世界貿易機関(WTO)を簡単にわかりやすく解説!目的と役割・課題と問題点など
WTO(World Trade Organization)とは、1995年1月1日に設立された国際機関「世界貿易機関」です。
WTO=世界貿易機関とは世界の貿易体制の中核を担う存在です。さまざまな協定を作成し、貿易の自由化を促進することで世界経済の成長に貢献してきたWTOは日本経済にとっても重要な存在です。
本テキストでは、海外ビジネスに関わるなら知っておきたい、そんなWTOについて解説していきます。WTOとは何か、誕生の歴史やGATTとの関係性といった基礎知識から、課題や問題点、米中の対立問題や事務局長のオコンジョ=イウェアラ氏についてなど、WTOに関する多くの事柄について理解を深めていきましょう。
▼WTOの基礎知識 | WTOが日本企業の海外進出において重要な機関である理由
- 1. WTO(World Trade Organization / 世界貿易機関)とは?
- 2. WTOの加盟国は164ヵ国(2021年3月現在)
- 3. WTOの目的と役割
- 4. WTOの課題と問題点
- 5. 新たにWTOの事務局長に就任したオコンジョ=イウェアラ氏とは?
- 6. WTOをめぐる中国とアメリカの関係と対立構造について
- 7. WTOが日本に必要な理由
▼アナタの海外ビジネスを成功させるために
1. WTO(World Trade Organization / 世界貿易機関)とは?
WTOは自由貿易で成り立っている日本にとって、とても重要な存在です。
貿易の自由化によって発展してきた世界経済ですが、トランプ政権においてアメリカが保護貿易の動きを見せたのは記憶に新しいところです。近年、中国の台頭を警戒した各国が関税を上げるなど、保護貿易が世界経済のトレンドとなりつつありますが、行き過ぎた保護貿易はかつて第二次世界大戦が起こった原因の一つとされているブロック経済のような排他的な貿易体制にもつながります。
2021年3月現在で164の国や地域が加盟するWTOは、貿易の自由化を促進するために国際ルールを定めており、貿易摩擦が政治的な問題に発展することを防ぐための紛争解決手続システムも設けている機関であり、その前身はブロック経済の過ちを受けて作られたGATTです。
WTO(World Trade Organization / 世界貿易機関)とは?
WTO(World Trade Organization)とは、1995年1月1日に設立された国際機関「世界貿易機関」です。貿易に関するさまざまなルールを定めており、事務局はスイスのジュネーブにあります。WTOの任務は下記の5つです。
・WTO設立協定、多角的貿易協定の実施・運用
・多角的貿易関係に関する交渉の場と実施の枠組みの提供
・紛争解決に係る規則及び手続に関する了解の運用
・貿易政策検討制度の運用
・IMF、世界銀行、関連機関との協力
WTOの誕生と歴史
WTOの誕生のきっかけは、1986年に開始されたGATTの多角的貿易交渉「ウルグアイ・ラウンド」です。
2国間の貿易問題を仲裁していたそれまでのGATT交渉とは異なり、複数国の間で貿易問題が浮上するようになり、対象もサービス貿易や知的財産権といった新しい分野におよび、農作物の自由化など、交渉が多角化したのがウルグアイ・ラウンドの大きな特徴です。
このような多角的な貿易交渉を実施、運営管理する国際機関が必要となったため、1995年にWTOが誕生しました。
WTOとGATTの関係性
WTOの前身であるGATT(The General Agreement on Tariffs and Trade)は自由貿易を目的につくられた国際協定であり、国際機関であるWTOとはそもそも位置付けが異なります。
第二次世界大戦を引き起こした原因の一つとされているブロック経済への反省から発効されたのがGATTであり、ウルグアイ・ラウンドをきっかけに多角的な交渉を管理する機関が必要となり、WTOが生まれました。
2. WTOの加盟国は164ヵ国(2021年3月現在)
このセクションではWTOの加盟国について見ていきましょう。
2021年3月現在、WTOの加盟国数は164となっており、国・地域名は下記のとおりです。
アジア地域のWTO加盟国
インド,インドネシア,カンボジア,シンガポール,スリランカ,タイ,大韓民国,台湾,中華人民共和国,日本,ネパール,パキスタン,バングラデシュ,フィリピン,ブルネイ,ベトナム,香港,マカオ,マレーシア,ミャンマー,モルディブ,モンゴル,ラオス
北米地域のWTO加盟国
アメリカ合衆国,カナダ
中南米地域のWTO加盟国
アルゼンチン,アンティグア・バーブーダ,ベネズエラ,ウルグアイ,エクアドル,エルサルバドル,ガイアナ,キューバ,グアテマラ,グレナダ,コスタリカ,コロンビア,ジャマイカ,スリナム,セントビンセントおよびグレナディーン諸島,セントクリストファー・ネーヴィス,セントルシア,チリ,ドミニカ,ドミニカ共和国,トリニダード・トバゴ,ニカラグア,ハイチ,パナマ,パラグアイ,バルバドス,ブラジル,ベリーズ,ペルー,ボリビア,ホンジュラス,メキシコ
欧州地域のWTO加盟国(NIS諸国を含む)
アイスランド,アイルランド,アルバニア,アルメニア,欧州共同体(EC),イタリア,ウクライナ,英国,エストニア,オーストリア,オランダ,カザフスタン,ギリシャ,キプロス,キルギス,グルジア,クロアチア,スイス,スウェーデン,スペイン,スロバキア,スロべニア,タジキスタン,チェコ,デンマーク,ドイツ,ノルウェー,ハンガリー,フィンランド,フランス,ブルガリア,ベルギー,ポーランド,ポルトガル,マケドニア,マルタ,モルドバ,モンテネグロ,ラトビア,リトアニア,リヒテンシュタイン,ルーマニア,ルクセンブルク,ロシア
大洋州地域のWTO加盟国
オーストラリア,サモア,ソロモン,トンガ,ニュージーランド,バヌアツ,パプアニューギニア,フィジー
中東地域のWTO加盟国
アフガニスタン,アラブ首長国連邦,イエメン,イスラエル,オマーン,カタール,クウェート,サウジアラビア,トルコ,バーレーン,ヨルダン
アフリカ地域のWTO加盟国
アンゴラ,ウガンダ,エジプト,ガーナ,カーボヴェルデ,ガボン,カメルーン,ガンビア,ギニア,ギニアビサウ,ケニア,コンゴ共和国,コンゴ民主共和国,ザンビア,シエラレオネ,ジブチ,ジンバブエ,スワジランド,セネガル,セーシェル,コートジボワール,タンザニア,チャド,中央アフリカ,チュニジア,トーゴ,ナイジェリア,ナミビア,ニジェール,ブルキナファソ,ブルンジ,ベナン,ボツワナ,マダガスカル,マラウイ,マリ,南アフリカ共和国,モザンビーク,モーリシャス,モーリタニア,モロッコ,リベリア,ルワンダ,レソト
そのほか、WTO加盟の準備を進めている国や地域もあり、今後加盟国はさらに増える予定です。
3. WTOの目的と役割
多角的な交渉を管理する機関として誕生したWTOですが、その目的と役割をもう少し詳しく見ていきましょう。
WTOが設立された目的とその役割とは?
WTOの設立目的は、前述したように第二次世界大戦の反省を踏まえて作られたGATTを前身として、貿易ルールのさらなる拡充とその運営を行う機関が必要とされたことにあります。また、その役割は主に3つあり、それは「交渉」と「監視」と「紛争解決」です。
WTOは「交渉」によって世界共通の貿易に関するルールを作り、「監視」によって各加盟国がルールをしっかり守っているかどうかを確認し、ルール違反の措置や是正の勧告などによって「紛争解決」を行います。
WTOが存在することで多国間協力が促され世界平和が維持されている?
WTOとその前身GATTによって、多国間の貿易が自由化され、世界の平和が維持されてきました。貿易が活性化すれば生活の水準も上がります。
GATTより前の時代では、産業を守るために保護貿易を行うのが一般的でしたが、それが貿易摩擦を生み、争いにつながることからGATTが誕生し、経済開放によって世界平和と経済的成功をもたらしたというのは決して大げさな表現ではないでしょう。
4. WTOの課題と問題点
世界全体が自国の貿易を保護する動きが加速する中でWTOが機能不全に…?
WTOと前身であるGATTは貿易の自由化によって世界経済の発展と世界平和の維持に成功しましたが、WTOにも解決すべき課題や問題点は多くあります。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響もあり、世界経済が保護主義へと傾きつつある中でWTOが機能不全になっているとの声も大きくなっています。
古いルールが今もそのまま適用されているため、新しい貿易の形にルールが追いついていないという問題や、先進国と途上国の対立問題も解決されていません。
WTOは各国政府がメンバーとなっており、意志決定は、全会一致によって決まると定められているのですが、加盟国も増えて貿易の形も変わりつつある現代において全会一致は非常に困難なルールであり、結局何も決まらない、ということも多くなりました。ドーハ・ラウンドは各国間の交渉分野をめぐる対立が解けないまま何度も最終合意に失敗しています。
2020年8月には任期半ばでアゼベド事務局長が辞任。この背景には中国を途上国として扱うWTOのルールにトランプ政権下のアメリカが反発し、上級委員会の委員専任を拒否したために上級委員会が機能しなくなってしまう、という出来事がありました。
そんな中、新たにWTO事務局長に就任した人物がいます。初のアフリカ出身者事務局長で、かつ女性であることが話題を集めた、元ナイジェリア財務相のオコンジョ=イウェアラ氏です。
5. 新たにWTOの事務局長に就任したオコンジョ=イウェアラ氏とは?
2021年2月15日の臨時一般理事会でオコンジョ=イウェアラ氏が事務局長に就任
アゼベド事務局長が辞任し、半年も事務局長不在が続いていたWTOですが、2021年2月15日の臨時一般理事会で、オコンジョ=イウェアラ氏が事務局長に就任しました。世界銀行専務理事やナイジェリア財務相および外相などを歴任した人物であり、パンデミックから回復するためにWTOの存在が不可欠であることを強くアピールしています。
WTO機能不全の原因となったアメリカも政権交代し、バイデン政権はオコンジョ=イウェアラ氏を支持。半年の混乱にようやく終止符が打たれました。
6. WTOをめぐる中国とアメリカの関係と対立構造について
何かと対立関係にある中国とアメリカですが、この対立関係がWTOに及ぼす影響は前述したように非常に強いものであるため、この項ではWTO、中国、アメリカそれぞれの関係性と両国の対立について解説します。
中国とWTOの関係
中国はそれまでの閉鎖的な体制を1978年に打ち出した改革開放政策によって大きく方向転換。2001年にWTOに加盟しています。
WTO加盟後、中国への外資による直接投資はWTO加盟前の2000年の408億ドルから一気に3倍以上の1383億ドルに増加。中国の経済は急激に発展し、世界に大きな存在を示すこととなりました。
WTOをめぐる中国とアメリカの対立
トランプ政権はWTOのルールを無視し、アメリカファーストを掲げた保護貿易を行い、中国に対しても制裁措置を取り、これが米中貿易摩擦につながったのは記憶に新しいところです。
中国は経済的に大きな発展を遂げましたが、貿易慣習はまだまだ先進国のレベルに達しているとは言い難く、知財保護などの面でルールが遵守されていないといった問題も残っています。
バイデン政権において、それまでのアメリカの強硬的な姿勢は幾分緩和されたものの、中国の不公正な貿易慣習に対しては対処するためのルールの制定を強く求めており、WTOを舞台とした米中対立はまだまだ終わりそうにありません。
7. WTOが日本に必要な理由
日本はWTO DSと呼ばれる紛争解決手段を活用している
日本はDS(Dispute Settlement / 紛争解決)と呼ばれるWTOの紛争解決手続を大いに利用し、国際ルールに適合していない他国の措置に対して是正を求めてきました。
経済産業省によると、2020年10月時点で、これまでに日本がWTOの紛争処理に持ち込んだ貿易問題は24件。DSによって解決した19件のうち18件が日本の主張に沿うものとなりました。
DSによって日本の主張が認められた代表例が中国のレアアース輸出制限です。これは日本が中国との貿易問題をWTOに持ち込んだ初めてのケースでした。2012年、日本はアメリカやEUと共同で提訴。中国への是正を求めました。
WTO上級委員会は2014年に提訴国の主張を全面的に認め、中国は2015年に輸出制限措置を撤廃しています。
貿易立国である日本にとって、自由貿易体制を維持・促進しており、紛争解決に一役買ってくれるWTOは非常に重要な存在です。
近年、WTOの古いルールを補完すべくFTAが多く締結されており、WTOの存在意義について問われている時代ではありますが、FTAが乱立する時代にこそ、WTOが調整役になって、極端なFTAを調整することが必要なのではないでしょうか。
8. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
御社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介します
今回は、海外ビジネスに関わるなら知っておきたいWTOについて解説しました。
先の大戦の反省を踏まえて生まれたGATTを前身として、正式な国際機関として誕生したWTOは今や世界経済にとってなくてはならない存在です。近年、米中対立が緊張感をもたらしている世界経済において、新事務局長のもとでWTOが問題の速やかな解決に働きかけてくれるといいですね。
今後も世界の貿易事情にはさまざまな変化が訪れると予想されるため、海外ビジネスを行う上で専門家の意見を仰ぐことは非常に重要です。
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