市場動向 2015年12月16日
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アセアンの中心地・タイにおける和食ビジネス その8
もともと親日国であるタイには以前から和食店はいくつかあった。ただほとんどが在住日本人向けの価格高め設定店、またはローカル向けのいわゆる「なんちゃって和食店」の二極化した状態であった。
しかし、10年ほど前からの政府間経済協定によって、関税をはじめとする様々な規制緩和が行われた。そして、2013年からの短期訪日ビザ免除により日本を訪れ和食の良い点に接し、タイ人も「本物の和食を食べたい、和食の良い点を日常生活に取り入れたい」という要望が高まったこと、また、日本企業としては国内の少子高齢化で海外へ市場を求めようとする潮流、このほか複数の要因を背景にして現在バンコクには様々な工夫を凝らした多様な和食店が豊富にできている。そこで、そうした事例をいくつか取り上げ、バンコクにおける飲食ビジネスおよび食材ビジネスのチャンスを探りたい。
最終回は在住日本人に圧倒的な人気を誇る日本式カラオケバー・ウッドボールグループを訪問。直営店とフランチャイズとの別はあるが、カラオケバー6店と食事がメインの店を2店、グループ運営されている。今回はフランチャイズ店を共同経営しているオーナー二人に日本式バーの様々な可能性や飲酒に肯定的ではないタイ文化の中での様々な「事件」を伺った。
第8回は「ウッドボール・ラスタマン」
「タイに投資をしたり会社を持ったりするのが “かっこいい”という感じである上に、ちょっと前までは好景気ですぐ儲かりそうだから、というのがタイへの投資の理由として多く聞かれた。実際には、ビジネスとして割り切ろうとしても、“タイが好きかどうか”という感情が継続できるかどうかが成功のポイントになってくる」と日本での飲食業界経験が20年ほどになるシュン氏とソウショウ氏は語る。
左:ソウショウ氏 右:シュン氏。
客層と人気のポイントについて
フランチャイズを含め、全店の95%が在住日本人の利用になっている。タイ人は日本人に伴われて来たという程度。在住といっても大手企業の駐在員などではなく、当地で起業している方、現地採用で働いている日本人などが中心。価格もごく廉価に押さえ「安く楽しく気軽に」がコンセプト。ウッドボールが出来るまでは日本人向けバーというとソファーで女性が横につきステージでカラオケを歌う従来型店舗しかなかった。ウッドボールが出来てからは、ハイチェアでカウンターに座り一人で飲む、ハイチェアに座ったままカラオケを歌い周りの人と友達になる、ということが可能になった。自分だけの時間が持てること、家庭と職場以外の居場所も得られるようになったこと、このあたりが人気の秘訣だと思う。
日本での店舗運営の違いについて
タイは国教ではないが、仏教が生活や人生のベースとなっている。仏教の中には五戒という生きるうえでの戒めがあり、そのうちの一つに酒を飲むな、という項目がある。その人生観がある上に、実際には酒を飲んでの喧嘩や殺傷事件も多いため、人々の飲酒への意見は芳しいものでない。そのため、飲酒関連の業界への締め付けや取り締まりは非常に多い。その中でも敢えて店舗を運営しようとするのは、やはり利潤が高いことが第一の魅力。
食材や酒類の調達について
当店は、調理して食事を提供することはないため、材料ロスはない。購入するものはすべて酒類となり、ほとんどが輸入酒類となる。お客さまには、当地で製造されている日系ブランドビールのほかに、ジョニーウオーカーやジャックダニエルといったウイスキーが支持されている。また、当店ではカクテルに力を入れている。ビールやウイスキーと違い「軽く一杯」という手軽さがあったり、カウンターでスタッフや周りの人とちょっとした雑談を楽しみながら今日一日の締めとし、さて明日も頑張ろうかな、という感じで飲んだりするのにカクテルはちょうどいい。当社としてもカクテルは利益率が高い商品のため新しいカクテルの開発を進めており、新しい情報や素材は積極的に取り入れている。
規制や行政との折衝、その他苦労したことについて
タイのご当地風物詩として、毎年乾季の11月-2月は地場系ビールメーカーによる大規模ビアガーデンが、ショッピングセンターやレストランで運営される。そこに各メーカーやブランドロゴの入ったワンピースを着たビアガールが派遣され、日本の夏のビアガーデンのようにビール市場を盛り立てるのが常。しかし、ここ最近は行政より「飲酒を促すような活動は好ましくない」という実質指導があり、ビアガールもほとんど見かけなくなった。今年以降ビアガーデンが開催されるかどうかはその時期にならないとわからない。
他には、
「教育機関の半径200m以内で飲酒が出来る店舗の運営をしてはいけない」
「カラオケで著作権を侵害しているのでないか」
「音が漏れている」
など、規制はもちろんいわゆる難癖もいろいろある。
また、規制ではないが、従業員が一日1つはグラスを割る。8店舗×1個×365日で考えると膨大な損失。日本ではあまりないことであるため、これも当地での驚いたことの一つである。
そうした苦労があっても、タイで店舗運営する理由について
その質問は頻繁にされるものだが、回答は「それでもタイが好きだから」に尽きる。様々なことが日本のように進まず、多くのことが日本の常識では測れない。そこで「やはりタイはダメだ」というのか「それでもタイが好きだから」と言って継続するのか。タイという国は「ビジネスライク」な態度でいると、なぜかビジネスがうまく回らない。「タイもタイ人も好きじゃないけどビジネスだから、儲かるから」という人ほど心や体に不調が現れやすい。行政の締め付けや難癖やスタッフの粗相など、締め付けや難癖には目をつぶって対処しつつ、スタッフには言うべきことは言いつつも嫌いになれず、「それでもタイが好きだから」といえるのであれば、自分の中に新しい世界観が生まれるはず。一言で「タイで店舗を運営する価値」とは、金銭だけでなく生き方としての価値を模索するものでもあると捉えている。価値観や世界観など日常生活ではあまり気にしない点ではあるが、利益を得ることとと並行して重要かつ手に入るのが稀なことでもあると思う。
当地製造のサンミゲルライト小びんで120THB(360円)
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