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海外ビジネス コラム

市場動向 2016年08月02日

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欧州の盟主であり工業製品の輸出大国でもあるドイツ

秋田 哲宏(サードフォース株式会社)

欧州の盟主ドイツ

IMFによるとドイツは2013年に欧州のGDP合計の2割強を占める。特に経済力においてドイツはEUで一人勝ちの状態と言われ、域内経済における影響力は非常に強い。安全保障におけるリーダーシップにおいては消極的と言われるが、ドイツは今後、政治経済分野において、英国によるEU離脱の影響も受けて、より強い影響力を持つものと思われる。

ドイツは財政規律に厳格な国としても知られる。ドイツ政府は2014年7月に、翌年の連邦政府予算案で新規国債発行額をゼロとしたことで注目を集めた。18年まで新規の国債発行なしで歳出を賄う計画で、新規借り入れに頼らず、歳入を超える支出はしないことで、ドイツと欧州の市民と企業の信頼を醸成することを目指す。ドイツのGDPに対する政府債務の比率は過去数年間で下がり続け、2015年に71.2%となった。日本における政府債務がGDP比で約230%に達してさらに膨張が予想される状況と比べると、その差が際立つ。財政再建の成功と持続的成長の両立を証明する覚悟と言われる。日本とはまさに正反対の道を歩んでいる。

ドイツが財政規律に厳しい理由は、過去にハイパーインフレを経験したためと言われることもある。ドイツはEUにおいて単一通貨を使用するユーロ圏を構成する国であり、1国の要因のみによってユーロの為替水準は調整されない。そのため、政府債務が過度に膨らんだ場合、インフレが発生して、為替水準が切り下がり、債務価値が下がる効果を期待することができない。債務は返済しなければならない。ギリシャは先の債務危機においてこの構造によって苦しみ、欧州中央銀行が救済している。欧州の盟主であって債権国であるドイツがギリシャのような状況に陥ることはできない。

ドイツの国力の源泉であるドイツの産業には、高級自動車に代表される工業製品、製薬、化学など多くの業界におけるリーダー企業が多く存在する。加えて、企業規模を問わず高い輸出競争力を持つ中堅中小企業の存在がしばしば指摘される。以下に、その競争力の源泉について検討する。

輸出大国ドイツ

ドイツは2014年に1.41兆ドルを輸出した、世界第3位の輸出大国である。過去5年間にドイツの輸出高は年率平均6.3%成長し、2009年の1.04兆ドルから2014年に$1.41兆ドルに成長した。品目別には、自動車が輸出高の11.6%を占める第1位で、自動車部品が4.49%を絞める第2位となっている。

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ドイツの輸出高(出所:Observatory of Economic Complexity, 2014年のデータ)

品目の構成は、機械類と輸送機器類、化学製品が多い点では日本と類似しているが、加工食品・動物製品・野菜の輸出も多いことが特徴と見られる。

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ドイツの輸出高・時系列(出所:Observatory of Economic Complexity, 2014年のデータ)

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日本の輸出高・時系列(出所:Observatory of Economic Complexity, 2014年のデータ)

それに対して日本は、世界第4位の輸出大国であり、ドイツと同様に自動車と自動車部品が上位を占める。一方で輸出高は、2014年に714十億ドルと、ドイツの輸出高の約半分にとどまっている。

グラフにおける成長の傾向は類似しているが、ドイツが金融危機後も輸出を伸ばし、過去最高額を更新しているのに対して日本は減少傾向にある。

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ドイツの輸出高・地域別(出所:Observatory of Economic Complexity, 2014年のデータ)

ドイツからの輸出の65%は欧州向けで、アジア向けが2割強、北米向けが1割強となっている。日本の輸出先は6割弱がアジア、北米向けが2割強、欧州向けが15%となっている。ドイツの方が近隣向け比率が高い。

日本においても中小企業は殆ど海外進出・輸出を行っていない。直接投資よりも輸出を重視するドイツの中小企業を参考に、日本の中小企業の海外展開の可能性を検討する。

何故ドイツは輸出を著しく増加させることができたのか?

<世界銀行によるCountry Benchmark : Export generation: Germanyの要約>

1. 高い競争力を持つ機械類・輸送機器類の輸出の増加
輸出の約6割をEU27カ国向けとしながら、ブラジル・ロシア・インド・中国・東南アジアといった新興国との関係を強化し、EUからのこれらの国々への輸出総額の約3割を占めるに至った

2. 近接する諸国における安価な労働力の活用
ポーランド、チェコ、ウクライナ、ロシアなどに生産をオフショアすることで生産効率を改善し、これらの国をバリューチェーンに組み入れた

3. 企業の特性
ドイツ企業は、ドイツ語で中小企業を指すミッテルシュタンド(Mittelstand)という言葉で表現されることが多かったが、現実には、 Navaretti et al. (2010) による研究によると、スペインやイタリアの強豪先と比べて、ドイツのこれらの企業規模は大きく、規模の経済や新技術、ブランド認知の点で有利と分析される

4. 国内企業セクターと労働改革によるコスト競争力の強化
Hartz改革を通じて、失業給付の削減、労働問題を取り扱う政府機関の近代化を通じて社会支出を減少した。エコロジカル税制改革を通じてエネルギー使用にかかる税金を上げ、歳入増の一部を年金システムに移管し、従業員の拠出額を削減した。2003年の追加提案を受け、シュローダー首相はAgenda 2010を提示した。

二つのゴールがある:
● 市民に社会的な支援を提供しながら、経済と雇用が持続的に成長できる環境の整備を目指した
● 最終的に、節度のある労働協定を通じて事業者は賃金の上昇を抑え、より高い雇用の保障と引き換えに就労時間を調整することが可能となった。現在、需要が多い際に従業員はより長時間働き、少ない際には短縮される労働時間の給与の一部が補助される

このことは、ドイツの労働者が、高い給与と近隣国に職を奪われるリスクよりも、より多くの仕事とより低い給与を望んだ結果である。これらの施策の全ては、労働コストと既存の社会契約を結びつけることとなった。Darius et al. (2010)によると、ドイツはOECD諸国において最も高い労働パフォーマンスを実現した。しかしながら、(中略)ドイツの労働コストはユーロ圏で最も高い水準にある。

最後に、海外との競合が厳しくなる時代において、ドイツのMitelstandは重要な美徳である。企業は、最大の利益を実現するよりも、新しい技術に注力する傾向がある。Eurostatによると、2007年に、ドイツにおいて、欧州で最も多い63%がイノベーションへの活動に取り組んでいた。ビジネス企業セクターが7割を占める中で、総R&D支出は GDPの2.5%に達した。ドイツの技術の高い労働者層はドイツ経済において数世紀にわたり提供されているOJTとOff JTの両方の教育を受ける。

ドイツにおける産業の特徴

● 産業クラスター:

産業クラスターとは、マイケル・ポーター氏がThe Competitive Advantage of Nations (1990)において提唱して人気化した概念で、ポーター氏は、クラスターは①クラスター内の企業の生産性を向上させ、②対象領域のイノベーションを加速し、③領域内の新事業創出、の3点において、集積する経済を活性化するとする。同氏はまた、現代の経済においては、港があることや安価な労働力があることよりも、企業が継続的なイノベーションを要するインプットを生産的に活用できるか、すなわち競争優位が重要であり、経済活動は社会活動に根ざすもので、「社会がクラスターを接合する」と主張する。これは人的つながりが深いコミュニティにおいてより多くのイノベーションが起こることを示した近年の調査がこれを支持している(出所:ウィキペディア)。

ドイツにおける産業クラスターは有名で、日本でも多くの調査がなされている。シンプルな説明として、ドイツには日本の自動車産業のような系列がないが、規模が大きくない中堅中小企業は、地域別、産業別のクラスターに参加している。クラスターは、企業、R&D機関、大学などが構成する。クラスターでは、連携・教育・施設へのアクセス・資金調達を促進している。

例えばヘルスケア産業について、ドイツの全ての全ての州において医療技術に関するクラスターがあり、それぞれのクラスター同士がネットワーク化されている。企業、R&D、大学に加えて、病院がクラスターを構成している。例えばBavaria州Erlangenには、Medical Valley EMN e.V.というクラスターがあり、Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnbergによると、世界で最も強力で活発な医療技術研究クラスターの一つとされる。ErlangenにはSiemens Healthcare GmbHの本社がある。そのため近隣のクラスターはSiemensが求める製品・技術をクラスターが充足する関係があり、同社の城下町と評されることもある。ドイツ連邦政府が主導するコンペにおいて同クラスターが選ばれ、クラスターを構成する企業が大学病院等と連携して未解決の医療課題の解決に向けた研究を行う、といった取り組みもなされている。

日本においても各業界において業界団体があり、産学連携が盛んに行われているが、ドイツのクラスターにおける連携は、ネットワーキングや情報交換といった軽度の連携に加えて、イノベーションに向けた活動を、地域で連携して推進している。これは、形式的な連係ではなく、成果を出すための連係という印象を受ける。これは日本が大きく学べる点である。

● フラウンフォーファー:

クラスターと並び、ドイツの産業の紹介においてフラウンフォーファーは頻繁に説明されている。

フラウンホーファー日本代表部によると、フラウンホーファー研究機構は欧州最大の応用研究機関であり、民間企業や公共機関向けに、社会全体の利益を目的として、実用的な応用研究を行っている。ドイツ各地に67の研究所を構え、およそ24,000名のスタッフが活動する。年間研究費総額は約21億ユーロで、この予算のうち18億ユーロ超が委託研究によるもので、研究費総額の7割以上が民間企業からの委託契約、公共財源による研究プロジェクトから発生している。約3割はドイツ連邦政府および州政府から経営維持費の資金提供がなされている。

先述のクラスターに、フラウンフォーファーがR&D機関として参加し、中堅中小企業の研究開発ニーズの外注先としての機能を果たしている。企業が自社では対応しきれない開発ニーズを外注できる存在ということである。尚、フラウンフォーファーの機能を日本を含む国外の企業が利用することも可能であり、日本の中堅中小企業が持つ技術ニーズの一部を同機構を活用して解決したり、ドイツの企業と連携して解決することも可能である。

● ドイツにとって割安な通貨ユーロ:

産業構造と異なる視点だが、先述の通り通貨ユーロは、ユーロ圏全体の要因によってその為替水準が調整される。そのため、圏内で最も高い競争力を持つドイツは、実力よりも割安な為替水準で推移するユーロの恩恵を受けていると指摘される。輸入においては割高となるが、割安な水準で輸出を行うことができる。このことは輸出大国たりえるために重要な役割を果たしていると考えられる。

ドイツの優良中堅企業「隠れたチャンピオン」の凄さ

<ドイツのHidden Champions(隠れたチャンピオン)の教訓>
Whiteboard 2016 – European startups, entrepreneurship and innovation newsへの寄稿の抜粋
著者:Hermann Simon氏、Simon-Kucher & Partners Strategy & Marketing Consultantsの会長

地理的に大きくないドイツが輸出大国たり得る理由として、「隠れたチャンピオン」と呼ばれる、ほとんど知られていない中堅規模のマーケットリーダー企業が挙げられる。筆者が認定した世界2,746企業のうち、約半分がドイツの企業である。隠れたチャンピオンはドイツの輸出の25%を占める。

隠れたチャンピオン企業とは、グローバル市場のトップ3か、属する大陸においてナンバー1で、売上規模が50億ドル未満で、一般に殆ど知られていない企業を指す。例えば、Deloは、エレクトロニクス機器向けの特別な接着剤を製造する。世界スマートカードの8割、iPhoneを含む携帯端末の5割以上は、Deloの接着剤で接合されている。

Tetraは、観賞魚用の餌の世界リーダーで、世界シェアの約6割を持つ。Belforは、産業サービス会社で、水害・火災・嵐による損害の除去における世界リーダーであり、同サービスにおけるオンリーワン企業である。

隠れたチャンピオンのコンセプトは世界でも注目されており、ドイツでは1,307の企業が過去10年間の間に100万人の雇用を創出した。雇用の大半はドイツ国外で、真のグローバル企業と言える。グローバル化は隠れたチャンピオンの重要な成長ドライバーである。

中小企業が学ぶことができるドイツの隠れたチャンピオンの7つの教訓

1. 極めて意欲的な目標を立てる
例:Chemetallは世界の技術・市場リーダーになるという目標を立てた。同社はセシウムやリチウムといった特殊金属のグローバルリーダー。3B Scientificは、解剖の教具の世界リーダーで、「世界No.1になり、その地位を守り続けたい」と語る。

隠れたチャンピオンは過去10年間に年率10%の成長を遂げた。約200社の10億ドル企業が生まれ、市場シェアは増加している。

10年前に30%だった世界市場シェアは33%となった。より興味深いのは、世界トップシェア企業のシェアを自社の世界シェアで割った相対市場シェア(Relative market share)であり、その数値は10年前に1.56だった(最強の競合先と比べて56%大きいことを意味する)だったものが、2以上(2倍以上)となった。これらの要因はイノベーションである。

2. フォーカスして、バリューチェーンを深掘りする
製薬業界向けのパッケージングシステムの世界リーダー Uhlmann:「当社は常に一つの顧客を持ち、将来もそうあり続ける。顧客とは製薬業界である。一つのことだけを、正しくやる。」
「当社は一つのことしかやらないが、だれよりもよくやる。」Flexiは、犬用の格納式リードを製造し、世界シェアの7割を持つ。

フォーカスに加えて、多くの隠れたチャンピオンは深掘りする。Winterhalterは商業用食洗機システムを製造する。10年前に同社は市場を分析し、病院や社員食堂などの、同社が3-5%程度の市場シェアしか持たないサブマーケットに着目した。さらにフォーカスを見直し、ホテル・レストラン向けにフォーカスした。バリューチェーンを深掘りし、洗浄効果に大きな影響を持つ水質をも考慮に入れ、自社ブランドで洗剤を売出し、週7日・24時間届けるサービスを開始した。このフォーカスによって同社の行動は大きく変わり、社名をWinterhalter Gastronomに変更し、光沢グラス向けの特別な食洗機を用意し、ホテル・レストランの言語や課題を知る業界のセールス人員を採用した。同社は当業界のナンバー1になり、マクドナルド、バーガーキング、ヒルトンなどが同社製品を採用する。
過去20年間で数多くの企業が製造をアウトソースしてきた中、隠れたチャンピオンは自社生産を守り、製造を自社のコアコンピテンスとしてきた。

Wanzlは、ショッピングカートと空港用荷物カートの世界リーダー企業で、「当社は全ての部品を自社の品質基準で自社生産する」。世界中の空港で使われているカートは同社が生産したもので、空港当局は同社製品のために喜んで高めの価格を払う。シンプルな製品のように見えるが品質が驚異的であるためだ。全てを自社生産して品質を管理することがその価値の源泉となっている。

真にユニークな最終製品を達成するためにチャンピオンはバリューチェーンに二歩も三歩も深く入り、最終製品の価値を高めるプロセス、技術、武品を開発する。ユニークさと秀逸さは社内でのみ創造される。マーケットで誰でも買うことができる商品を買うようなことは、秀逸さを達成することにはならない。この洞察は、外注の理念と強く相反するものである。

一方で、自社の優位性にならない部分については、チャンピオンは競合先よりも積極的に外注する。多くの企業は税務・法務部を持たない。「これらは当社の優位性にはならず、弁護士・税理士の専門分野である。つまり、自社のコア部分は外注せず、非コア部分は積極的に外注することが彼らの戦略を形成している。

3. グローバリゼーション:フォーカスは市場を小さくし、グローバル化はそれを大きくする。
チャンピオン企業は市場の定義を戦略の一部と捉え、顧客ニーズと技術力をもとに対象市場を狭く捉える。対象市場の広めに捉えるよりも深く捉えて、フォーカスする。その結果対象市場は小さくなる。より大きく成長するために、グローバル化を推進する。製品の差別性とノウハウをもって世界市場で販売することで、対象となる市場規模は極めて大きくなる。グローバル化は始まったばかりで、世界の一人当たりの輸出額は1990年代初頭にはほとんどゼロで、1980年代にも大きな成長はなかったが、その後爆発的に成長した。世界に目を向ければ、可能性は限りない。
チャンピオン企業は自社の子会社を世界の重要な市場に持ち、仲介者、エージェント、輸入業者に顧客との関係を任せずに、顧客に直接販売する。

高圧水洗浄機の世界リーダーKaercherは、1970年代に真剣に国際化を進め、その後毎年1−3カ国を自社の対象市場に取り入れ、75カ国で販売するに至った。このプロセスで同社は隠れたチャンピオンが、トランスアトランティックからユーラシア企業に変貌を遂げている。

10年前に、75%のドイツの隠れたチャンピオンの売上は欧州と米国から生まれていたが、今日では75%が欧州・東欧・アジアからもたらされる。米国と欧州の経済の停滞がアジアにおける成長を刺激し、より早いスピードで成長している。

4. イノベーション
チャンピオンの研究開発活動の効率は大企業の5倍以上である。模倣では世界のリーダーとなってその地位を維持することはできず、イノベーションのみがそれを可能にする。イノベーションは研究開発への支出から始まる。チャンピオン企業の研究開発非は同業平均の2倍の水準である。

アウトプットはより重要で、チャンピオン企業は従業員あたりの特許数は、特許を多く保有する大企業よりも5倍多い。特許あたりのコストは大企業の5分の1である。

何がイノベーションをもたらすか。65%のチャンピオンが、市場と技術の両方が統合されてバランスされていると考えたのに対して、大企業は19%しかそう考えなかった。イノベーションのチャレンジは技術と顧客ニーズの融合にある。

極度にイノベーティブな会社にEnerconがある。同社は風力発電の分野で世界の3割の特許を持つ。同社は規格外のアイディアを持ち、例えばE-shipという、いわゆるFlettnerローターを用いて風の力を風力に換える。このローターの効率は伝統的な帆(セイル)の10-14倍高い。大企業は莫大な予算を投じて問題に対応しがちだが、チャンピオンは限られた専任の人員を問題解決に充てる。これがコストの差異につながる。

5. 顧客との近接性と競争優位
顧客との近接性はチャンピオンにとって大きな、場合によっては技術力よりも大きな強みとなる。これは中堅・中小企業の強みであり、これらの25-50%の従業員が継続的な顧客契約を持つのに対して、大企業では5-10%しかない。特に、トップ顧客との近接性が強みになる。

Grohmann Engineeringはマイクロ・エレクトロニクス製品のアッセンブリ用システムを製造する。Grohmannは、「当社の市場は世界のトップ30顧客だ。」と語る。Intel, Motorola, Boschといった企業が顧客である。同氏によると、これら顧客は決して満足せず、最も要求が厳しく、当社をより高いパフォーマンスに高めてくれる。トップ顧客が成長のドライバーであることはチャンピオン企業の特徴の一つである。

チャンピオン企業の戦略は価格ありきではなく、価値ありきである。彼らは一般に市場価格に対して10-15%のプレミアムを乗せ、価値や品質が最も重要なファクターであることを示す。商品を差別化できないときに初めて価格が中心的なファクターになる。

最も重要な競争優位は品質である。近年、アドバイス、システムインテグレーションと使いやすさの3点がアドバンテージとして出現した。これらの重要性は大きく増加し、競争優位の観点において、製品に統合されたアドバンテージは模倣されにくく、リバースエンジニアリングされにくい。これらのアドバンテージは、複雑性をマネージする組織の従業員に属する。参入障壁は10年前と比較して高くなっている。

6. ロイヤルティが高く高度に教育された従業員
チャンピオン企業においては、従業員が上司よりもよく働く文化があり、従業員の質が高く回転率が低い。ワークフォースに占める大卒の比率は10年前の8.5%から19.1%に上がった。グローバルな競争環境から、従業員を保持することが、トップタレントを雇用・教育するよりも重要になっている。チャンピオン企業の従業員の回転率は年率2.7%とドイツ平均の7.3%よりも大幅に低い。米国においては、毎年ノウハウを有する社員の三分の一が退職する。

7. 強いリーダーシップ
リーダーシップは原則においては権威的で、細部においてはフレキシブルである。リーダーシップは成功の重要な根である。第一には、人のアイデンティティと目的である。リーダーシップはアンビバレント(正反対の気持ちが混在する)である。原則においてリーダーシップは権威的で議論の余地がなく、一方で仕事を行う上では参加型で柔軟性がある。チャンピオン企業においてはより多くの女性が活躍し、CEOの在任期間が長く、平均して20年間に上る。その割合は大企業においては6.1%にとどまる。

要約:三つのサークル
上記の7つの教訓は3つのサークルに要約される。中心には強いリーダーシップと意欲的なゴールがある。その内側には深さ、従業員の高いパフォーマンス、継続的なイノベーションがある。その外周のサークルには、狭い市場へのフォーカス、明確な競争優位、グローバル化がある。

究極的な教訓:
21世紀の隠れたチャンピオンは我が道を行き、より断定的に、より成功裏に進む。経営の第一人者や、経営の流行、大企業のやり方とは違う方法で進む。彼らが、21世紀の戦略とリーダーシップのロールモデルである。

http://www.whiteboardmag.com/hidden-champions-1-what-german-companies-can-teach-you-about-innovation/

出所:Whiteboard 2016 – European startups, entrepreneurship and innovation news
著者:Hermann Simon氏、Simon-Kucher & Partners Strategy & Marketing Consultantsの会長

日本にとっての示唆

ドイツ企業といえば、フォルクスワーゲンやメルセデスベンツ、BMWといった自動車メーカーやSIEMENSといった複合メーカー、スポーツウェアメーカーアディダス、ドイツ銀行といった金融機関を想起される。同時に、多くのドイツ企業の製品が日本でも役立っている。

米国企業の派手さやスタイルの格好よさよりも、質実剛健な様々な製品が、私たちの身近な生活に浸透していることに気付く。

・アルペンザルツ(ドイツアルプスの岩塩)
・Pritt(ヘンケルのブランド、のり)
・ヘンケル(はさみ、爪切り)
・Frosh(食器用洗剤)
・激落ちくんで有名なメラミンフォーム(BASFなど)
・ニベア(バイヤスドルフ社、クリーム)
・Knirps(折り畳み傘)
・ミーレ(食洗機)

輸出に積極的なドイツと比較して、日本企業の中堅中小企業はどうか。日本は世界から輸出大国と認知されているが、中小企業が輸出を行う割合は非常に低く、そのギャップには違和感が感じられる。

輸出に対する日独企業の目線の違い:

ドイツ企業も日本企業も、一部の大手企業を除いては一点豪華主義という点において共通している。日本の企業の強みは誰もが「モノづくり」との答えるし、ドイツ企業においてもこだわりの製品が特徴と捉えることができる。

日本企業の特徴として、生産プロセスやオペレーションに特化して、営業的な視点については得意先や系列、商社に任せる企業が多いことが挙げられる。海外展開は努力目標や願望であり、「海外展開には補助金や各種支援は活用したいが、自分のお金を投じるまではやりたくない」「自社の製品は優れているから海外の顧客はわかってくれるはず」「買ってくれるなら売りたい」という経営者の意見をよく聞く。

これに対して、成功しているドイツの中堅中小企業は、優れた製品・サービスを自国のみならずEU域内、海外市場に対して販売することは経営戦略の重要な柱であり、利用できる補助や支援、ネットワークを活用しながら成果を出すために一貫して取り組んでいる印象を受ける。良い製品・サービスなのだから、世界で売れるはずなので、自らが徹底して販路開拓に取り組み続ける姿勢があることが感じ取れる。

上記のそれぞれのやり方が典型例であるとした場合、それらは似て非なるもので、両者の差が縮まる可能性は低いと思われる。

一方で、日本がドイツのお手本となる企業のように輸出に取り組むとは可能である。製品・サービスの競争力を軸に、経営者が強い意志を持ち、積極的・継続的に海外展開に取り組むことであり、成功している日本企業はそのように実践されている。

次回

ドイツ企業の例を参考にしながら、日本企業の海外展開のさらなる拡大に向けて、現状と課題、対策を検討する。次回は機械関係を取り上げ、その次の回に食品関係を取り上げる予定。

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秋田 哲宏

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