外国人材が辞める理由|公的調査で見える企業と本人の認識ギャップと定着策
「せっかく採用した外国人材が、1年ほどで辞めてしまった」——外国人雇用を進める企業から、こうした声を聞く機会が増えています。
この問題を考えるとき、多くの記事は「文化の違い」や「コミュニケーション」といった説明で終わりがちです。しかし厚生労働省の調査データを見ると、企業が課題だと感じていることと、外国人材本人が答えている困りごとは、必ずしも一致していません。むしろこのずれ自体が、離職の背景を示しています。
この記事では、厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査」の数字をもとに、企業側と本人側の認識ギャップを読み解き、離職につながる要因を整理します。あわせて、辞める前に企業ができる対応と、実際に離職・転職が起きたときの届出実務までをまとめました。
この記事でわかること
- ・企業が挙げる課題と、本人が答えたトラブルのデータ上のギャップ
- ・「トラブルなし86.9%」という数字をそのまま読んではいけない理由
- ・離職につながる4つの要因と、その根拠になる調査数値
- ・辞める前に拾えるサインと、相談ルートの整え方
- ・離職・転職が起きたときに企業と本人がすべき届出
▼外国人材の離職理由と定着対策
1. データで見る外国人雇用の現在地
企業が挙げる課題のトップは「コミュニケーション」
厚生労働省の「令和6年外国人雇用実態調査」は、雇用保険被保険者5人以上かつ外国人労働者を1人以上雇用する事業所を対象に行われ、3,623事業所と11,568人の有効回答を集計したものです。同調査によると、対象事業所における外国人労働者数は約182万人で、前年の約160万人から増えています。
この調査で企業が挙げた「外国人労働者の雇用に関する課題」は次のとおりです。
| 課題(複数回答) | 令和6年 | 前年 |
|---|---|---|
| 日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい | 43.9% | 44.8% |
| 在留資格申請等の事務負担が面倒・煩雑 | 24.7% | 25.4% |
| 在留資格によっては在留期間の上限がある | 21.5% | 22.2% |
| 文化、価値観、生活習慣等の違いによるトラブルがある | 20.9% | 19.6% |
注目したいのは、多くの項目が前年より下がるなかで、「文化、価値観、生活習慣等の違いによるトラブル」だけが19.6%から20.9%へ増えている点です。受け入れ人数が増えるにつれ、言語以外の摩擦が表に出てきていることがうかがえます。
本人の回答は「トラブルなし86.9%」——この数字の読み方
一方、同じ調査の労働者側の回答を見ると、印象が変わります。今の仕事をするうえでのトラブルや困ったことについて、「なし」が86.9%(前年82.5%)、「あり」は10.9%(同14.4%)でした。企業の43.9%が「コミュニケーションが課題」と答えているのに対し、本人の9割近くは困っていないと答えていることになります。
このギャップをどう読むかが重要です。「あり」と答えた人に、具体的に何に困ったかを聞いた結果が次の表です。
| トラブルや困ったこと(複数回答) | 令和6年 | 前年 |
|---|---|---|
| 紹介会社(送出し機関含む)の費用が高かった | 18.6% | 19.6% |
| トラブルや困ったことをどこに相談すればよいかわからなかった | 14.9% | 16.0% |
| 事前の説明以上に高い日本語能力を求められた | 8.8% | 13.6% |
| 事前に労働時間やその他の就業条件について説明がなかった | 8.0% | — |
| 事前に説明された内容と実際の仕事内容が違った | 7.8% | — |
| 事前の説明以上に会社に入るまでに時間がかかった | 7.0% | — |
| 事前に説明された条件と実際の就業条件が違った | 6.7% | — |
※「トラブルあり」と回答した人(全体の10.9%)に占める割合
出典:厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査」第20表-2をもとに作成
最も多いのは「紹介会社(送出し機関含む)の費用が高かった」の18.6%で、次いで「トラブルや困ったことをどこに相談すればよいかわからなかった」が14.9%です。在留資格別に見ると、この「相談先がわからない」は技術・人文知識・国際業務で22.3%、身分に基づく在留資格で21.7%とさらに高くなります。相談先を認識できていない人が一定数いる以上、「なし」という回答には困りごとが表に出ていないだけのケースが含まれている可能性があります。
実際、離職は突然起きるように見えて、本人のなかでは時間をかけて進行しています。上司が「特に問題は聞いていない」と感じている状態と、本人が「相談先がわからないまま諦めている」状態は、外から見ると同じに見えます。定着対策を考えるうえで最初にやるべきは、施策を増やすことよりも、困りごとが可視化される経路があるかを点検することだといえます。
2. 離職につながる4つの要因
要因1:採用時の期待値ギャップ
調査で「トラブルあり」と答えた人の内訳には、「事前の説明以上に高い日本語能力を求められた」が8.8%(前年13.6%)という項目があります。前年より改善しているものの、入社してから「聞いていた話と違う」と感じる人が一定数いることを示しています。ほかにも、「事前に労働時間やその他の就業条件について説明がなかった」が8.0%、「事前に説明された内容と実際の仕事内容が違った」が7.8%、「事前に説明された条件と実際の就業条件が違った」が6.7%と、入社前の説明に関わる項目が並んでいます。
この種のずれは日本語能力に限りません。担当業務の範囲、残業の量、夜勤の有無、昇給の考え方など、採用時にどこまで具体的に伝えられていたかが、入社後の納得感を左右します。
特に注意したいのが、紹介や仲介を挟んだ採用です。同調査では、入職前の居住地が日本以外だった人の85.0%が紹介会社や個人からの紹介等を受けており、内訳では「出身国・地域の紹介会社・個人」が44.7%と最多でした。本人側のトラブルで最も多かったのも「紹介会社(送出し機関含む)の費用が高かった」(18.6%)でした。間に複数の機関が入るほど、条件の伝わり方は曖昧になります。労働条件通知書を本人が理解できる言語で交付し、口頭での説明を書面で裏づけておくことが、後の認識違いを防ぐ最も確実な方法です。
要因2:相談先がない
前述の「どこに相談すればよいかわからなかった」14.9%は、単独で見ても重い数字です。日本人社員であれば、同僚や上司との雑談のなかで悩みが表に出ることがありますが、言語や立場の面で距離がある場合、その経路が働きません。
さらに、相談相手が直属の上司しかいない場合、上司との関係そのものが悩みの原因であるときに行き場がなくなります。特定技能では登録支援機関による定期面談が義務づけられていますが、これは裏を返せば、社外に相談経路を持つことが制度上も重要だと認められているということです。
相談先は「用意すること」と「知られていること」が別だという点も見落とされがちです。入社時に一度案内しただけでは記憶に残りません。面談のたびに相談窓口の存在を伝える、多言語で掲示するといった繰り返しの周知が必要になります。
要因3・4:キャリアの不透明さと生活面の不安
3つ目の要因が、評価とキャリアの見通しです。開国エンジン~縁人~が発行した『グローバル人材白書(2025-2026年版)』では、海外拠点で雇用する現地人材の主な離職理由として、「キャリア・成長機会」が42.0%で最も多く、「給与・報酬水準」の33.3%を8.7ポイント上回りました。海外拠点について企業が回答した数字ではありますが、「この会社で成長できるか」が辞めるかどうかを左右するという傾向は、国内で働く外国人材を考えるうえでも参考になります。同じ調査では「明確な理由は把握できていない」も31.9%あり、離職の理由そのものが企業から見えていないケースも少なくありません。
白書では、外国人材を採用した企業に「採用後に振り返って、採用時にもっと評価すべきだったこと」も尋ねています。「キャリアプランの明確さ」は24.1%が挙げた一方で、採用時にこれを評価していた企業は7.4%にとどまりました。入社後のキャリアについて、採用の段階で本人と十分に話せていなかったことがうかがえます。
キャリアの見通しには在留資格の期限も関わります。企業側の課題として「在留資格によっては在留期間の上限がある」が21.5%挙がっているように、制度上の期限は本人にとっても切実です。特定技能1号は通算5年という上限があり、その先どうなるのかが見えなければ、上限が来る前に別の道を探すのは自然な判断です。特定技能2号への移行や、介護福祉士資格の取得による在留資格「介護」への移行など、この会社で働き続けた場合の道筋を早い段階で示せるかが問われます。
4つ目が生活面です。同調査では、日本で一緒に住む家族全員の手取り収入の合計(月額)は「10〜19万円」が34.8%と最も多く、母国への仕送りも調査項目に含まれています。賃金面では、外国人一般労働者の月間きまって支給する現金給与額は274.9千円(前年比2.7%増)で、在留資格別では専門的・技術的分野289.1千円、うち特定技能250.3千円、技能実習210.0千円でした。特定技能は超過実労働時間が月21.3時間と他より長く、収入と負荷のバランスが定着に影響しうることがうかがえます。住居や行政手続き、送金といった生活基盤の不安も、仕事の継続意思に直結します。
3. 辞める前に企業ができること
サインを拾う面談と、相談ルートの二重化
離職を防ぐうえで実効性が高いのは、新しい制度を作ることより既存の面談の質を変えることです。「困っていることはありますか」という問い方では、多くの場合「大丈夫です」という答えが返ってきます。相手が答えやすいのは、範囲が具体的な質問です。
・住まいや近所のことで困っていることはあるか
・仕事のなかで意味がわからないまま進めている作業はないか
・母国の家族と連絡は取れているか
・次の在留期間の更新について不安はないか
こうした具体的な問いは、本人が「これは相談していいことなんだ」と気づくきっかけになります。
あわせて整えたいのが相談ルートの二重化です。直属の上司に加えて、別部署の担当者、登録支援機関や監理団体、多言語の外部相談窓口といった、少なくとも2つ以上の経路を用意します。相談が来ないことを「問題がない証拠」と解釈せず、面談記録に「相談ゼロが続いている人」を可視化するのも有効です。沈黙は安定とは限りません。
定着施策の全体像については、外国人材の定着率を2倍にする方法もあわせてご覧ください。
4. 離職・転職が起きたときの実務
企業の届出と、本人が行う届出
それでも離職が起きた場合、手続きを漏らさないことが次のリスクを防ぎます。
企業側は、ハローワークへの外国人雇用状況の届出が必要です。特別永住者および在留資格「外交」「公用」の人を除き、すべての事業主に義務づけられています。雇用保険の被保険者だった場合は資格喪失届によって離職日の翌日から起算して10日以内、被保険者でない場合は外国人雇用状況届出書(様式第3号)により翌月末日までに届け出ます。届出を怠ったり虚偽の届出をした場合は30万円以下の罰金の対象です。
本人側にも手続きがあります。就労資格で在留する人が退職・転職した場合、出入国在留管理庁へ所属機関に関する届出を14日以内に行う義務があります。これは企業の義務ではありませんが、本人が失念すると次回の在留期間更新で不利に働くことがあるため、退職手続きの案内に含めておくと親切です。
なお、特定技能で受け入れていた人が同じ分野の別企業へ移る場合、在留資格そのものは特定技能のままでも受入れ機関が変わるため在留資格変更許可申請が必要になります。転職先が決まるまで在留の扱いがどうなるかは本人にとって大きな不安要素であり、この点を説明できるかどうかも、企業への信頼に影響します。
5. よくある質問(FAQ)
Q1. 外国人材が辞める最大の理由は何ですか?
単一の理由には絞れませんが、令和6年外国人雇用実態調査では企業が挙げる課題として「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が43.9%と最多です。一方で本人側には「事前の説明以上に高い日本語能力を求められた」が8.8%あり、採用時の期待値のずれが背景にあることがうかがえます。また、開国エンジン~縁人~の『グローバル人材白書(2025-2026年版)』では、海外拠点で雇用する現地人材の離職理由として「キャリア・成長機会」が42.0%で最も多く、「給与・報酬水準」(33.3%)を上回りました。
Q2. 本人はトラブルが「ない」と答えているのに離職が起きるのはなぜですか?
同調査では86.9%が「トラブルなし」と回答していますが、「あり」と答えた人の内訳では「どこに相談すればよいかわからなかった」が14.9%を占めます。相談先が用意されていなければ困りごとは表に出ないため、「なし」をそのまま問題がない状態と読むのは危険です。
Q3. 外国人材の賃金水準はどのくらいですか?
外国人一般労働者の月間きまって支給する現金給与額は274.9千円で前年比2.7%増でした。在留資格別では専門的・技術的分野が289.1千円、うち特定技能が250.3千円、技能実習が210.0千円、身分に基づくものが305.2千円です。
Q4. 外国人材が退職したとき、企業は何を届け出る必要がありますか?
ハローワークへの外国人雇用状況の届出です。雇用保険の被保険者だった場合は資格喪失届により離職日の翌日から起算して10日以内、被保険者でない場合は外国人雇用状況届出書により翌月末日までに届け出ます。怠ると30万円以下の罰金の対象になります。
Q5. 転職する本人側にも手続きは必要ですか?
必要です。就労資格で在留する人が退職・転職した場合、本人が出入国在留管理庁へ所属機関に関する届出を14日以内に行う義務があります。企業の義務ではありませんが、退職時に案内しておくとトラブルを防げます。
6. まとめ
外国人材の離職を考えるとき、出発点になるのは企業と本人のあいだにある認識のギャップです。企業の43.9%が「コミュニケーションが課題」と答える一方、本人の86.9%は「トラブルなし」と答えている。この数字を額面どおりに受け取るのではなく、「どこに相談すればよいかわからなかった」が14.9%あるという事実とあわせて読む必要があります。
離職につながる要因は、採用時の期待値ギャップ、相談先の不在、キャリアの見通しの不透明さ、生活面の不安の4つに整理できます。いずれも、新しい制度を導入しなければ手が打てないものではありません。労働条件を理解できる言語で明示する、面談の問い方を具体的にする、相談経路を社内外に二重に用意する——実行できることから始められます。
そして、離職が起きた場合の届出も忘れてはいけません。企業はハローワークへの外国人雇用状況の届出、本人は入管への所属機関に関する届出(14日以内)が必要です。
定着は採用の後工程ではなく、採用の設計段階から始まっています。何をどこまで伝えて迎え入れるかが、1年後の結果を左右します。
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参考文献
・厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査の結果」(2026年8月公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61317.html
・厚生労働省「『外国人雇用状況の届出』について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/index.html
・出入国在留管理庁「特定技能制度」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/index.html
・開国エンジン~縁人~「グローバル人材白書(2025-2026年版)」
https://www.digima-japan.com/event-news/lp/human_hakusho2025-2026/
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