中国・アジアの「経済特区」の場所・投資メリットをわかりやすく解説
「経済特区」とは、その国の法律や規制とは別に、特定の地域において経済活動を行う際の特典や優遇措置を提供する制度のことを指します。
経済特区は、1970年代の中国が改革開放政策として外資誘致を目的に開発したことが起源だとされています。近年ですと「アジアのシリコンバレー」と呼ばれる中国の「深セン」がもっとも有名な経済特区と言って良いでしょう。
現在、世界140ヵ国4,500ヵ所の経済特区に匹敵する地域があると推定されています。また、域内の会社に勤める人も6,600万人おり、そのうち3,000万人は、中国で働いているとされています(2015年時点、国連調べ)。
このように世界各国に点在している経済特区ですが、最近では経済成長が著しいアジア太平洋地域(ASEAN、インド、パキスタン等)でも開発されています。それらの中には、総合商社や日系デベロッパーが開発に参加している例も数多く見られます。
本記事では、中国を筆頭にアジア全域で開発が進んでいる「経済特区」についてわかりやすく解説。また、日本企業が海外の経済特区に投資するメリットについてもレクチャーします。
さらに「中国」はもちろん、「台湾」「香港」「ベトナム」「フィリピン」「マレーシア」「カンボジア」「ラオス」「タイ」の経済特区の場所についてもご紹介します。
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中国・アジアの「経済特区」の場所・投資メリットを解説
- 1. 経済特区とは「特定の地域において経済活動を行う際の特典や優遇措置を提供する」制度
- 2. 中国における「経済特区」と「経済技術開発区」の違いを解説
- 3. 中国の経済特区
- 4. 台湾の経済特区
- 5. 香港の経済特区
- 6. ベトナムの経済特区
- 7. フィリピンの経済特区
- 8. マレーシアの経済特区
- 9. カンボジアの経済特区
- 10. ラオスの経済特区
- 11. タイの経済特区
- 12. 日本企業の海外進出国 人気ランキング
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1.経済特区とは「特定の地域において経済活動を行う際の特典や優遇措置を提供する」制度
海外の「経済特区」とは、一般的にその国の法律や規制とは別に、特定の地域において経済活動を行う際の特典や優遇措置を提供する制度のことを指します。これにより、外国企業や投資家に対して投資環境を魅力的にし、経済成長を促進することを目的としています。
日本企業が海外の経済特区に参入する4つのメリット
海外進出を検討している日本企業が海外の経済特区に参入することには以下のようなメリットがあります。
メリット① 税制優遇:
経済特区は通常、低い税率や一時的な減税などの税制優遇措置を提供します。これにより、企業の税負担が軽減され、利益が増加する可能性があります。
メリット② 規制緩和:
特区内では一般的な法律や規制が緩和される場合があります。これにより、事業運営がスムーズになり、時間やコストを節約できるかもしれません。
メリット③ 市場アクセス:
特区は通常、その国や地域の重要な市場に近接して設立されます。したがって、市場へのアクセスが容易になり、商品やサービスの供給において競争力を高めることができるでしょう。
メリット④ 技術・人材の活用:
特区は技術や人材の集積が進んでいることが多いため、イノベーションや効率化に向けた取り組みがしやすくなります。
ただし、海外の経済特区に参加する際にはリスクや課題もあります。例えば、地域の政治的不安定さや法的な不確実性、特区の恒久性の問題などが挙げられます。したがって、参加前にリスク評価や慎重な計画が必要です。海外進出の戦略において、特区の選択が成功を左右する重要な要素であることを念頭において検討することが重要です。
国が経済特区を整備する4つの目的
国連のレポートによると、国が「経済特区を整備する目的」は、4つあるとされています。
(2) 雇用機会を創出するため(To create employment opportunities)
(3) より広範な改革への足がかりにするため(To be the stepping stone of wider reforms)
(4) 新しい方針や経済発展施策の研究施設として作用させるため(To act as a laboratory for new policies and economic development approach (Farole, 2011).)
出典:
UN Industrial Development Organization "ECONOMIC ZONES IN THE ASEAN"(編集部訳)
世界で最初に整備された経済特区とは? また現在まで続く経済特区モデルとは?
経済特区のような施策は古代からありますが、現代的な経済特区として最初に世界で整備されたのは、アイルランドのシャノンです。
1959年に誕生した「シャノン経済特区」は、空港近くに整備され、工業団地の施設を使用してもらいながらも、無税の輸出志向型工業対象に開かれました。このシャノンのモデルは、1960年代のプエルトリコやスペインで採用されました。その他、国連のような国際団体、日本でも採用されています。
1965年には、世界で初めて「輸出加工区」を基礎に作った経済特区が台湾の高雄市で誕生しました。輸出加工区は、先のシャノンモデルと似ていますが、外資系企業を誘致して雇用を拡大、産業を発展させるという点で異なります。ブリタニカ国際大百科事典によると…
出典:
コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「輸出加工区」
この高雄モデルから現在のような外資を誘致する経済特区が生まれたと考えられます。
また、シャノンモデルでは、国連の提示した4つの目的は満たしていませんが、高雄モデルから、つまり「輸出加工区」である経済特区から4つの目的が生まれたと考えられます。現在でもインドネシアやマレーシアの経済特区にもこの高雄モデルが生かされています。
経済特区のメリットとは?
現在の「輸出加工区型」経済特区に進出するにあたり、外資系企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
一例として、経済特区を整備している中央アジアのカザフスタンの投資発展省によると、
1. 法人税、地価税、相続税、付加価値税等税金の免除
2. 経済特区からの輸出、または特区で輸入する場合の関税免除
3. 海外駐在員雇用手続きの簡素化
のメリットがあると述べています。また、物価が安い等の外的要因もメリットとして挙げることができます。例えば、カザフスタンの場合、通貨はテンゲで1テンゲ=約0.3円となっており、物価も安く人件費も安いです。
次項からは、中国、台湾、香港を始めとするアジア諸国の経済特区を紹介していきます。
2.中国における「経済特区」と「経済技術開発区」の違いを解説
このセクションでは、中国における「経済特区」と「経済技術開発区」の違いについて簡潔に解説します。
「経済特区」と「経済技術開発区」の違いとは「指定された年」と「指定された地域」
結論から言うと、両者のもっとも大きな違いは「指定された年」と「指定された地域」とされています。
中国における「経済特区」
中国における「経済特区」とは、 1979年から外国資本や技術の導入を目的に設けられた特別の地域を指します。
広東省の深セン、珠海、汕頭、福建省の厦門の4ヵ所が当初指定されましたが、1988年には海南島が省に格上げされ,5番目の経済特区となっています。
中国における「経済技術開発区」
中国における「経済技術開発区」とは、先述の「経済特区」に準ずる地域として〝1984年以降〟に国内各地に設けられた地区のことを指します。
具体的には、経済特区に次いで1984年に指定された 14の沿海開放都市を指します。これまでは中国沿岸部を中心に設けられていましたが、近年は内陸部にも設置されるようになっています。
3. 中国の経済特区
このセクション以降は、中国の経済特区を筆頭に、アジア全域で開発が進む経済特区について、それぞれの項でわかりやすく解説していきます。
注目の経済特区・深センは「アジアのシリコンバレー」
中国では、1979年より5ヵ所(広東省深セン、珠海、汕頭、福建省厦門、海南省)、2017年に河北省が経済特区として指定されています。深センは、「アジアのシリコンバレー」と呼ばれており、世界有数のIT産業都市となっています。
この特区には、IT業界だけではなく、不動産業界やコンサルティング業界も日本から進出しています。マカオの近隣にある珠海では、「珠海ハイテク産業開発区」が整備されており、日本からはメーカーを始め商社、物流会社も進出しています。汕頭、厦門は、前者2者と比較すると、進出している企業は少なく、また進出している企業も中小企業が多い印象です。
海南省は、リゾート開発に力を入れており、上記4つの経済特区とは、異なった様相を呈しています。去年新しく経済特区として認定された河北省では、ハイテク企業の集積地を目指すという方針があります。今後、日本からはIT企業や最先端技術を有する企業が進出していく可能性があります。
4. 台湾の経済特区
先述のように1965年に台湾が高雄市に設立した輸出加工区(tax free zone)に触発された形で、大陸である中国が台湾海峡に隣接する経済特区を開発していったという経緯があります。
経済特区発祥の地とされる台湾
その例としては、中国の福建省南東部で、台湾海峡に面する港湾都市であるアモイ(厦門)は、古くから貿易港として発展し、20世紀からは華僑 の流出港として名を馳せました。その後1980年から経済特区に指定され、さらに1987年には台湾との交流が自由化されています。
5. 香港の経済特区
香港は、正式には中華人民共和国香港特別行政区とされており、一国二制度における自由経済と自治が認められた特別区でもあります。
特別区である香港
そんな香港の新界の北側に経済特区である「深セン市」がありますが、先述の台湾同様に、中国の開放政策は、経済特区が香港・台湾に近い地域に設置されています。これらは別名「海の中国」(※香港・台湾に加えてシンガポール、マレーシア、タイといった、現地の華人・華僑が経済を牽引しているアジア諸国のこと)とも呼ばれており、両国・地域を積極的に活用することによって、大陸である中国は更なる発展を遂げることができたのです。
6. ベトナムの経済特区
ベトナムでは、経済特区が50以上、工業団地も300以上ある為、全てを紹介することは難しいですが、その中でもホーチミン市にある「タントゥアン輸出加工区」と呼ばれる経済特区には、日本企業が多く進出しています。
ベトナムには50以上の経済特区・300以上の工業団地が存在する
進出している企業は、メーカーがやはり多いです。タントゥアン輸出加工区にある会社のうち、約40%を日系企業が占めています。また、ハノイにある「ノイバイ工業団地」には、全入居企業企業のうち約半数が日系企業であり、いずれも日系企業の存在感が強いことが伺えます。
ベトナムには、1,200社の日系企業がベトナムに進出していますが、多くはこのような工業団地、輸出加工区に進出するのが定石だと思われます。
7. フィリピンの経済特区
フィリピンでは、PEZA(フィリピン経済特区庁)が経済特区を管理しています。
300以上の経済特区に1,000社を超える日系企業が進出
フィリピンでは現在300以上の経済特区があり、1000社を超える日系企業がフィリピンに進出しています。フィリピンの経済特区に進出できる企業は以下のように限られています。
(1) 輸出製造業
(2) ITサービス輸出
(3) 観光業
(4) 医療ツーリズム業
(5) 農産業関連輸出製造業
(6) 農産業関連バイオ燃料製造業
(7) 物流及び倉庫サービス業
(8) 経済特区の開発及び運営
(9) 施設提供業
(10) 公益事業
出典:
黒田法律事務所「第17回 フィリピン経済特区に関するQ & A」
特徴としては、業種専門の経済特区がある点です。フィリピンでは、「製造業専門」経済特区や「ITパーク」といったITに特化した経済特区があります。
8. マレーシアの経済特区
近年、マレーシアの経済特区として、「ジョホールバル」という都市が注目を集めています。日系企業も最近支店や工場を置くようになりました。マレーシアでは、この経済特区への不動産投資がトレンドになっています。
「ジョホールバル」での「イスカンダル計画」とは?
具体的には、マレーシア政府が推進している「イスカンダル計画」は、マレーシア政府とジョホール州政府がタッグを組み、2026年までにシンガポールの国境沿いのジョホール州の土地を開発して先進金融都市をつくるというビックプロジェクトが世界的に注目を集めています。
また、マレーシアは、シンガポールと比べて非常に安価に物件が購入することができ、また経済特区内では、海外からも物件を購入できます。その場合法人税が免除されるという経済特区ならっではの特典もついてきます。今後も日系企業がジョホールバルに進出する可能性は大いにあります。
9. カンボジアの経済特区
次にカンボジアの経済特区について見ていきましょう。
「プノンペン経済特区」や「シアヌーク港経済特区」が有名
カンボジアには、現在32の経済特区が認可されています。その中でも「プノンペン経済特区」や「シアヌーク港経済特区」がとくに有名です。
「プノンペン経済特区」には、全企業のうち、日系企業が半数以上を占めています。一方「シアヌーク港経済特区」では、工場と輸出入の玄関口がつながっていることから、製造した製品をそのまま輸出することができます。この経済特区には、日系企業は少ない為、大量生産を行なう企業や、大きい商品を製造する企業にとっては、進出の余地があると考えられます。
10. ラオスの経済特区
ラオスも他国同様に経済特区開発ラッシュですが、特に「ビタパーク経済特区」と「サワン・セノ経済特区」に日系企業が進出しています。
「ビタパーク経済特区」と「サワン・セノ経済特区」に日系企業が進出
両者とも国内の経済特区とは税制の観点から優遇されており、「サワン・セノ経済特区」では100を超える日系企業が進出しています(ビタピークは30以上)。他の経済特区では、観光等のサービス業、非製造業が主流ですが、上記2つの経済特区では、製造業が多く進出しています。
11. タイの経済特区
タイの経済特区には、「東部経済回廊(ECC)」という地域があり、ここでは、次世代自動車、航空関連、デジタル関連等の最先端産業に携わる外資系企業を誘致しています。また、最近では政府が新しく東部沿岸地域に経済地域を整備することを発表しました。
「東部経済回廊(ECC)」に次ぐ新たな経済地域とは?
この経済特区では、東部経済回廊と異なり、医療やロボットのような研究・開発に積極的に投資し、そのような事業に携わる企業を誘致する方針です。現在、タイ政府が積極的に日本に誘致を呼びかけているため、今後、タイに進出する企業は増加すると思われます。
12. 日本企業の海外進出国 人気ランキング
最後に、世界各国の経済特区の補足情報として、「2022年度・日本企業の海外進出国 人気ランキング」を紹介します。
「アメリカ」1位で「中国」が2位
毎年、海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」では1年間の進出相談と海外進出企業ならびに、海外進出支援企業を対象に実施したアンケートをもとに「海外進出白書」を作成しています。
下記グラフは、2022年4月〜2023年3月に、『Digima〜出島〜』へ寄せられた海外ビジネス相談の約4,000件を、国別に分けて集計した『2022年度 進出先の国・人気ランキング』と『過去10年間の進出先国ランキングの推移』となっています。
2022年度の進出先国ランキングは、昨年度に続き「アメリカ」が首位を獲得。その割合も、昨年同様2位だった「中国」との差を広げ、アメリカ進出へのニーズの高まりを感じさせる結果となりました。
また、新型コロナ感染症の影響で順位を落としていた「ベトナム」へのニーズが回復を見せ、3番手に返り咲いています。その他、「シンガポール」「フィリピン」と続き、ASEANへのニーズが高まっていることが伺えます。
一方、昨年急激に順位を上げた「台湾」「ヨーロッパ」は落ち着きを見せた結果となりました。その他、TOP10には「マレーシア」「タイ」「インドネシア」がランクインし、ASEAN各国への進出ニーズが戻ってきたと言えるでしょう。というのも、2020年度、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、ASEANへの進出相談の割合は各国合わせて50%程度から40%程度へと減少しました。
そして、昨年2021年度は好調だったベトナムが伸び悩んだこともあり、その割合は30%程度と更に減少へと転じていました。
しかし、2022年度はASEAN各国の合計が40%程度に回復を見せる結果となりました。また、全体的に相談件数は増加しており、円安の影響からか海外需要を獲得しようとする企業は増加傾向にあるようです。
上記の内容をさらに深掘りした日本企業の海外進出動向を「海外進出白書」にて解説しています。
『海外進出白書(2022-2023年版)』には、日本企業の海外進出動向の情報以外にも、「海外進出企業の実態アンケート調査」「海外ビジネスの専門家の意識調査」など、全117Pに渡って、日本企業の海外進出に関する最新情報が掲載されています。
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13. 優良な海外進出サポ−ト企業をご紹介
御社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介します
今回は、経済特区について見てきました。各国によって経済特区の定義や進出している企業の業態の違いはありますが、いずれも「外資系企業をいかにして取り込んでいくか」という点に関しては共通しています。
経済が低迷しているといわれる中国ですが、新しく経済特区を認可することによって、国内産業を盛り上げていこうとする方針があると伺えます。紹介した東南アジア3ヵ国は、まだ発展途上国であることから、進出を検討するメリットは十分にあると思われます。
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(参照文献)
・UN Industrial Development Organization "ECONOMIC ZONES IN THE ASEAN" http://u0u0.net/IsE1
・コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「輸出加工区」http://u0u0.net/IsDN
・深圳日本商工会 http://u0u0.net/IsDd
・Science portal of China http://u0u0.net/IsDd
・DIAMOND Online http://diamond.jp/articles/-/73021
・ビナBIZ http://www.vina-finance.com/jpsp/
・キャリアリンク http://u0u0.net/IsCT
・海外不動産投資隊 http://ant.co.jp/?p=318#i
・CAMBODIA BUSINESS PARTNERS http://u0u0.net/IsDa
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