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米中対立による「経済制裁合戦」の行方 | 中国の「反外国制裁法」に対して日本企業が留意すべきことは?

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米中対立における経済制裁合戦の行方について解説します。あわせて、中国の欧米に対する対抗処置である「反外国制裁法」の概要、さらには米中両国の〝板挟み状態〟にある日本企業が海外ビジネスを実施するにあたって気をつけるべきポイントについてもレクチャーします。

今後の米中対立の行方を占う上で、2022年2月に開催が予定されている北京オリンピックは非常に重要なトピックとされています。結論から言えば、すでに北京オリンピックを巡る米中の攻防は始まっているのです。

2021年の夏に開催された東京オリンピック・パラリンピックを巡っては、大会開催前から反五輪の声が膨れ上がり、世論が二分される形での開催となりました。東京でのパラリンピック競技大会が無事終了すれば、2022年2月からは中国にて冬季五輪である北京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、当然ではありますが、オリンピックが終わっても、欧米諸国と中国との対立は依然として続いていきます。

つまり、政治的にも経済的にも米中両国の板挟み状態になる日本および日本企業にとっても、いまだ予断を許さない状況であるということです。本文内で詳しく解説しますが、中国を市場もしくは生産拠点としてビジネスを展開している日本企業は、両国の関係性に常に注意を払っておく必要があるということです。

本テキストでは、米中の対立構造はもちろん、両国の経済制裁の概要、中国の欧米への対抗策である「反外国制裁法」について、さらには、米中対立における北京オリンピックの重要性についても解説します。

果たして米中の経済制裁の行方とは…? そして両国に〝板挟み〟の日本企業が気をつけるポイントとは…?

1. バイデン政権による中国への制裁活動の概要

東京オリンピック閉幕後も続く米中の制裁合戦

東京オリンピック・パラリンピック開催後も、欧米VS中国の制裁合戦は続いています。

たとえば、2021年7月23日、中国政府は、トランプ前政権時代のロス前商務長官を含む個人6人(他には、米国の人権団体で中国を担当する人物など)と1団体に対して経済制裁を科すと発表しました。

この経済制裁は、米バイデン政権が同年7月に、香港の民主派を弾圧しているとして、中国政府の香港出先機関である「中央駐香港連絡弁公室」の高官ら7人に制裁を科したことへの報復としてですが、ロス前商務長官はトランプ政権時代に、中国のグローバル企業であるファーウェイ(HUAWEI / 華為)やZTE(中興通訊)を含む中国企業に対し、米政府や企業との取引禁止を主導した人物でもあります。

バイデン政権の発足からすでに半年が経過していますが、先述の香港出先機関への制裁を含めて、同政権による中国への制裁活動は依然として続いています。

バイデン政権は今年7月、中国が新疆ウイグル自治区で人権侵害を続けているとして、侵害に関与している中国企業14社を輸出禁止リストに追加。これによってこの14社は米国製品が入手できなくなり、米国のサプライチェーンから除外されることになりました。

バイデン政権は同年6月にも中国の太陽光発電会社などを同リストに追加するなどし、両国の制裁合戦が収まる気配は全く見えない状況なのです。

2. 中国による欧米への対抗策「反外国制裁法」とは?

2021年6月に「反外国制裁法」が成立

今回のロス前商務長官などへの経済制裁について、中国は2021年6月に可決した「反外国制裁法」を初めて適用したと発表しています。

このセクションでは、米中制裁合戦のなかで、中国の欧米への対抗策とされている「反外国制裁法」について解説します。

以前から、中国政府は、外国による中国制裁措置に対して、それらの外国人の中国への渡航禁止や、中国企業との取引を中止するなどの制裁を科してきました。そして、さる6月11日、日本の国会に当たる全国人民代表大会の常務委員会は、外国が中国に対して制裁を発動した際、中国が報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決したのです。

この「反外国制裁法」とは、いわばそれらの制裁処置を正式決定するものであり、中国に対する制裁処置を決定もしくは実施した組織や個人に対して、ビザ発給の停止や国外退去、中国国内の資産の凍結などを実施することを定めた法律です。

香港への「反外国制裁法」の適用は見送り

さる7月後半には、中国政府がこの「反外国制裁法」を、香港とマカオにも適用する方針だと報道され話題を呼びましたが、8月後半の時点では、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が香港への導入についての裁決を見送ったことが発表されています。

いまだ香港は一国二制度で中国と法体系が異なりますが、仮に香港で「反外国制裁法」が適用された場合、アメリカと香港のふたつの国・地域にまたがってビジネス活動をしている外資系の金融機関などが、中国とアメリカの双方の規制の板挟みになってしまうことが懸念されています。

3. 米中対立の板挟み状態(?)にある〝第三国〟としての日本

中国への制裁に同調した場合は第三国も報復の対象に…

そして中国とアメリカの板挟みになってしまうのは〝香港の外資系企業〟だけではありません。日本企業もその中国からの規制の対象となる可能性があるからです。

上述したように、「反外国制裁法」の実施によって、中国とアメリカの双方でビジネスをする外資系企業が、米中の制裁合戦の板挟み状態になることが懸念されています。

なぜなら同制裁法には、「中国が外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、その関係者たちの国外追放や入国禁止、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引中止などで対抗できる」と規定するだけでなく、「外国政府による不当な制裁に第三国も加担すれば、中国はその第三国にも報復できる」と明記されているからです。

この反外国制裁法について、日本企業が特に注目すべき点が、この“第三国への報復”です。

現在、日本は欧米VS中国の制裁合戦の当事者ではありません。よって、米国のように日本が中国から制裁処置を発動されることはありません。

しかし、以前の記事『ユニクロの米輸入停止・カゴメの中国撤退の背景を解説』にて解説したユニクロのケースからも分かるように、自社のサプライチェーンにおいて中国と密接な関係にある企業にとって、「反外国制裁法」とは非常にセンシティブな法律なのです。

ユニクロのケースだと、自社商品が中国による人権弾圧が行われていたとされる新疆ウイグル自治区産の綿を使用していたとして、アメリカへの輸入が差し止めされました。

逆に考えると、今後仮に日本がウイグル人権問題などで欧米諸国と同調し、なんらかの声明などを発表した場合は、中国の「反外国制裁法」で定められた第三国に該当することから、中国から何らかの制裁を課される可能性があるということです。

4. 「反外国制裁法」には報復対象の明確な基準がない?

当事者もよく分からないまま中国から報復処置を受ける可能性も…?

そして、この「反外国制裁法」で懸念されるべきポイントは、何が“中国が外国から不当な制裁や干渉を受けた”ことに該当するか、具体的に明記されておらず、報復対象に関する明確な基準が分からない…ということです。

要は、何が制裁や内政干渉にあたるかを決定するのは、あくまでも現政権の習近平政権であるということです。つまり、いつ、どこで、何が報復対象となるか明瞭ではなく、当事者が何もよく分からないまま、突然中国から報復措置を受ける可能性があるということです。

仮に中国からの報復処置を受けないよう事前策を講じようと思っていても、具体的なガイドラインがない状態では、なかなか容易ではありません。

5. 日本企業にとってはトランプよりバイデンが厄介?

バイデン政権では、日本はアメリカと中国の〝板挟み状態〟にある

脱トランプを掲げるバイデン政権は2021年2月に誕生しました。

トランプとバイデンを比較した場合、全てが真逆に見える一方で、対中国ということになれば大きな変化はありません。

誤解を恐れずに言えば、米中貿易戦争の延長戦上にある、米中の経済制裁合戦において、多くの日本企業とっては、前トランプ政権よりも、現バイデン政権のほうが厄介(?)と言えるかもしれないのです。

以前の記事『米中対立の今後と日本企業への影響〈1〉 | バイデン政権によって広域化する世界の貿易摩擦』で詳しく解説しましたが、バイデン政権は、日本やオーストラリアなどの友好国や同盟国と協力しながら、中国に対抗していくというスタンスをとっています。

このスタンスは、米中対立に巻き込まれたくない日本としては、非常に由々しき問題です。

2021年2月、バイデン大統領は就任後初となる施政方針演説の中で、中国を最大の競争相手と位置付け、経済や人権、知的財産分野などで中国と競争していく姿勢を鮮明にし、日本や韓国、オーストラリアや欧州諸国などと協調していく決意を表明しています。

トランプ前政権においては、欧州との関係が冷え込んでいたこともあって、いわばアメリカは孤立した状態にありましたが、対中国政策においても、同盟国への協調はそれほど求めてはいませんでした。

しかしバイデン政権となった現在、当然ながら日本は安全保障の問題もあるので、バイデン政権から要請を受ければ、アメリカとタッグを組まざるを得ません。その一方で、常に中国からどのように見られているかも意識せざるを得ません。

いわば現在のバイデン政権下においては、日本はアメリカと中国の〝板挟み状態〟にあるとも言えるのです。

6. 日中関係の悪化で生じる経済リスクとは?

中国による輸出入制限や関税引き上げ、さらには不買運動も…

日本にとっては中国が依然として最大の貿易相手ですので、現在の欧米VS中国の制裁合戦の中で、中国が輸出入制限や関税引き上げ、不買運動などで日本に圧力を掛けてくる可能性は排除できません。

2005年、当時の小泉首相の靖国神社を参拝し、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が起こりました。

2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件の際、中国は日本に対してレアアースの輸出制限に打って出たことがあります。

また、2012年には、当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化を宣言したことがきっかけで、中国各地では反日デモが拡大し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のスーパーや百貨店などが破壊や略奪の被害に遭いました。

このようなことが繰り返されないという保証はどこにもないのです。

7. 米中対立の争点は「北京オリンピック」に

すでに欧米では北京オリンピックを外交的にボイコットしようとする動きが…

すでに北京オリンピックへのカウントダウンは始まっています。中華民族の偉大な復興を掲げる習政権は、北京オリンピックの偉大な成功を成し遂げ、中国の存在力を内外に強くアピールしたいはずです。

つまり、今後の欧米VS中国の制裁合戦において、北京オリンピックが大きなポイントになるということです。

すでに欧米では北京オリンピックを外交的にボイコットしようとする動きが見られます。例えば、2021年5月、米国議会下院は、香港国家安全維持法やウイグル人権問題などを理由に、北京オリンピックの開会式や閉会式の際、選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせるよう各国に呼び掛けました。

また同年7月、欧州議会も、同様の理由で外交的ボイコットを加盟国に求める決議を採択しています。

すでに北京オリンピックを巡る米中の攻防は始まっているのです。

8. 優良な海外進出サポート企業をご紹介

今後の欧米VS中国の制裁合戦の行方

最後のセクションでは、今後の欧米VS中国の制裁合戦の今後の展望と、日本企業への影響について解説します。

結論から言えば、欧米と中国との政治的な歩み寄りが見えないことから、今後も欧米VS中国の制裁合戦が続くと考えた方がいいでしょう。

米中対立における2021年後半〜2021年の前半における争点は、北京オリンピックとなります。否応なく北京五輪の政治化は加速していくでしょうし、先述したアメリカや欧州議会の呼び掛けのように、それによって両陣営の制裁合戦がいっそう激しくなる可能性があります。

そして日本企業への影響ですが、現時点では限定的であり、今後も現在のような状況が続く可能性が高いです。中国や香港に進出している日本企業のなかでも、撤退や規模縮小を進めている企業はもちろん存在しますが、引き続き中国を自社ビジネスの需要なマーケットととらえる企業も数多く存在します。


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ただ、あまり影響がないからといって、米中対立も制裁合戦も大きな問題ではないととらえてしまうのは早計です。政治リスクの影響を、そのまま経済アクター(基本主体)が受けてしまうことは、近年の国際事例からも明らかであり、それらの政治リスクは一気に肥大化する恐れがあります。

ミャンマーにおけるクーデターのケースもそうですが、国内および外交情勢が一気に緊迫化したことで、急遽ミャンマーでの事業撤退や駐在員の帰国を検討・実行せざるを得ない日本企業が多く見られました。

欧米VS中国の制裁合戦という政治リスクも同様です。最初の変動は小規模に見えても、それがトリガーとなって双方の緊張が一気にエスカレートする恐れも否定できません。

海外ビジネスに従事する日本企業としては、依然として慎重かつ冷静に米中対立の動向を追っていく必要があることは言うまでもありません。

「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。当然、複数の企業の比較検討も可能です。

「アメリカや中国を含む海外進出の戦略についてサポートしてほしい」「海外事業におけるカントリーリスクを含めた市場調査について教えてほしい」「米中での事業計画立案のアドバイスをしてもらいたい」「海外に進出したいが何から始めていいのかわからない」…といった、アメリカ・中国を含めた、多岐に渡る海外進出におけるご質問・ご相談を承っています。

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