「AIIB」の最新状況 | 中国主導の「一帯一路」の影に隠れた実態とは?
「AIIB」の最新状況と最新の加盟国について、さらには2021年時点で日本とアメリカがAIIBに参加していない理由についても解説します。
AIIBとは「アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)」の略称です。2021年12月現在、AIIBに参加している最新の加盟国・地域は承認ベースで103となっています。
本稿では、AIIBとは何なのか? という基本的な疑問に加えて、その設立の経緯と2021年における最新状況、そして中国主導の「AIIB」の背景にある巨大経済構想「一帯一路」の影、さらにはAIIBの今後の展望について詳しく解説します。
日本でも度々話題にあがる「AIIB」。しかし、そもそもAIIBとはなんのか? さらに日系企業が海外進出した際にどういった影響があるのか? 日本経済への影響とは? …といった一連の疑問について答えられる方は、あまり多くはいらっしゃらないと思います。
AIIBは、2013年の10月のAPEC首脳会談で、中国の国家主席・習近平氏によって提唱され、2015年に正式に設立されました。設立から2年以上経った2017年5月、当時の安倍首相はAIIBへの参加をほのめかす発言をし、大きな注目を集めました…にも関わらず、2021年現在、なぜいまだに日本は参加国として加盟していないのでしょうか?
「AIIB」の解説はもちろん、AIIBに日本とアメリカが加盟していない理由についても、AIIB設立の経緯を紐解くことで明らかにします。さらにAIIBの存在が日本企業の海外進出に与える影響についても考察していきます。
「AIIB」の最新状況【2021年版】 | 中国主導の「一帯一路」の影に隠れた実態とは?
- 1. AIIBとはどんな機関なのか
- 2. 2021年におけるAIIBの現状
- 3. AIIB参加は日本にとってメリットがない?
- 4. AIIB設立の経緯
- 5. なぜ日本は参加国ではないのか
- 6. AIIBの今後の展望
- 7. 日本企業への影響は?
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1. AIIBとはどんな機関なのか
AIIBは中国の存在感が大きい
AIIBとは中国の主導によって設立された国際金融機関のことで、アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)と呼ばれる、アジア向けの国際開発金融機関です。複数の国によって設立され、アジアの開発を目的として融資や専門的な助言を行う機関の一種で、米国主導のIMF(国際通貨基金)や、日米主導のADB(アジア開発銀行)のような機関です。
2021年12月時点で、AIIBには103の国・地域が加盟しています(※日本とアメリカはその参加を見送っている状態)。
また、その議決権の85%は出資比率に応じて、12%は全加盟国、3%は創設メンバーに分配されており、中国は30%近い議決権を保有しています。最重要議案の採決には75%の賛成が必要なので、拒否権を持っているのは事実上中国だけということになります。
インフラ投資は金額が巨大であり、建設期間もリターン回収にも時間がかかるため、民間投資はほとんど集まりにくいので、AIIBのような開発金融機関が必要になります。
2. 2021年におけるAIIBの現在
2021年12月現在、AIIBの加盟国・地域は103に
2015年12月に発足したAIIB。2021年12月現在、設立当初に57ヵ国だった加盟国は、現時点で103ヵ国・地域にまで拡大しています。
加盟国の動向としては、2019年8月までに、ベルギー、ギニア、セルビア、ギリシャの域外4ヵ国が出資払込み手続きを終えたことで、正式加盟国・地域の数は合計74、でした。さらに同年7月の年次総会において、ベナン、ジブチ、ルワンダの域外3カ国の加盟が承認されたので、AIIBが承認した国・地域の数は、出資払込み手続き中の国・地域 26と合わせてついに100に達していました。そして前述したように2021年12月現在では103にまで増加したのです。
確かに開業より4年半となる2020年7月時点での投融資額は約200億ドル(約2兆1千億円)という、当初の想定の半分以下に留まってはいました。
しかし、その先達とも言える、日米主導で1966年に設立されたアジア開発銀行(ADB)の加盟国・地域が68ヵ国・地域にとどまっている現状を考慮すると、AIIBの場合は、その参加国・地域の多くが「世界を席巻する潤沢なチャイナマネー」目当てに参加したと言っても過言ではないでしょう。
ちなみに先進7カ国であるG7内で見てみると、日本と米国だけがAIIB未加盟となっています。
いまや中国と政治的対立をするインドがAIIBにとって最大の債務国
過去の投資案件についても、2019年4月までにAIIBが承認した案件は39件。その総額は79億4,00O万ドルとされていました。
2019年12月、インドネシア政府が、今後予定している「新首都建設」(※人口が過密状態になるジャワ島のジャカルタからボルネオ(カリマンタン)島東部の東カリマンタン州へ移転予定)の資金調達について、旧来の国際開発金融機関よりも小規模かつ融通がききやすいとされるAIIBからの調達を念頭に置いている旨を明らかにしました。
2021年1月までには、その融資額は220億ドル(約2兆2812億円)にまで上っています。
そして世界的なコロナ禍の中でも、2020年4月の時点で、AIIBは50億ドル(518億円)の危機復興基金を設立。その後、その規模は130億ドル(約1兆3479億円)にまで拡大しています。
その基金の中から、経済危機に陥ったパキスタンには2.5億ドル(約259億円)、ジョージアには4500万ユーロ(約57億円)を融資。さらにベトナムの銀行に1億ドル(約104億円)を融資しています。
さらに注目したいのが、中国と政治的対立の激しいインドへの融資で、コロナ禍前よりインドに対し多額の融資を実施していましたが、コロナ対策資金として12億5,000万ドル(約1296億円)を合計で融資しており、いまやAIIBの累計投融資承諾額の約4分の1をインドが占めている状態です。
また、2021年5月、大阪ガスと国際協力銀行(JBIC)の官民連合によるプロジェクトに、AIIBが7500万ドル(約83億円)の融資をすることが発表されましたが、これは、日本企業が借入人として関係している案件にAIIBが融資する初めての例となっています。
3. AIIB参加は日本にとってメリットがない?
いまだ不透明な「AIIB」の実態と「一帯一路」との関係性
AIIBのおもな業務は、アジア新興国などにおけるインフラ開発を目的とした融資を行うことにあります。その資本金の目標は1,000億ドルで、中国が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」(※)に基づくものです。
日米が主導するADB(アジア開発銀行)では賄いきれないほど増加を続ける、アジア地域のインフラ整備における資金面において補完的に応えることを目的としています。
ただ後述しますが、2020年現在、日本政府としてはアメリカとともに加盟していません。その理由としては、国際開発金融機関としての公平性において疑念が拭えないこと、さらには日本が加盟するメリットが乏しいことが挙げられています。
事実、AIIBの理事会で承認された累計融資額120億ドルとされていますが、実際に融資されたのは2割にも満たないとの報告があります。その多くはADB(アジア開発銀行)や世界銀行(World Bank)のプロジェクトに、いわば相乗りするような協調融資となっているからです。
AIIBの2019年3月末の財務諸表において、その純資産は196億ドル(払込資本金193億ドル)であるのに対して、貸出金が16億ドルにとどまっており、その払込資本金の大半が実際の事業には適用されておらず、現金または定期預金として保有されているとの見方もあります。
また、AIIB発足当初は、日本企業がアジアのインフラ開発から後れをとるのではという懸念がありましたが、現時点でAIIBの入札は加盟国以外の企業にも開放されており、日本企業による入札も可能となっています。
さらに、中国が邁進する「一帯一路」が背景にあることで、アジア新興国のインフラ建設において過剰な融資を行うことで、それらの新興国が「中国による債務」を被っているという国際的な批判もあります。
※
2013年に習近平国家主席が打ち出した構想。「シルクロード経済ベルト」として、アジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートを構築することで、域内全体の貿易を活発化させて経済成長をさせようというもの
4. AIIB設立の経緯
アメリカとの対立が原因
いまだ不透明な「AIIB」の実態に中国手動の「一帯一路」の影があることは否定できないでしょう。ここからは、そんな中国がAIIBを設立する野心を持つに至った経緯を考察していきましょう。
そのためにはまず歴史を振り返る必要があります。第2次世界大戦のあと、アメリカはブレトンウッズ体制という世界経済秩序を形成しました。当時はヨーロッパも戦争の影響で焼け野原と化しており、アメリカの経済力は世界でも圧倒的でした。そのためアメリカ主導の、アメリカにとって有利な国際経済秩序が形成されたのです。ブレトンウッズ体制を維持するために作られたIMFは、議決においてアメリカのみが拒否権を保有しています。ADBも日米が合同で拒否権を独占しています。
時代は変わり、中国は現在、世界の名目GDPの12%を占めるほどに成長しています。当然中国は国際金融舞台でのプレゼンスを高めるために、IMFやADBにおける議決権構成の変更を求めますが、アメリカ(と日本)がこれを拒否。発言権もなく改革も進まない状況に業を煮やした中国は、「アメリカの作った国際経済圏の影響の及ばない領域の形成」という野心を持つに至りAIIBが形成されたのです。つまり覇権国であるアメリカが形成した国際ルールへの挑戦という見方もできるのです。
5. なぜ日本はAIIBの参加国ではないのか?
アメリカの存在と不透明なガバナンスが大きな要因
中国は、日本とアメリカのAIIBへの参加を求めています。日本が長年ADBを通じてアジアを開発してきたノウハウを必要としているのです。要請があるにも関わらず、なぜ日本はAIIBへ参加しないのでしょうか?
1. アメリカへの気遣い
AIIB設立の経緯を見れば、AIIBへの参加をアメリカが快く思わないことは明らかでしょう。中国が設立メンバーの締め切りを2015年3月末とし、各国に参加を募った時、アメリカは日本やヨーロッパの同盟国に参加拒否するように圧力をかけました。
アメリカの意に反し、3月12日にイギリス外務省が参加を表明しました。それに続くかのように3月16日にフランス・ドイツ・イタリアも参加を表明したとき、同盟国の裏切りにアメリカは激怒しました。日本が参加を決めきれない理由には同盟国であるアメリカへの配慮があるのです。
2. ガバナンスの問題
配慮以前にAIIBという機関そのものの信頼を疑う声もあります。
AIIBのような国際開発金融機関には、開発の過程において、近隣の人々や環境への不当な害を減らすためにセーフガード政策を行う責任があります。環境や人々に配慮をすれば当然手続きは煩雑になり、時間もコストもかかります。人権への配慮の薄い中国が主導するAIIBがはたしてセーフガード政策を徹底するのか疑問が残るのです。
また、コストがかかるという理由からAIIBは常駐理事会を置いていません。常駐理事会がないということは中国当局の裁量で意思決定が行われる可能性は十分に考えられます。またAIIBの活動は共産党の言論統制を受けます。つまり報告書はすべて当局の検閲の対象となるのです。透明性という観点から、課題は山積しています。
6. AIIBの今後の展望
アジアのインフラは巨大市場
アジア開発銀行(ADB)が発表した報告書によれば、アジアの新興経済は成長を維持するには今後10年間でインフラ投資を最大26兆ドル(約2,930兆円)必要としています。あまりにも莫大な金額であり、ADBとAIIBを足しても全く足りない規模の需要です。
そのため、メディアで騒がれるような、ADBとAIIBが対立するという構図にはまずならないでしょう。日米が加盟することでガバナンス(統治)がしやすくなる側面もあります。今後のアジアのインフラ需要を満たすためにも多元的な連携が必要となってくるでしょう。
7. 日本企業への影響は?
案件獲得は難しい現状
AIIBは機材、サービスの調達に国別の制限を設けず、非加盟のメンバーにも開放しています。一方、ADBは加盟メンバーにのみ入札資格を与えている点で異なります。もし、AIIBが、ADBのように制限を設けていれば、日本企業はプロジェクトへの入札を行えなくなってしまうので、不利益があります。しかし制限を設けていない現状を踏まえると、日本の企業にとって日本政府がAIIBに加盟するかどうかはそれほど重要ではありません。
さて、AIIBの活動が本格化すれば、日本の企業が海外のインフラ事業に携わるチャンスが生じます。最近では、インドネシアのロンボク島開発で、AIIBが2億6千ドル(約292億円)の融資をジョコ・ウィドド大統領に提案しました。
ただ、ADBの事業に関する日本企業の受注率は累積で10数%というものですが、近年は新興国の受注が増え日本企業の受注率低下傾向は顕著となっています。そのため、更に激しい競争が予想されるAIIBの案件に関して、日本企業が受注できるかどうかは、厳しい現状であると言わざるを得ません。
日本企業が大手・中小に限らず連携し、技術力を売りとして提案していくことが重要です。各企業の利害関係やしがらみを超えなければなりません。そのために重要な役割を担うのは、日本企業の海外ビジネスをサポートする企業です。彼らが緩衝材や潤滑油となり、大きなプロジェクトを成立させていくことが可能です。AIIB案件の行方を担う海外ビジネスのコンサルタント企業やサポート企業に要注目です。
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