訪日外国人が減ったときのマーケティング見直し術|需要変動に強いインバウンド戦略の作り方
訪日外国人は「増え続ける」ものではありません。2020年のコロナ禍では訪日客が前年比87%減を記録し、インバウンドに依存していた事業者の多くが深刻な打撃を受けました。東日本大震災、円高局面、日中・日韓関係の緊張など、訪日客が急減する局面は過去にも繰り返し訪れています。
一方で、減少は必ずしも「危機」を意味しません。2024年には中国からの訪日客が約45%減少したにもかかわらず、消費額全体は約16%増加しました。客数が減っても客単価が上がれば売上は維持できる。量から質への構造転換が静かに進んでいるのです。
大切なのは、平時から「需要変動に強い事業構造」を設計しておくことです。本記事では、インバウンド需要が変動する要因を整理したうえで、減少時に見直すべき3つのポイントと、減少局面を「次の成長の準備期間」に変える具体的なアクションを解説します。
この記事でわかること
- ・インバウンド需要が変動する要因と、過去の減少事例から学べる教訓
- ・訪日客が減ったときに見直すべき「ターゲット国・国内需要・コスト構造」の3つのポイント
- ・減少局面を次の成長に変えるための、コンテンツ蓄積・スタッフ教育・新規市場開拓の進め方
▼目次
1. インバウンド需要はなぜ変動するのか
過去の減少事例と要因 ― コロナ・震災・為替・地政学リスク
訪日外国人数は右肩上がりに伸びてきたイメージが強いものの、実際には何度も急激な落ち込みを経験しています。最も記憶に新しいのは2020年のコロナ禍です。世界的な渡航制限により訪日客は前年比87%減となり、年間3,000万人を超えていた訪日客数が400万人台にまで縮小しました。インバウンド売上に依存していた宿泊施設や飲食店は、数ヶ月で収益がほぼゼロになるという状況に直面しました。
こうした減少はコロナだけの特殊事例ではありません。2011年の東日本大震災では原発事故の影響もあり訪日客が一時的に激減し、回復には半年から1年を要しました。為替変動も大きな要因で、円高局面では訪日旅行のコストが相対的に上がり、価格に敏感な旅行者層が渡航先を他国へ切り替える動きが生じます。
地政学リスクも見逃せません。日中関係の悪化時には中国からの訪日客が急減し、2023年の処理水放出をめぐっては中国からの団体旅行の取りやめが相次ぎました。台風や地震の報道が海外メディアで拡散されると短期的な渡航控えが起きるケースもあります。訪日客の減少はいつでも、どの国を起点としても起こりうるのです。
「減少=危機」ではない ― 量から質への構造転換
減少と聞くとネガティブな印象を持ちがちですが、数字を丁寧に見ると別の景色が浮かび上がります。2024年のデータでは、中国からの訪日客が前年比で約45%減少したにもかかわらず、訪日外国人全体の旅行消費額は約16%増加しました。これは、かつての「爆買い」に象徴される大量消費型から、体験型・高単価型の消費へとインバウンド市場の構造が変化していることを示しています。
客数が減っても、1人あたりの消費額が上がれば事業の売上は維持できます。むしろ、大量の旅行者を薄利で受け入れるモデルから、少数でも高い満足度を提供して高単価を実現するモデルへの転換は、サービスの質を高めることにもつながります。減少局面は「どの客層を残し、どの客層に注力するか」を冷静に選別する機会でもあるのです。
重要なのは、客数の増減に一喜一憂するのではなく、「客単価」「リピート率」「顧客満足度」といった質の指標にも目を向けることです。量の減少を質の向上で補える事業構造を持っていれば、需要の波に振り回されにくくなります。減少は危機ではなく、自社のビジネスモデルを再点検するためのサインとして受け止めるべきでしょう。
2. 減少時に見直すべき3つのポイント
ターゲット国の分散 ― 特定国依存のリスクを減らす
訪日客が減少した際、最初に確認すべきは「売上がどの国に依存しているか」です。特定国の旅行者に売上の大半を頼っていれば、渡航制限や政治的関係悪化の瞬間に事業全体が打撃を受けます。コロナ禍で中国人旅行者に売上を依存していた免税店や土産物店が軒並み苦境に陥ったのは象徴的な事例です。
リスクを軽減するためには、ターゲット国を複数に分散しておくことが有効です。東アジア(中国・韓国・台湾)だけでなく、東南アジア(タイ・ベトナム・フィリピン)や欧米豪の旅行者もターゲットに含めておけば、特定国の減少を他国でカバーできます。「Digima〜出島〜」の相談データでも、人気の進出先はアメリカ、中国、フィリピン、台湾、ベトナムと多様であり、需要は一国に集中していません。
ただし「全方位」は現実的ではありません。言語対応やマーケティング施策を考えると、3〜5カ国に絞って分散するのが効率的です。自社の商品との相性やビザ要件などを総合的に判断し、注力する国を選びましょう。「薄く広く」ではなく「選んだ国にはしっかりアプローチする」という姿勢が大切です。
国内需要とのバランス ― インバウンド一本足にしない
インバウンド需要の成長に目を奪われると、事業全体がインバウンド客に偏りがちです。しかし売上の100%をインバウンドに依存する状態は、コロナ禍が証明したとおり極めてリスクの高い構造です。訪日客がゼロになった2020年前半、国内客の基盤を持つ事業者は持ちこたえましたが、インバウンド一本足の事業者の多くは廃業や縮小を余儀なくされました。
国内客とインバウンド客の売上比率を意識的にコントロールすることが大切です。インバウンド依存度が50%を超えている場合は、国内客向けの施策を並行して強化しましょう。地元のリピーター客や国内旅行者など、インバウンドとは別の客層を確保しておくことで、訪日客が減少した局面でのバッファが生まれます。
国内客向けの商品を新たに開発する必要はありません。外国人向けの文化体験プログラムを「地元の方にもおすすめ」として地域向けに発信したり、多言語対応の取り組みを国内メディアに伝えたりと、インバウンド向けに培った資産を国内マーケティングに転用する方法は多数あります。
コスト構造の見直し ― 固定費を変動費に転換する
訪日客の増減に合わせて柔軟に調整できるコスト構造を設計しておくことも、需要変動に強い事業を作るうえで欠かせないポイントです。インバウンド需要が好調な時期に採用した多言語スタッフのフルタイム雇用、月額固定で契約しているSNS広告費、毎月定額の翻訳サービス料。これらの固定費は、訪日客が減少した局面では重い負担になりかねません。
対策として検討したいのが、固定費をできる限り変動費に転換しておくことです。多言語スタッフのフルタイム雇用を繁忙期のみの派遣や通訳サービスの都度利用に切り替える、SNS広告費を月額固定ではなく成果連動型(CPA課金やROAS目標に基づく自動運用)に移行する、といった方法があります。訪日客が減った時期には自動的に広告費も抑制される仕組みです。
外注先との契約も見直しの対象です。翻訳やコンテンツ制作を月額固定で依頼している場合は、案件ベースに切り替えれば閑散期の不要コストを抑えられます。ポイントは「コスト削減」ではなく「需要に連動するコスト構造への転換」です。繁忙期には十分に投資し、閑散期には自動的にコストが下がる仕組みを平時から設計しておくことが、減少局面を乗り越える力になります。
3. 減少局面を「次の成長の準備期間」にする
コンテンツと口コミの蓄積 ― 旅マエ資産を強化する
訪日客が減っている時期は、言い換えれば「忙しさに追われずに腰を据えて作業できる時期」でもあります。この期間を活用して取り組むべき最優先事項が、旅マエ資産の強化です。旅マエ資産とは、旅行者が訪日を検討する段階で目にするSNS投稿、ブログ記事、動画コンテンツ、口コミ情報などを指します。これらは需要が回復した際に最初に効果を発揮する資産です。
具体的には、Googleビジネスプロフィール(GBP)の写真を最新のものに差し替え、過去の口コミに丁寧な返信を行いましょう。放置された口コミは悪印象を与えますが、丁寧に返信するだけで信頼性が大きく向上します。InstagramやYouTubeへの投稿も、客数が少ない時期だからこそ撮影に時間をかけ、クオリティの高いコンテンツを計画的に蓄積できます。
自社ウェブサイトの多言語コンテンツの見直しも、この時期に進めたい作業です。英語ページの情報が古くなっていないか、予約導線がスムーズかなどを点検し、修正を加えておきましょう。回復の初動で選ばれるかどうかは、減少期にどれだけ旅マエ資産を整備できたかにかかっています。
スタッフ教育と受入体制のアップデート
繁忙期にはスタッフが日々のオペレーションに追われ、研修に時間を割けません。減少局面こそ、接客品質を底上げする絶好のタイミングです。
まず検討したいのが接客英語研修や多文化理解研修の実施です。流暢な外国語力は不要で、挨拶や基本的なやり取りができるだけでも旅行者の安心感は大きく変わります。宗教や食文化への配慮(ベジタリアン対応、ハラル対応など)の基礎知識を共有しておけば、多様な国籍の旅行者への対応力が格段に上がります。
ハード面の見直しも進めましょう。メニューの多言語表記の改善、案内表示の見直し、キャッシュレス決済環境の整備など、繁忙期には手をつけられない改善を一気に片付けるチャンスです。新たにターゲットとする国籍がある場合は、その国の旅行者の嗜好をリサーチし受入体制に反映させておくことも大切です。こうした準備を減少期に済ませておけば、需要回復時に競合との差別化になります。
新規市場と新規ターゲットの開拓
減少局面は、これまでアプローチしてこなかった市場へのテストマーケティングを始める好機でもあります。既存ターゲット国からの訪日客が減っているなら、需要ポートフォリオを広げる必然性が高まっています。
近年注目されている成長市場として、欧米の富裕層、中東(UAE、サウジアラビアなど)、インド市場が挙げられます。インドからの訪日客は前年比40%増と急成長しており、ベジタリアン対応やGBPの英語整備といった取り組みやすい施策から参入できます。中東は客単価が高く、体験型コンテンツへの関心も旺盛です。
新市場の開拓には、対象国に精通した支援企業や旅行会社との連携が効率的です。「Digima〜出島〜」のようなマッチングプラットフォームでターゲット国に強い支援企業を探し、小さなテストから始めてみましょう。テスト段階で成果が見えれば、回復後に本格的な予算投下の判断もしやすくなります。減少期に「種を撒く」ことが、次の成長期の収穫につながるのです。
4. よくある質問(FAQ)
Q. 訪日客が減ったとき、まず何から見直すべきですか?
まずは売上の国籍別内訳を確認し、特定の国に過度に依存していないかを把握しましょう。依存度が高い場合は、ターゲット国の分散を検討するタイミングです。同時に、国内客の売上比率も確認し、インバウンド一本足になっていないかを点検することをおすすめします。
Q. インバウンドと国内客、どちらを優先すべきですか?
どちらか一方ではなく、両方のバランスが重要です。国内客の基盤があれば、インバウンド減少時のバッファとして機能します。インバウンド依存度が50%を超えている場合は、国内客向けの施策を並行して強化することでリスクヘッジを図りましょう。
Q. 減少時に広告費は削減すべきですか?
一律に削減するのではなく、「効果の出ていない施策を止め、効果のある施策に集中する」のが正解です。GBPの最適化やSNS投稿など無料でできる施策を強化しつつ、有料広告は費用対効果を見ながら判断しましょう。成果連動型の広告運用に切り替えるのも有効な手段です。
Q. 減少局面はいつまで続きますか?
原因によって期間は異なります。コロナ禍の影響は約2〜3年、震災による減少は半年〜1年、為替変動による減少は数ヶ月〜1年が過去の目安です。重要なのは「いつ回復するか」を予測することではなく、回復後にすぐ動ける準備を減少期に整えておくことです。
Q. 新しいターゲット国の開拓はどう始めればいいですか?
まずは自社の商品やサービスと相性の良い国をリサーチし、その国で利用されているSNSやOTA(オンライン旅行代理店)で小さくテストするのがおすすめです。マッチングプラットフォームを活用して対象国に強い支援企業を見つけ、ノウハウを借りながら進めると効率的です。
Q. 減少時にスタッフを解雇すべきですか?
できる限り雇用を維持し、教育や研修に時間を充てることをおすすめします。多言語対応力や接客スキルは一度失うと再構築に時間がかかります。需要回復時に即戦力として動ける体制を維持する方が、中長期的にはプラスに働くケースがほとんどです。
5. まとめ
訪日外国人の減少は、コロナ禍、震災、為替変動、地政学リスクなど多様な要因で繰り返し起きてきました。「いつか必ず減る」という前提で、平時から需要変動に強い事業構造を設計しておくことが重要です。見直すべきポイントは3つ。ターゲット国を3〜5カ国に分散すること、国内需要とのバランスを意識してインバウンド一本足を脱すること、固定費を変動費に転換して需要の波に柔軟に対応できるコスト構造を整えることです。そして減少局面は「次の成長の準備期間」として活用しましょう。旅マエ資産の蓄積、スタッフ教育、新規市場の開拓を繁忙期にはできないペースで進めることで、回復時に競合に先んじることができます。中国人客が45%減でも消費額が16%増加したように、「減少=危機」ではなく「量から質への構造転換の機会」と捉えることが、変動に強いインバウンド事業の土台になるはずです。
6. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。
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