農家が訪日外国人を受け入れる方法|農泊・グリーンツーリズムで集客する実践ガイド
農家が訪日外国人を受け入れる動きが全国で広がっています。農林水産省は農泊の年間延べ宿泊者数を令和7年度(2025年度)に700万人泊とする目標を掲げ、訪日外国人の宿泊割合を19年度実績の6%から10%まで引き上げる方針を示しています(出典:農林水産省「農泊」の推進について)。
しかし農家が実際に訪日客を受け入れるには、旅館業法とは異なる農山漁村余暇法に基づく届出や、体験プログラムの安全対策、食事提供時の衛生管理など、農業特有の準備が欠かせません。本記事では、農家がマーケティングの視点で訪日外国人を受け入れ、集客につなげるための具体的な手順を解説します。
この記事でわかること
- ・農家が農泊・グリーンツーリズムで訪日外国人を受け入れるメリットと市場動向
- ・農山漁村余暇法に基づく届出と旅館業法の簡易宿所営業許可との違い
- ・収穫体験プログラムの作り方と食事提供時の衛生管理・多言語対応のポイント
▼目次
1. なぜ今、農家に訪日外国人受け入れのチャンスがあるのか
農泊・グリーンツーリズム需要の広がり
農泊とは、農山漁村地域に滞在し、農業体験や地域の生活・文化に触れる滞在型旅行の総称です。農林水産省の資料によると、農泊地域における年間延べ宿泊者数は2019年度に589万人泊、うち訪日外国人の割合は6%でした。新型コロナウイルスの影響で2021年度は448万人泊まで落ち込みましたが、同省は2025年度に700万人泊、訪日外国人の割合を10%まで引き上げる目標を掲げています(出典:農林水産省「農泊」の推進について)。
この目標達成に向け、農林水産省は全国40か所を「農泊インバウンド受入促進重点地域」として選定し、受け入れ環境の整備と海外向けプロモーションを後押ししています(出典:観光経済新聞「訪日外国人旅行者を農泊地域に」)。個人の農家にとっても、この追い風を活かせるタイミングといえます。
農家にとってのメリット(収益の多角化・遊休資産の活用)
訪日外国人の受け入れは、農家にとって収益の多角化につながります。使われていない離れや空き部屋、農作業小屋を宿泊・体験スペースとして活用すれば、大きな設備投資をせずに収入源を増やせます。収穫の合間や農閑期など、農作業だけでは収入が生まれにくい時期に、体験料や宿泊料という形で直接収益を得られる点も大きな利点です。
規格外で市場に出しにくい農産物を、体験プログラムの食材や土産として活用できることも見逃せません。加えて、訪日客との交流は農作業の担い手不足に悩む地域にとって、将来のリピーターや応援者を生み出す「関係人口」づくりにもつながります。
2. 農泊を始めるための許可・届出
農山漁村余暇法に基づく届出
農家が宿泊を伴う形で訪日客を受け入れる場合、まず押さえておきたいのが「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」(通称:農山漁村余暇法)です。同法は、都市住民に対して農作業体験や農山漁村の生活・文化に触れる機会を提供する宿泊施設を「農林漁業体験民宿業」と定義しています(出典:農林水産省「農山漁村余暇法について」)。
この農林漁業体験民宿業として運営するには、まず旅館業法に基づく営業許可、または住宅宿泊事業法に基づく届出を行ったうえで、農山漁村余暇法に基づく登録手続きを行う2段階の流れになります。登録実施機関には株式会社百戦錬磨や一般財団法人都市農山漁村交流活性化機構(まちむら交流きこう)があり、農林水産省が発行する「農林漁家民宿開業・運営の手引き」も参考になります。
宿泊施設の改修や体験プログラムの整備には、農林水産省の「農山漁村振興交付金」(地域資源活用価値創出対策・農泊推進型)などの補助制度を活用できる場合があります。初期費用の負担を抑えたい場合は、事前に地域の農政局や自治体の農政担当窓口に相談してみましょう。
旅館業法の簡易宿所営業許可との違い
一般的な簡易宿所営業の許可を取得するには、客室の延床面積が33㎡以上必要とされています。しかし、農林漁業体験民宿業としての認定を受けると、この面積要件が緩和され、33㎡未満でも許可を取得できる特例が設けられています。既存の農家住宅の一部をそのまま活用しやすくするための措置です(出典:STAY JAPAN MEDIA「農家民宿の許可申請ガイド」)。
さらに定員5人以下の農家民宿では、トイレ・洗面所・浴室を家族と共用できる、消防用スプリンクラーの設置が免除されるケースがあるなど、建築基準法・消防法の面でも緩和措置が用意されています。ただし具体的な適用条件は自治体・消防署の判断により異なるため、改修前に必ず所轄の保健所・消防署へ事前相談することをおすすめします。
3. 収穫体験・農作業体験プログラムの作り方
体験メニューの設計と安全対策・保険
収穫体験・農作業体験プログラムは、季節ごとに提供できる作業内容が変わるため、年間を通じたメニュー表を作成しておくと運営がスムーズになります。1回あたりの体験時間は30分〜2時間程度が目安で、農機具や刃物を使う工程では、作業前に手順と注意点を実演を交えて説明することが安全確保の基本です。動線を分けて、体験客が農業機械の稼働エリアに立ち入らないよう配慮することも欠かせません。
万が一の事故に備え、体験中のケガや物損に対応する施設賠償責任保険やレクリエーション保険への加入を検討しましょう。加入先は保険代理店のほか、地域のJAでも相談を受け付けている場合があります。体験内容や受け入れ人数に応じて、必要な補償範囲を事前に確認しておくことが重要です。
食事提供時の衛生管理・アレルギー対応
自家産の農産物を使った食事を提供する場合、内容によっては食品衛生法に基づく届出や許可が必要になることがあるため、事前に保健所へ確認しておく必要があります。特定原材料を含む料理を提供する際は、アレルギー情報を事前にヒアリングし、口頭・掲示物の両方でわかりやすく伝える体制を整えましょう。
訪日客の中には、ハラール(イスラム法上許される食品)やベジタリアン、ビーガンなど宗教・信条に基づく食事制限を持つ方もいます。すべてに完全対応する必要はありませんが、予約時に食事制限の有無を確認し、肉や魚を使わない代替メニューを一品用意できるだけでも、受け入れられる層が大きく広がります。生食文化の違いについても、加熱有無を明確に案内すると安心感につながります。
4. 農泊特化型の集客チャネル
農泊予約プラットフォーム(STAY JAPAN・おてつたび等の農泊特化サービス)
農泊特化型の集客チャネルとしては、株式会社百戦錬磨が運営する「STAY JAPAN」が代表的です。民泊・農泊・古民家泊・寺泊(宿坊)など個性的な宿を専門に掲載する予約サイトで、農業・漁業体験ができる宿を多数取り扱っており、多言語での問い合わせ対応を含む集客代行サービスも提供しています。
一方「おてつたび」は、通常の宿泊予約サイトとは仕組みが異なる点に注意が必要です。これは農作業などの「お手伝い」と「旅」を組み合わせた人材マッチングサービスで、旅行者が農家の作業を手伝う対価として、宿泊先が無償で提供される仕組みです。訪日外国人向けの有償宿泊予約チャネルというよりは、人手不足の解消や国際交流の入り口として活用が広がっているサービスであり、受け入れ目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
自治体の農泊推進協議会との連携
多くの市区町村では、地域の農家・宿泊事業者・観光協会などが参加する農泊推進協議会が組織されています。協議会に加わることで、集客ノウハウの共有や合同での海外向けプロモーション、農林水産省の農泊関連補助事業の情報を得やすくなります。個人の農家だけでは難しい多言語パンフレットの作成やモニターツアーの実施なども、地域単位の取り組みとして進められる点がメリットです。
5. 受け入れ時に押さえておきたい対応ポイント
多言語での案内・コミュニケーション
訪日客を受け入れる際、スタッフ全員が外国語に堪能である必要はありません。近年は翻訳アプリの精度が向上しており、農作業の手順説明や安全上の注意事項は、事前に多言語の資料や短い説明動画を用意しておくことで、対面でのやり取りの負担を大きく減らせます。館内表示にはピクトグラム(絵文字による案内表示)を併用すると、言語に関わらず直感的に伝わりやすくなります。
Wi-Fi環境の整備やキャッシュレス決済への対応に加え、和式トイレしか設置していない場合は洋式便座への交換や簡易的な洋式化用品の設置を検討すると、訪日客の満足度に直結します。あわせて、土足で家に上がらない、風呂は体を洗ってから湯船に入るといった日本特有の生活文化についても、宿泊前にやさしい説明を添えておくと、トラブルを未然に防ぎやすくなります。文化や習慣の違いを前提に、丁寧な事前案内を用意しておくことが、受け入れ体制づくりの土台になります。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 農家が訪日外国人を受け入れるには必ず許可が必要ですか?
宿泊を伴う場合は旅館業法の許可(簡易宿所営業等)または住宅宿泊事業法の届出が必要です。日帰りの収穫体験のみを提供する場合、宿泊関連の許可は原則不要ですが、飲食提供の有無や自治体条例の確認は事前に行いましょう。
Q2. 農林漁業体験民宿業の登録にはどのくらい期間がかかりますか?
旅館業法の許可取得(数週間〜数か月)を経てから登録申請を行うため、準備開始から登録完了まで数か月程度を見込むケースが多いです。検査スケジュールは自治体・保健所により異なるため、早めの事前相談をおすすめします。
Q3. 体験中のケガに備えてどのような保険に入るべきですか?
農作業体験中の事故に対応する施設賠償責任保険やレクリエーション保険への加入が一般的です。保険代理店や地域のJAに相談し、体験内容に合った補償範囲を選ぶことが重要です。
Q4. ハラール対応やアレルギー対応はどこまで必要ですか?
食事を提供する場合、特定原材料に関するアレルギー情報の開示が求められます。ハラール対応は法的な義務ではありませんが、事前に食事制限をヒアリングし、代替メニューを用意できると受け入れ幅が広がります。
Q5. 訪日外国人向けの集客はSNSだけで十分ですか?
SNS単体では届く層が限定的です。農泊特化型の予約プラットフォームへの掲載や、自治体の農泊推進協議会との連携を組み合わせることで、認知経路を増やすことができます。
Q6. スタッフが英語を話せなくても受け入れは可能ですか?
翻訳アプリや多言語対応のピクトグラムを活用すれば対応可能です。安全に関わる説明については、事前に多言語の資料や動画を準備しておくと安心です。
7. まとめ
農家が訪日外国人を受け入れることは、農山漁村余暇法に基づく届出や体験プログラムの安全対策、食事提供時の衛生管理など、農業特有の準備を丁寧に行えば、収益の多角化と地域の関係人口づくりにつながる有効な手段です。農林水産省が2025年度に農泊のインバウンド比率10%を目指すなか、早期に受け入れ体制を整えることが今後の集客力を左右します。制度面・言語対応面の準備を一つずつ進め、自分の農園の魅力を訪日客に届けていきましょう。
8. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。
多言語での案内資料の作成や、訪日外国人向けのプロモーション設計、予約サイトの多言語対応など、農家単独では手が回りにくい専門領域は、こうした支援企業のノウハウを活用することで受け入れ体制をスムーズに整えられます。まずは自分の農園の課題を整理し、どのようなサポートが必要かを検討するところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
・農林水産省「農泊」の推進について
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/nouhakusuishin/nouhaku_top.html
・農林水産省「農山漁村余暇法について」
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/nouhakusuishin/yoka_law.html
・STAY JAPAN MEDIA「農家民宿の許可申請ガイド|旅館業法・農林漁家民宿特区の違いを解説」
https://stayjapan.com/media/ja/nouka-minshuku-kyoka-shinsei/
・観光経済新聞「訪日外国人旅行者を農泊地域に 農水省、受け入れ促進を後押し 40カ所を重点地域に選定」
https://www.kankokeizai.com/%E8%A8%AA%E6%97%A5%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%97%85%E8%A1%8C%E8%80%85%E3%82%92%E8%BE%B2%E6%B3%8A%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E3%81%AB%E3%80%80%E8%BE%B2%E6%B0%B4%E7%9C%81%E3%80%81%E5%8F%97%E3%81%91%E5%85%A5/
・財界オンライン「農林水産省 農泊観光客を700万人へ 増加のカギは訪日外国人」
https://www.zaikai.jp/articles/detail/3032
・おてつたび「【夏休み】生産者として働いて"お得"に旅行|農業・漁業の人手不足解消にも」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000159.000036175.html

































