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時事 2014年01月14日

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【特集2013年総括2014年予測】 シンガポールが抱える5つの社会問題から今後の税制を予想する

萱場 玄(TMF Group)

シンガポールの税制度はこれからどうなる?

シンガポールの税制を一言で表現すると、「世界中からヒト・モノ・カネ・情報を集めるための軽課税と、(特に狭い国土に起因する)社会問題に対する重課税が同居する税制」であるといえます。特に2010年に15%近いGDP成長率をたたき出して以降、シンガポールでは様々な社会問題が加速していますが、今回のコラムでは、これらの社会問題から今後の税制や各種制度の方向性を予想してみたいと思います。

【1. 外国人急増問題】
シンガポールの社会問題といえば、まずは外国人急増問題です。小さな都市国家であるシンガポールでは労働力不足を解消するために1980年代から外国人受け入れ奨励策を実施、その結果、この20年での人口増加は国民等(永住権外国人含む)が約32%増(1993年約285万人→2013年約384万人)に対し外国人は約280%増(同期間約41万人→約155万人)となりました。しかしながら、不動産の高騰、交通機関の混雑など、人口増加に起因する社会問題が同時に増加し、国民から多くの不平不満を受けているのが今日のシンガポールといわれています。
シンガポール政府はこの外国人急増問題に対し、主として外国人に対するVISA(主としてEP、Sパス、WPの3種類)発行の条件を厳格化することで対応してきました。つまり、VISA取得のための最低給与額等の引き上げや、かつて大量に許可された永住権の発行を抑える対策をとっています。しかしながら、この外国人の最低給与引き上げがより所得の高い外国人のシンガポール移住を促し、不動産のみならず様々な物価の引き上げを起こしている一因ともなっています。
このような現状のなか、今後シンガポールの移民政策を予想しますと、長期的にはさらなる交通インフラを整備すると同時に人口の物理的拡散による継続的移民受け入れ(つまり最低給与引き上げも緩和)という方向性を予想しますが、交通機関等のインフラ整備には相当の時間を要しますので、あと数年は最低給与額の引き上げが続くとともに、特に2014年はVISA更新の却下が頻発するおそれがあると思われます。特に高齢者や政府が積極的に誘致していない業界はEP更新について不利に働く可能性があると思われます。その他にも今後は中間所得層外国人に対するVISAの種類の統廃合や大きな権利義務の変更も考えられるでしょう。例えばQ1カテゴリ(EPの最下層のカテゴリ)の廃止やSパスの最低給与のさらなる引き上げ、もしくはSパス自体の廃止やEPによる雇用数制限の導入、外国人雇用税のEP雇用への導入やSパス等保持者への外国人雇用税率のさらなる引き上げなどです。しかしながら、少子高齢化が進むシンガポールにおいては自国民増加のみによる労働人口増加は容易ではなく、中長期では再び外国人労働者を積極的に受け入れる施策に戻る可能性も高いのではないかと思われます。
また、外国人急増問題に対しては、「業務を自動化・効率化させて雇用(特に外国人雇用)をなるべく抑える」ことが、一つの解決策となりますので、業務自動化・効率化させる優遇措置であるPICスキーム(R&D等、適格支出の400%損金算入を認める等の税制優遇制度)はさらに拡大すると思われます。特に近年で急激にVISA取得が困難になってきている飲食業や、街づくりを自動化させる新しい技術の開発を行うIT企業など、特定の業界については大胆な税制優遇措置が施行されるかもしれません。また、ヒトの雇用をしなくてもカネ・情報を集積させられる知財をシンガポールへ誘致するため、海外からのロイヤルティー収入の源泉徴収税額の(租税条約上の)制限税率を国家間交渉で軽減させること(どちらの国も源泉税率が下がれば国内法の実効税率が低い国に知財を置く方が有利になるため)などもあるかもしれませんし、シンガポール国外のR&Dの成果物である知財の権利をシンガポールに帰属させる場合の優遇措置なども考えられるでしょう。ヒトの増加を抑えてカネを呼び込む金融業の誘致もされに進むかもしれません。さらに、「労働者一人あたりの生産性」を向上させるための研修プログラムや人材育成企業などへの優遇措置もさらに強化される可能性が高いと思われます。

所得の格差、交通インフラ、高齢化など、急成長のひずみにどう対処していくか

【2. 所得の格差問題】
シンガポールに限らず現在世界中で議論されている問題ですが、所得格差の是正も課題といわれます。近年の高所得層外国人へのシフトにより所得格差が広がり、特にシンガポール国民の所得は(政治的にも)底上げせざるを得ない状況となっていますが、一方で人件費増加に対する不満も企業から聞かれています。政府はこのバランスをとるために、企業のコスト増を抑えながら低所得の国民の所得の底上げをする必要があるわけですが、2013年に導入されたWCS(一定の条件のもとシンガポール国民の昇給の一定割合に対し会社へ補助金を給付する制度)などを典型例に、引き続きシンガポール国民に限定して所得を引き上げる(もしくは外国人に限定して所得税等を引き上げる)政策は拡大すると思われます。例えば当地の年金制度に近いCPFの会社負担率変更や、本国で受けた給与に係る所得税申告漏れの罰則強化、個人所得税の累進税率の引き上げ、国民や永住権保持者、外国人の間で各種負担率を乖離させるなど、シンガポール国民>永住権保持外国人>外国人という優先順位がより明確になるような政策もとられるかもしれません。いずれにしても、これまで最高20%という低い個人所得税率により世界中から高所得層を集めてきたシンガポールですが、2013年の独立記念日の首相演説でも言及された通り、今後は最高税率の引き上げも十分考えられるでしょう。

【3. 不動産高騰問題】
不動産高騰対策については、永住権保持者の滞在年数による購入制限や投資用物件の購入制限、印紙税の引き上げなどによる一定の成果が出始めており、高騰の沈静化に向かっている空気感(空室率の上昇や賃貸契約更新時の賃料維持、中古物件の価格下落という例が散見されてきているようです)が出てきましたので、直近ではあまり大きな動きがないものと予想します。しかしながら、国土の狭いこの国において物件の供給量は限られますので、沈静化が追い付かず恒久的な問題となる可能性はあるでしょう。現在導入が予定されているHDBの外国人居住比率制限のみならず、不動産投資に関するさらなる規制も可能性としては考えられます。

【4. 交通渋滞問題】
交通機関の混雑については、上述しました人口の物理的拡散(これ自体私見ですが)の必要条件ともいえますし、現在まさにMRTと公共バスの路線網を拡大中ですのでこれが数年続くのは間違いないでしょう。しかしこの交通手段の供給増と同時に交通手段の需要調整、つまり集中した移動時間や手段の分散化、例えば雇用形態としてのフレックス制や在宅勤務のさらなる奨励、もしくは限定的ながら義務化となる可能性などもあり得るのではないでしょうか。また、現在テスト運用されているMRT早朝運賃無料化の制度化や、逆にラッシュ時の割増運賃なども考えられるでしょうし、近年急激につかまらなくなったタクシー料金の上昇も当然に予想されます。さらに、シンガポール島内の東部、西部、北部に第2、第3の都市を創るべく商業施設や住宅建築のためのさらなる(地域限定の)優遇措置もあるのではないでしょうか。

【5. 少子高齢化問題】
現状のシンガポールの出生率は1.3弱、平均寿命は約82歳と、日本と同様に少子高齢化が急速に進んでおり、出生率の向上、高齢者の医療費負担の軽減も課題です。政府は子供の数に応じた出産補助金や扶養者等の所得控除、父親の育児休暇取得の強化等により出産を後押ししていますが、保育・幼稚園等のインフラの整備は遅れているのが現状といえそうです。これに対する介護・教育・育児等の事業者に対する租税優遇措置はもちろんのこと、早婚奨励策としての年齢別結婚補助金の交付などの導入も考えられるでしょう。シンガポールで人口維持に必要な出生率は2.1といわれていますが、これを純粋に出産数の増加で達成するのは困難ともいえ、特に若年層(特に兵役のある男子)への国籍の付与、その事前段階としての永住権の付与も増加させる時期がくるかもしれません。

【その他近年の注目ニュースから】
シンガポールでは酒税負担(例えば500mlのビールにかかる関税、物品税の合計は2ドル弱)や、自動車に対する税金等の負担(車両所有権等を含めると車体本体価格の3~4倍の資金が必要となることが多い)が非常に重くなっていますが、2013年に飲酒等が原因で起きたといわれるインド人等による暴動や、2012年の中国人の信号無視によるフェラーリ事故など、外国人急増問題も相まって酒税や自動車税などの嗜好品に対する課税については引き上げる方向にあるのではないかと思われます。宗教的背景もあり、シンガポールでは(日本に比べて)あまり飲酒の文化がなく、酒税の引き上げは国民感情にもあまり害を与えないとも考えられますので政府としても増税の余地があると考えているかもしれません。
以上、大きな転換期を迎えているといわれるシンガポールにおいては、その根本的な問題である資源不足や労働力不足を解消するために、移民受け入れをはじめとする数多くの施策により経済成長してきましたが、その施策が大胆で迅速過ぎたことによる反動が上記のように社会問題化しています。今後は一時的にこれまでと違う政策が求められる一方で、次の時代には再度逆の振り幅が大きくならないよう、ソフトランディングすることが求められています。

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