価格転嫁できない原因は交渉の外にある|転嫁率54.2%の中身と、取引依存度を下げる販売先の増やし方【2026年最新】
「値上げをお願いして、半分だけ通りました」。2026年9月の価格交渉促進月間を終え、10月の価格改定に向けた交渉で、こうした結果に終わった企業は少なくないはずです。
この「半分」は感覚ではなく、統計にそのまま表れています。中小企業庁が69,625社から回答を得たフォローアップ調査では、コスト上昇分のうち価格に反映できた割合(価格転嫁率)は54.2%。労務費に限ると50.0%で、賃上げ分の半分を受注側が負担している計算です。一方でコストの上昇は止まらず、帝国データバンクの集計では2026年9月の飲食料品の値上げは4,923品目と、今年最大の規模になりました。
では、交渉資料を厚くすれば転嫁率は上がるのでしょうか。中小企業白書が示している答えは、交渉の技術ではなく「販売先の数」です。本記事では、価格転嫁できない原因を交渉の外側から確認し、自社の価格決定権を4つの数字で測る方法、取適法と労務費転嫁指針の使い方、そして取引依存度を下げる1社を海外につくるまでの90日の段取りを整理します。
この記事でわかること
- ・価格転嫁率54.2%の内訳と、労務費・エネルギー費が通りにくい理由
- ・値上げ交渉が通らない原因が、取引依存度と販売先の数にあるという白書の分析
- ・取適法と労務費転嫁指針を、交渉の場でどう使うか
- ・自社の価格決定権を4つの数字で測る方法(架空の設定値による記入例つき)
- ・取引依存度を下げる1社を海外につくるための、商品の選び方と90日の段取り
▼目次
1. 価格転嫁できない企業は、どれくらいあるのか

まずは、価格転嫁がいまどこまで進んでいるのかを最新の調査で確認します。全体の転嫁率に加え、コストの種類ごとの差と、まったく転嫁できていない企業の割合を順に見ていきます。
転嫁率は54.2%、上昇は約1ポイントにとどまる
経済産業省・中小企業庁は2026年6月26日、価格交渉促進月間(2026年3月)のフォローアップ調査の結果を公表しました。全国30万社に調査票を配布し、2026年4月20日〜6月3日の期間に69,625社から回答を得た調査です。
コスト上昇分のうち価格に反映できた割合を示す価格転嫁率は54.2%で、前回(2025年9月時点)の53.5%から約1ポイントの上昇にとどまりました。価格交渉そのものは、交渉が不要だった企業を除くと90.7%で行われています。交渉の席には着けているのに、通る金額が半分程度で止まっているというのが、いまの平均的な姿です。
労務費50.0%・エネルギー費48.9%は前回から横ばい
コストの種類別に見ると、原材料費の転嫁率は55.7%と前回より上昇した一方、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%で、いずれも前回から横ばいでした。賃上げをした企業は、その原資の半分を自社の利益から出していることになります。
さらに、転嫁が不要だった企業を除くと、「転嫁できなかった」「マイナスとなった」と答えた企業が16.0%ありました。全額を転嫁できた企業は27.2%です。平均の54.2%の裏側には、ほぼ満額通る企業と、まったく通らない企業がはっきり分かれて存在しています。
コストの上昇は、転嫁のペースを上回っている
帝国データバンクが食品主要195社を対象に集計した調査では、2026年9月の飲食料品の値上げは4,923品目でした。前年9月(1,467品目)の約3倍で、単月で4,000品目を超えたのは2025年4月以来、1年5カ月ぶりです。
仕入れ価格の上昇が続く一方で、販売価格に転嫁できるのは半分程度。その差額は、毎月そのまま利益を圧迫していきます。
出典:経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月)
出典:帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年9月」(2026年8月)
2. 値上げ交渉が通らない原因は、交渉の技術なのか
値上げが半分しか通らなかったとき、多くの企業は次の交渉の準備を厚くしようとします。ここでは中小企業白書の分析をもとに、転嫁できるかどうかを分けている要因が交渉の席の内側にあるのか、外側にあるのかを確認します。
転嫁が難しい理由の上位は、競争力の弱さ
2023年版中小企業白書は、東京商工リサーチが実施した「令和4年度取引条件改善状況調査」をもとに、価格転嫁が難しい理由を分析しています。受注側の企業で上位に挙がったのは、「商品・サービスのブランド化や差別化による競争力が弱いため」と「競合他社の商品価格との価格競争力が弱いため」で、「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせて3割を超えました。
どちらも、交渉の場での話し方や資料の出来とは関係のない項目です。発注側から見て「他にも頼める先がある」状態であれば、値上げは受け入れられにくくなります。
取引依存度が高い企業ほど「反映されなかった」
同じ白書は、最も取引額の大きい販売先への依存度(取引依存度)で企業を分け、コスト上昇分の反映状況を比べています。結果は、取引依存度の高い企業ほど「反映されなかった」とする割合が高いというものでした。
売上の大半を1社に頼っている企業は、値上げを断られたときに売上を失うリスクを負います。引くことができない立場で交渉に臨めば、それは交渉ではなく「お願い」になります。通るかどうかは、発注側にその年の余裕があるかどうかで決まってしまいます。
白書の結論は「販売先数を増加させること」
白書はさらに、販売先の数が「増加した」と答えた受注側の企業は、「横ばい」「減少した」と答えた企業と比べて、「おおむね反映された」「一部反映された」の割合が高いことを示しました。そのうえで、「販売先数を増加させることが、価格転嫁に向けて重要であると考えられる」と結論づけています。
取引依存度も、販売先の数も、商品の代わりが効くかどうかも、交渉の当日には変えられません。価格転嫁は、交渉の席に着く前の立場でおおむね決まっています。逆にいえば、手を打てる場所は交渉の外側にあるということです。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書 第2部第3章第1節 取引適正化と価格転嫁」(2023年)
3. 労務費とエネルギー費は、なぜ原材料費より通りにくいのか
交渉の外側に原因があるとはいえ、交渉の内側でやるべきことがなくなるわけではありません。ここでは労務費が通りにくい理由と、2026年に整った制度面の後押し、それを交渉の場でどう使うかを確認します。
原材料は相手も確かめられるが、賃上げ分は見えない
原材料費の転嫁率が高い理由は、価格が公開されている点にあります。鋼材や樹脂の市況は発注側も自分で確かめられるため、「上がっています」という説明がそのまま通りやすくなります。
一方、自社の賃上げ分や電気代は、発注側からは見えません。見えないコストには根拠の説明を求められ、そこで詳細な原価の開示を迫られると、受注側は交渉そのものを諦めやすくなります。公正取引委員会の調査でも、「労務費の上昇分は受注者の生産性向上で吸収すべき」という意識が発注側に根強いことが指摘されています。
根拠は自社の原価ではなく、最低賃金や春闘の公表資料で示す
内閣官房と公正取引委員会は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月策定、2026年1月1日改正)で、受注側が根拠資料として使うべきものを示しています。都道府県別の最低賃金とその上昇率、春季労使交渉の妥結額とその上昇率といった公表資料です。
指針は、自社のコスト構造を開示すると逆に原価低減を求められる可能性があるとしたうえで、受注側から先に希望価格を提示することも求めています。発注側から先に価格を示されると、それを上回る額を求めるのが難しくなるためです。交渉の内容は記録に残し、発注側と受注側の双方で保管することも推奨されています。
取適法で「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止された
2026年1月1日には、下請法を改正した中小受託取引適正化法(取適法)が施行されました。同法では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為として明記されています。労務費などのコスト上昇分を、協議をしないまま従来の価格に据え置くことは、同法上の問題となるおそれがあります。
ただし、同法が保証するのは協議の場であり、申し入れた金額が満額通ることではありません。また、対象となるかどうかは取引の内容や双方の資本金・従業員数によって決まるため、自社の取引が該当するかは公正取引委員会の説明で確認してください。制度は交渉の入口を広げてくれますが、交渉の立場そのものは変えてくれません。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2026年1月改正)
出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
4. 自社の価格決定権は、どの数字で測ればよいのか

交渉の外側にある立場は、社内にある数字だけで測れます。ここでは価格決定権を測る4つの数字と、その読み方を、架空の設定値による記入例とあわせて確認します。
4つの数字は、経理と営業の手元だけで埋まる
| 数字 | 測り方 | 読み方の目安 |
|---|---|---|
| ① 取引依存度 | 最大の販売先の売上 ÷ 自社の売上合計(直近1年) | 半分を超えると、断られたときに引けない状態 |
| ② 販売先の数 | 取引のある販売先の数の推移(直近3年) | 減っている場合、依存度は自然に上がっていく |
| ③ 自社の転嫁率 | 直近1年で通った値上げ額 ÷ 申し入れた値上げ額 | 全国平均の54.2%と比べて高いか低いか |
| ④ 断られたときの行き先 | いまの販売先に断られた場合、翌月から売れる先の件数 | 0件なら、交渉はお願いにしかならない |
①と②は交渉の立場、③はその結果、④は立場を変えるための出口を表します。読み方の目安は本記事の判断基準で、公的な基準ではありません。
依存度の高さは珍しいことではありません。東京都中小企業振興公社が都内の中小企業815社から有効回答を得た調査では、主要取引先への依存度が50%を超える企業は36.2%、30%超〜50%の企業は21.5%でした。合わせると、およそ6割の企業が売上の3割以上を1社に頼っています。
出典:東京都中小企業振興公社「令和3年度 取引状況実態調査報告書」
記入例では、直すべきなのは交渉ではなく行き先の欄になる
ここからの会社と数値は、記入の手順を示すための架空の設定です。金属加工の二次下請けで、年商18億円、従業員42名、海外売上はゼロのA社を想定します。
最大の販売先が売上に占める割合は58%でした(①)。販売先は直近3年で14社から11社に減っています(②)。採算の合わない小口取引を整理した結果で、判断としては合理的でしたが、同時に交渉で引ける立場も手放していました。直近1年で申し入れた値上げは合計4,800万円、通ったのは2,300万円で、自社の転嫁率は約48%です(③)。そして、いまの販売先に断られた場合に翌月から売れる先は0件でした(④)。
4つを並べると、転嫁率が全国平均を下回っている原因は営業担当者の力量ではないことがわかります。依存度58%、販売先は減少、行き先は0件という条件で48%を通せているのは、むしろ健闘している部類です。A社が手を入れるべきなのは交渉資料ではなく、④の「行き先」の欄です。
5. 販売先を1社増やすなら、国内と海外のどちらか
行き先を増やすと決めたとき、次に考えるのはどこで1社を増やすかです。国内でもう1社探す場合と、海外に1社つくる場合とで、価格決定権への効き方がどう違うのかを比べます。
中小企業のおよそ8割は、国内の顧客しか持っていない
2024年版中小企業白書によると、2021年度に直接輸出を行っていた企業の割合は、大企業の28.1%に対して中小企業は21.0%でした。直接投資を行っていた企業は、大企業32.0%、中小企業14.2%です(経済産業省「企業活動基本調査」)。
中小企業のおよそ8割は、販売先を国内だけに持っています。多くの企業にとって、まだ手をつけていない販売先の候補は国外に大きく残っているといえます。
出典:中小企業庁「2024年版 中小企業白書 第1部第3章第8節 海外展開」(2024年)
国内の1社と海外の1社の比較
| 比較軸 | 国内でもう1社増やす | 海外に1社つくる |
|---|---|---|
| 価格の基準 | いまの販売先と同じ相場で比べられる | 現地の競合・通貨・流通コストで決まり、日本の相場と切り離せる |
| 市場の伸び | 人口減少のもとで、同業との取り合いになりやすい | 国・地域によって成長段階が異なり、伸びている先を選べる |
| 交渉の立場への効き方 | 依存度は下がるが、相見積もりの材料にされることもある | 景気・為替の波が国内と異なるため、行き先の分散効果が大きい |
| 立ち上げの手間 | 既存の営業手法がそのまま使える | 規制・認証・物流の確認が要るが、商社や代理店経由なら自社の負担は小さい |
| 留意点 | 同じ業界内で、いまの販売先の競合と取引することになる場合がある | 為替変動と代金回収のリスクを、取引条件で管理する必要がある |
国内で販売先を増やすことにも意味はありますが、価格の基準そのものは変わりません。海外の1社は売上を足すだけでなく、日本の相場とは別の物差しで値付けできる取引を1本持つことになります。
輸出企業の生産性は約1.2倍、進出企業の66.5%は黒字見込み
内閣府の分析(経済産業省「企業活動基本調査」に基づく)では、中小企業のうち輸出を行っている企業の付加価値生産性は、行っていない企業の約1.2倍でした。全産業・製造業ともに同程度の差があります。ただし、輸出したから生産性が上がったとは限らず、もともと生産性の高い企業が輸出している面も含まれる点には注意が必要です。
出た先で利益を出せているかについては、ジェトロが2025年8〜9月に82カ国・地域の日系企業1万7,708社を対象に実施した調査(有効回答7,485社)が参考になります。2025年に営業利益で黒字を見込む企業は66.5%で、2年連続で増加しました。黒字企業の割合は中東、南西アジア、中南米で7割を超えています。
出典:内閣府「日本経済2022-2023 第3章第3節 輸出を通じた海外で稼ぐ力の強化」(2023年2月)
出典:ジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(2025年11月)
6. 海外の1社目は、どの商品・どの相手から探すのか
海外に販売先をつくるといっても、全商品を一度に出す必要はありません。ここでは最初に出す商品の選び方、進め方の段階、最初の取引相手を探す順番を確認します。
最初に出すのは、代わりが効かず依存度が低い商品
自社の商品を、「その商品の代わりが他社で効くかどうか」と「その商品の売上がいまの最大販売先にどれだけ依存しているか」の2軸で分けると、打ち手が4つに分かれます。
| 商品の状態 | いまの立場 | 優先する打ち手 |
|---|---|---|
| 代わりが効く×依存度が高い | 最も危ない。交渉では動かない | 販売先を増やすことでしか立場は変わらない。中期で取り組む |
| 代わりが効かない×依存度が高い | 値上げを通せる余地が残っている | まずは公表資料を根拠に交渉する |
| 代わりが効く×依存度が低い | 緊急性は低い | 現状維持で様子を見る |
| 代わりが効かない×依存度が低い | 国内では強みとして認められている | 海外に出す最初の候補。国内で代わりが効かない商品は、海外でも代わりが効きにくい |
最初の1品は、いちばん危ない商品ではなく、いちばん通りやすい商品から選んでください。海外での最初の取引が成立すれば、その実績が「断られたときの行き先」として、ほかの商品の交渉にも効いてきます。
販売先を1社増やすだけなら、拠点も投資も要らない
海外展開の進め方には、直接輸出、越境EC、現地の販売代理店の活用、現地での出店や法人設立といった段階があります。後の段階に進むほどできることは増えますが、費用と撤退のしにくさも増していきます。
価格決定権を取り戻すという目的であれば、必要なのは最初の段階だけです。すでに作っている製品を、日本の外の1社に売る。会社をつくる話でも、人を送る話でもなく、取引先を1件増やす話として考えると、着手のハードルは大きく下がります。
最初の相手は、自社の製品がすでに届いている先にいる
最初の1社を探す順番は、次のとおりです。
1. いまの販売先に、自社の部品や製品が最終的にどの国へ納められているかを確認する。
2. その国で、同じ用途の商品がいくらで売られているかを現地の通販サイトや業界団体の資料で調べる。日本の価格より高ければ、上乗せの余地がある。
3. その国で、その商品を扱えそうな商社・代理店を1件探す。展示会や商談会、引き合い情報の公開データベースが入口になる。
4. 見積書を1枚出す。
自社の製品がすでに海を渡っているなら、その先にいる企業が最初の販売先の候補です。ここまでの作業に、大きな費用はかかりません。
▶ 推奨アクション:
・ジェトロの国際ビジネスマッチングサイト「e-Venue」で、自社の業種に出ている海外企業の引き合い情報を確認する
・ジェトロのイベント一覧で、自社の業種に関係する海外見本市・商談会の公開情報を確認する
・どの国の、どの相手から始めるべきか判断に迷う場合は、Digima〜出島〜の無料相談から海外進出の専門家に相談する
7. 英語・認証・既存の取引先への配慮は、止める理由になるのか
海外に1社つくると決めても、社内では着手を止める声が上がりがちです。よく挙がる3つの懸念について、実際にどこまで障壁になるのかを整理します。
英語ができる社員がいなくても、日本語のまま始められる
最初の1社に必要なのは、翻訳された会社案内ではなく見積書です。日本の商社や輸出に対応した代理店を間に入れれば、自社は日本語のまま取引を進められます。
英語の資料は、どの国の誰に何を売るかが決まってから、製品仕様と価格の部分だけを先に用意すれば十分です。言語を理由に止める必要はありません。
品質基準や認証は、国と商品を決めてから調べれば足りる
必要な規格や認証は、輸出先の国と商品によって大きく変わります。調べる前から「認証が大変そうだ」と止めてしまう企業は多いのですが、国と商品を絞ってから確認すれば、追加の対応がほとんど要らない組み合わせが見つかることもあります。
順番を逆にしないことがポイントです。先に国と商品を1つずつ決め、そのうえで規制と認証を確認してください。
販売先を増やすことは、既存の取引先への裏切りではない
いまの取引先に知られたくない、という懸念もよく聞かれます。ただ、取引先から見て最も困るのは、仕入先の経営が行き詰まり、供給が途絶えることです。
複数の販売先を持ち、安定して利益を出せる仕入先であることは、取引先にとっても価値があります。海外の取引は、既存の取引を続けるための体力づくりとして説明できます。
8. 次の価格交渉までに何をするのか|90日の段取り

価格交渉促進月間は毎年3月と9月です。次の3月の交渉までに行き先の欄を1つ埋めることを目標に、90日を30日ずつ3つに分けて進め方を確認します。
最初の30日で、4つの数字を埋めて商品を1つ選ぶ
経理と営業から数字を集め、取引依存度・販売先の数・自社の転嫁率・断られたときの行き先の4つを書き出します。あわせて、主要な商品を「代わりが効くか」「依存度が高いか」の2軸に振り分け、海外に出す最初の候補を1つ選びます。
この段階は社内だけで完結します。経営者と営業責任者、経理担当の3人がいれば、1回の会議で決めきれる内容です。
次の30日で、その商品がどの国でいくらで売られているかを調べる
いまの販売先の納入先から候補国を1〜2カ国に絞り、現地の通販サイトや業界団体の公開資料で、同じ用途の商品の販売価格を調べます。日本の販売価格と比べて上乗せできる幅の見当がつけば、輸送費や関税を引いても採算が合うかを大まかに判断できます。
同時に、その国でその商品に必要な規格・認証があるかを確認します。ここで大きな障壁が見つかった場合は、候補国を入れ替えてください。
最後の30日で、1社に問い合わせて見積書を出す
商社・代理店・展示会の出展者リストなどから1社を選び、問い合わせて見積書を出します。この段階の目的は、売上を立てることではありません。日本の外に見積書を1枚出している状態をつくることです。
見積書が1枚出ているだけで、次の価格交渉で「断られたときの行き先」の欄は0件ではなくなります。依存度が数字として下がるのは取引が始まってからですが、交渉に臨む側の構えは、この時点で変わります。
▶ 推奨アクション:
・今週のうちに経理から販売先別の売上一覧を受け取り、最大販売先の取引依存度を計算する
・営業から直近1年の値上げ申し入れ額と承認額を集め、自社の転嫁率を全国平均の54.2%と比べる
・自社に合った海外展開の進め方から整理したい場合は、Digima〜出島〜の海外進出タイプ診断で現在地を確認する
9. よくある質問
価格転嫁と販売先の拡大について、よく寄せられる質問に簡潔にお答えします。
中小企業の価格転嫁率は、いまどのくらいですか。
コスト上昇分のうち価格に反映できた割合は54.2%です。中小企業庁が2026年4〜6月に実施した価格交渉促進月間のフォローアップ調査(回答69,625社)の数字で、前回の53.5%から約1ポイント上がりました。ただしコスト別に見ると労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%で、前回から横ばいです。賃上げ分の半分は、いまも受注側が負担している計算になります。
価格交渉促進月間とは何ですか。
中小企業庁が毎年3月と9月に設けている、価格交渉と価格転嫁を促すための期間です。月間の終了後には、受注側の中小企業に対して交渉と転嫁の状況を聞くフォローアップ調査が行われます。発注側に協議を申し入れるきっかけとして使いやすい時期ですが、月間そのものに値上げを受け入れさせる強制力があるわけではありません。
取引依存度はどのくらいから注意が必要ですか。
公的な基準はありませんが、最大の販売先が売上の半分を超えている場合は、価格交渉で引けない状態にあると考えてください。東京都中小企業振興公社の調査(有効回答815件)では、主要取引先への依存度が50%を超える企業は36.2%でした。中小企業白書も、依存度が高い企業ほどコスト上昇分が価格に反映されなかったと分析しています。
取適法が施行されれば、値上げは通りやすくなりますか。
協議の場に着いてもらいやすくはなりますが、申し入れた金額が満額通るとは限りません。2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)は、協議に応じない一方的な代金決定を禁じています。一方で、協議の結果としてどこまで転嫁するかは当事者間で決まります。法律で交渉の入口を確保し、販売先を増やして交渉の立場を強くする、という両輪で考えることが重要です。
英語ができる社員がいなくても、海外に販売先をつくれますか。
つくれます。最初の1社に必要なのは翻訳ではなく見積書です。日本の商社や輸出に対応した代理店を間に入れれば、自社は日本語のまま取引を進められます。英語の資料は、どの国の誰に何を売るかが決まってから、製品仕様と価格の部分だけを先に用意すれば足ります。
10. 価格転嫁と販路開拓の悩みはDigima〜出島〜に相談
価格転嫁率は54.2%、労務費に限れば50.0%にとどまっています。中小企業白書の分析が示すとおり、転嫁できるかどうかを分けているのは交渉の技術ではなく、取引依存度と販売先の数です。取適法や労務費転嫁指針は交渉の入口を広げてくれますが、交渉の立場そのものを強くするには、断られたときの行き先をつくるしかありません。
中小企業のおよそ8割は、まだ国内にしか販売先を持っていません。値上げをお願いしに行く前に、日本の外に見積書を1枚出しておく。それが、次の価格交渉に向けた最も確実な準備です。
Digima〜出島〜では、輸出・海外販路開拓を支援する専門家、商社・代理店とのマッチングに強い支援企業、法律事務所・会計事務所などを無料でご紹介しています。最初に出す商品と国の絞り込みから、現地パートナー探し、取引条件の設計まで、自社の状況に合わせたサポートが可能です。まずは無料の海外進出タイプ診断で、自社に合った進出スタイルを確認してみてください。
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