中小企業の海外展開・海外進出に使える補助金|新事業進出・ものづくり商業サービス補助金「グローバル枠」を解説
中小企業が海外展開や海外進出を検討する際、大きな課題となるのが、設備投資・販路開拓・海外市場調査などに必要な資金です。特に、輸出に向けて生産体制を強化したい、海外向けの商品開発を進めたい、海外販路開拓のために展示会や商談に取り組みたいという企業にとって、補助金の活用は重要な選択肢になります。
こうした中、2026年6月29日に、中小企業庁・中小機構から、新たな補助金制度である「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の第1回公募が開始されました。本補助金は、革新的な新製品・新サービスの開発、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、そして海外市場開拓、特に輸出に向けた国内の輸出体制強化を支援する制度です。公式サイトでも、補助対象事業枠として「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つが示されています。
この記事では、海外展開・海外進出・インバウンド対応に使える補助金を探している中小企業の方を主な対象として、特に「グローバル枠」を中心に、制度の概要、対象となる事業、インバウンド対応や海外直接投資との違い、採択に向けて準備すべきポイントを解説します。
▼ 中小企業の海外展開・海外進出に使える補助金|新事業進出・ものづくり商業サービス補助金「グローバル枠」を解説
1.「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」とは何か
① 制度の概要
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は、中小企業等が行う、技術的革新性のある製品・サービスの開発、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、海外市場開拓、すなわち輸出に向けた国内の輸出体制強化を支援する補助金です。この補助金の目的は、これらの3つの類型の事業を通じて中小企業等が企業規模の拡大や付加価値向上を通じて生産性を高め、賃上げにつなげていくことにあります。
この補助金の大きな特徴は、単なる販促費や調査費の補助ではなく、設備投資を伴う事業を支援する制度である点です。革新的新製品・サービス枠では、機械装置・システム構築費が必須です。
また、新事業進出枠とグローバル枠では、機械装置・システム構築費または建物費のいずれかが必ず補助対象経費に含まれている必要があります。つまり、海外に売りたいので「広告を出す」、「展示会に出る」、「ネット販売する」だけでは足りず、その海外展開を実現するための生産・提供体制の強化が求められます。
② 補助対象になる事業者、ならない事業者
補助対象となる主な事業者は、中小企業者、小規模企業・小規模事業者、一定の特定事業者、要件を満たすNPO法人や農事組合法人などです。たとえば、製造業、食品製造業、機械加工業、卸売業、小売業、サービス業など、幅広い中小企業が対象となり得ます。
一方で、対象外となる事業者もあります。たとえば、みなし大企業、従業員数が0名の事業者、収益事業を行っていない法人、政治団体・宗教法人、過去の補助金で採択取消・返還命令等を受けている事業者、直近過去3年分の課税所得の年平均額が15億円を超える中小企業者などは対象外です。また、新事業進出枠では、新規設立・創業後1年に満たない事業者が対象外となる点にも注意が必要です。
※自社が補助対象になるのかならないのかは、詳しくは公式サイトに掲載されている「公募要領」で確認してください。
2.海外展開・輸出に使いやすい「グローバル枠」とは
① グローバル枠の概要・補助率・補助額
海外展開や海外進出を目指す中小企業が特に注目すべきなのが「グローバル枠」です。グローバル枠は、海外市場開拓、つまり輸出に向けた国内の輸出体制強化を支援する枠です。
対象となるのは、自社の製品・サービスを活用し、自発的に新たな海外販路を開拓するために、国内製造等拠点の強化に取り組む事業です。取引先から要請されたから対応するという受け身の取組ではなく、自社の成長戦略として新たな海外市場を開拓するという、主体的な取り組みが求められます。
補助率は中小企業者で2/3、補助上限額は従業員数に応じて2,500万円から最大7,000万円、賃上げ特例の適用を受ける場合は最大9,000万円です。新事業進出枠、革新的新製品・サービス枠の補助率が原則1/2であることを踏まえると、輸出を前提とするグローバル枠は、海外展開に取り組む中小企業にとって資金面で有利な制度設計になっています。
② 補助対象経費
補助対象経費には、機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費に加え、海外旅費、通訳・翻訳費も含まれています。輸出に必要な設備投資と、海外販路開拓のための商談・渡航・多言語対応とネット戦略を一体で設計できる点は、グローバル枠の大きなメリットと言えます。
ただし、グローバル枠でいう「新たな海外市場」とは、既存事業で対象としていなかった国・地域の市場を指します。たとえば、既に台湾へ輸出している企業が台湾向けの販売量を増やすだけでは弱く、新たにタイ、シンガポール、米国、欧州などへ展開する、といった形で「新たな国・地域」とその理由を明確に示す必要があります。
3.インバウンド対応や海外直接投資は対象になるのか
海外展開や海外進出といっても、輸出、インバウンド対応、海外直接投資では、補助金上の扱いが異なります。
今回のグローバル枠は、基本的に「海外市場開拓(輸出)」に向けた国内の輸出体制強化を支援する制度です。そのため、訪日外国人向けのインバウンド対応を行う場合は、グローバル枠ではなく、革新的新製品・サービス枠または新事業進出枠での申請を検討する必要があります。
たとえば、旅館、飲食店、観光事業者、小売店などが、外国人観光客向けに新たな高付加価値サービスを開発する場合は、既存事業とは異なる新市場への進出として、新事業進出枠の可能性があります。また、これまでにない新サービスを開発する場合は、革新的新製品・サービス枠の可能性も検討できます。
一方、海外直接投資については注意が必要です。以前のものづくり補助金のグローバル枠では、海外直接投資、海外市場開拓、インバウンド対応、海外企業との共同事業といった類型がありました。しかし、今回の新制度では、グローバル枠は輸出に向けた国内体制強化が中心です。海外現地法人の店舗、工場、倉庫、拠点整備などを主目的とする場合は、本補助金ではなく、海外の補助金制度や進出優遇策、自治体の海外展開補助金、JETRO・中小機構等の支援策、金融機関の海外展開融資など、別制度を検討する必要があります
4.公募スケジュールと準備
第1回公募は、令和8年6月29日(月)に公募開始、令和8年8月31日(月)に申請受付開始、令和8年9月30日(水)18時が応募締切です。公式サイトでも、第1回公募スケジュールとして、これらの日程が公表されています。
申請受付開始から締切までは約1か月ですが、実際には、事業計画、見積、資金計画、加点項目、GビズID、一般事業主行動計画など、事前準備に時間がかかります。特に、補助金を活用した海外展開では、対象国・地域、輸出商品、現地ニーズ、競合、規制、物流、商流、販売価格などを整理し、説得力ある事業計画を提示する必要があります。締切直前に準備を始めても、説得力のある事業計画を作ることは難しいため、早期着手が重要です。
5.応募には「基本要件」を満たす事業計画が必要
本補助金に応募するには、公募要領に定められた基本要件を満たす必要があります。具体的には、以下5つの基本要件を満たすを満たす3~5年の事業計画に取り組むことが必要です。
【基本要件】
- ① 付加価値額の年平均成長率4.0%以上
- ② 一人当たり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上
- ③ 事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上
- ④ 一般事業主行動計画の策定・公表
- ⑤ 子育て等に関する職場環境整備に向けた取り組み
が必要になります。特に②、③は取り組むだけででは不十分で、目標値が達成できなかった場合は補助金の返納義務が発生するので注意が必要です。
また、金融機関等から資金提供を受ける場合は、金融機関による事業計画の確認書も提出が必要です。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、海外展開に幅広く使える補助金として魅力的な制度ですが、その分基本要件も厳しく、返納のリスクもあることから、事業計画の策定にあたっては、採択だけでなく、売上・付加価値・賃上げにつながる実行可能な計画を作り、実行体制を整えることが重要です。
6.採択に向けて取り組むべきこと
① 加点項目の取得
第一に、加点項目の確認です。今回の公募要領では、パートナーシップ構築宣言、くるみん、えるぼし、健康経営優良法人、再生事業者、経営革新計画、事業継続力強化計画、DX認定、J-Startup、新規輸出1万者支援プログラム、日本の食輸出1万者支援プログラム、研究開発費・試験研究費計上、最低賃金引上げ関連の加点などが示されています。特にグローバル枠では、新規輸出1万者支援プログラムの登録は必ず確認しておきたい項目です。
加点項目の多さは、採択率に直結します。申請までに一つでも多くの加点項目を取得することを強くお勧めします。
② 支援機関との相談
第二に、支援機関への相談です。公募要領では、外部支援者の助言を受けること自体は認められていますが、事業計画は必ず申請者自身が作成する必要があるとされています。また、補助金獲得だけを目的とした申請支援ではなく、会社全体の事業計画と連動させることが重要であるとも明記されています。しかし、実際には申請者自身だけで、公募要領を完璧に読み込み、会社全体の事業計画と連動し、客観的にわかりやすく、採択ラインに乗る事業計画をすべて作りきることは困難です。
そこでお勧めしたいのは、中小企業の支援機関の力を借りることです。具体的にはお近くの商工会議所や商工会、都道府県の中小企業支援センター、中小機構やJETRO等の公的支援機関等では、無料~低額の費用で事業計画作りのアドバイスや関連する支援を受けられます。また、原則有料ですが、専門性の高い中小企業支援事業を行う機関として、中小企業庁が認定する認定経営革新等支援機関のうち、海外展開に高い専門性を持つ機関からは、申請から採択に向けてのより深い具体的なアドバイスを受けたり、事業計画策定や伴走支援といった、踏み込んだサポート受けることも可能です。
※なお、中小企業庁も注意喚起をしていますが、法外な請求や経費の水増しなどを勧める悪質な業者には注意が必要です。民間の支援者に依頼する場合は、報酬額やサポートの範囲、必要な資格の有無などをよく確認することをお勧めします。
③ 金融機関との協議
第三に、金融機関との協議です。補助金は原則として後払いであり、採択されても交付決定前の発注はできません。グローバル枠では補助上限額が大きい反面、設備投資額も大きくなりやすいため、自己資金、借入、補助金入金までの資金繰りを早い段階で整理する必要があり、金融機関の支援は補助事業の成否に大きく影響します。
また、金融機関等から資金提供を受けて補助事業を実施する場合は、事業計画について「金融機関による確認書」を提示する必要があります。確認書の発行は日数を要することが想定されるため、この点でも金融機関との早めの協議が重要になります。
7.採択される海外展開・海外進出の事業計画のポイント
採択のポイントは、単に「海外に売りたい」「海外進出したい」と書くことではありません。公募要領の審査項目では、補助対象事業としての適格性、経営戦略との整合性、事業の実現可能性、公的補助の必要性、政策面との適合性が問われており、これを客観的にわかりやすくまとめ、客観的データで論理的に説明することが必要です。
特にグローバル枠では、輸出先の国・地域に特有のリスクや、文化、法規制、商習慣の違い等、海外市場への理解を示すことが重要です。単に「人口が多い」、「親日的だ」、「富裕層が多い」等といった解像度の低い理解ではなく、どの国・地域の、どの顧客に、どのような価値を提供するのか。現地市場の規模、競合、価格水準、規制、商習慣、物流、販売チャネルをどこまで把握し、自社がどう対応し、導入する設備やシステムが、輸出体制の強化にどのように結びつくのか、そして補助事業終了後に、売上、利益、付加価値、賃上げ等どのようにつながり、国内景気の好循環につながるのか等を、客観的データで論理的に示す必要があります。
また、新事業進出枠を検討する場合は、「新市場性」または「高付加価値性」の整理も重要です。補足資料では、新市場性の判断にあたり、製品・サービスのジャンル・分野を、性能、サイズ、素材、価格帯、地域性、業態、顧客層、効果等を除いて適切に区分する必要があるとされています。つまり、自社に都合よく市場を細かく切りすぎると、新市場性の説明として認められなくなる点には注意が必要です。
8.継続的な情報収集|制度変更の可能性に注意
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は始まったばかりの制度であるため、今後公募要領の細部の変更が予告なく行われる可能性があることに注意してください。
公募要領でも「この公募要領は、必要に応じて改訂されることがありますので、最新のものを事務局のホームページでご確認ください。」と記載されています。
例えば、グローバル枠では「海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制の強化を後押し」が事業の目的となっていますが、生産された製品のどれぐらいが輸出されるべきか等については本記事執筆時(7月3日現在)明記がありません。今後、このような細部に新たな条件が加わる可能性があることから、引き続きの情報収集が必要だと言えます。
※重要な制度変更や公募要領の改訂があった場合には、この記事でもアップデートしていきます。引き続きチェックしてください
9.サウスポイントの海外展開・補助金活用支援
合同会社サウスポイントでは、海外展開・海外進出を目指す中小企業に対し、補助金申請だけでなく、海外展開の事業化までを見据えた支援を行っています。
代表は中小企業診断士・行政書士の資格を持ち、海外展開に知見を持つ認定経営革新等支援機関でもあります。中小企業支援と行政手続のプロフェッショナルとして、海外展開と補助金制度に高いレベルの支援を行っています。
当社の支援は、まずAIを活用した事業化可能性診断により、ターゲット国、顧客、競合、規制、販売方法と補助金活用可能性を短期間で整理します。補助金の申請支援だけではなく、採択後の補助事業実行、展示会・商談・海外渡航、実績報告、事業化報告まで一貫して支援し、事業終了後も伴走型で支援を継続させ、海外ビジネスの事業化(売上化・収益化)を支援します。
補助金は「取ること」が目的ではありません。重要なのは、採択された補助金を活用し、実際の輸出売上と継続的な海外事業につなげることです。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、海外展開を本気で成功させたい中小企業にとって、大きな推進力となります。
新事業進出・ものづくり補助金を活用し、海外展開を本気で進めたい中小企業のみなさまのご相談をお待ちしております。
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