生活・文化 2014年10月15日
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タイ・サポート実録記6(ダラート社編)「株主間面談の立ち合いをするケース」
第1話(完結) 「コミュニケーションレス」
「今はそんな話しはしたくない。まずは株式譲渡の道筋がきちんと見えてからだ!」
タイ人株主のジャイディーさんは、銀戸専務の開口一番に切り出した契約書の話を遮り、いきなり臨戦体勢からその面談は始まった。
『これはしんどい現場を受けてしまったかもしれないな・・・』
今回の案件は以前から知己を得ていた日本側のコンサルタント本木さんからの依頼。彼の日本のクライアント先で既にタイに進出している会社の件で、タイ側株主との面談に通訳同席の上、どのような状況でどんな結果になったかを客観的に報告してほしいという特殊なものだった。
タイ側株主とも揉めそうな気配があるかもしれないとの本木さんの含みおきつきだ。いや、気配どころか事前に概要を聞く限りでも既に揉めているであろうことは想像に難くない。この日はとにかく、対戦相手のことをろくに知らずにアウェーでリングに立たされゴングを鳴らされていつの間に打ち合いが始まっていた感が満載だった。
「今回の契約のことですが、日本本社ではまずはこれまでの経緯を踏まえて1点ずつ確認させていただき、そのうえでずっと保留になっている本契約を締結させてもらえれば・・・」
日本本社からこのためにタイ入りし、交渉の窓口となっていた銀戸専務のいかにも日本式な順序を踏まえた最初の打診がのっけから拒絶された。とにかく最低限のミッションとして本社の意向を正しく伝えようということは確かに重要であるものの、長らく今の状況で改善を待たされていたジャイディーさんからすれば何を悠長なことを言っているのだと映ったのだろう。銀戸専務のフォローを求める視線が早くもこちらに注がれる。
「とにかくこれまで散々伝えてきたように、すぐに新しいタイ人パートナーを探して決めることが前提だ。もうこれ以上は待てない。それ以外の要求に応じるつもりもない!」
こちらで何か言おうにもジャイディーさんのほうは既に興奮気味にまくし立て、入る余地がない。今回の当方の立場で当事者間の話に入るのはサポートの域を超えている。ただ、そうは言ってもこの状況である。話が進行するくらいには間を取り持ちながら当事者間の話の流れを断ち切らないようにフォローするくらいは求められているだろう。
ダラート社はタイに進出してきてまもなく1年。ジャイディーさんとはタイ側のパートナー株主として会社設立前から設立手続き、経理業務など含め面倒を見てくれている。こういう背景もあり、この時のジャイディーさんの言い分には確かに一理あった。
要は「最初はご縁もあるのでできる限りサポートするが、設立後は速やかに他のタイ人パートナーを見つけて変更してほしい。それが前提だったはずだ」と本人曰くダラート社にはずっと言い続けてきた、と。そしてその間、ダラート社側は特に目立ったアクションもせず、ここに至っていると。
一方ダラート社側では「新しいタイ人パートナーは現在候補先に打診をしているところなので少し待ってほしいが、資金周りのところで契約書としてきっちり残して進めたい。その上でも遅くはないのではないか」というもので、確かにこちらも一理ある。
ただ、ダラート社側としてはこのアクションが遅すぎた。ジャイディーさんの主張を話半分として聞いても、ダラート社のこの時の内部事情からすると会社設立から現在の経理まわりの運営も含めてほとんどおんぶに抱っこであった。それに対してダラート社からはこれまで何らフォローがなかったという現状を踏まえると相手に悪意があった場合は何でもできてしまうというリスクを放置していたに他ならないからだ。
「何とか話を進めてほしい・・・」
銀戸専務からはそんな目線で頼りにされ、
「当事者ではないから通訳としてだけいてくれれば良い……」
ジャイディーさん側からは先方が同席させている会計士も含めそんな目線で釘をさされ、
「もう帰りたい・・・」
隣で同行してもらった通訳からも面談中何度もそんな目線をこちらに寄せる。
そんな重苦しい目線が飛び交う雰囲気もさすがに1時間位経つと少しはお互い話をする歩み寄りが出てきた。ジャイディーさん側は3人同席していたが、その時いた彼の右腕のような一人の男がおもむろにホワイトボードに資金関係についてそれまでと今後の説明をしながら上手に話を積み上げていった。
オペレーションまわりでいくつか課題を残したものの、各当事者が今後対応すべき事は2時間を過ぎる頃には何とか共通認識としてまとまってきた。結論としてはやはり各当事者が努力義務さながら協力姿勢を示して同時履行的に役割を果たすということだ。
充足感か疲労感かよく分からないものが後に残ったが、何とか今回のミッションも終え、後はレポートとして本木さんに報告するだけだ。結構きつい内容のレポートにはなってしまったが、有りのままを伝えることが立場として求められるので書けない雰囲気も含め、本木さんにはまず電話で伝えることにした。
そしてそんな束の間の半ばほっとした状況で1本の電話が・・・。「これからは小口の精算対応をしないとジャイディーさん側から言われましたが、そんな話になりましたっけ?」と銀戸専務のまくし立てる声。「あぁ~。やはりTo Be Continuedなのかぁ」と心で嘆くその日の終わり。
それから約1ヶ月経ち、最後に銀戸専務に聞かれ当事者間で認識の擦り合わせをお願いしたオペレーションまわりの事が解決したのかまでは確認できなかった。今回はダラート社が直接の依頼先ではないから安易に確認も取れない。とはいうもの、本木さんからはようやくタイ側新パートナーも決まり何とか移行できそうですとの連絡を受け、ようやく2時間で10倍美味しい、いや苦しい、この案件も終わったのだった。
(ダラート社編 終わり)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ一部事実とは異なり表現を変えている部分があります。また同様の理由にて事実から離れすぎない程度に一部脚色している部分もあります。
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