シンガポール就労ビザの種類と選び方|EP/S Pass/Work Permit比較と虚偽申告リスク
シンガポールで外国人を雇用する際の就労パスは、対象者の職位・給与水準に応じて、主にEP(Employment Pass)、S Pass、Work Permitの3種類に分かれます。それぞれ最低給与、雇用枠(Quota)、雇用税(Levy)、審査の枠組みが大きく異なるため、採用計画の段階で「どのパスで雇用するか」を制度横断で整理しておくことが重要です。
また近年は、パスの種類を問わず、申請時の給与申告と実際の支給実態の乖離(給与虚偽申告・キックバック)に対するMOM(Ministry of Manpower)の摘発が続いており、制度理解とあわせてコンプライアンス体制の点検が不可欠になっています。本記事では、3つのパスの制度比較、2025〜2026年の制度変更、そして摘発事例から見るリスク管理のポイントを横断的に解説します。
▼ シンガポール就労ビザの種類と選び方|EP/S Pass/Work Permit比較と虚偽申告リスク
1. EP・S Pass・Work Permitの制度比較
(注)EPの給与要件はCOMPASSのC1(業界別給与ベンチマーク)評価とは別の入口要件です。EPはさらにCOMPASSで合計40ポイント以上の獲得が必要です。Work PermitのQuotaは、LQS(Local Qualifying Salary。2026年7月1日よりS$1,800)を満たすローカル従業員数に基づいて計算されます。
(注)EPの給与要件はCOMPASSのC1(業界別給与ベンチマーク)評価とは別の入口要件です。EPはさらにCOMPASSで合計40ポイント以上の獲得が必要です。Work PermitのQuotaは、LQS(Local Qualifying Salary。2026年7月1日よりS$1,800)を満たすローカル従業員数に基づいて計算されます。
2. 各パスの選択の目安
- EP:月額S$5,600以上(金融S$6,200以上)の給与を支払う駐在員・現地採用の専門職・管理職。COMPASSの4項目(給与・学歴・多様性・ローカル雇用支援)で40ポイント以上が必要です。
- S Pass:EPの給与・COMPASS要件を満たさない中技能人材。Quota(サービス10%・その他15%)とLevy(一律S$650/月)のコストを織り込む必要があります。
- Work Permit:建設・製造・サービス等の現場人材。ソース国制限とDRC(業種別の外国人比率上限)、ティア制Levyの管理が中心になります。
実務では、「S PassからEPへの切替え(給与・COMPASS対応)」や「LQS引き上げによるQuota減少への対応」など、パス間をまたぐ論点が増えています。特に2026年7月のLQS引き上げ(S$1,800)は、S Pass・Work Permitの雇用枠に直結するため、ローカル従業員の給与テーブルの見直しが必要になるケースがあります。
3. 2025〜2026年の主な制度変更(横断年表)
4. 給与キックバック・虚偽申告の摘発リスク
(1)MOMが問題視しているポイント
シンガポールでは近年、EPやS Pass申請に関連する、いわゆる「給与キャッシュバック(kickback)」や「給与虚偽申告」の摘発が続いています。
MOMが実際に問題視しているのは、「申請時に申告したfixed monthly salary(固定月額給与)と、実際に保証・支給される固定給与が一致しているか」という点です。
(2)典型的なNG事例
- MOMには基準額以上で申請し、実際には低い給与しか支給せず、差額を後から返金させる
- 賞与や変動報酬で後付け調整する
- 関係会社経由で一部給与を還流させる
- 実態上保証されていない給与を固定給として申告する
(3)摘発事例と罰則
実際の摘発事例としては、以下のようなケースがあります。
- The Malayan Council事件:飲食チェーンの創業者が、13名のS Pass・EP申請において基準を満たすよう給与を過大申告し、実際には申告額を下回る給与を支給。さらに捜査段階で従業員にMOMへの虚偽供述を教唆したなどとして、2024年に禁固29週間および罰金S$22,000の判決を受けました。
- 建設・エンジニアリング業界のキックバック事件(Hong Lu Engineering事件、San Tong Engineering事件等):雇用の条件として外国人労働者から毎月現金を回収する等のキックバックにより、取締役個人が多数の訴因で立件されています。
EFMA(Employment of Foreign Manpower Act)上の主な罰則は以下のとおりで、違反1件(労働者1名・申請1件)ごとに科されるため、対象者が多いほど処分は加重されます。
(4)「悪意ある不正会社だけの問題ではない」
ここで注意すべきなのは、これらが悪意ある不正会社だけの問題ではないという点です。
特に日系企業では、以下のような給与スキームが複雑に絡み合います。
- 日本本社負担給与
- 駐在員給与の按分
- 日本賞与との関係
- HQからの立替
- グループ会社間請求
- 海外口座支給
その結果、「実務上は普通にやっていた」「昔からの運用だった」「Payroll vendor任せだった」にもかかわらず、MOM目線ではリスク認定されるケースがあります。たとえば、申告した固定給与の一部が日本本社から日本の口座に支払われている場合や、グループ間精算の過程で実質的な給与負担がシンガポール法人の帳簿・CPF申告と整合していない場合、申告給与の「実在性」を後から立証できないおそれがあります。
(5)COMPASS導入以降の審査の精緻化
COMPASS導入以降、MOMの審査粒度はかなり細かくなっています。COMPASSのC1(給与)はローカルPMETの給与ベンチマークとの比較で採点されるため、申告給与の水準が審査の中心に置かれ、給与の実在性・整合性への目線は従来以上に厳しくなっています。
EP・S Passは、「通すこと」だけではなく、以下の全体が「後から説明可能な状態」になっていることが重要です。
- 申請内容(申告給与・職務内容)
- 雇用契約
- Payroll設計
- CPF/IR8A整合
- 実際の資金フロー
5. 実務チェックリスト
- 申請時のfixed monthly salaryと雇用契約書・給与明細・送金実績が一致しているか
- 本社負担分・按分給与がある場合、その負担関係が契約・グループ間請求書で文書化され、申告給与との関係を説明できるか
- 賞与・変動報酬を固定給与に含めて申告していないか
- CPF申告(ローカル従業員)・IR8A・IR21と給与実態が整合しているか(Quota計算・タックスクリアランスにも影響します)
- 労働者からの費用回収(宿舎費・研修費等の控除)が、キックバックまたは違法控除と認定されるおそれがないか
- Payroll vendor・人材エージェント任せにせず、申請書類の最終内容を自社で確認・保存しているか
7. 当社サービスのご紹介
弊社では、シンガポール進出日系企業向けに、以下のサポートを提供しています。
- EP/S Pass/DP/Work Permit申請支援
- MOMリスク診断(申告給与・雇用契約・資金フローの整合性レビュー)
- Payroll/Tax/Accounting整合確認
複数名がEAライセンスを保持しており、お客様の案件に、EAライセンス保持者が直接サポートさせていただいております(法人EA登録番号No. 13C6394)。 長らく就労ビザに関する包括的なワンストップサービスを提供し、クライアントの皆さまがスムーズかつ安心して手続きを進められるようサポートいたします。 万一、MOMから申請が却下された場合には、当社がアドバイスを行い、MOMとのやりとりを直接対応しております。 お気軽にお問い合わせください。
出典
- MOM公式サイト:Employment Pass / S Pass / Work Permit 各Eligibilityページ
- MOM公式ガイド:How to calculate your quota and levy bill(2026年3月4日更新版)
- MOM報道発表・各種報道:The Malayan Council事件(2024年判決)
ほか
注意:上記内容は、出稿当時の最新の規制・公表情報に基づいていますが、詳細はMOM公式サイトで確認してください。個別の摘発事例の記載は公表情報に基づく概要であり、法的助言を構成するものではありません。
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