インバウンドのリピート率を上げる方法|計測の仕方から改善施策の優先順位まで
「集客はできているが、同じ顧客が戻ってこない——その原因、数値で把握できていますか?」
インバウンド集客に取り組む事業者の多くは、新規顧客の獲得には注力する一方で、リピート率を数値として管理していないケースが珍しくありません。しかし感覚的に「リピーターが少ない気がする」というだけでは、どこに問題があるのか、どの施策から手をつければよいのかを判断できません。
本記事では、インバウンドのリピート率の定義・計算式・業種別のベンチマーク数値を整理し、「何%以下なら要改善か」という診断軸を示します。さらに、計測結果をもとに施策の優先順位をつける考え方まで解説します。CRM設計やフォローメールといった施策の詳細については触れませんが、どこを計測し、何を診断軸にするかを理解することで、改善行動を最短距離で始められるようになります。
この記事でわかること
- ・インバウンドのリピート率の定義・計算式と業種別ベンチマーク数値
- ・リピート率が低い原因を特定するための3つの診断指標
- ・計測結果をもとに改善施策の優先順位をつける方法
▼目次
1. インバウンドのリピート率とは
定義と計算方法
インバウンドにおける「リピート率」とは、ある期間内に来店・来館した顧客のうち、過去に一度以上来訪したことのある顧客(リピーター)が占める割合のことです。一般的な計算式は以下の通りです。
リピート率(%)= リピーター来店・来館数 ÷ 総来店・来館数 × 100
たとえば、ある月の総来館数が500件で、そのうち過去に来館歴のある顧客が80件だった場合、リピート率は 80 ÷ 500 × 100 = 16% となります。
なお、計算の分母を「来店・来館数(延べ人数)」ではなく「ユニーク顧客数(実人数)」とする定義もあります。同一顧客の複数回来店を1とカウントする後者の方が「どれだけ多くの顧客が戻ってきたか」を正確に測れるため、顧客単位での管理が可能な業態では積極的に採用することをおすすめします。
また、測定期間の設定も重要です。飲食店であれば「3ヶ月以内に再来店したか」、宿泊施設であれば「1年以内に再宿泊したか」など、業種の来店サイクルに合わせた期間を設けることで、実態に即した数値を得られます。
なお、インバウンドのリピートには2種類あることを押さえておきましょう。滞在中リピートは1回の訪日旅行中に同じ店舗・施設を複数回訪れるケース(飲食店・小売に多い)で、再訪型リピートは帰国後に再来日し、また同じ場所を選ぶケースです。宿泊施設や観光施設では後者が主流となるため、計測期間を「1年以上」に設定しないと正確なリピート率が把握できません。施策の方向性も異なるため、どちらのリピートを増やしたいのかを最初に定義することが重要です。
業種別の目標目安
リピート率の「良い・悪い」を判断するには、同業種のベンチマーク(基準値)との比較が欠かせません。インバウンド客の特性(滞在日数の制約・来日頻度の低さ)を踏まえた業種別の一般的な目安は、以下の通りです。
| 業種 | 目安リピート率 | 要改善ライン | 補足 |
|---|---|---|---|
| 飲食店 | 10〜20% | 10%未満 | 滞在中の再訪(昼・夜)を含む |
| 宿泊施設 | 5〜15% | 5%未満 | 再来日での再宿泊。来日頻度が高い近隣アジア圏で高くなる傾向 |
| 小売・土産店 | 15〜30% | 15%未満 | 滞在中の複数回訪問・複数店舗の購買を含む |
| 観光施設(美術館・テーマパーク等) | 3〜10% | 3%未満 | 同一旅行中の再訪は少なく、再来日での再訪が中心 |
上記はあくまで目安であり、立地(東京・大阪などの大都市か地方かによる来日頻度の差)や集客チャネル(OTAメイン vs 直販メイン)によっても数値は大きく変動します。重要なのは「自社の現状値が業種平均よりどれだけ乖離しているか」を定期的に把握することです。まずは自社のデータを計測・記録する仕組みを作ることが第一歩となります。
リピート率改善に取り組む経営上の動機として、リピーター客は新規客と比較して客単価が高い傾向があることも覚えておきましょう。観光庁「インバウンド消費動向調査」によれば、訪日回数の多い旅行者ほど体験消費・地方消費への支出が増える傾向が確認されています。リピート率を数%改善するだけで、集客コストの削減と客単価の上昇が同時に見込める点が、この指標を重視すべき理由です。
2. リピート率が低い原因を診断する
データで確認すべき3つの指標
リピート率が低い場合、その原因は「体験品質」「情報発信」「フォロー体制」の3つに分類できます。やみくもに施策を打つ前に、以下のデータで課題カテゴリを絞り込みましょう。
① 体験品質スコア(レビュー評価)
Google マップ・TripAdvisor・Booking.com などの平均評価スコアと推移を月次で確認します。スコアが4.0未満、または「言語が通じなかった」といったネガティブコメントが目立つ場合は体験品質に課題があると判断できます。
② 情報到達率(SNSフォロー率)
来訪者のうちSNSフォローや公式サイト登録に至った割合が5%を下回る場合は、再来日時に思い出してもらえる接点が不足しています。来訪時の案内導線(POPやQRコードの設置)の見直しが先決です。
③ フォロー体制の有無(来店後の接点管理)
来訪後に顧客へ接触できているかを確認します。メールアドレス取得率が来訪者の10%未満、または来訪後の接点がゼロの場合は、フォロー体制の整備から着手する必要があります。
よくある原因パターンと診断の目安
3つの指標を確認した結果をもとに、自社の課題を以下のパターンに照らし合わせてみてください。複数のパターンが重なる場合は、最もスコアが低い指標から対処するのが効率的です。
| 原因カテゴリ | 診断シグナル | 優先対応 |
|---|---|---|
| 体験品質 | レビュー評価4.0未満、言語対応に関するネガティブ口コミあり | 多言語対応・スタッフ教育の強化 |
| 情報発信 | SNSフォロー率5%未満、外国語コンテンツ更新が月1回以下 | 多言語SNS・口コミ促進の導線整備 |
| フォロー体制 | 来訪後の接点がほぼゼロ、メール取得率が来訪者の10%未満 | 接点取得の仕組み構築(スタンプカード等) |
なお、レビュー評価が高く(4.3以上)かつ口コミ数も多いにもかかわらずリピート率が低い場合は、「体験品質は高いが来日頻度そのものが低い」という構造的な要因が考えられます。この場合は情報発信の強化によって「次の来日時に選ばれる確率」を高めることに注力するのが有効です。
3. リピート率改善施策の優先順位のつけ方
計測結果に応じた施策カテゴリの選び方
診断で明らかになった課題カテゴリに対して、施策を講じる際は「投資対効果の高い順に着手する」という原則が重要です。リソースが限られている事業者では、複数の施策を同時並行で進めると効果の測定が難しくなるため、まず1つのカテゴリに集中してPDCAを回すことをおすすめします。
計測結果が示す課題カテゴリと、対応する施策の大分類は以下の通りです。体験品質が課題の場合は施策の効果が出るまでに一定の期間を要しますが、長期的には最も高いROI(投資利益率)が期待できます。情報発信の改善は比較的短期間で効果測定ができるため、体験品質と並行して進めることも有効です。
具体的な施策の詳細(CRM設計・フォローメール・インセンティブプログラムなど)については、インバウンドのリピーター獲得施策に詳しくまとめられていますので、あわせてご参照ください。
投資対効果の高い順に整理した施策カテゴリ一覧
以下の表は、3つの課題カテゴリごとに代表的な施策を投資対効果(ROI)の高い順に整理したものです。「導入コスト」「改善効果の規模」「効果が出るまでの期間」の3軸で評価しています。
| 優先度 | 課題カテゴリ | 施策大分類 | 導入コスト | 効果出現期間 | ROI見込み |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 体験品質 | 多言語対応・スタッフ教育 | 中 | 3〜6ヶ月 | ★★★ |
| 2位 | 情報発信 | 多言語SNS・口コミ誘導施策 | 低 | 1〜3ヶ月 | ★★☆ |
| 3位 | フォロー体制 | デジタルスタンプ・メール取得施策 | 低〜中 | 3〜6ヶ月 | ★★☆ |
| 4位 | フォロー体制 | CRM導入・ステップメール設計 | 高 | 6〜12ヶ月 | ★★★ |
| 5位 | 情報発信 | インセンティブプログラム設計 | 中〜高 | 3〜6ヶ月 | ★★☆ |
CRM導入やインセンティブプログラムはROI見込みが高い一方で、導入コストと運用負荷も大きくなります。まずリソースの少ない施策(多言語SNS・口コミ誘導)から始め、効果を確認しながら段階的にフォロー体制を整備していくアプローチが現実的です。
4. 業種別の計測・改善ポイント
飲食・小売:来店頻度データの取り方と活用
飲食店や小売店でリピート率を計測するうえでの最大のハードルは「同一顧客を識別する仕組み」の構築です。キャッシュレス決済端末のデータを活用できる場合は、ウォレットIDをキーにした来店頻度の把握が最もコストが低い方法ですが、海外発行カードとの連携に制約があるケースもあります。
より汎用的な手段は、多言語対応のデジタルスタンプカード(QRコードベースのアプリ)の導入です。月額数万円程度のSaaSが多く、英語・中国語・韓国語対応のものを選ぶと外国人旅行者にもスムーズに使ってもらえます。データが蓄積されたら、以下の3軸で分析します。
・国籍別リピート率:中国・韓国・台湾など近隣アジア圏は来日頻度が高くリピート率も高い傾向があり、市場別の優先度判断に使えます。
・初回来店からのリピートまでの日数(ラグタイム):平均ラグタイムを把握することで次回来訪の案内タイミングを最適化できます。
・商品カテゴリ別のリピーター構成比:再来店のきっかけとなっている商品を特定し、SNSの訴求ポイントを絞り込めます。
宿泊・観光施設:再訪意向スコアの設計
宿泊施設や観光施設では、同一旅行中の再訪は構造的に少なく、リピート率の実測には年単位のデータ蓄積が必要です。そのため、「再訪意向スコア」を先行指標として活用することが有効です。
再訪意向スコアとは、チェックアウト後に「また来たいですか?(5段階)」を多言語アンケートで聞き、スコア4以上の割合を月次で追う指標です。この割合が70%を下回る場合は体験品質に課題があると診断できます。実施方法としては以下の3つが一般的です。
・フロントのタブレット端末:回収率が30〜50%と高いが、スタッフの案内が必要。
・QRコードによるオンラインフォーム:設置コストは低いが、回収率は5〜15%程度に留まることが多い。
・OTA(予約サイト)のレビューシステム活用:Booking.comやTripAdvisorの自動レビュー依頼データを代替指標として分析できます。
再訪意向スコアと実際のリピート率は完全には一致しませんが、スコアが改善した翌年にリピート率が上昇するという遅行相関が期待できます。継続的に計測・記録し、体験品質の改善と紐づけて管理することで有効な先行指標として機能します。
5. よくある質問(FAQ)
Q1. インバウンドのリピート率はどう計算しますか?
リピート率(%)= リピーター来店・来館数 ÷ 総来店・来館数 × 100 で計算します。分母を「ユニーク顧客数(実人数)」とする定義もあり、顧客単位で管理できる業態では後者を推奨します。また、測定期間は業種の来店サイクルに合わせて設定することが重要です(飲食:3ヶ月以内、宿泊:1年以内など)。
Q2. 業種別のインバウンドリピート率の目安はありますか?
飲食店は10〜20%、宿泊施設は5〜15%、小売・土産店は15〜30%、観光施設は3〜10%が一般的な目安です。ただし立地や集客チャネルによって大きく異なるため、まず自社の現状値を計測し、業種平均との乖離幅を把握することが先決です。
Q3. リピート率が低い原因はどうやって特定しますか?
「体験品質スコア(レビュー評価)」「情報到達率(SNSフォロー率)」「フォロー体制の有無(来訪後の接点管理)」の3つの指標を確認することで、課題のカテゴリを絞り込めます。レビュー評価が4.0未満なら体験品質、SNSフォロー率が5%未満なら情報発信、来訪後の接点がゼロならフォロー体制に課題があると判断できます。
Q4. 再訪意向スコアはどのように設計すればよいですか?
チェックアウト時や来館後に「また来たいですか?(1〜5点)」を多言語アンケートで聞き、スコア4以上(「来たい」「ぜひ来たい」)の割合を月次で追います。この割合が70%を下回る場合は体験品質に課題があると診断できます。Google Formやタブレット端末を使った簡易的な設計から始めるのがおすすめです。
Q5. 来店頻度データを取る手軽な方法はありますか?
多言語対応のデジタルスタンプカード(QRコードベースのアプリ)の導入が最もコストが低い方法です。月額数万円程度のSaaSが多数あり、英語・中国語・韓国語などの多言語対応のものを選ぶことで外国人旅行者にも使ってもらいやすくなります。キャッシュレス決済データとの連携が可能な場合は、さらに精度の高いデータ収集が可能です。
6. まとめ
インバウンドのリピート率を改善するには、まず「正確な計測」から始めることが不可欠です。感覚的な把握では、どこに問題があるのかを特定できず、施策の優先順位もつけられません。本記事の内容を以下の早見表に整理します。
| ステップ | やること | 判断の目安 |
|---|---|---|
| ①計測 | リピート率を計算し、記録する仕組みを作る | 業種別ベンチマークと比較 |
| ②診断 | レビュー評価・SNSフォロー率・フォロー体制を確認 | 3指標で課題カテゴリを絞り込む |
| ③優先順位 | 課題カテゴリに応じて施策を選定する | 体験品質→情報発信→フォロー体制の順 |
| ④実施 | 1施策ずつ実施してPDCAを回す | 効果測定期間:1〜3ヶ月を目安 |
| ⑤拡張 | 効果が出た施策を定着させ、次の施策へ | CRM・インセンティブ等の高投資施策へ |
リピート率の向上は一朝一夕には達成できませんが、計測と診断を習慣化することで、改善の方向性が見えてきます。具体的な施策の詳細(CRM・フォローメール・インセンティブ設計など)については、インバウンドのリピーター獲得施策をあわせてご参照ください。
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参考文献
・観光庁「インバウンド消費動向調査」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
・日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」(2024年)
https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
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