製造請負(EMS)業者の選び方|メリットやデメリットを解説

EMSとは「Electronics Manufacturing Service」の略で、電子機器の製造を受託するサービス、あるいはそれを請け負うメーカーのことを意味する言葉です。
ITや自動車業界を筆頭に、今や世界中の製造メーカーがEMSを活用しています。EMSとは80年代にシリコンバレーで生まれた「電子機器の製造受託サービス(あるいはそれを行うメーカー)」のことで、数多くのメーカーが活用するまでになった背景には電子機器のデジタル化があると言われています。
本テキストでは「EMSの基礎知識」として、EMSとは何か?から始まり、EMSが成長してきた背景や理由といった基礎知識、混同されがちなOEMやODM・ファウンドリとの違いや、世界のEMS企業ランキング・EMSの世界市場規模や今後の展望などについて詳しく解説していきます。
今さら訊けない(?)EMSの基礎知識についてしっかりおさえておきましょう。
▼EMS(製造請負)の基礎知識 | 世界のEMS企業ランキング / OEM・ODNとの違い…ほか
- 1. EMSとは?
- 2. EMSと、OEM・ODM・ファウンドリとの違いは?
- 3. EMSのメリット
- 4. EMSのデメリット
- 5. 世界のEMS企業ランキング
- 6. EMSの今後の展望 / 進化を続ける日系EMS企業
▼ アナタの海外ビジネスを成功させるために
1. EMSとは?
EMSの定義とは?
EMSとは「Electronics Manufacturing Service」の略で、電子機器の製造を受託するサービス、あるいはそれを請け負うメーカーのことです。
1980年代にアメリカのシリコンバレーで生まれたビジネスモデルで、日本の協力工場をもとにして作られたとも言われています。協力工場の場合は製品に使う部品をメーカーが指定しますが、EMSの場合は受託側が部品や資材を自社ルートで調達します。
EMSはOEMやODM、ファウンドリなどと混同されることも多いのですが、その違いについては後述します。
EMSが成長してきた歴史と背景
2020年現在、EMS企業は世界中に存在しており、その成長のスピードも非常に速くなっています。
そもそも1980年代にアメリカのシリコンバレーで始まったEMSですが、サービスが生まれた当初は、EMS企業の業務は、製造とサービスを組み合わせた事業内容でしかありませんでした。
そんなEMS企業が急速に力をつけたのは1990年代後半からになります。
先述したように、それ依然のEMS企業のおもな業務は、電子機器の設計・製造がという限られた範囲でしたが、90年代後半になると、その業務領域が、開発・物流管理・販売など、全工程を請け負うサービス形態に変化していったのです。
そのようにEMS企業の業務が拡大した背景としては、1990年代のEMS最大手企業であるアメリカのソレクトロン社が、マレーシアのペナンや中国の蘇州といった、より低賃金な地域工場を設けたことで世界的に広まったとされています。
日本でEMSが広まったのは、2000年にソニーがソレクトロン社に製造を委託したことがきっかけだと言われています。
委託する側にとって工場や人件費を削減できるのが大きなメリットであるEMSは、受託する側にとっても製造技術の向上などのメリットが得られるため、急速にサービスの範囲を広げ、多くの企業に活用されるようになりました。
製造業メーカーがEMSを活用するようになった理由
このセクションでは、世界中の製造業メーカーが、こぞってEMSを活用するようになった理由について解説します。
新製品が続々登場する製造業の市場において、相対的に電化製品の寿命は決して長いものではありません。そんな急速に変化を続ける市場のスピードに合わせて、常に新しい電化製品を作るとなると、莫大なコストがかかってしまいます。
そこで、自社の工場を維持することにコストをかけるよりも、製造を専門としている企業にアウトソーシングするEMSを採用するほうが、自社の経営資源を集約できるとして、多くの電子機器メーカーがEMSを導入したのです。
IT業界でも例に漏れずEMS化が急速に進んでいますが、その大きな要因として「電子機器のデジタル化」が挙げられます。
汎用デバイスの比率が高く、アナログ機器に比べて部品数の少ないデジタル機器はですが、組み立て技術における差別化がしづらくなったことで、価格で差別化を狙うしかなくなり、その多くの企業と製品が価格競争に陥っているの現状です。
また、デジタル機器の開発には多大なコストがかかります。技術の進歩が著しく、新技術がすぐに古いものになってしまうからです。
そのような背景から、多くの大手電子機器メーカーがEMSを導入し、コストダウンとリスク回避を行う一方で、製品の設計や開発に加えて、顧客価値を高めるためのマーケティングやアフターサービスなどに経営資源を集中する、という戦略を採るようになったのです。
世界におけるEMSの市場規模とは
EMS業界は年々市場規模が増加しています。2019年、OEM、EMS、ODMの市場規模の合計値は1兆3,000億米ドルとなりましたが、これは2024年までに1兆4,000億米ドルに達する見込みです。
EMSの市場規模は、2019年の4,456億米ドルから2024年には5,812億米ドルに逹すると予測されており、今後も順調に成長していく市場だと言えるでしょう。
さて、そんな中でも注目されているのがASEAN、とりわけフィリピンです。ASEANの中でも平均年齢が低く、人口も多いフィリピン。フィリピン政府としても、国内企業の競争力を高めるために各種の産業政策を打ち出しており、EV業界やIT業界に加え、電気電子産業において、非常に魅力的なグローバル企業が育っています。
英語話者が多く、欧米企業との取引も多いEMS企業が増加しています。そうした意味で、日本企業の取引先としても有望です。フィリピン企業と取引をすることで、グローバルな企業ネットワーク、サプライチェーンなどの足がかりにすることができるからです。
そのため、日本でも国家としてフィリピン企業との取引推進を企図しており、JICAによる「フィリピン国産業人材育成およびバリューチェーン強化を通じた産業競争力向上プロジェクト」などが提供されています。こちらに関しては「Digima~出島~」でも特設ページをを設けているので、是非ご確認いただけますと幸いです。
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ASEANの中でも平均年齢が低く、人口も多いフィリピン。フィリピン政府としても、国内企業の競争力を高めるために各種の産業政策を打ち出しており、EV業界や電気電子産業、IT業界などで、魅力的なグローバル企業が育っています。そうしたフィリピン企業と日本企業を繋ぐことにより、日本企業の発展/グローバル化に寄与することができます。
是非、魅力的なフィリピン企業との取引をスタートさせ、御社のグローバル展開を加速させてください。
2. EMSと、OEM・ODM・ファウンドリとの違いは?
EMSと混同されがちなのがOEM、ODM、ファウンドリ。それぞれの違いもおさえておきましょう。ODMとOEMの詳しい内容についてはセクション最後のリンク記事もぜひご参考ください。
「OEM」とEMSとの違い
OEMはOriginal Equipment Manufacturingの略で、発注元が設計を行って、生産だけを受託する生産形態です。
OEMにはおもに2つの種類があります。
① 受託者が企画した製品を提案。相手先のブランド名で製造する
② 委託者が受託者に対して自社ブランド製品の製造を委託する
それに対して、EMSは製造だけではなく、設計・部品調達・配送といった流通過程も担当します。
「ODM」とEMSとの違い
ODMはOriginal Design Manufacturingの略で、製造だけでなく企画・設計も含めて受託する生産形態なので、OEMよりもEMSに近い生産形態と言えます。
ODMは各工程を発注元と相談・協力しながら行いますが、EMSは各工程を一貫して請け負うため、発注元はEMS企業に対して設計から生産までのすべてを任せる、というのが大きな違いです。
「ファウンドリ」とEMSとの違い
ファウンドリは、半導体業界で普及しているビジネスモデルです。発注元の設計図に基づいて製品を生産するもので、EMSの元となった「協力工場」に似た、垂直分業の一種です。
3. EMSのメリット
このセクションでは、EMSを導入した際のメリットについて、委託企業と受託企業の両方の側面から見ていきましょう。
委託企業から見たEMSのメリット
まず、委託企業から見たEMSの大きなメリットは下記の2つになります。
① コストを削減できる
② リスクを事前に回避できる
以降より、それぞれ詳しく解説します。
メリット① コストを削減できる
製造分野を他社に委託するEMSを採用すれば、設備投資や人件費を削減することができ、他の分野に経営資源を集中させることができます。
このような、「fab(fabrication facility)=工場」を持たない企業やビジネスモデルは「fabless(ファブレス)」と呼ばれており、EMSが世界に広がると同時に、このようなファブレス企業も増加しました。
メリット② リスクを事前に回避できる
市場のスピードは目まぐるしく、需要の変化や技術の向上によって、これまでの製品があっという間に陳腐化してしまうことも。
市場が変化するたびにそのスピードに合わせて設備投資を行うのはなかなか難しいものですが、製造を外部に委託していれば、リスクを事前に回避することや、市場変化への対応を迅速に行うことができます
受託企業から見たEMSのメリット
続いては、受託企業から見たEMSのメリットになります。
① コストを削減できる
② 技術やノウハウを得ることができる
以下より、詳しく見ていきましょう。
メリット① コストを削減できる
EMS受託企業は、さまざまな製品を、メーカーの垣根を超えて製造することができます。そのため、生産量が増えれば増えるほど、部品などを大量購入することにより、調達コストを削減することができます。
メリット② 技術やノウハウを得ることができる
受託企業は、EMSによって生産に必要な技術やノウハウを蓄積していくことができます。最近では、そのノウハウを活かし、委託生産だけでなく自社ブランド製品を販売しているEMSメーカーも登場しています。
4. EMSのデメリット
メリットに続いては、EMSを導入した際のデメリットについて、見ていきましょう。
委託企業・受託企業の双方から見たEMSのデメリット
EMSでは委託企業が受託側の現場に対して直接指示をすることはできません。
そのために起こり得る「品質管理の問題」や、「トラブルが発生した際の対応に時間がかかる」ことが、委託側、受託側双方のデメリットと言えるでしょう。
特に、製品に問題が発生した際には、責任の所在が委託側と受託側のどちらにあるのか、といったことでトラブルが起こりますし、「受託側のミスが委託側のブランドイメージを傷つける」ということにもつながりかねないので、双方とも注意が必要です。
5. 世界のEMS企業ランキング
世界のEMS企業の売り上げランキング
EMSの概要および、それを導入する際のメリット&デメリットが理解できたら、ここでは、世界ではどのようなEMS企業が活躍しているのが、その売り上げランキングを見てみましょう。
結論から言うと、世界のEMS企業ランキングは、上位5位のうち、1位がホンハイ(台湾)、2位がペガトロン(台湾)、4位がウィストロンと、半数以上が台湾の企業となりました。※
※3位のジェイビルと5位のFLEXはとものアリメリカ企業
以下より、1位〜5位のEMS企業について、詳しく見ていきましょう。
世界のEMS企業 売上高ランキング(2019年)
(金額単位:10億ドル カッコ内は前年比増減比率)
出典元:
「世界EMS企業売上げランキング、台湾ホンハイがトップ 2位に大きく差」 電波新聞
1位:ホンハイ(台湾)
1974年にプラスチック加工会社として創業したホンハイは、創業者である郭台銘(かく たいめい。英名はテリー・ゴウ)氏が、一代で築き上げた台湾最大の企業です。
2位以下に大きく差をつけてEMS企業の売上ランキング1位となったホンハイ。中国などに生産拠点を構えるフォックスコングループの中核であり、アップルのiPhoneのEMSを手掛けたことで知られ、2016年、経営危機に陥ったシャープを傘下に収めたことでも話題になりました。
2位:ペガトロン(台湾)
2008年、台湾の大手コンピュータメーカーであるASUSの生産部門が独立し、ペガトロンが生まれました。もともとコンピュータメーカーの生産部門であることから、パソコンやモバイル端末、サーバーや液晶テレビなど、さまざまな電子機器の製造を得意としている企業です。
アップル社のCEOが、ホンハイとつながりの深かったスティーブ・ジョブズ氏からティム・クック氏へと変わったタイミングでアップル社製品の受注を獲得し、業績を一気に伸ばしました。
第3位:ジェイビル(アメリカ)
ジェイビルは、1966年にミシガン州デトロイトで設立されました。家電メーカーや自動車メーカーなどから、回路設計、製造、物流までを包括的に請け負うEMS企業です。
1979年にゼネラルモーターズと契約したことから市場を拡大し、1998年にはニューヨーク証券取引所に上場しています。
第4位:ウィストロン(台湾)
ウィストロンは、コンピューターメーカーAcerの製品設計・製造・サービス部門が独立して生まれた、台湾の電子機器受託生産大手企業です。
第5位:フレックス(アメリカ)
2015年7月にフレクストロニクスから社名を変更したFLEX。マイクロソフト社のXbox などを手掛けたことで知られ、2008年にはホンハイに続いて世界2位のEMS企業でした。
1969年に米国で創業し、携帯電話やデジタルカメラなどの生産で実績を築き、2008年にはソレクトロンを買収しています。
番外編:INTEGRATED MICRO-ELECTRONICS(フィリピン)
Integrated Micro-Electronics, Inc. または IMI は、Ayala Corporation の完全子会社である AC Industrial Technology Holdings, Inc. のエレクトロニクス製造部門であり、世界有数のグローバル テクノロジーおよびエレクトロニクス製造ソリューションの専門家です。同社は、自動車、産業、パワー エレクトロニクス、通信、医療、航空宇宙市場の長い製品ライフ サイクル セグメント向けの信頼性の高い高品質のエレクトロニクスを専門としています。 (参考) 特設「フィリピン国産業人材育成およびバリューチェーン強化を通じた産業競争力向上プロジェクト」
6.EMSの今後の展望 / 進化を続ける日系EMS企業
世界におけるEMSの今後の展望とは?
次々に新しい電子機器が誕生し続ける今、世界的な製造業の分散化がEMSにとって追い風となっています。EMSの業界規模は右肩上がりに成長を続けており、今後しばらくはさらに拡大していくことでしょう。
とはいえ、これまで電子機器受託生産でトップに立っていた中国や台湾においては、賃金水準の上昇や、アメリカと中国の対立などの不安要素から、今後は東南アジアが生産拠点として台頭してくるという見方もあります。
海外進出を果たしている日本のEMS企業
近年、大阪の「シークス」や埼玉の「UMCエレクトロニクス」といった、日系EMS企業の海外進出も注目されています。
おもに自動車業界およびティア1と呼ばれる、完成車メーカーに直接部品を供給するメーカー市場で、両社の活躍が目立っています。
そもそも自動車業界は、従来のモノづくりから、「CASE」(※)と呼ばれるコネクテッドや自動運転、さらにはカーシェアなどのサービスやエコカーといった、より多様性のあるビジネス戦略が求められる市場に変化しています。
※CASEとは、C(Connected:コネクテッド)、A(Autonomous:自動運転)、S(Shared & Service:シェアリング/サービス)、E(Electric:電動化)の頭文字をとった造語
従来の自動車メーカーおよびティア1メーカーの多くが、それらのCASEという新たなビジネスモデルにリソースを注力する必要がでてきたことで、既存の比較的製造難易度の低い製品の生産を外部委託する事例が増えてきているのです。
これらは世界の自動車市場における大きなトレンドとなっており、そのような背景から、以前よりモノづくりの信頼度が高い日系EMS企業の活躍の場が広がっているのです。
7. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
御社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介します
今回は「EMSの基礎知識」として、EMSとは何か? EMSが成長してきた背景や理由とは? 混同されがちなOEMやODM・ファウンドリとの違いや、世界のEMS企業ランキング・EMSの世界市場規模や今後の展望…などについて解説しました。
加速し続ける市場の変化に合わせて、製造業における生産形態もさまざまな変化を見せています。
もともとは製造とサービスを組み合わせただけの事業であったEMSが開発・物流管理・販売など、全工程を請け負うサービス形態に変化していったことからも、これからもさまざまなサービス拡大や、世界情勢の影響による生産拠点の変化など、EMSは進化し続けていくのでしょう。
『Digima〜出島〜』には、厳正な審査を通過した優良な海外進出のサポート企業が多数登録しています。当然、複数の企業の比較検討も可能です。
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