法律・制度 2016年04月25日
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日本から中国へのシフトが招いた「資源国・オーストラリア」の課題
かつてオーストラリアは、広大で無尽蔵に広がる大自然以外、これと言って魅力のある国ではありませんでした。もちろん過去も、そして現在でも石炭、天然ガス、ボーキサイトなどの地下資源や、小麦やトウモロコシ、牛肉などの生産量は群を抜いており、世界有数の供給国の地位を確立しております。
1980~1990年代前半の日本は経済も右肩上がり、世界中からエコノミックアニマルと揶揄され、日の沈まぬ国とまで言われました。貿易収支は今では考えられないくらいの大幅黒字で、その格差を埋めるべく、当時の首相だった中曽根氏が性能の明らかに劣ったアメリカ製品を購入するパフォーマンス行ったりもしました。世界中から貿易収支の不公平を指摘されましたが、工業立国日本が必要とする資源を購入するため、オーストラリアは対日本との貿易収支が黒字となる数少ない国でした。
その日本もバブル崩壊とともに、経済が失速。日本への経済依存率の高かったオーストラリアは、景気後退の危機も予想されましたが、2000年にシドニーオリンピックが開催され、全世界に向けて大きなPRに成功。折よく、中国が好景気で、日本に代わりオーストラリアの上客へと早変わり。大して労もせずに新たなスポンサーを見つけられました。これがオーストラリアがラッキーカントリーと呼ばれる所以です。
新たなスポンサー国・中国との関係
ただ近年ではラッキーカントリー・オーストラリアの鉱脈が尽きてきたように見えます。新たなスポンサーを見つけたまでは良かったのですが、このスポンサーは日本人とは異なり、かなり貪欲。まず手始めに日本向けの地下資源を札束攻勢で強奪したのを皮切りに、マグロやエビなどの水産物にも触手を伸ばしました。
この背景にはオーストラリアが中国と比べて、環境が良く、住みやすい国という理由があります。その一例ですが、中国でそれなりに富裕層の知人がおります。その知人の両親がオーストラリアに訪れ一番感動した事が、街中のスーパーで、煮沸を必要としない、新鮮な野菜が手に入ると驚きの声を上げてました。環境が良ければ当然その場所に住みたいと思うのが人の常ですが、オーストラリアに限らず国籍の異なる国に滞在するには、何らかのビザを取得する必要があります。オーストラリアは不動産などに、それなりの投資を行えばオーストラリア人とほぼ同等の資格、永住権を取得出来る制度があり、彼らはその制度を最大限に利用しております。
余談ですが、日本は国籍がなくとも不動産が自由に購入可能な国です。これは世界でもかなりレアな部類に入り、大多数の国では、外国人の不動産購入を国益の観点から制限しております。
オーストラリアは当然国益の為に、外国人の不動産購入を外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board、通称FIRB)によって厳しく制限されているますが、法律の解釈には抜け道は必ず用意されているのと、外貨を稼ぎたいオーストラリア政府の思惑もあり、保護的な役割を十分に果たしているとは言えません。
結果中国などの富裕層が不動産を買いあさり、オーストラリア地価は異常とも言える急カーブで上昇してしまいました。特に人口が密集しているシドニー近郊の地価上昇率はひどく、2000年に開催されたシドニーオリンピックの前と後では、場所によっては賃貸の家賃が2,3倍も跳ね上がっている所もあるくらいです。立地など好条件の物件は高騰しローカルの人間にはとても手が出ない。外国人が立地の良い場所を抑え、ローカルが悪条件の場所に住む。こんな状態が続いており、物価の上昇も加わり、大きな社会問題としてオーストラリアに影を落としています。
40年ぶりに「外資買収法改正」へ
また購買意欲が貪欲な中国人はマンションなどの物件に飽き足らず、オーストラリアの豊富な穀物地帯へと手を伸ばし始めました。従来は農地の借地がほとんどでしたが、数年前オーストラリアを襲った大規模な干ばつの影響からか、生計が窮している小規模農家も多く存在しております。これらの農家に対して、中国系の企業は市場相場の2倍以上の買収金額を提示する場合もあり、諸手を挙げて農地を手放す農家も少なくありません。
更に驚くべき所は、小規模な村落ではありますが、村落ごと中国企業に買収されたケースもあります。既に発電所や、下水処理、港湾施設などの国益に直結するライフラインを外資に委ねているオーストラリアですが、流石に国の要である農地に外資を参入させるのは危険だと判断したのか、外資買収法が40年ぶりに改正されました。
喉から手が出るほど外資が欲しい政府ですが、オーストラリア経済に好影響を及ぼす投資は歓迎でも、害を及ぼす投資は厳しく制限するスタンスにやっと着手したようです。最もその背景には総選挙も控えており、野党である労働党が与党になった場合には、支持母体である農村部の意向に従い、外貨買収法を改正するとの声も上がっており、総選挙を睨んだ政治的な思惑が動いているとも言えなくもありません。いずれにしても、2016年はM&Aが全豪に吹き荒れると予想しておりましたので、今後の動向も目が離せない状況が続きそうです。
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