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- 塗料メーカーオキツモ社のアジア・北南米への進出事例
初の海外進出先は米国
オキツモは1989年、米国のシカゴに初めての海外駐在員事務所を開設した。それ以前から製品を輸出してはいたが、米国企業に直接販売したいと考え、進出を決意。しかし、売れ行きはなかなか伸びなかった。
やがて、日本の自動車メーカーや部品メーカーがシカゴ周辺に進出してくるようになると、マフラーなどに同社の耐熱塗料が使われるようになってきた。しかし、当時の日本の自動車メーカーらは米国側から現地調達率を高めることを強く求められると同時に、環境保護の観点から塗料に含まれる有機溶剤などへの規制が厳しくなってきた時期でもあった。そこで同社は有機溶剤を減らした塗料を日本の本社から送り、米国の協力会社に製品として仕上げてもらってから販売する方策を考えた。それならば同社の製品を使用しながら、しかも現地調達率を上げることができる。こうした取引の管理、販売拡大を目的に、1994年に駐在員事務所を現地法人に格上げした。
2年後の1996年、今度はタイに現地法人オキツモインターナショナル・アジアを設立、翌97年には工場も立ち上げた。この拠点には山中重治社長が責任者として赴任した。
「タイでの販売拡大が目的でしたが、父(先代社長の克敏氏)からいきなり『タイに行ってこい』と言われて右も左もわからず大変でした。土地探しや法人設立の手続きなどはコンサルタント会社に頼みましたが、そのほかのことは周りの人に聞いてばかりいましたね」
一大拠点に成長したタイ工場
だが、工場設立の1997年にアジア通貨危機が発生、オキツモインターナショナル・アジアは大きな打撃を受けた。この事態に同社は現法の増資をするとともに、東南アジアや欧州向けの輸出を増やすことで対応した。通貨危機でタイバーツのレートが急落して輸出にはかえって好都合だったし、タイ政府も輸出を奨励するために関税免除などの優遇策を実施していたので、同社の業績は次第に軌道に乗っていった。当初20人ほどでスタートした工場は、現在70人規模に拡大し、2011年は約15億円の売り上げを計上した。オキツモの売り上げは海外も含めて約65億円、タイはその4分の1近くを占める一大生産拠点といえる。設立当初は家電製品向けの耐熱塗料などを製造販売していたが、東南アジアの2輪車市場が急速に伸びてきたので、現在はこの分野に特化するとともに、さらなる拡大を目指して新規分野への展開を図っている。
「現在、タイでの生産量の55~60%は輸出で、輸出先は東南アジアからインド、欧州、さらにブラジル、コロンビアにまで拡大しています」
同社の耐熱塗料は、日本国内で6割前後という圧倒的なシェアを誇る。その強さを支えるひとつの要因は、開発力にある。同社の製品は耐熱性や放熱性などの機能を持つ塗料が主体だが、こうした製品は顧客と綿密に話し合い、何度も性能を評価し、相手の要望に合わせてカスタマイズしたものを製品化するので、一度受け入れられれば他社製品に代えられることはほとんどない。
この開発力は、中国企業との取引でも強みとなった。同社は以前から中国に輸出していたが、ローカル企業との取引が多かったため、支払いが滞ることが多かった。そこで同社は自ら中国へ進出しようと決断し、2003年、他の日本企業と合弁で広東省の中山に現地法人を設立した。
「中国企業との合弁のほうが進出しやすいと聞いていましたが、トラブルも多いと言われ、日本資本だけのほうがいいと判断しました」
強気の交渉で資金を回収
顧客のニーズに合わせてカスタマイズされた同社の製品は、簡単に代替できるものではない。その強みを活かして、支払いが滞れば即時に製品の供給を停止するなどの対応をとった。
「ときには強気で交渉していかないと、向こうのペースに乗せられてしまいます。そういう回収のノウハウは、合弁パートナーである商社にリードしてもらいました」
他社に真似のできないオンリーワンの技術や製品を持つ強みがあればこその戦術である。現在、中国の工場は60人規模で売り上げは約9億円。こちらもタイ同様、順調に業績を伸ばしている。
また2005年にはフライパンなどの調理器具に使うフッ素系塗料の需要が拡大してきたため、上海にも営業所を開設した。この営業所の責任者には、日本の大学を卒業し、オキツモ本社で採用した中国人の正社員を派遣した。
「開発段階でもラインを立ち上げた後も、顧客とコミュニケーションをとりながら販売につなげていくのが当社のスタイルです。製品を売ったら終わりではなく、アフターサービスも込みで営業していますから、顧客に近いところに拠点を置いたほうがいい。実際、上海に営業所を置いた後、フッ素系の売り上げは確実に伸びました」
塗料という製品には半製品的な要素があり、液剤としての品質が優れていても、塗装の技術が悪いとよい仕上がりにはならない。当然、販売後の塗装に関するケアも重要になる。そういう面でも顧客に近いところに拠点を置くことが大切になってくる。そうなると販売エリアの拡大とともに、拠点の数も増やしていかざるを得ない。そこで販売拠点として、2007年にはブラジルに現地法人、2008年にはインドに駐在員事務所を設立した。ブラジルでは現地で雇用した日系ブラジル人の社員が、インドでは日本から派遣した日本人社員が、日系企業を対象に営業や情報収集を行っている。
ウェットな要素が大事なときも
「インドの場合、日系企業のお客さんから『インドに人を駐在させてくれればもっと取引を増やす』と言われたのがきっかけです。当時、インドに進出している日本企業は少なく、お客さんの中には毎日ひとりで工場を仕切り、ほとんど日本語を話す機会のない人も多かった。そこにうちの営業が行って日本語で会話ができれば、それだけでホッとします。特に苦労の多い立ち上げのときなどは戦友のような連帯感が生まれることもある。海外のビジネスでも、ときにはそういうウェットな要素が重要になるときもあります」
こうして同社の海外拠点は確実に増えていった。現在、海外拠点には計10名前後の日本人社員が派遣されているが、家庭の事情などにより、日本に戻さなければならないこともある。従業員数100名強の中小企業にとっては、そのやりくりが難しいのが実情だ。
「今の若い人は出張ならいいのですが、駐在となると嫌がる傾向があります。社員には海外の売り上げを伸ばさないと生き残れないと話しているのですが、なかなか理解してもらえません。当面、中国の新工場以外に海外拠点を増やす計画はありませんが、お客さんの工場が出れば対応せざるを得ない。人材確保は難しい課題ですね」
2013年に稼働予定の中国・江蘇省の新工場については30代前半の若手社員を工場長に抜擢、本人のモチベーションを高めると同時に他の若手社員も刺激しようと考えている。
海外事業を着実に拡大させてきた同社は今、新たな課題の解決を迫られている。
山中重治社長が語る「海外進出のためのアドバイス」
- 販売実績のある地域に進出する
海外進出は、すでに販売実績がある地域のビジネスをさらに拡大させる形で出て行くのが一番効率的。強引な進出や直感だけの決断は危ない。
- 拠点から目を離すな
海外に出るということは、自分たちの技術やノウハウを外に出すということ。目を離せば、たちまち技術やノウハウを持った社員が他に転じることもある。テレビ会議で頻繁に話し合う機会を持つなど、常に目を配っている姿勢を見せることは大切だ。
企業名 | オキツモ株式会社 |
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業種・業態 | 塗料の製造・販売 |
進出国 | |
事業内容 | 耐熱塗料 |
法人設立年 | 1945年 |
海外進出時期 | 2003年 |
日本法人所在地 | 三重県名張市蔵持町1009-7 |
資本金 | 9981万円 |
電話番号 | 0595-63-9095 |
URL | http://www.okitsumo.co.jp/ |
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