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海外ビジネス コラム

市場動向 2013年09月05日

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アジア人材の採用は、なぜ難しい? マレーシアに見る課題と解決方法

鵜子 幸久(桜リクルート社(マレーシア))

マレーシア人材の需要と供給に異変が起きている

マレーシアで人材紹介業を10年行っていて、最近痛切に感じているのは、以前と比較して人材リサーチと紹介の難易度が上がってきたことです。言い換えると、マレーシアにおいてローカルのマレーシア人求職者と人材を募集する日系企業との需要と供給が一致しなくなってきたように感じるのです。このことはマレーシアだけでなく、アジア周辺他国についても同様かもしれません。これは一体なぜでしょうか。

少しおさらいになるかもしれませんが、日系企業のマレーシアへの進出の歴史を振り返ってみましょう。プラザ合意により急激な円の切り上げがなされたのは、今から30年近く前のことです。そこを潮目として輸出に依存する製造業の海外移転ブームが始まりました。マレーシアは中国と並び、移転先の先駆けとなった国の一つで、電気・電子分野や自動車分野のセットメーカー、それにサプライヤー企業が付いていく形で、実に多くの製造企業が進出してきました。

以降、機械や金属、繊維、化学、食品など他分野の製造業の進出も続き、しばらくの時期マレーシアは「東南アジアの工場」としての役割を担ってきました。こうした結果、ローカライズとともに製造工程の各セクションを担う有能な現地人材が確実に育ってきたのです。つまり、外国から進出してきたメーカーが、即戦力として現地の人材を雇用できるという点で、両者は共存共栄の関係にあったといえるのではないでしょうか。

 

「東南アジアの工場」が、市場として捉えられ始めた

しかし、2000年以降、この様相が変わり始めました。マレーシアは「東南アジアの優等生」として急激な経済発展期に入り、徐々に国民が豊かになりました。緩やかなインフレによって人件費も年々上昇し、以前はマレーシア人が担ってきた分野を、外国人労働者が行うようになりました。マレーシアはもはや「月給5万円以下」で労働力を雇える国ではなくなってきたのです。これを背景に、安い賃金による労働集約型を前提とした日系の製造業は、よりコストの低い周辺国へシフトし始め、マレーシアへの大型製造業の新規進出数は減少しました。その結果、せっかく30年かけて育ってきた製造業の各工程を担う有能な人材(例えば、開発設計、品質管理、生産管理など)の活躍する場所が狭まってしまう(あるいは日系企業の撤退や他国への移転で行き場がなくなる)という皮肉な結果をもたらしているのです。

さらにマレーシアが豊かになり富裕層比率が上昇する現在、今度はこの潤沢な市場をターゲットとして今までには見られなかった新しいタイプの業種の進出が目立ってきました。卸売・小売りや物流サービス、飲食、不動産、観光、医療美容関連、金融関連、他サービス業などです。また隣国シンガポールを意識した国策の強化により、ITソフト開発やインターネット通販、マルチメディアコンテンツ、バイオ・環境関連といった新しい分野も登場し、今や進出する日系企業の業種分野の比率は、製造業よりも非製造業分野の方が勝っているのが現状です。

 

マレーシア人材を育てるという観点を持てるかどうか

ここで問題になるのが、前述したマレーシアの歴史・バックグラウンドにおいて、後発の非製造分野では人材がまだ十分に育っていない一方で、製造業で経験を積んできた人材の受け皿にはなりにくい、ということです。進出企業の中には、日本からまったく新しい概念を持ち込んだサービス業もあり、そういう存在自体が今までマレーシアになかったとすれば、即戦力となる人材がいないのは当然のことではないでしょうか。しかしこうした新規分野の企業ほど、即戦力として特定の高い能力を有する人材を募集する傾向があります。さらには製造業と比べて、最低限の日本人駐在員で済ませようとします。最初からマレーシア人材を育てるという発想はなく、業務がすぐにできる人材を雇用してその人に任せたい、という傾向が強いことも感じます。極端なケースでは、マレーシアに進出するに当たって日本人駐在員は1人もマレーシアに来ることなく「遠隔操作」といえるような手法で市場だけ広げようとする日系企業に出会ったことがありました。日本では多数の人材がいる職種であっても(例えば、システムアナリスト、ゲームデザイン開発者、富裕層向けプロパティコンサルタントなど)、マレーシアで探す場合、そういう分野で即戦力となる人材は誕生していない、もしくは育っていないというのが実感です。

日本で紹介されるニュースでは、マレーシアの急成長や一部の富裕層ばかりがクローズアップされているせいか、マレーシアにもシンガポールと同様なレベルの人材が数多くいて、そうした有能な人材を低い給与水準で雇用することができるという誤解をしている人が多いのではないでしょうか。マレーシアは現在、先進国を目指している段階ですが、人材の豊富さという面でもやはりまだ「先進国」とはいえないのです。冒頭で述べたように、重厚長大の製造業は長い年月と多くの日本人駐在員の努力をもって、それを継承できる有能なマレーシア人材を生み出し、育ててきました。その歴史事実を踏まえ、やはり進出と立ち上げから相応の期間は、技術と知識を持った日本人駐在員が経験値の低いマレーシア人材に対して、知識やスキルを丁寧にある程度の時間をかけて伝授し、育てていくことが大切なのではないでしょうか。そして、それが新しい次元でマレーシアの市場と関わろうとする日系企業の務めでもあると思います。

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鵜子 幸久

(桜リクルート社(マレーシア))

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