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海外ビジネス コラム

法律・制度 2014年08月20日

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タイ・サポート実録記5(スアパア社編)「経理業務を一旦引き受け、その後自立支援をサポートする」

但野 和博(Accounting Porter Co., Ltd.)

第1話(完結) 「ご無沙汰しております」

「いや~、ご無沙汰しております。」携帯の電話口から届くその声は確かに半年くらいぶりである。

「こちらこそご無沙汰しております。今はタイでしょうか?」伊藤社長は挨拶もそこそこに切り出した。

「以前頼んでいた会計事務所を辞めてうちに入社した日本語が話せるタイ人スタッフがいたでしょう」

確か、最後に会った半年位前の時に、それまで丸々委託していた会計事務所に依頼することを止めて、日本語が話せる経理スタッフで内製化すると話していたことを思い出した。英語すらままならない経理スタッフが多いタイの中で、日本語が話せるとなるとかなり希少なので忘れはしない。

「彼が家庭の事情で退職するので、まったなしの状態なんです。しかも決算監査も今対応してもらっているけど、対応に苦慮する事情もあって色々と相談に乗ってもらえます?」

伊藤社長とはタイで開業した頃くらいからの付き合いだが、これまで仕事としての取り引きはなく、相談を受けることはあっても受けたタイミングで大抵は解決に向かっていることが多かったので、今回も特段構えることもなく軽い気持ちで会うことにした。

「税務署から根拠のない金額を提示されこれだけ納付しろと言われている。会計監査人もそこがハッキリするまでは決算を締められないでいる。本社からも連結決算の関係で数字を急かされているが、こんな状況なので通常の月次までとても手が廻らない」

軽く考えていた気持ちからすぐに臨時対応モードに切り替わった。

スアパア社のビジネスモデル上、致し方ないのだが、聞く限りは無償支給を受けたものに加工して納品する際のバリューに対して当局側がもっと価値があるだろうと考えたことが背景にあると推察される内容だった。

スアパア社はBOI企業だが、免税恩典はなく、事業利益があれば当然課税対象となる。BOI事業では免税恩典のあるものとないものがあり、ないものに対しては法人で稼いだ課税所得に通常の法人税が課されるため、税務署から見れば一般企業と同様の取扱いである。

今回の場合に限らないが、タイ人経理対応者もタイ現地の監査法人も、税務署の納付依頼については丸呑みしそうな勢いであった。価格として合理的に説明できるものを説明しないのは説明義務を果たしていないことになるので、ここは伊藤社長には税務署には監査法人の協力も得ながら内容説明して進めてもらうよう進言させてもらった。

さて、相談はこれだけではない。いやここからがむしろ出番である。

「急遽人材を送り込んでもらうなどして、年明けから未着手の月次財務諸表を締めてもらい、4月のうちには本社に報告をしてもらいたいのですが・・・」

「今、もう3月ですよね!? 人材を送り込むには効率も悪く、当社のリソースもそこまでは対応しきれないのですが、通常の月次業務を受けさせていただくという範囲で何とか対応してみます。」

実はこの時期、他のクライアントからも前任会計会社からの切り替えの相談を受けており、その引継ぎの最中で立て込んでいる時期でもあった。ただ、幸い他のクライアントほどに原価計算といった複雑なものもなく、サービス内容もシンプルだった。既に3社ほど抱えているが彼女なら対応できるかも、というスタッフに任せることで凌ぐことにした。他のクライアントにも迷惑をかけられないため苦渋の選択でもあった。

それから切り替え時には何かと前任会計会社の処理内容が不明瞭なものがあったりして確認に時間がかかることが多い。会社側も経理処理において十分な説明を受けていないことも多く、その時になって初めて会社側も把握していない事実が明るみに出ることもある。こうなってしまうと時間はかかるが確実にやっていくしかない。

その一方で本社への月次財務資料の報告を、本社が上場企業であれば必ず求められるのが常であるため、このあたりの対応も見据えて進めないといけない。そんな矢先で、「実は、私のほうは来月にもタイを離れてしまうのですよ」と何気なく話す伊藤社長。

「えっ、後任の方とか着任されるのですか?」

「いや、経理は分からないけど、現場全体をみる日本人スタッフが配属されたから紹介しますね。引貼さんです」

その後、本当に伊藤社長は元々の活動本拠地に近い別の国に再着任してしまい、残された引貼さんとお互いを頼りに、何とか本社の報告に間に合うような体制が出来上がった。さらに次のステップとして、伊藤社長が残した置き土産、「そうは言っても経理はある程度内製化していたほうが良い。経理人員の紹介もお願いしたい」にも対応しなくてはいけない。

当社は人材派遣業はもちろん出来ないため、声のかけやすい人材紹介会社などにも協力を要請した。それから間もなくして採用できた経理スタッフが組織上も機能し始めたのだ。

その場合、当社との経理業務委託との棲み分けはどうなのかといったところだが、心配ご無用である。
月次申告書作成業務、記帳代行、月次財務諸表作成は経理スタッフのレベルに応じて、ある程度こちらでレビューを入れながらも指導含め対応できるため、3段階のステップに時期を分け新しい提案とサポートをすることにさせてもらったからだ。

一度経理業務全てを受けているため、万が一経理スタッフの不測な離職などがあってもすぐにスイッチできるし、月次の案内は引き続き日本語でこちらからマネジメントに発信できる。経理ドクターのような形だ。今はちょうど3段階の2段階目に移行しているところで、バックオフィスとしては状況も安定してきたところである。

つい先日、3、4か月くらいぶりにタイに出張で来られた伊藤社長。「いや~、ご無沙汰しております」お互い屈託のない笑顔で久しぶりの再会の言葉を掛け合った。

次の課題に向けた売上向上施策や新製品の売り込み活動など話す伊藤社長のその表情は、以前より明らかに輝いていた。

                                  (スアパア社編 終わり)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ一部事実とは異なり表現を変えている部分があります。また同様の理由にて事実から離れすぎない程度に一部脚色している部分もあります。

このコラムの著者

但野 和博

但野 和博

(Accounting Porter Co., Ltd.)

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