D/P(手形支払書類引渡し)とは?|貿易取引での役割/メリット・デメリットを徹底解説

国際貿易では、取引の安全性を確保しつつ、スムーズに決済を行うことが求められます。輸出者と輸入者の信頼関係だけでなく、銀行を通じた決済方法を活用することで、リスクを低減しながら貿易取引を進めることができます。
その中で D/P(Documents Against Payment:手形支払書類引渡し) は、 輸入者が代金を支払った後に貿易書類を受け取り、貨物を引き取る という仕組みの決済方法です。輸出者にとっては、貨物を引き渡す前に確実に代金を受け取ることができるため、未払いリスクを低減できる点が大きな特徴です。
一方で、輸入者にとっては 「貨物を引き取るために、即時に代金を支払わなければならない」 という制約があり、資金繰りに影響を与える可能性があります。そのため、D/Pは 輸出者にとっては比較的安全性の高い決済方法 ですが、輸入者にとっては慎重な資金管理が必要な方法でもあります。
本記事では、D/Pの基本的な仕組みや取引の流れを詳しく解説し、メリット・デメリット、D/A(手形引受書類渡し)やL/C(信用状取引)との違い、リスク管理の方法についても掘り下げて解説します。D/Pを活用する際に注意すべきポイントや、より安全に取引を進めるための具体策についても説明していきますので、貿易に携わる方はぜひ参考にしてください。
▼ D/P(手形支払書類引渡し)とは?|貿易取引での役割/メリット・デメリットを徹底解説
D/P(手形支払書類引渡し)とは?基本的な仕組み
D/Pの定義と役割
D/P(Documents Against Payment)とは、輸出者が銀行を通じて 貿易書類(B/L(船荷証券)、インボイスなど) を輸入者の銀行に送り、輸入者が代金を支払った後に書類を受け取る仕組みの決済方法です。輸入者は 代金を支払わない限り貨物を引き取ることができない ため、輸出者にとっては未払いリスクを低減することができます。
この決済方法は、L/C(信用状取引)に比べると銀行の関与が少ないため、 手続きが簡素でコストも低い という特徴があります。一方で、銀行が代金支払いを保証するわけではないため、輸入者の支払い能力に依存するリスクがある点には注意が必要です。
D/Pは、主に次のような貿易取引で活用されます。
- 取引先との信頼関係が一定以上ある場合
- D/Pでは輸出者が貨物を出荷した後に代金を回収する仕組みとなるため、 新規取引先や信用が不確かな企業との取引ではリスクが高い です。そのため、既存の取引先で支払い遅延などのトラブルがなく、一定の信頼関係が構築されている場合にD/Pが採用されることが多くなります。
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L/C取引の手続きが煩雑で費用がかかる場合
- L/C(信用状)取引では、銀行が代金支払いの保証を行うため、安全性は高いものの、 信用状の発行手続きや手数料の負担が大きい というデメリットがあります。D/Pはこれらの手続きを省略できるため、コストを抑えたい場合に選ばれることが多いです。
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比較的短期間で決済が完了する取引
- D/Pでは、輸入者が代金を支払った後に貨物を引き取ることができるため、支払いと貨物の引き渡しが比較的スムーズに進みます。
D/Pは輸出者にとっては代金未回収のリスクを低減する有効な方法ですが、輸入者の資金繰りや信用リスクを慎重に考慮した上で活用することが重要です。
D/P決済の流れ
D/P取引の具体的なステップ
D/P決済は、 輸出者、輸入者、銀行 の三者が関与して行われます。以下のような流れで進行します。
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輸出者が貨物を出荷する
- 貿易契約に基づき、輸出者は貨物を船積みし、B/L(船荷証券)、インボイス、パッキングリストなどの貿易書類を準備します。
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輸出者が貿易書類を銀行に送付
- 輸出者は取引銀行(買取銀行)を通じて、貿易書類とともに為替手形を輸入者の銀行(呈示銀行)に送付します。
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輸入者が銀行に代金を支払う
- 輸入者の銀行は、輸入者に対して代金の支払いを求めます。輸入者が代金を支払った後、銀行は貿易書類を輸入者に引き渡します。
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輸入者が貿易書類を受け取り、貨物を引き取る
- 輸入者は書類を使用して通関手続きを行い、貨物を引き取ります。
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銀行が輸出者に代金を送金し、取引完了
- 輸入者から支払われた代金が銀行を経由して輸出者に送金され、D/P取引が完了します。
D/Pの最大の特徴は、 輸入者が代金を支払わない限り、貨物を引き取ることができない という点です。これにより、輸出者は確実に代金を回収することが可能になります。一方で、輸入者の資金繰りが悪化した場合、支払いが滞り、貨物が長期間港で滞留するリスクがあるため、注意が必要です。
D/P(手形支払書類引渡し)のメリット
輸出者にとってのメリット
D/Pの最大の利点は、輸出者が 貨物の引き渡し前に代金を回収できる ことです。貿易取引において、輸出者が最も懸念するのは「商品を出荷したのに代金が支払われない」というリスクですが、D/Pでは 輸入者が代金を支払わなければ貿易書類を受け取ることができず、その結果貨物を引き取れない ため、輸出者にとっては比較的安全な決済方法となります。
また、L/C(信用状)取引に比べると、D/Pは 手続きが簡単でコストが低い というメリットもあります。L/Cでは、銀行が輸入者の信用を担保するために詳細な手続きが必要となり、開設や利用に伴う銀行手数料が発生します。一方、D/Pは銀行が決済を仲介するものの、 信用保証を提供するわけではないため、L/Cよりもコストを抑えることが可能 です。そのため、 信用リスクを抑えつつ、コストも低く抑えたい場合に適した決済手段 といえます。
さらに、D/A(手形引受書類渡し)と比較した場合、D/Pは 輸入者の支払い能力を即座に確認できる という点で優れています。D/Aでは、輸入者が為替手形を引き受けることで貿易書類を受け取ることができますが、満期日までに実際の支払いが行われるかどうかは確約されていません。一方、D/Pでは、 輸入者が代金を支払わなければ貨物を受け取れない ため、未払いのリスクを最小限に抑えることができます。
輸入者にとってのメリット
輸入者にとってD/Pの最大のメリットは、 L/Cに比べて手続きが簡素で、銀行手数料が安い ことです。L/C取引では、信用状の開設や管理に関わる銀行手数料が発生し、取引が複雑になることが多いですが、D/Pではこれらの手続きを省略できるため、コストを抑えた取引が可能になります。
また、輸入者はD/Pを利用することで、信用状を開設する必要がなくなり、銀行の与信枠を圧迫しないというメリットもあります。L/Cでは、輸入者の銀行が信用を保証するため、銀行の与信枠(信用限度額)を消費してしまうことがありますが、D/Pではそのような影響を受けません。そのため、 与信枠を温存しながら貿易取引を進めたい輸入者にとっては、D/Pは有効な選択肢 となります。
加えて、D/Pは比較的スピーディーな決済方法であり、 輸入者が速やかに代金を支払うことで、貨物の引き取りを迅速に進めることができる というメリットもあります。特に、貨物が時間的制約のある商品の場合や、できるだけ早く市場に投入したいケースでは、迅速な決済が可能なD/Pが適しているといえます。
D/P(手形支払書類引渡し)のデメリットとリスク
輸出者にとってのリスク
D/Pは輸出者にとって比較的安全な決済手段ですが、それでも 100%の安全性が保証されているわけではありません。最大のリスクは、 輸入者が代金を支払わない場合、貨物が滞留してしまう ことです。
D/Pでは、輸入者が代金を支払わない限り貿易書類を受け取れません。そのため、何らかの理由で輸入者が支払いを拒否したり、資金不足に陥ったりすると、貨物が長期間港に滞留し、その間の 保管料や追加の港湾費用が発生する 可能性があります。さらに、貨物が生鮮食品や化学品などの消費期限がある商品であれば、 滞留によって商品が劣化し、損害が発生するリスクも高まります。
また、輸入者が支払いを拒否した場合、 輸出者は貨物を他の顧客に販売する必要があるため、販売先の再手配や輸送手続きの手間がかかる ことも問題となります。特に、特定の顧客向けにカスタマイズされた商品や、限定的な市場向けの製品の場合、他の販売先を見つけることが難しく、結果として大きな損失を被る可能性があります。
輸入者にとってのリスク
輸入者にとってD/Pの最大のリスクは、 代金を支払うまで貨物を引き取れない ことです。貿易取引では、資金繰りを慎重に管理することが求められますが、D/Pでは代金を即時に支払う必要があるため、 輸入者のキャッシュフローに影響を与える 可能性があります。
例えば、輸入者が予定していた資金調達が遅れた場合、貨物を受け取るための支払いができず、事業に影響が出る可能性があります。また、為替相場の変動によって 決済時の通貨価値が変動し、想定していたよりも高額な支払いが必要になる こともリスクの一つです。特に、長期間にわたる取引では、為替リスクを適切に管理することが重要となります。
さらに、輸入者が代金を支払った後に 貨物に問題があることが判明した場合、支払い後の交渉が難しくなることもD/Pのデメリットです。D/Pでは 支払い後にしか貨物の確認ができない ため、輸入者は貨物の品質に問題があった場合でも、すでに支払いを済ませているため、輸出者との交渉が難航することがあります。そのため、事前に信頼できる取引先とD/Pを利用することが望ましいでしょう。
D/P取引におけるリスク管理と対策
信用調査の実施
D/P取引を行う際に最も重要なのは、 輸入者の信用力を事前に確認すること です。D/Pでは、輸出者が貨物を出荷した後に輸入者が代金を支払うことで取引が完了するため、輸入者の支払い能力が不十分だと、最終的に代金を回収できなくなるリスクが発生します。そのため、新規取引先とのD/P取引では、 事前に信用調査を実施し、相手の財務状況をしっかりと評価すること が不可欠です。
信用調査の方法としては、次のような手段が挙げられます。
取引相手の 過去の支払い履歴を確認 する(他の取引先からの評判など)
- 信用調査機関(例: 帝国データバンク、東京商工リサーチ、Dun & Bradstreet など)の 企業信用レポートを取得する
銀行の 取引履歴や信用格付け を確認する
- 貿易保険を提供する機関( NEXI(日本貿易保険) など)を活用し、信用情報を取得する
特に、 輸入者の支払い履歴に遅延や不渡りの記録がある場合は、D/Pよりも安全な決済方法(L/Cや前払いなど)を検討することが望ましい でしょう。
貿易保険の活用
輸出者がD/P取引を行う際に、輸入者の信用リスクを回避するために 貿易保険(輸出信用保険) を活用するのも有効な手段です。万が一、輸入者が支払い不能になった場合でも、貿易保険を活用すれば一定の補償を受けることが可能となります。
例えば、日本では NEXI(日本貿易保険) が輸出者向けに貿易保険を提供しており、 D/P取引での未回収リスクを補償する制度 があります。こうした保険を活用することで、輸出者はより安心してD/P取引を進めることができます。
為替リスクの管理
D/P取引では、支払いが発生するまでに 為替相場が変動するリスク があります。輸入者にとっては、決済時の為替レートが想定よりも高くなると、当初の予定よりも支払い負担が増える可能性があります。また、輸出者にとっても、輸入者が為替変動を理由に支払いを遅延するリスクがあるため、 為替予約(フォワード契約) を利用することが推奨されます。
為替予約を活用することで、将来の決済レートを事前に固定できるため、 為替リスクを軽減し、安定した貿易取引を実現することが可能 です。特に、外貨建て取引が多い企業は、定期的に為替市場を確認し、適切なリスク管理を行う必要があります。
契約条項の明確化
D/P取引では、輸入者が代金を支払わなければ貨物を受け取ることができませんが、支払い遅延が発生すると輸出者にとって大きな負担となります。そのため、 貿易契約書の中に、支払い遅延時の対応やペナルティ条項を明確に記載しておくことが重要 です。
例えば、以下のような条項を契約書に盛り込むことで、リスク管理を強化できます。
- 支払い遅延が発生した場合の遅延利息
- 輸入者が支払いを拒否した場合の違約金や損害賠償の規定
- 保管料や追加費用が発生した場合の負担者の明確化
- 裁判管轄や仲裁機関の指定(紛争時の対応をスムーズにするため)
こうした契約条項を適切に設定し、取引のリスクを最小限に抑えることがD/P取引の安全性を高めるポイントです。
D/PとD/A、L/Cとの比較
D/PとD/Aの違い
D/PとD/Aは、どちらも銀行を介した決済方法ですが、 貨物引き取りのタイミング に大きな違いがあります。
D/Aは、輸入者が手形を引き受けるだけで貨物を受け取ることができるため、輸出者にとって 代金未回収のリスクが高い というデメリットがあります。一方、D/Pは 輸入者が代金を支払わなければ貨物を引き取れないため、輸出者にとって安全性が高い という特徴があります。
D/PとL/Cの違い
L/C(信用状取引)は、銀行が輸入者の信用を保証する決済方法であり、D/Pとは以下の点で異なります。
L/Cは 銀行が支払いを保証するため、輸出者にとって最も安全な決済方法 ですが、手続きが煩雑であり、銀行手数料も高いため、 D/Pはコストを抑えつつ比較的安全な取引を行いたい場合に適している といえます。
まとめ
D/P(Documents Against Payment:手形支払書類引渡し)は、 輸入者が代金を支払った後に貿易書類を受け取り、貨物を引き取る決済方法 です。輸出者にとっては 未払いリスクを低減できる 一方で、輸入者は 即時の支払いが必要になるため、資金繰りに注意が必要 です。
D/Pを活用する際には、 信用調査の実施、貿易保険の活用、為替リスクの管理、契約条項の明確化 などのリスク管理が不可欠です。L/CやD/Aとの違いを理解し、自社の取引状況に適した決済方法を選択することで、貿易取引の安全性を高めることができます。
なお、「Digima~出島~」には、優良な輸出入・貿易・通関の専門家が多数登録されています。「海外進出無料相談窓口」では、専門のコンシェルジュが御社の課題をヒアリングし、最適な専門家をご紹介いたします。是非お気軽にご相談ください。
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