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新型コロナウイルスによる「中国からの生産移管」を受けて東南アジア各国が「外資優遇策」を続々発表

掲載日:2020年02月18日

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東南アジアで勃発している、新型コロナウイルス(COVID-19)の拡大および、米中貿易戦争を発端とした「中国からの生産移管の誘致合戦」について、タイ、マレーシア、インドネシアがそれぞれ打ち出している優遇策をピックアップして解説します。

2018年夏に勃発して以降、依然長期化する米中貿易摩擦による制裁関税の影響で、製造業を中心とした世界中の企業が「中国からの生産移管」を実施および検討していました。加えて、2019年12月より中国湖北省武漢市で発生した「新型コロナウイルス」の拡大によって、その「中国からの生産移管」の動きがさらに加速しています。

そんな中国からの生産拠点の移転の恩恵を受けているのが、これまで中国の対米輸出に寄与してきたアジア新興国となります。

中国からの生産移管が始まった頃は、ベトナムに後塵を拝していた東南アジア諸国ですが、ベトナムに続けとばかりに、海外からの製造業の誘致を目指し、外資系企業への優遇策を次々と発表・実施し始めています。

米中貿易摩擦に加えて、新型コロナウイスルの発生によって、さらに加速する可能性が高くなった「中国からの生産移管」を背景にした、アジア全域のサプライチューンの新たな変化を考察していきます。

1. なぜ世界の企業が中国からの生産移管を画策しているのか?

「米中貿易戦争の勃発」と「新型コロナウイルスの発生」が要因

生産移管とは「生産場所を移すこと」を指します。

2020年現在、米中貿易戦争の長期化、さらには新型コロナウイルス(COVID-19)の拡大を受けて、中国からの企業の生産移管が活性化しています。

つまり、世界中の多くの企業が、これまでの中国での生産拠点を東南アジア各国に移行する動きが目立っているということになります。

では、なぜ多くの企業が、中国から投資・生産をシフトさせようとしているのでしょうか?

これまで、その「中国からの生産移管」の大きな要因は、米中貿易戦争を背景にした、アメリカが中国に行っている「制裁関税」にありました。しかし、2019年12月より中国湖北省武漢市で発生した「新型コロナウイルス」の拡大によって、さらに「中国からの生産移管」が加速しつつあるのです。

次のセクションからは、そんな「中国から生産移管」を加速させた「米中貿易戦争」と「新型コロナウイルスの拡大」について、それぞれ解説していきます。

2. 米中貿易戦争によるアメリカから中国への「制裁関税」がトリガーに

2018年7月より勃発した米中貿易戦争

2018年7月より勃発した米中貿易戦争とは、端的に言えば〝お互いが相手国からの輸入品について関税をかけ合う〟という貿易摩擦です。これまでに4段階に渡って制裁関税がかけられてきましたが、第1〜3弾の時点でアメリカは中国からの輸入(18年は5,400億ドル)の約半分に25%の関税を上乗せしてきました。

そもそも世界の企業の多くが中国に生産拠点を確保した大きな理由は、中国が持つ豊富な労働力(人口)と安い人件費を背景とする「安価な生産コスト」にあります。

しかし、先述のアメリカによる「制裁関税」は、これまで世界中の多くの企業が享受していた「安価な生産コスト」の恩恵を根底から覆すものとなりました。

つまり、この度の米中貿易戦争を発端とする「制裁課税」の発動によって、これまで「世界の工場」の異名を持っていた中国の生産拠点としてのメリットは減少。その結果、多くの企業が、中国からの「生産移管」を実施および検討し始め、中国一極化のサプライチューンの解体の兆しが見え始めたのです。

当然ながら、世界の二大国の貿易摩擦は世界経済にとって好ましい状態ではありません。

2019年9月に発動された第4弾において、その制裁関税の対象は全体の約7割までに拡大。そのうちスマートフォンやノートパソコン、玩具などの555品目の計1,600億ドル分は年末商戦に配慮して先送りされましたが、2019年12月15日に9月の時と同じ15%を課す予定となっていました。

2020年1月15日の貿易協議「第1段階」の合意で貿易摩擦は一時休戦となったが…?

世界中が両国の対立がいよいよ大詰めになったことを意識する中、2020年1月15日、アメリカと中国両国は、貿易協議「第1段階」の合意文書に署名。中国がアメリカ商品の輸入拡大や知的財産権保護などに応じる代わりとして、アメリカは2018年夏以降初となる制裁関税の一部を引き下げることに合意。なんとか米中貿易戦争は「一時休戦」状態となったのです。

しかし、それもつかの間…2019年12月より中国湖北省武漢市で発生した「新型コロナウイルス」によって、世界中の企業が中国市場を見限る動きが更に加速しつつあるのです。

3. 新型コロナウイルスの発生が「中国生産移管」の更なる追い風に

高まる中国サプライチューン一極化のリスク

2019年12月より中国湖北省武漢市で発生した「新型コロナウイルス」は、発生地の湖北省武漢市周辺のみならず、中国各地に進出している日本企業に影響を与え始めています。

大きな動向としては、自動車部品工場が集積している武漢市が新型コロナウイルスの発生源であることで、2020年2月現在も同市の工場が事業活動を停止していることが影響しています。

例えば、ホンダは、上海市に本社を置く合弁の二輪車事業の生産再開を延期すると発表。自動車会社のみならず、TOTOも、上海市内にある便器と温水洗浄便座「ウォシュレット」の工場2つの再開延期を決定しています。

今後、中国企業が無事に経済活動を再開したとしても、新型コロナウイルスの感染は依然として拡大中であり、今後は中国のみならず、世界経済全体に大きな打撃を与えることは避けられない見通しとなっています。

つまり、中国にサプライチェーン(供給網)を集中させること関して、世界中の企業が高いリスクを意識しているということです。

4. 中国からアジア諸国への生産移管が活性化

米中貿易戦争がアジアのサプライチューンにもたらす変化とは?

では、新型コロナウイルスの拡大および、アメリカから中国への制裁関税を回避した企業が次の生産拠点に選ぶ国・地域はどこになるでしょうか?

その答えは…アジアの新興国になります。

すでに「チャイナプラスワン」というワードで知られているように、アジア新興国が中国を中心とするサプライチューンに組み込まれる動きが活発化していました。

その理由としては、近年の中国国内の人件費高騰にともなう生産コスト上昇であったり、世界的な環境規制の強化によって中国国内の事業環境が制限させる機会が増加しているなど様々ですが、いずれにせよ、中国一極集中のリスクを分散するという目的によるものです。

さらに、このたびの新型コロナウイスル拡大および、米中貿易摩擦による関税引き上げの影響もあり、世界中の企業が中国からの生産移管を実施および検討する運びとなったのです。

5. 東南アジアで勃発する「中国からの生産拠点の誘致合戦」とは?

先頭を走るベトナムを追随する東南アジア諸国

前項までで解説した、中国からの生産拠点の移転の恩恵を受けているのが、これまで中国の対米輸出に寄与してきたアジア新興国となります。

そんな状況の中、新型コロナウイルスの発生以前から、もっとも注目されていたのがベトナムでした。

アメリカが中国製品に課す制裁課税を回避するべく、東南アジアの中でも比較的生産コストが低いベトナムに、中国から生産拠点を移転する企業が相次いでいたのです。

事実、ベトナムは人件費の安さ(一般工の賃金は中国の1/2〜1/3くらい)や、EUなどとのFTA(自由貿易協定)の存在、中国との地理的な近さなどから、縫製業などを中心に、多くの海外企業が生産移管しています。

2019年9月4日付けで発行された、野村インターナショナルがまとめたリポートでは、米中摩擦を理由にした移管計画82件のうち、ベトナムへの移転が全体の3割を占めており、対象国のなかではトップという報告がなされていました。

※参照:『中国からの生産移管先、ベトナムが一人勝ち』日本経済新聞

しかし、そんな〝ベトナム一人勝ち状態〟から変化が起こり始めています。中国からの生産移管が始まった頃は、ベトナムに後塵を拝していた各東南アジア諸国ですが、ベトナムに続けとばかりに、海外からの製造業の誘致を目指し、外資系企業への優遇策を次々と発表・実施し始めたのです。

次項からは、本テキストのメインテーマである、東南アジアで勃発している、米中貿易戦争を発端とした「中国からの生産拠点の誘致合戦」について、タイ、マレーシア、インドネシアがそれぞれ打ち出している優遇策をピックアップして解説していきます。

6. タイにおける外資の製造業優遇策

外国企業の法人税を5年間50%に軽減

2019年9月、タイ政府はタイに生産移管した企業に対する優遇策を発表。

具体的には、2021年末までに、高度な電子産業や生化学産業などの分野で、10億バーツ(約36億円)以上を投資した外国企業の法人税を、5年間は50%に軽減するというものです。

日本企業のケースだと、カシオやリコーなどが、自社の製品がアメリカ政府が発表した対中制裁関税「第4弾」の対象製品に含まれていることから、関税を軽減するべく、タイへの生産移管を決定しています。

もともと歴史的にも中国などのアジアだけでなく、オセアニアや中東などへの輸出基地としての役割も担ってきたタイだけに、今後も多くの企業が生産移管を実行する可能性も高いとされています。

7. マレーシアにおける外資の製造業優遇策

5年間で年10億リンギ(260億円)の優遇措置

2019年10月、マレーシア政府は、自国に新たに投資する外資系大手やスタートアップを対象に、5年間、年10億リンギ(260億円)程度の優遇措置を適用すると発表しました。

具体的には、減税や補助金の支給などが含まれるとされており、近々、日本企業を含む、重点誘致対象となる大手企業を定める予定とされています。

現在、アジア諸国の中でもっとも生産移管が活性化しているベトナムと比較した場合、賃金の面ではデメリットがあるものの(マレーシアおよびタイの一般工の賃金はベトナムの約2倍)、総合的な技術力や熟練労働力の面では優れているとの評価があるのがマレーシア。

2019年以降は、マレー半島沖のマラッカ海峡に浮かぶペナンに電気・電子メーカーが集積していて、その中でもアメリカの半導体企業の生産移管の活性化が注目されています。

8. インドネシアにおける外資の製造業優遇策

ジョコ大統領は自国の経済を多くの外資に開放する方針

以前より、投資拡大や産業競争力を強化すべく、国を挙げての多様な誘致政策を打ち出していたインドネシア。2018年2月には貿易手続きの簡略化や経済特区での優遇税制を含む優遇政策を発表していたものの、アジア諸国における外資誘致合戦において、大きく遅れをとってきた印象が否めませんでした。

世界銀行によると、2019年6〜8月に中国からの生産移管を発表した33社のうち、23社がベトナムとするなかで、インドネシアを挙げた企業はありませんでした。

しかし、そのような厳しい状況の中、2期目となるジョコ大統領は、中国に拠点を置く企業の誘致に注力することを関係各省に指示。年内に労働基準の抜本的改革を想定した法改正を提案し、自国の経済を多くの外資に開放する方針です。

そんなインドネシアの外資誘致による産業競争力強化において、その中核を担うのが「繊維産業」。台湾のアパレル受託大手で、ナイキとも提携している儒鴻企業(エクラ・テキスタイル)が、1億7,000万ドルを投資して、インドネシアでの一貫生産を担う新工場を移転する計画が報告されています。

9. 「新たなサプライチューンの構築」として生産移管をとらえる

今後も世界中で「生産移管」は加速するのか?

ここまで、米中貿易戦争を発端とした「中国からの企業の生産移管の活性化」および、それらを巡る「東南アジア諸国による外資の製造業誘致の争奪戦」について解説しました。

ただ、米中貿易戦争が深刻化および長期化する限り、今後も中国からアジア諸国への生産移管は進んでいくことは確実ですが、それらが圧倒的なスピードで進行していく可能性は少ないと思われます。

なぜなら、いまだ中国を中心とした複雑なサプライチューンは存在し続けており、そのシステムを一気に変更するのは決して容易なことではないからです。

そもそも膨大なお金と時間というコストを費やしたサプライチューンを解体して生産移管を実行したとしても、必ずしもこれまでのように安価な原材料を調達できるとは限りません。

また、中国からほかの国に生産拠点を移転しても、原産地認定基準をクリアする必要もありますし、改めて俯瞰して見ると、単純に生産移管をしたところで、移転以前と比較してコストが削減できるとは限らないからです。

ただ、製造業に限らず全ての産業および事業活動において、生産コストの削減は永遠のテーマであり、長期的な視点で見れば、永久に同じ生産拠点を維持し続けることは現実的ではないでしょう。

そういった意味でも、多くの海外進出企業にとって、今回の米中貿易戦争を発端とした「生産移管」問題については、いずれは取り組まなければなかった「新たなサプライチューンの構築」という、生産ラインを見直すポジティブな機会としてとらえた上で、次のアクションに繋げていくのが得策です。

10. 優良な海外進出サポート企業をご紹介

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今回は、東南アジアで製造業誘致の争奪戦が勃発していることをメインテーマに、中国からの生産移管が活性化している理由、さらには東南アジア諸国が発表している製造業における外資優遇策について解説しました。

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(参照文献)
「中国の生産代替地になりうるのはどこか?」米中貿易摩擦によるアジア新興国への影響
大和総研グループ
「米中貿易戦争と中国からの生産移管 ~大局的には「チャイナ+(プラス)」という構造変化~」
丸紅アセアン会社

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この記事を書いた人

SukegawaTakashi

助川 貴

株式会社Resorz

「Digima〜出島〜」編集部・コンテンツディレクター。 雑誌編集・書籍編集・WEB編集を経て現職。 これまでに、アメリカ・イギリス・インド・中国・香港・台湾・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・マレーシア・シンガポール・インドネシア・フィリピン・エジプトなどの国・地域へ渡航。趣味は、音楽・スノーボード・サーフィン・ドローンほか。

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