとつの国として捉えられるのは。

よく東京都に例えられますよね。

うん。ただその東京にしても地域格差は広がりつつありますから。だから、そういう観点で見ても、「日本と海外」という感覚で捉える時代はもう古いとは思います。

そのような見方を持つようになったのも、海外に出たからでしょうか?

そうですね、常にそれぞれを行き来しているからだと思います。だから…行きっぱなしの人って歪みがちかもしれません。日本は遅れているとか、日本にいてはダメだとか…そうことばっかり言ってる海外の集まりには近づかないようにしていますけど(苦笑)。僕は日本が大好きだし、もちろんアジア諸国も大好きですし。当然、日本の嫌いなところもいっぱいあるし、他の国にもたくさんありますから(笑)。

それが普通ですよね。

うん。いくつもの国や都市を横断することで、フラットな視点になりましたね。日本の良いところはもっと活かしていくし、逆に良くないところには足を引っ張られないようにする必要があるし。それはどこの国でも同じだと思うんですよね。

そんな中「日本は遅れてる」みたいな一元論だけで語るような、そういう物の見方をしている時点で、海外の違う地域ではスムーズに成果を出しづらいんじゃないですかね。だから、海外進出するなら、気負わずに、もうちょっとフラットな視点で見た方が良いとは思いますよ。

フラットなバランス感覚が大事ということですね。最後に今後のビジョンと計画について教えてください。

今年からは日本国内での展開をもっと頑張ります。原点回帰で(笑)。世界を見渡しても、潜在的なメガネのユーザー数は増える一方です。2018年3月には、東南アジアで7ヵ国目となるインドネシアの店舗がオープンしますが、同国では今後100店舗の新規出店を計画しています。

これから5年間で海外の店舗数は300店舗、国内でも現在の117店舗を200店舗にすることで、早期に全世界合計で500店舗体制を実現させたいです。そして今後はアジアだけに留まらず、さらに多くの地域へと海外展開を加速させていくつもりです。

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