人口トレンドで読み解く世界市場戦略 | 事例が示す"今"狙うべき顧客層
α世代(アルファ世代/ジェネレーションα)の台頭、高齢化の加速、出生率の低下といった人口動態の変化が、世界の市場を大きく揺り動かしています。平均寿命の伸長と文化的多様性は消費者の優先順位を塗り替え、海外移住の活発化がその変化をさらに加速させます。
- セグメンテーションの再設計
- シニア層・若年層それぞれを見据えたイノベーション
- 文化的背景を考慮した商品開発
に踏み出す企業が、変化する人口のうねりの中で持続的な成長を手にするでしょう。
▼ 人口トレンドで読み解く世界市場戦略 | 事例が示す"今"狙うべき顧客層
1. α世代:フォロワーからトレンドセッターへ
デジタルネイティブがもたらす「二重の力」
α世代は、影響を与える側でありながら同時に受ける側でもある、新しい世代像を体現しています。2025年までに人口は20億人を超え、史上最大かつ最も多様な世代に。長寿化により消費期間が伸び、過去の世代よりも高い購買ポテンシャルを備えています。デジタル環境に深く浸って育つα世代の消費者は情報処理が速く、「知識と洞察」を武器に、個人消費の傾向やカルチャーを年齢以上に動かしていきます。
影響力のシフト:同世代とクリエイター
一方で、デジタルネイティブであるがゆえに、同年代やオンラインクリエイターの声が、親からのアドバイスに匹敵する影響力を持つようになりました。TikTok、YouTube、Minecraft、Roblox は遊び場であると同時に、マーケットプレイスであり、知識の源でもあります。ユーロモニターが実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー: デジタルショッパーサーベイ(2025年)」では、親が挙げた子どもに最も人気のプラットフォームはYouTubeとTikTokでした。
[事例] McDonald's x Minecraft:強力なコラボレーションとα世代への影響
McDonald'sはMinecraftと提携し、「Minecraft Movie Meal」をアメリカで発売しました。この特別メニューには、限定パッケージ、コレクタブルトイ、さらにゲーム内で使える限定コンテンツが含まれています。このクロスライセンス施策により、Minecraftは玩具以外の業界で新たな顧客接点を創出し、McDonald'sはゲームと強く結びつくα世代への関連性を高めました。
このパートナーシップにより、MinecraftはMcDonald'sのグローバルな販売ネットワークを通じて新しい消費者層にリーチし、ブランド認知度の大幅な向上に成功。一方で、McDonald'sはエンターテインメントと消費市場における影響力を強化し、インフルエンサーとして重要な役割を果たすα世代へのアプローチを実現しました。
2.高齢化の「再定義」
経済影響の拡大と構造変化
65歳以上の人口は、医療・生活水準の向上を背景にかつてないペースで増加。2025年、この層は先進国の総所得の約21%を握る有力セグメントとなり、先進国では初めて0~19歳よりシニア層が上回る構造に変わりました。新興国も今後、同様の軌跡をたどる見込みです。
そのため、企業にはニーズの異なる層に合わせたビジネスモデルの再設計が迫られます。生活必需品への比重は大きいものの、コト消費やウェルネス関連商品への裁量支出は増加傾向。たとえば腸・認知・骨といった機能に配慮した栄養製品の需要が伸び、日本の雪印メグミルクは腸活をサポートする「恵 megumi ヨーグルト」や記憶力維持をサポートする「記憶ケア」などで市場を先行しています。
[事例] Weledaの成熟肌向け新ライン:ホリスティックな自然派スキンケア
2024年7月、自然派スキンケアブランド「Weleda」は、成熟肌をターゲットにした「Contouring Face Care」ラインを発売しました。主要成分にはリンドウとエーデルワイスを採用し、更年期による肌の変化に対応することを目的としています。ラインナップには、デイクリーム、ナイトクリーム、アイ&リップクリーム、フェイスセラムが含まれています。
女性が更年期を迎えると、ホルモンバランスの変化により肌は大きな影響を受けます。コラーゲンやエラスチンの生成が減少し、しわやたるみ、敏感肌といった問題が顕著になります。こうした背景から、更年期後の肌悩みに特化した製品は、肌の維持という基本的なニーズに応える重要な役割を果たします。
さらに、年齢やライフステージに応じたスキンケアソリューションは、明確な価値を消費者に伝えることができます。単なる維持だけでなく、肌の最適化を目指すことで、ブランドは差別化されたポジショニングを確立し、消費者の信頼を獲得することが可能です。
固定概念を乗り越える:資産とデジタル活用
また、「シニア層は倹約家でテクノロジーに消極的」という概念に囚われている企業は数多く存在しますが、その考えはすでに時代遅れです。資産形成を経たシニア消費者は不確実な時代の中でも裁量支出を維持。デジタル活用の拡大によってブランドへのリーチと影響力はむしろ増し、パーソナライゼーションを実現するための道が開かれています。
3.「ウェイトウェルネス」の波
ウェルネスマインドの転換期
体重への関心の高まりが、グローバルレベルでウェルネスの優先順位を書き換えています。過去10年で、成人の過体重(overweight)割合は26%から29%へ上昇。2025年には、新興・途上地域の平均BMIも25を超え、先進国に続いて「過体重」の域に。体重増と健康リスクの認知は、短期的な取り組みではなく、メタボリックヘルス(代謝の健康)を含む持続的な取り組みへと消費の対象をシフトさせています。
[事例] Bob’s Red Millのオーツ:高たんぱくとシンプルさの融合
Bob’s Red Millは、標準的なオーツに比べて60%多くのたんぱく質を含む「Protein Oats」を開発しました。この新商品は、高たんぱく・高食物繊維・最低限の原材料という、消費者の複数の好みを同時に満たしています。
Protein Oatsは、体重管理を重視する消費者にとって重要な要素であるたんぱく質と食物繊維を兼ね備えています。2023年の初回発売は成功を収め、最近では新たに「オーバーナイトオーツ」ラインへと拡大しました。
このイノベーションは、たんぱく質・食物繊維・シンプルさを組み合わせた多機能食品への消費者需要の高まりを反映しています。Protein Oatsの成功とそのライン拡大は、体重管理、クリーンラベル、利便性を重視する製品への関心が強いことを表しています。
長期戦への移行を阻む壁
このウェイトウェルネスの波を動かすのは、以下の2要素です。
- 体重増・栄養不良・疾病リスクの高まりという、健康上避けられない問題
- インクルージョンやボディポジティブなど、自分のウェルネスを主体的に捉える文化・意識へのシフト
とはいえ、先進療法や信頼できる情報へのアクセス格差、高額費用、行動変容の難しさ、文化的背景、教育の不均一さなど、普及・定着を阻む壁も依然として大きいのが現状です。
4.ボーダーレス消費
多様化を進める海外移住と好奇心
移民の増加、ディアスポラの拡大、文化への好奇心、グローバルな繋がりが市場を再構築し、消費者の景観を変えています。調査対象の63市場では、2015~2025年にかけて外国籍人口は約3,400万人増加。2025年時点で米国は人口の7%、英国は9%が外国籍で、今後さらに民族的・文化的多様性が進む見込みです。ユーロモニターが実施した2025年のライフスタイルサーベイでは、世界の消費者の64%が「異文化体験を重視」と回答しており、多用な文化体験への需要が高まっています。
信頼性と異文化適応力が生む競合優位性
企業にとっては、在留者と国内の両方に響くポートフォリオを整える課題が生じます。新らしいフレーバーなど表面的な対応はむしろ逆効果となる可能性も。成否を分けるのは信頼性(Authenticity)であり、マーケティング戦略を練る際には、多様な文化への理解を示す繊細さが不可欠です。伝統に着想を得たプロダクト、インクルージョン、多文化への理解を示す取り組みが、各分野での革新を後押しします。
[事例] adidas × MAZ「Raíz de Fénix」:コロンビアの伝統を讃えるコレクション
2024年、adidasはコロンビアのブランド「MAZ Manuela Álvarez」とコラボレーションし、コロンビアの職人技術を取り入れた「Raíz de Fénix」コレクションを発表しました。このコレクションでは、マクラメ、ビーズ細工、織物、レザー成形といった伝統的な技法を用いて、adidasの定番アイテムを再創造しています。
「Raíz de Fénix」は、文化的背景を重視したファッションと本物のストーリーを提供することで、2024-2025年のグローカリゼーション(グローバル+ローカル)トレンドを体現しています。この取り組みにより、adidasは新たなファンを獲得し、コロンビアの職人を支援しながら、倫理的でコミュニティ主導、かつ持続可能な取り組みを推進しています。
5.バースクエイク:未来を揺さぶる出生率低下
少子化が変える需要と労働供給
世界的な出生率低下が、労働供給や消費構造を変えています。合計特殊出生率は2015年の3.1から2025年には2.8へ低下。0~1歳の乳幼児人口は9%減の2億5,600万人に。出生率が高いチャドやコンゴ民主共和国でも、2015年の6.7、6.4から2025年には5.9へ下がり、低下の構造的な特徴が浮き彫りになりました。直近では、家族向けカテゴリー商品の需要縮小が現実の影響として表れています。
リセグメンテーション(再分割化)とプレミアム化
中長期では、シニア層に特化した市場が強力な成長エンジンに。投資とイノベーションの軸足を高齢層に移す企業ほど、「バースクエイク」時代における価値を獲得できます。短期的には「より少なく、より良く」が基本線。世帯所得の上昇と出生数の減少により、子ども一人あたりの支出が増えるため、プレミアム化の機会が広がります。
[事例] 視野を広げる:a2 Milk、中国でシニア栄養市場へ戦略的シフト
2023年12月、a2 Milkは中国でシニア向け栄養製品を発売しました。免疫、骨・関節、腸、心臓の健康をサポートする大人用粉ミルクは、旧正月のギフト需要に先駆けて投入されたことで、発売直後に完売し、強い初期需要を獲得しました。中国では出生率低下により乳児用粉ミルク市場が縮小する中、a2 Milkは急成長するシニア栄養市場(60歳以上3億人、二桁成長)に参入。この動きは高齢化と健康志向の高まりに対応するもので、同社のポートフォリオを乳児用粉ミルク依存から脱却させ、成熟層の栄養需要を取り込む成長機会を創出しています。
まとめ
文化的探求への欲求や健康志向の高まり、柔軟性を求める価値観、そしてα世代の影響など、消費者の期待はますます複雑化しています。ブランドが成功するためには、地域の伝統を取り込み、包括的な健康ソリューションを提供し、柔軟な価値提案で選択の幅を広げることが重要です。さらに、先進国市場での迅速な検証とグローバル展開、ゲーミフィケーションや共創によるエンゲージメント強化が、長期的なブランド価値を築く鍵となります。
なお、ユーロモニターは世界有数の市場調査会社です。創業以来50年以上、ビジネスインテリジェンス、国際市場分析そして消費者インサイトを提供することで、企業の皆様をサポートしてきました。私たちの調査ソリューションは、特定の都市から、国、地域そして世界市場までをカバーし、顧客が抱く戦術的および戦略的課題に対応しています。市場調査でお困りの方や、海外進出にあたって不安材料がある、どこから手を付けたら良いのか分からない、といったお悩みをお持ちの方は、一度お気軽にお問い合わせください。皆さまのビジネスニーズに合わせた市場調査ソリューションを提案いたします。
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