ケニアでビジネスをするなら知っておくべきM-PESAの実態 —現地駐在員が語る"現金なし社会"の実態
みなさん、こんにちは。CC Innovation Africaの清水です。
ケニアで生活する中で、私はほとんど現金を持ち歩いていません。その背景として、ケニアでもクレジットカード決済が可能な店がかなり多いものの、それ以上に「M-PESA(エムペサ)」と呼ばれるモバイルマネー決済がより普及している点があげられます。
M-PESAは、携帯電話を使って送金や支払いができるサービスで、銀行口座がなくても利用可能であり、店舗での支払い、個人間送金、公共料金の支払いなど、日常生活のあらゆる場面で活用されています。
ケニアでは銀行は存在するものの、支店が都市部に集中していることや、口座開設に一定の要件があることから、地域や所得層によってアクセスに差があり、すべての人が容易に利用できる環境とは言い難い状況にあります。一方で、携帯電話は急速に普及しており、SIMカードの契約数は総人口を上回る水準に達しています。複数の回線を使う人も少なくありません。こうした環境の中で生まれたモバイル決済インフラM-PESAは、単なる決済手段にとどまらず、人々の生活やビジネスを支える基盤として定着しています。
本記事では、M-PESAの仕組みと普及の背景を、現地での生活・ビジネスの視点から紹介します。
▼ ケニアでビジネスをするなら知っておくべきM-PESAの実態 —現地駐在員が語る"現金なし社会"の実態
1. ケニアは「キャッシュレスが進んだ社会」
ケニアは「シリコンサバンナ」とも呼ばれ、アフリカの中でもモバイルマネーをはじめするデジタルサービスの普及が進んでいます。特にM-PESAは日常の支払いや送金に広く利用されており、人々の生活に深く浸透しています。また、モバイルマネーの普及により現金を持ち歩く機会が減少し、犯罪抑止につながっているとの指摘もあります。
さらに、蓄積された取引データは信用評価などにも活用されており、従来は金融サービスへのアクセスが難しかった層にも融資機会を提供するなど、M-PESAを基盤としたさまざまな金融・テクノロジーサービスの発展を後押ししています。
2. M-PESAの基本的な仕組み
M-PESAは、大手通信会社Safaricomが2007年に開始したモバイルマネーサービスです。銀行口座がなくても利用できる点が最大の特徴で、全国に広がるエージェントネットワークが入出金を担うことで、実質的な金融インフラとして機能しています。
M-PESAの利用には、Safaricomの携帯番号の契約が必要です。登録後は、携帯電話を通じて送金や支払いができるほか、エージェントを介した現金の入出金や、提携銀行口座との資金移動も行えます。さらに、一部国際送金サービスとも連携しており、海外からの送金受取にも対応しています。こうした現金、電子マネー、銀行口座をつなぐ利便性の高さが、多くの人に利用される背景の一つとなっています。
M-PESAの特徴を、日本のモバイル決済と比較すると、その特異性がより明確になります。
①「銀行補完」か「銀行代替」か
日本のモバイル決済(PayPay、楽天ペイ、Suica等)は、銀行口座やクレジットカードと連動する「決済手段の拡張」といえます。一方でM-PESAは、携帯電話のSIMカードにアカウントが紐づく仕組みであるため、銀行口座を前提とせずに利用できる「銀行代替のインフラ」として機能しています。
②現金との接続方法
日本のモバイル決済でもATMやコンビニを通じた現金チャージは可能ですが、利用の中心は銀行口座やクレジットカードとの連携にあります。一方でM-PESAは、現金との接続性の高さに特徴があります。特に、全国に広がるエージェントネットワークの存在により、銀行網が十分に整備されていない地域においても、エージェントを介して現金の入出金が可能となっています。
③ユースケースの幅
M-PESAは、買い物や個人間送金、公共料金・税金の支払い、給与の受取、融資、貯蓄など、日常の金融活動全般に利用されています。日本のモバイル決済と比べ、金融サービスまで一体的に提供している点が特徴です。
④信用情報の活用方法
日本では信用情報は金融機関や信用情報機関に集約されますが、ケニアではM-PESAの取引履歴が信用評価として活用されるケースもあります。これにより、従来金融にアクセスできなかった層でもM-PESAの取引履歴をもとに融資が可能になっています。
3. 日本企業のビジネスへの実務的影響
ケニアでは、店舗での支払いや顧客からの代金回収、個人間送金など、さまざまな場面でM-PESAが利用されています。そのため、消費者向け事業や現地での小口決済を伴うビジネスを行う場合、M-PESAの利用状況を理解しておくことは重要です。
法人向けには、主にPayBillとBuy Goods(Till Number)というサービスが提供されています。PayBillは、顧客が事業者のPayBill番号とアカウント番号を入力して支払う仕組みで、公共料金や通販代金などの回収に利用されています。一方、Buy Goodsは店舗での決済を目的としたサービスで、小売店や飲食店などで広く利用されています。顧客は店舗のTill Numberを入力するだけで支払いができるため、レジでの決済に適しています。
また、企業から個人への支払いにはBulk Paymentのようなサービスも用意されています。従業員への給与や各種報酬、販売代理店への支払いなどをM-PESA口座へ一括送金できるため、企業側の支払業務の効率化にも活用されています。
4. リープフロッグが示す可能性
ケニアのM-PESAの事例は、従来型の銀行インフラが十分に行き渡る前に、携帯電話を活用して金融サービスが広く普及した「リープフロッグ(蛙飛び)」の一例といえます。
リープフロッグとは、先進国が歩んできたインフラ整備の段階を経ることなく、最新技術によって一気に社会が進化する現象を指します。
ケニアでは銀行インフラが十分に整備されていなかった一方で、携帯電話は急速に普及しました。その結果、銀行を中心とした従来型の金融システムを経由せず、モバイルマネーが直接、金融インフラとして定着するという独自の発展を遂げています。
現在では、金融機能の多くがモバイル上で完結しており、金融のあり方は大きく変わりつつあります。加えて、この動きは単なるキャッチアップにとどまらず、先進国とは異なる形で社会の進化をリードしている点も特徴的です。例えば、個人間送金の頻度や金融サービスへのアクセスという観点では、ケニアは一部の先進国を上回る水準に達しています。
こうした変化は、キャッシュレス決済に限りません。ケニアでは、スマートフォンを前提にしたサービス設計や顧客接点が広がっており、ビジネスにおいてもモバイルを起点に考える場面が多くあります。ケニアへの進出を検討する際には、日本の前提をそのまま当てはめるのではなく、現地のインフラや利用者行動を踏まえてサービスやオペレーションを設計することが重要です。
5. 今後期待されるイノベーション
こうしたリープフロッグの流れを踏まえると、東アフリカでは、金融サービスを統合したプラットフォームやクロスボーダー送金の高度化等、新たな社会モデルを生み出す出発点になり得る可能性があります。
今後、東アフリカからどのようなリープフロッグが生まれるのか。現地で事業を行う立場として、その変化をどのように捉え、実務に活かしていくかが重要になると考えています。
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