海外進出におけるローカライズによる市場適応 ~進出先との“隔たり(distance)”を踏まえた展開~
日本企業の海外進出が進む中、「日本で成功した商品やサービスをそのまま持ち込めば売れる」という考え方で海外進出を検討してる企業も少なくありません。国ごとに異なる流通構造、文化、気候、生活様式、価格感覚、宗教・民族的多様性・・・。こうした違いを理解しないまま進出すると、せっかく販路を開拓したとしても継続した事業展開に結びつかないことになります。
それは、海外市場が日本国内の延長線上に存在しているわけではないからです。海外進出は「新規事業=成長戦略」であり、新しい領域への参入そのものだからです。一方で、日本国内での優位性や成功体験を確認し、日本での事業とのシナジーを期待して海外市場へ参入する企業が多いのも事実です。そこで日本市場との「違いの程度」を把握した上で進出国・地域を選定し、現地の需要にマッチした商品・サービスを展開する「ローカライズ」戦略が提案されています。
▼ 海外進出におけるローカライズによる市場適応 ~進出先との“隔たり(distance)”を踏まえた展開~
1. 新規市場の選択は、あらゆる“隔たり(distance)”で考える
まず海外進出先の選定を本国市場との“隔たり(distance)”に基づいて検討する提案がなされています。Ghemawat(2009)の『コークの味は国ごとに違うべきか』では、この"隔たり(distance)”が事業の遂行に影響するとされています。ここでは、特に重要な3つのdistanceについて整理します。
1-1 地理的距離:移動距離や時差が業務の生産性を左右する
移動時間や時差が大きい国ほど、トラブル対応や現地の関係者のマネジメントの難易度は格段に上がります。地理的距離が商取引に及ぼす影響について「距離はコストであり、企業活動に重くのしかかる」といった指摘もあります(柳田 2016)。事実、米国のウォルマートの海外での収益性を比較した結果、距離の近いメキシコとカナダで最も高い収益性を示した一方で、ヨーロッパやアジアでの事業は軒並み赤字でした(Ghemawat 2009)。距離が近い国であれば出張ベースの活動もしやすく、現地状況を“現地現物”で迅速に把握できます。商品改良や販促活動におけるスピード感も向上し、ローカライズを促すことにもなります。
1-2 言語的距離:英語圏は日本企業にとってコミュニケーションコストが低い
言語が共通しているかどうかは、海外ビジネスの生産性を大きく左右します。米国企業が英語圏を中心に事業展開するのは、この“言語的距離の近さ”が理由です。先のウォルマートの収益性に関する事例でも、メキシコやカナダと並んで英国での収益性が高いことが分かっています(Ghemawat 2009)。日本企業の場合、日本語を日常的に使用している国や地域は日本以外に無いことから、この言語の隔たりが海外進出のハードルを高くしています。しかし世界で最も使用されている言語は英語であることから、日本企業にとっても中国語やドイツ語、韓国語を使用する国や地域よりも英語圏に進出する方が難易度が比較的、低いといえます。
1-3 心理的・文化的距離:親日国でも“日本向け商品”は売れるわけではない
「日本製の商品は売りやすい」というイメージは日本で根強くあります。しかし、日本ブランドや日本品質は海外市場での成功を保証しないことが確認されています(丹下 2013)。顧客の嗜好や価格に対する感度、生活環境が日本とは全く異なるからです。たとえば、、、
「日本では売れ筋の商品でも・・・」
→ 現地では味の濃淡・デザイン・サイズ感が異なり、ニーズに合わない場合も
「日本製は高品質だから、値付けを高めに・・・」
→ 現地の経済レベルや商品カテゴリーの違いもあり、価格設定が必ずしも受け入れられない
「現地での販路を開拓はしたが・・・」
→ Distributorや販売代理店はインセンティブで動くので、現地の消費者に「売れるモノ」を何よりも優先して売ります
心理的距離が近く友好的な国・地域であっても、購買行動や流通・販売経路の仕組みや慣行が一致しているわけではないので、親日度が必ずしも消費者の購買行動に結びつくとは限らないのです。
2. 市場特性と消費者嗜好は国ごとに異なる
国・地域ごとの"隔たり(distance)"を踏まえると、「どうせ異なるなら、より近い国・地域のほうが取り組みやすい」という考え方もできます。しかし隔たり(distance)が近くても、次のような市場特性が日本とは大きく異なることを理解する必要があります。
2-1 流通構造・小売業態の違い
国によって、流通の仕組みや小売店の機能、ECと実店舗の比率などは違ってきます。日本では当たり前に機能している"販路”が、他国では存在しないケースもあります。たとえば、多くの品揃えに対応する卸売り業者が存在しない国もあります。また物流のインフラが十分に整備されていない国も多く存在します。
2-2 気候・生活様式・宗教・民族の多様性
同じ国の中であっても、
- イスラム教徒と仏教徒で食文化が異なる
- 南と北で必要な素材や耐久性が変わる
- 都市部と地方で購買力や購買方法が異なる
など非常に多様な違いに対応する必要があります。こういった違いが商品・サービスの“仕様”やターゲット層の居住地域に反映されることになります。
2-3 販路開拓の源泉は「市場と顧客が日本と異なる」という認識から
中小企業の販路開拓の事例では、「現地向けの新商品開発」が共通した成功要因として示されています(張 2012)。他にもローカライズによって成功した事例は複数ありますが、資本力の大小ではなく、どれだけ現地の消費者の嗜好を理解し適応するかが販路開拓を左右します。“日本で好まれるもの”は、海外では異なる評価を受けるからです。
3. ローカライズは海外展開の前提条件である
日本との"隔たり(distance)"が存在する以上、日本の商品・サービスをそのまま持ち込んでも販路を開拓できないのは当然です。また現地のdistributorや販売代理店に一任しても、肝心のターゲット層に合わないものを提供していては彼らが積極的にプロモートする動機付けには至りません。インセンティブで動く以上、現地の消費者に「売れるモノ」を何よりも優先して売ります。彼らが知りたいのは、その「売れる」ポテンシャルです。
3-1 日本のモノやノウハウはそのまま通用しない理由
販路開拓の失敗の源泉は「顧客価値のズレ」によるものです。
- 使用環境が違う
- 課題が違う
- 価格感が違う
- メッセージの響き方が違う
"日本での価値”が海外では成立しない場合を想定しておかなければならないのです。
3-2 ローカライズの実務:商品・サービス・マーケティングの適応
ローカライズとは、単なる翻訳ではありません。商品・サービスのマーケティングにおける4つのP(Product, Price, Place, Promotiuon)に関わる全体の流れを“現地仕様”に適応させることを指します。
《商品》味、サイズ、デザイン、機能、素材
《サービス》提供方法、アフターケア、接客スタイル
《その他》メッセージ、価格帯、広告媒体の選定
マーケティング活動上の対応を、進出国・地域の市場に適応させた上で現地でのマネジメントにも気を配る必要があるのです。
3-3 中小企業のローカライズ
前述の張(2012)による日本の中小企業の事例では、現地向けの新商品を開発が各社の共通する販路開拓の要因として挙げられていました。日本の強みをそのまま展開するのではなく、現地に合わせて再設計するという発想の必要性を示しています。それには、
- 仕様変更・現地向けパッケージ
- 小ロットの試作
- テスト・マーケティング
などを試み、丁寧にターゲットを見極めてから海外市場に入り込むプロセスを設けることになります。当然、そのための「ヒト・モノ・カネ」を用意する必要もあるのです。
まとめ|海外市場での販路開拓の鍵は「ローカライズ」
海外市場は決して日本の延長線にはありません。地理、文化、生活様式、気候、嗜好――あらゆる要素が異なるからこそ、日本の商品やサービスを持っていくだけでは成功しないのです。
モスフードサービスは、国内の市場が縮小しているからではなく新たな市場に積極的に出ていくことが「海外進出」であると定義しています(西原 2022)。つまり企業の「成長戦略」として取り組む必要があり、それには相当のコストを必要となるはずです。
また海外事業の中心に据えるべきは、「現地での販路開拓は“現地の需要に見合った商品・サービス”を開発し提供すること」です。そのために不可欠なのが、テスト・マーケティングで現地の反応を確かめ、仮説を検証するプロセスを含める必要があります。展示会・ポップアップ・越境EC・小規模販売など、テストマーケティングの手法は多様化しています。「まず調べてみる」「まず使ってもらう」ことで、机上では得られない顧客の本音が見えてきます。"隔たり(distance)"を正しく理解し、現地の事情を把握することが海外進出のプレ段階で欠かせないといえるでしょう。
《参考文献》 ・柳田志学(2016)「距離」の概念に基づくサービス企業の国際化に関する一考察 -アジア「新・新興国」CLM を事例として ・Ghemawat,P.(2007),Redefining GlobalStrategy : Crossing Border sina World Where Differences Still Matter, Harvard Business School Publishing Corporation(望月衛訳 2009)『ゲマワット教授の経営教室:コークの味は国ごとに違うべきか』文芸春秋) ・丹下英明(2013)消費財中小企業の海外市場開拓−欧州流通業者のニーズと中小企業のマーケティング戦略− ・西原博之(2022)「モスフードサービスの国際化・グローバル化について今後の展望と将来ビジョン ―モスフードサービス、櫻田会長へのインタビューを中心として―」『明治学院大学産業経済研究所研究所年報』第 38巻,1-18頁 ・張又心(2012)中小企業の国際化戦略』88頁(同友館)
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