海外ビジネス コラム

営業戦略 2017年05月24日

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大型M&Aで苦戦する「日本郵政」に学ぶ、M&A成功法

永井 政光(NM AUSTRALIA PTY LTD)

2015年、日本郵政はオーストラリアメルボルンに本社を構える、オーストラリア物流会社の最大手トール・ホールディングスをおよそ6000億円もの巨額の資金で買収をしました。トールはオーストラリア国内だけではなく欧米諸国やアジアでもネットワークを保持しています。そのため、今後日本国内だけでは先細りすると考えられる物流業界において、グローバルなロジスティックカンパニーで知名度もあり、国際間運送にも定評実績があるトールの買収は、企業戦略として一見理にかなっている様にも見ました。

ただ私は、この日本郵政によるトール買収は非常に危ういものに見え、そう遠くない未来に運営上何らかの問題が発生するだろうと考えておりました。もっとダイレクトな言い方をすれば、オーバーバリュー。マーケットの相場をはるかに上回る買収金額をなぜ出したのか?と疑問の念を持ちました。

結果、先週日本郵政が発表した2017年3月期連結決算は、純損益が289億円と郵政民営化になり初めての赤字転落となってしまいました。日本国内ではグループ傘下の日本郵便などが順調に業績を上げており、当初2月時点では楽観視され、黒字予想でしたが、一転赤字決算となってしまいました。

赤字転落の大きな理由は巨額の買収金額を用いたのにも関わらず、肝心のトールが業績不振に陥り、売り上げが前年度比率から大幅に落とし、その余波に引きずられた形になったと言えます。その特別損失額はなんと4003億円! 豊富な内部留保を吐き出して買った物がこの結果では、目も当てられない損失額です。

なぜこの様な大失態が起きてしまったのでしょうか。一言でいえば、郵政の経営陣が手間暇を惜しんだ結果だと私は考えております。

通常このクラスの大型買収が行われる前には、多かれ少なかれ年単位で何らかのニュースや情報が市場に出回ります。まずは出資をしたり、総株の何パーセントかを保持し、お金も人も送り込んでから買収、子会社化が普通の手順になります。この手の手法を飛ばした電撃買収はあまり例はなく、あったとしてもその後良い結果を得られません。郵政のトール買収劇は残念ながら電撃の分類に入り、オーストラリア現現地紙でも唐突な話だったらしく、郵政とはどんな会社だ?と紙面をにぎわせたくらいです。

キリンホールディングスがオーストラリアの老舗ビール会社であるライオンネイサンを全株取得し、完全子会社化するまでにおよそ20年もの歳月を掛けました。余談ですが、オーストラリアではゆっくりとした日本式の買収で成功を収めたキリンホールディングスが、ブラジルビール会社スキンカリオールの買収は巨額の損失を生み出す結果となってしまったが、ライオンネイサン買収時とは異なった選択をし、性急に事を進めた結果だと言えます。
 
リサーチの方法や諸説ありますが、日系企業が海外に打って出て、一年間撤退せずに活動し続けられる生存率は5%と言われております。国は違えど、欧米人は根っこの部分で共通の言語や文化などの下地がありますが、我々日本人はまず彼らの最初のハードル。言葉の壁にぶつかります。次に待ち受けているのが彼らの文化が控えております。現実問題として欧米人は根底に黄色人種を低く見る傾向にあり、反発を持たれるケースも少なくありません。トールが買収され郵政本社から役員が出向し、自分達のトップに立ったとしても、余程コミュニケーション能力に長けて、彼らのソサイエティーに入っていける人材でない限り、名ばかりのトップとなり、多額の出資はしたけれど本社の意向を聞かずに勝手に動き回られてしまう事になってしまいます。

今後日本国内のマーケットは少子化問題もあり、先細りしていく事は目に見えています。海外に販路を見出し、企業戦略として海外企業買収は必要不可欠の要素ではありますが、海外式のM&Aをそのまま流用するのではなく、日本人気質にあったじっくり腰を据えての方法を採用する選択も考慮に入れるべきでしょう。

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永井 政光

(NM AUSTRALIA PTY LTD)

<オーストラリアビジネスの専門家

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