地政学リスクがパッケージ業界を揺さぶる:日本企業が把握すべき2つの転換点
世界の石油・ガス流通量のおよそ5分の1が、ホルムズ海峡を通過しています。重要なエネルギーの“ボトルネック”が不安定化するなか、ユーロモニターの予測では、2026年を通じて原油価格が1バレル100米ドル超で推移する見通しです。日用消費財(FMCG)企業にとって、この影響は物流コストだけでは終わりません。
特にパッケージ業界は、マージン(利益率)への圧力が一段と強まっています。なかでもプラスチックは、コストの多くが石油化学原料に直結するため打撃が大きい領域です。さらに、ガラスやアルミニウムのように製造時のエネルギー負荷が高い素材も、エネルギー価格の変動をまともに受けます。結果としてFMCG各社は、小型化(ダウンサイジング)や軽量化(薄肉化など、素材を減らす設計)で利益率を守る動きを加速させています。
この主な目的はコスト対策ですが、うまく設計できれば環境面のメリットもついてきます。素材の「採算」を見直すきっかけにもなり、サステナブルパッケージへの移行を前進させられる余地が生まれます。
▼ 地政学リスクがパッケージ業界を揺さぶる:日本企業が把握すべき2つの転換点
即効性のある転換:プラスチック使用量を減らす
まず影響の大きいカテゴリーを押さえる
バージンプラスチックの価格が1四半期で15〜20%跳ねる局面において、最短の打ち手はシンプルに「使う量を減らす」ことです。プラスチックは2025年時点で、世界の包装量の約65%を占めていることを考えると、影響が大きいのも当然です。
ユーロモニターの調査によると、プラスチック包装の数量が多いのは食品と飲料で、食品が約1.8兆ユニット、飲料が約7,160億ユニット。ホームケア製品はさらにプラスチック依存度が高く、化学成分の安全性の観点から、包装全体の83%をプラスチックが占めています。
短期の素材削減でもブランド価値は作れる
大量にプラスチックを使うカテゴリーで、当面の打ち手は大きく2つあります。1つは軽量化(薄肉化)で樹脂量を削ること。もう1つは二次包装(外箱・シュリンクなど)のレイヤーを減らす/なくすことです。
この動きはすでに見られており、ブランドポジショニング戦略とも相性が良いと言えます。コスト都合で始めたプラスチック削減でも、工夫次第で「サステナビリティへの取り組み」として生活者に伝えることができます。
世界的に成長が著しいスタンドアップパウチは、その好例です。硬質ボトルに比べて1ユニットあたりの使用素材を大きく減らしながら、製品保護の役割も保てます。ただし注意点もあります。“リサイクルできる素材”であるだけでなく、実際に回収・再資源化の流れに乗る設計でないと、結局は「別の形のプラスチックが埋め立てられるだけ」になりかねません。
素材削減は、市場で使用可能なサステナビリティ訴求にも直結します。ユーロモニターのSustainability Quarterly Trackerによれば、2024年第4四半期〜2025年第4四半期にかけて「効率的なパッケージ」や「プラスチックフリー」といった訴求が世界的に伸びています。
固形シャンプー、洗濯用ポッド、濃縮洗剤などと言った濃縮型製品は、1回あたりのプラスチック使用量を減らせるうえ、輸送効率が上がるので排出量やコストの低減に繋がります。美容・パーソナルケアでは、リサイクル材使用の訴求が特に進んでおり、2025年第4四半期時点でヘアケア、スキンケア、バス&シャワーのSKU数が多い傾向が見られます。同時に、濃縮型製品は資源効率の高さという点で、サステナビリティ訴求を可能にします。
戦略的な転換:素材トレンドとインフラの現実に合わせる
成長する素材は「脱プラ」ではなく最適化の方向にある
短期的なプラスチック削減は、目先の利益率には有効です。ただ、中長期な回復力(レジリエンス)を確保するには、素材を切り替える戦略も避けて通れません。とはいえ、代替素材の成否は、素材コスト・供給量、地域ごとのリサイクルインフラの成熟度、そしてカテゴリー特有のパッケージ要件に大きく左右されるます。そのため、切り替えの決断を下すことは容易ではありません。
40種類のパッケージタイプを調査したユーロモニターのデータでは、2025〜2029年で最も成長が見込まれるのはプラスチックパウチで、利便性志向の高まりや小型化(ダウンサイジング)の流れが追い風となっています。つまり、FMCGパッケージからプラスチックが急に消えるわけではありません。ポイントは「脱プラスチック」ではなく、単一素材化(モノマテリアル化)や軽量化、そして「(品質も含めた)回収→再生→再利用の循環」をどう回すか、です。
素材転換の成否を分けるのはインフラと評価設計
一方で、リサイクル性の高い代替素材も確実に存在感を高めています。紙ベースの複合材料(paper-based composites)は2番目に成長が速く、意外なカテゴリーにも広がっています。過去と将来の成長率を比較すると、美容・パーソナルケア、食品、飲料といった、従来プラスチック依存度が高かった領域で紙素材が加速していることが分かります。金属素材も食品分野で再評価を受け、ホームケアでも採用が広がりつつあります。これらは偶然ではなく、包装要件、生活者の期待、インフラ整備がようやく噛み合い始めた結果です。
ただし、素材転換には確実な評価が欠かせません。紙素材は乾燥製品に適している一方で、油分を含む製品には高価なコーティングが必要になります。詰め替え(リフィル)は、消費者行動の変化とインフラ整備が前提になります。地域特性も重要です。市場ごとのリサイクルインフラと素材がマッチしていないと、スケーラビリティや採算性を確保することができません。逆に、適切に設計された場合は、強力な訴求を獲得することができます。ユーロモニターのSustainability Quarterly Trackerによれば、2025年に新発売された商品では、詰め替え、堆肥化可能、FSC認証、リサイクル材使用といった訴求が増え、差別化ポイントとなっています。
とはいえサプライチェーンのリスクは依然として残ります。地政学リスクは、ガラスやアルミニウムのようなエネルギー負荷が高い素材にも波及し、価格変動はどの素材でも起こりうる状態となりました。最適な戦略とは、既存のプラスチックを最適化しつつ、技術・インフラ・経済性の条件が揃う領域では代替素材を選択的に拡大すること。そのためにも、柔軟性とサプライヤーの分散が、レジリエンス確保の要になります。
短期的対応から長期的ポジショニングへ
今回のエネルギー価格ショックは、コスト削減とサステナビリティが「同じ方向を向く」珍しい局面を生み出しています。しかし、将来を見据えているFMCG企業は目先の対応だけでは終わりません。EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)では、2030年に向けてリサイクル材使用比率の義務化が進められていくなかで、規制圧力は強まる一方です。地政学的な分断と新規生産能力への投資不足を踏まえると、エネルギー価格の変動も続くでしょう。今日の段階で、データに基づいた「柔軟な素材戦略」を構築できる企業ほど、この不安定な環境でも打ち手を出しやすくなります。
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