インバウンド価格(二重価格)は導入すべき?|判断基準・法的な注意点・炎上させない伝え方
訪日客や地域外からの観光客の料金を高くするインバウンド価格(いわゆる二重価格)に関心が集まっています。円安で日本の価格が訪日客に割安に映る一方、文化財や自然の維持費は増え、混雑への対応も欠かせません。「その費用を誰が負担するのか」という問いが、料金の見直しにつながっています。
ただし、料金差への受け止め方は、施設の性格、差の根拠、伝え方しだいで大きく変わります。
本記事では、外国人向けの料金設定を検討している観光施設・飲食店・宿泊事業者・自治体の担当者に向けて、導入するかの判断基準から、炎上させない伝え方と現場での運用までを整理します。
この記事でわかること
- ・「外国人向けの価格設定」と、景品表示法でいう「二重価格表示」の違い
- ・姫路城や海外の観光地の事例と、2026年9月時点の国の動き
- ・導入に向く施設・向かない施設と、法的に気をつける点
- ・価格差の根拠の示し方、多言語での伝え方、SNSでの反応への備え
1. インバウンド価格(二重価格)とは
2つの「二重価格」の違い(外国人向けの価格設定/景品表示法の比較価格表示)
「二重価格」には2つの意味があります。
1つ目は本記事のテーマである、利用者の条件によって料金を分けることです。訪日客と国内客、住民とそれ以外といった区分で料金を設けます。
2つ目は、景品表示法(商品やサービスの表示を規制し、消費者の誤認を防ぐ法律)でいう「二重価格表示」です。消費者庁のガイドラインでは、自社の販売価格に、それより高い比較対照価格を並べて示す表示を指します(出典:消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)。「通常価格」をめぐる8週間ルールなどの詳細は「訪日外国人向けクーポン施策ガイド」で解説しています。
両者が重なるのは、「一般2,500円のところ住民は1,000円」と安さを強調して並べる場合です。同ガイドラインは、他の顧客向けの価格と比べる表示で、各価格が適用される条件を実際と違えたり、あいまいにしたりすると不当表示のおそれがあるとしています。
国内外の導入事例(姫路城など公的施設・海外の観光地)と国の動き
国内で注目されたのが姫路城です。2026年3月1日から、18歳以上の入城料を姫路市民は1,000円に据え置き、市民以外は2,500円とし、18歳未満は居住地を問わず無料にしました(出典:姫路城公式サイト「3月1日以降の姫路城縦覧料等について」)。区分は国籍ではなく居住地です。当初は「外国人・日本人」の区分も話に上りましたが、議会や有識者の意見を踏まえ「市民とそれ以外」にしたと市は説明しています(出典:姫路市「姫路城縦覧料改定の取組事例」)。
海外にも居住地で分ける例があります(出典:観光庁「国内外における料金設定見直しの動き」2026年6月、米国はU.S. Department of the Interior)。
| 施設 | 料金の分け方 | 開始 |
|---|---|---|
| ルーブル美術館(フランス) | 欧州経済領域の居住者22ユーロ(据え置き)、それ以外32ユーロ | 2026年1月14日 |
| 米国の主要11国立公園 | 年間パスを持たない国外居住者は入園料に1人100ドルを追加 | 2026年1月1日 |
| トレヴィの泉(イタリア) | ローマ市民は無料、それ以外2ユーロ | 2026年2月2日 |
国の動きでは、2026年3月3日に国土交通大臣が会見で、二重価格とするか否かも含め料金は一義的には各施設管理者が設定すべきとしたうえで、ガイドラインの策定などに取り組む考えを示しました(出典:国土交通省「金子大臣会見要旨」)。同月閣議決定の観光立国推進基本計画には、公的施設等の料金設定に関するガイドラインの「策定を検討する」と記されています。観光庁は4月に調査・研究会を立ち上げ、7月に事例の「ヒアリング結果のポイント」を公表しましたが、2026年9月時点でガイドライン自体は公表されていません。
2. 導入するかの判断基準
導入に向く施設・向かない施設(公的施設と民間店舗の違い)
料金差を説明しやすいのは、住民がすでに費用を負担している公的施設です。姫路市は、市民の料金を据え置く根拠として、城下の景観整備への市税の投入、広告規制や建物の高さ制限の受け入れ、清掃ボランティアといった「多重的な市民負担」を挙げています(出典:姫路市「姫路城縦覧料改定の取組事例」)。
代わりのきかない観光資源で、維持費が大きく、利用者に占める観光客の割合が高いほど、料金差の意味も伝えやすくなります。
一方、飲食店や小売店、宿泊・体験などの民間事業者では、「住民が負担してきた費用」という根拠を示しにくいのが実情です。料金差が「外国人だから高い」と受け止められれば、口コミの評価や来店に響くおそれがあります。
法的に気をつける点(価格表示のルール・差別と受け取られるリスク)
景品表示法が問題にするのは価格の水準ではなく、価格の示し方が消費者に誤認を与えるかどうかです。英語の料金表だけ区分が抜けている、割引の条件があいまいといった表示は避けましょう。
もう1つは、国籍で扱いを変えることが差別と受け取られるリスクです。法務省は、外国人であることを理由にサービスの提供を拒否される事案を人権問題として挙げ、啓発を行っています(出典:法務省「外国人の人権を尊重しましょう」)。料金差は拒否とは異なりますが、国籍を基準にすると同じ文脈で受け止められる可能性があります。前述の事例が居住地で区分している点も参考になります。
業種ごとの手続きもあります。自治体の施設の料金は条例で定めるのが原則で、地方自治法244条3項は住民への不当な差別的取扱いを禁じています。最高裁は、住民に準ずる人(区域内に家屋敷等を持ち地方税を納める人など)への合理的な理由のない差別的取扱いを同項違反としました(出典:最高裁平成18年7月14日判決)。区分の合理性を説明できることが求められます。登録ホテル・登録旅館は、国際観光ホテル整備法により宿泊料金を実施前(変更時も)に観光庁長官へ届け出る必要があり、外客接遇上不適当で特に必要があれば変更を指示されることもあります。公共交通の運賃も法律に基づく手続きが必要です(出典:国土交通省「金子大臣会見要旨」)。導入前に弁護士など専門家へ個別に確認してください。
国籍で分ける以外の選択肢(居住者割引・体験付きの高価格プラン)
1つ目は居住者割引です。基本料金を費用に見合う水準に見直し、住民を割り引く形で、姫路城もこれにあたります。あわせて5,000円の年間縦覧券も用意されています(出典:姫路城公式サイト)。
2つ目は体験付きの高価格プランです。多言語ガイドの案内、混雑を避けた時間帯の入場、解説付きの見学などを組み合わせた上位プランをつくり、国籍を問わず誰でも選べるようにします。
3つ目は、混雑する時間帯の料金を上げる時間帯別料金です。ただし銀山温泉のシャトルバスの時間帯別運賃は分散効果が限定的でした(出典:観光庁「ヒアリング結果のポイント」)。
3. 導入するときの進め方
価格差の設計と、根拠の示し方
納得を得やすいのは、必要な費用から逆算した料金です。姫路市は、今後10年間(2025〜2034年)の保存整備などの事業費を約280億円と積算し、見込みの入城者数で割り戻して1人あたり約2,500円と算出しました(出典:観光庁「ヒアリング結果のポイント」)。「この費用を賄うためにこの金額」と説明できる形にしておくことが大切です。
増えた収入の使い道を明確に伝えた事例もあります。白川村は駐車場料金の改定で増えた収入を駐車場の全面改修やトイレの建て直しに充てる計画で、山梨県は富士登山の使用料の決算をホームページで公開しています。
自社でも、①何の費用が増えているか、②1人あたりいくら必要か、③増収分を何に使うか、の3点を先に文章にしておきましょう。
多言語での伝え方と、現場での確認方法(居住者の確認など)
料金表は、すべての言語ですべての区分を同じ内容で載せます。英語版に高い料金だけを載せると、隠していると受け取られかねません。区分の条件(例:「姫路市に住んでいる18歳以上」)と、確認に使う書類も併記しましょう。
姫路城では、市民であることをマイナンバーカードや運転免許証、在留カードなど、顔写真と氏名・住所が記載された公的な証明書で確認しており、外国籍でも市民なら市民料金です。デジタルチケットのアプリで市民かどうかを判定できるようにしたこともあり、判定に伴う混乱はほとんどなかったと報告されています(出典:観光庁「ヒアリング結果のポイント」、姫路市「姫路城縦覧料改定の取組事例」)。
窓口では、「国籍ではなく居住地で分けている」「差額は保存修理に使う」など、根拠と使い道を一言で伝える多言語の文面をスタッフ全員で共有しておきます。多言語表記の注意点は「訪日外国人向け広告で気をつけるべき規制と注意点」も参考にしてください。
口コミ・SNSでの反応への備え
姫路市は開始の約1年前に条例を改正して周知期間を長く取り、旅行会社にはツアーを組む前に知らせるよう心がけました。それでも管理事務所には「国宝なのになぜ市民だけ割引なのか」という問い合わせがあったと報告しています(出典:姫路市「姫路城縦覧料改定の取組事例」)。
想定される質問と回答は、公表と同時に多言語のFAQページで示しましょう。口コミへの向き合い方は「訪日外国人の口コミを増やす方法」で解説しています。
導入後の数字も追います。姫路城では、2026年3〜4月の入城者数(速報値、同資料)が前年比約15.8%減の約30万人だった一方、3月の縦覧料収入は約2.7億円と約1.3億円増えました。利用者数・収入・寄せられた声を定期的に点検し、見直す姿勢を示すことが信頼につながります。
4. よくある質問(FAQ)
Q1. 外国人だけ料金を高くするのは違法ですか?
一律には言えません。景品表示法が問題にするのは価格の水準ではなく示し方で、表示によっては不当表示のおそれがあります。国籍で分けると差別と受け取られるおそれもあり、自治体の施設や登録ホテル・旅館には別の手続きもあるため、弁護士など専門家に個別に確認してください。
Q2. 国の二重価格のガイドラインはもう出ていますか?
2026年9月時点では公表されていません。観光立国推進基本計画に「策定を検討する」と記され、観光庁の研究会が2026年7月に事例のポイントを公表した段階です。
Q3. 飲食店や小売店でも導入できますか?
民間店舗は料金差の根拠を示しにくく、居住地の確認も負担になります。まずは国籍を問わず選べる体験付きプランや、住民向けの割引から検討するのが現実的です。
5. まとめ
まず景品表示法の二重価格表示とは別の話だと整理し、自社が住民の負担を根拠にできる施設かを見極めましょう。
進める場合は、国籍ではなく居住地などの区分を検討し、必要な費用から逆算した金額と増収分の使い道をすべての言語で同じ内容で示します。周知期間を十分に取り、問い合わせや口コミへの答えを先に用意しておくことが、炎上を防ぐいちばんの備えになります。
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「料金を見直すべきか迷っている」という段階のご相談でも構いません。無料でご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
・姫路城公式サイト「3月1日以降の姫路城縦覧料等について」(2026年2月)
https://www.city.himeji.lg.jp/castle/0000030746.html
・姫路市「姫路城縦覧料改定の取組事例」(観光庁 調査・研究会 第2回資料、2026年5月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002002994.pdf
・観光庁「ヒアリング結果のポイント」(2026年7月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002013843.pdf
・観光庁「国内外における料金設定見直しの動き」(2026年6月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002005197.pdf
・国土交通省「金子大臣会見要旨」(2026年3月3日)
https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin260303.html
・観光立国推進基本計画(2026年3月27日閣議決定)
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/kankorikkoku/kettei/shiryo21.pdf
・消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf
・法務省「外国人の人権を尊重しましょう」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00101.html
・U.S. Department of the Interior「Department of the Interior Announces Modernized, More Affordable National Park Access」(2025年11月)
https://www.doi.gov/pressreleases/department-interior-announces-modernized-more-affordable-national-park-access
・最高裁判所 平成18年7月14日第二小法廷判決(給水条例無効確認等請求事件)
https://www.courts.go.jp/hanrei/33325/detail2/index.html
・国際観光ホテル整備法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000279
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