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海外ビジネスの勝算を固める「フィールドワーク(現地調査)」~ シリーズ:中小企業のための海外ビジネス成功マニュアル Vol.5

掲載日:
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前回の記事では、海外進出やインバウンド戦略の第一歩として、日本にいながら情報を収集・分析する「デスクリサーチ」の重要性と手法を解説しました。

いいデスクリサーチができれば、市場の規模、競合の状況、法規制といった海外ビジネスの「全体像(地図)」が手に入ります。しかし、地図を持っているだけで本当に目的地にたどり着けるでしょうか?

現地での「肌感覚」や「現場のリアル」は、どれだけGoogleを検索しても出てきません。そこで必要となるのが、実際に現地へ赴き、五感で情報を確かめる「フィールドワーク(現地調査)」です。

本記事では、デスクリサーチを終えた中小企業の経営者の皆様が、次のステップとして行うべきフィールドワークの具体的な進め方と、失敗しないための勘所を解説します。

1. フィールドワークとは:デスクリサーチとの関連性と役割の違い

「フィールドワーク」(Fieldwork)とは、調査対象となる場所(海外の都市や観光地)を実際に訪れ、観察、対話、体験を通じて情報を収集する手法です。

デスクリサーチとフィールドワークは、対立するものではなく、互いに関連し、補完し合う関係にあります。

1.1 デスクリサーチとフィールドワークの違い

① デスクリサーチ(地図を作る)
デスクリサーチは今ある情報を元に、地図を作るようなものです。

目的: 全体像の把握、仮説の構築。

得られるもの: 定量データ(市場規模、人口)、明文化された事実(法律、制度)、過去の情報。

視点: マクロ、巨視的(鳥の目)

② フィールドワーク(地図を検証する)
デスクリサーチに対して、フィールドワークはその地図が正しいか、隠れた障害が無いかを確かめる作業です。

目的: 仮説の検証、解像度の向上、定性的なインサイトの発見。

得られるもの: 定性情報(熱量、雰囲気、匂い)、暗黙知(商習慣、不文律)、最新のリアルな状況。

視点: ミクロ、微視的(虫の目)

1.2 フィールドワークは「視察旅行」ではない

経営者にとってのフィールドワークは、いわゆる「視察旅行」とは決定的に異なります。フィールドワークとは、デスクリサーチで立てた「こうすれば売れるはずだ」という仮説を、現地の現実に耐えうるかどうかをテストし、PDCAサイクルを回す「検証と実践の場」なのです。

フィールドワークを行うには、事前の入念な準備が必要となります。具体的に何を準備しなけれれば行けないのか、詳しく説明したいと思います。

2. フィールドワークの準備:成否は「渡航前」に決まっている。

「とりあえず現地に行けば何か分かるだろう」という姿勢は、海外ビジネスにおいては極めて非効率であり、失敗のもとです。渡航費だけではなく、経営者にとって貴重な時間は無駄にしてはいけません。フィールドワークは、事前の準備が8割を占めると考えてください。

2.1. 「検証すべき仮説」のリスト化

デスクリサーチの結果と仮説をもとに、何を確かめに行くのかを明確にします。

【海外進出(輸出・拠点設立)の例】

デスクリサーチで得た仮説:
「当社の製品は、現地の高級スーパーで、30~40代の高所得のファミリー層に売れるはずだ」

検証事項:
・現地の高級スーパーの棚割はどうなっているか?
・競合製品の価格とパッケージは?
・買い物客は実際に誰か?

【インバウンド集客の例】

デスクリサーチで得た仮説:
「欧米からの観光客は、当地域の『静けさと安らぎ』を求めているはずだ」

検証事項:
・実際に街を歩いている観光客は何にカメラを向けているか?
・騒がしい場所と静かな場所、どちらに人が集まっているか?

2.2. アポイントメントと現地手配

現地でのキーパーソンとの事前のアポイントメント取得と現地での優秀なコーディネーター手配は重要です。

キーパーソンとのアポイントメント:

現地企業、販売代理店候補、あるいは現地の業界団体など、キーパーソンへの面談申し入れは遅くとも渡航の1ヶ月前には開始すべきです。

海外で活躍するキーパーソンは大抵忙しいものですから、簡単にアポが取れるとは思わない方がいいでしょう。また、アポが取れたからと言って油断してはいけません。大事な商談が入ればそちらを優先してしまうかもしれません。訪問1週間前と前々日ぐらいにリマインドをして、しつこいぐらい予定を再確認しておくことも大事です。

優秀な現地コーディネーターの確保:

コーディネーターを雇わずフィールドワークに臨んだり、単なる通訳や観光ガイドをコーディネーター代わりに雇うことは、フィールドワークでは全くお勧めできません。日本企業を知り、現地の業界と商習慣を理解している「コーディネーター」を雇うことを強くお勧めします。彼らは、飛び込みでは入れない場所への案内や、本音を引き出すための通訳と案内を行ってくれます。

優秀なコーディネーターは後々の展開でも頼りになるものです。一般的な通訳やガイドと比べ、日当はずっと高額ですが、このコストを惜しむべきではありません。

2.3. 調査ツールの作成

時間が限られるフィールドワークでは、調査を的確かつ短時間に進められるよう、調査ツールはあらかじめ作成し、コーディネーターとも共有しておきましょう。

インタビューガイド(質問票):

聞きたいことをリストアップします。ただし、尋問にならないよう、会話の流れを想定した構成にします。

観察チェックシート:

店舗視察などで見るべきポイント(価格、陳列場所、POPの有無、客層など)を事前に決めておき、ごく小さな紙に印刷しておくか、スマホで素早く見られるようにしておきます。ボイスメモを活用するのも一つの手です。

3. フィールドワークの進め方:具体的アクションプラン

現地に到着してから行うべき具体的なアクションは、大きく「観察」と「対話」、そして「体験」に分けられます。コーディネーターとはあらかじめ予定と内容を共有しておきましょう。

3.1. 観察:徹底的な「店舗・現場」巡回

現地の店舗や小売店、観光地などをめぐり、店舗の店構え、商品やサービスの陳列や提供状況、消費者が実際に商品を手に取る、サービスを購入する瞬間を目撃し、記録します。具体的な調査とチェックポイントの例を挙げます。

① ストアチェック(店頭調査)

ターゲットとなる店舗(スーパー、百貨店、コンビニ、専門店、レストラン等)を10~15店舗回ります。

チェックポイントの例:

□ 店舗の立地:路面店、空中店、ショッピングモール、一等地、商業地、住宅地

□ 競合製品: 価格、パッケージ、成分表示、製造国

□ 陳列状況: 自社製品が置かれるべきカテゴリはどこか?(例:沖縄産の黒糖は「調味料(砂糖)」か「菓子(キャンディ等)」か「健康食品コーナー」か「アジア食品コーナー」に置かれているのか?)

□ 賞味期限・管理状態: 現地の物流品質や店頭での保管状況

② 行動観察(インバウンド向け):

人気の観光スポットやレストランや店舗、駅や空港といった交通施設で、外国人観光客の動きを観察します。

チェックポイントの例:

□ 旅行客はどこへ行き、どこで迷っているか?(案内表示の不備で困っているかも?)

□ 何を見て、食べ、買っているか?

□ スマホで何を調べ、どんなアプリを見ているか?(Google Maps? Trip Adviser? 大衆点評?)

3.2. 対話:キーパーソンと消費者の「本音」を探る

デスクリサーチでは分からない「Why(なぜ)」を深掘りできるのがキーパーソンとの対話です。フィールドワークでは最重要な項目とも言えるでしょう。

① B2Bインタビュー(バイヤー、業界関係者)

バイヤーや業界関係者へのインタビューでは、3c分析で立てた仮説が役に立ちます。例えば、こんな質問をしてみると、キーパーソンから具体的な情報が引き出せるでしょう。
(3C分析については、当社のこの記事を参照してください)

□ 自社製品の確認:
「もし明日から当社と取引を始めていただくとしたら、最大の懸念点(ボトルネック)は何ですか」(信用?、価格?品質? 物流? )」
「この市場で当社の製品の販売を実現するには、当社は何が不足していると考えられますか。」(営業マンの配置?、アフターサポート?)

□ 顧客の確認:
「貴社がターゲットとしている顧客はどのような顧客ですか」(年齢?収入?ライフスタイル?)
「当社は日本ではこのような顧客を対象としていますが、この国でも同じような顧客に販売できそうですか。」

□ 競合との比較:
「この分野で『今、一番勢いがある』と感じる競合はどこですか? 彼らはどのような営業支援をしてくれますか」 、「御社にとって最も扱いやすく、利益が出やすい商品はどのメーカーのものですか? また、それはなぜですか。」(リベート? 回転率?)

② B2Cインタビュー(一般消費者):

可能であれば、街頭インタビューや、コーディネーターを通じて集めた少人数のグループインタビューを行います。専門の調査会社に依頼し、彼らが持っているパネルから、フォーカスグループインタビューを手配してもらうのも一つの手です。
もしインタビューができそうなら、こんな質問を投げかけてみてはどうでしょうか。

□ 価値観の深掘り:
「(自社製品やサービスを見せて)これを友人へのプレゼントにしたいと思いますか? もし思わないなら、それはなぜですか?」

□ ネガティブチェック:
「今回の日本旅行(または特定の地域)で、一番『ガッカリしたこと』や『不便だったこと』は何ですか?」

□ 情報源の特定:
「ここに来ることを決めた(これを買うことに決めた)『決定的な一枚の写真』や『記事』があれば、スマホで見せてもらえませんか?」

3.3. 体験:ユーザーになりきってみる

経営者自身が、現地の一ユーザーになりきって、消費者の立場から見て行動してみることもフィールドワークでは有効です。現地の消費者になると見える「ペイン」(解決してほしい悩みや課題)がはっきりと見えてきます。

① 海外展開の場合:

競合店で食事をしてみる(ミステリーショッパー)
現地のECサイトで競合商品を買ってみる(配送スピード、梱包状態の確認)。
現地の決済アプリをインストールして使ってみる。

② インバウンドの場合:

「実際のツアー」を体験する: ターゲット国からの旅行者になりきり、彼らが使う予約サイトで宿を取り、公共交通機関で移動してみます。

消費者になって感じる「不便さ」や「不満」こそが、ビジネスチャンスであり改善点です。

4. フィールドワークの注意点:日本企業が陥りがちな「罠」とは

フィールドワークは強力な手法ですが、やり方を間違えると、偏った情報で判断を誤るリスクがあります。ここでは特に日本企業が陥りがちな「罠」について説明します。フィールドワークで見るべきもの、知るべきことは「冷酷な現実」であると心得てください。

4.1. 見たい・見せたい現実しか見ない:「ポチョムキン村」の罠

現地のパートナー企業や公的機関に案内を依頼すると、綺麗に整備された場所、都心の一等地にある旗艦店、日本企業の華々しい成功事例等、往々にしてあなたが「見たい」だろうものや、彼らが「見せたい」ものしか見せてくれないことがあります。これがいわゆる「ポチョムキン村」の罠です。

例えば、多くの国では日本食品を多数扱う日系やアジア食材スーパーがあり、日本産の食材や飲料が売られています。繁盛している日本食レストランもあります。そこだけを見ると日本食が現地で深く浸透しているかのような「錯覚」を受けます。

しかし、そこだけを見て、それが現地の「本当の消費の現実」と言えるでしょうか。本当に日本食がどれぐらい浸透しているかは、現地の消費者が日常的に使うスーパーや飲食店も時間をかけて見るべきでしょう。

おすすめの対策
経営者が「ポチョムキン村」の罠に陥らないためには、以下のようにすると良いでしょう。

自由時間を「強制的に」確保する

スケジュールを全てアテンドで埋めず、半日でも良いので「自分たちだけで行動する時間」を事前に「強制的に」確保してください。あえて観光の時間を設け、現地の消費者を観察するのも一つの手です。

ルートを外れる

移動中の車内で気になった路地や、ローカルな人だかり、気になる店舗を見つけたら、「あそこで車を停めてくれ」と指示し、予定外の場所を視察してください。そこに本当の生活、本当の消費行動があります。(治安と安全には注意してください)

ネガティブな場所のリクエスト

「競合が強すぎて御社が苦戦している店舗」や「条件が悪く商品が置けないエリア」、「郊外の三等地の店舗」など、あえて不都合な場所への案内を依頼してください。

4.2. ある人の言葉を過信する:「n=1」の罠

たまたま乗ったタクシーの運転手の話や、1人のインタビュー対象者の意見を「現地の総意」と思い込んでしまうことです。特に、たまたま出会った「日本語が話せる親日家」の意見や、「現地在住が長い日本人」は、市場全体から見ればマイノリティである可能性が高いです。サンプル数(n)=1だけで判断するのは早計です。もっとたくさんの人の話を聞き、たくさんの情報に接するべきでしょう。

おすすめの対策

n=1の罠に陥らないためには、下記のような対策が有効です。

人的三角測量

同じ質問を、全く属性や立場の違う3人(例:タクシーの運転手、ホテルのスタッフ、取引先の若手社員)にぶつけてください。3人の意見が一致すれば事実の可能性が高いですが、バラバラであれば何かがおかしいので、情報の検証が必要です。

「事実」と「意見」の峻別

「この商品は高い」は意見です。「この商品は現地の平均月収の10%にあたる価格だ」は事実です。メモを取る際は、これらを明確に区別して記録してください。

マクロデータとの照合

デスクリサーチで得た統計データ(マクロ)と常に照らし合わせるようにしましょう。「この人の意見は、データの傾向と一致するか? それとも例外か?」と自問してください。疑問に思うなら、専門家や現地コーディネーター、有識者の意見も聞いてみるべきです。

4.3. 記録と共有の不徹底:記憶の「罠」

人間の記憶は驚くほど曖昧です。帰国後にレポートをまとめようとしても、強いインパクトは記憶していても、細かいニュアンスは忘れています。慣れない土地で行うフィールドワークでは、気分が高揚し、記憶は普段よりあいまいかつ不正確になりがちです。記録は徹底して行い、即時共有を心がけましょう。

おすすめの対策
人間の記憶はあいまいだと理解し、記録と共有を心がけましょう

即時クラウドアップ

撮影した写真や動画は、その日のうちにチームの共有フォルダ(Google Driveなど)にアップロードし、記憶が鮮明なうちにタグ付けやコメントを残します。

音声メモの活用

歩きながら、あるいは移動中の車内で、気づいたことをスマホのボイスメモに吹き込みます。文字入力よりも早く、感情のニュアンスも残せます。

夜のラップアップ会議:

毎晩、同行者と30分で良いので振り返りを行います。「今日一番の驚きは何だったか?」「仮説と違ったことは何か?」を議論し、翌日の調査ポイントを修正します。

4.4. ネガティブ要因の無視:確証バイアスの罠

「自社製品は売れるはずだ」と思って現地に行くと、売れる証拠ばかりを探してしまい、売れない証拠(ネガティブな要因)を無意識に無視する心理現象「確証バイアス」が働きます。多額の費用と時間をかけて行ったフィールドワークでは、普段よりも確証バイアスが強く働くことを意識しましょう。

対策

人間は確証バイアスが働くものだと理解し、あえて反対の立場から物事を見るようにすると、確証バイアスの罠を突破することができます。

「悪魔の代弁者(Devil's Advocate)」作戦

複数で行動する場合は、チーム内で、あえて「批判的な視点」を持つ役割の人(悪魔の代弁者)を決めておきます。「でも、この価格だと現地の若者は買えませんよね?」「この味は現地の人には甘すぎるのでは?」と、意図的に否定的なツッコミを入れることで、チーム内に冷静な視点を取り戻します。

「買わない・買えない理由」を探す

「なぜ売れるか」ではなく「なぜ彼らは、今この商品を買っていないのか(買えないのか)」という阻害要因をリストアップすることを現地のミッションにしてください。
いま売られていない商品は、何かの理由があり売られていないのです。

まとめ:現地で感じる「違和感」、それが答えだ

デスクリサーチで完璧な計画を立てたつもりでも、現地に行くと「何かが違う」と感じることは少なくありません。スーパーの棚の雰囲気が想定と違う、既に競合商品が多数入っていた、街の活気がデータと違う、人々の表情が違う・・・、もしデスクリサーチでは得られなかった「違和感」を得られたら、フィールドワークは大成功だと思ってください。

その違和感は、あなたのデスクリサーチの仮説に、不足していたことや間違っていたことを教えてくれています。そこで落胆するのではなく、「投資する前にわかってよかった、実行に移す前に気づけてよかった」と考え、戦略を修正してください。

一言で言えば、フィールドワークはデスクリサーチの「答え合わせ」ではなく「間違い探し」です。デスクリサーチと異なる結論を得て、それを修正していくプロセスに価値があるのです。

1. デスクリサーチで「地図」を描く。(PLAN)

2. フィールドワークで「現実」を知る。(DO)

3. 現実を元に「地図」を検証し、修正する(CHECK)

4. 修正した「地図」を元に実行・再検証する(ACTION)

このPDCAサイクルを回すことで、地図の精度は飛躍的に向上し、海外ビジネスという不確実な航海の成功確率は、劇的に高まります。一回のフィールドワークで、デスクリサーチ通りの結論にたどり着くことは稀です。何度かデスクリサーチとフィールドワークを繰り返すことで、不確実な航海を乗り切るための正確な「地図」が出来上がるのです。

PCの前から立ち上がり、パスポートを持って、現場の空気を吸いに行きましょう。そこには、データには表れないビジネスのヒントが必ず落ちています。

フィールドワーク(現地調査)の手配ならサウスポイントへご依頼ください

フィールドワークの手配ならサウスポイントへお任せください。

当社はコンサルタントとしてフィールドワークの計画立案だけではなく、旅行業の許可を持っている旅行業者として、航空券・宿泊の手配から、現地コーディネーターや通訳の手配、キーパーソンへのアポイントメント取得までトータルなコーディネートが可能です。

海外の事情に詳しいコンサルタントと、優秀な現地コーディネーターが貴社のフィールドワークを成功に導きます。当社は決して「ポチョムキン村」だけを案内するような安逸な視察旅行を手配いたしません。短い時間でリアルな現実を知り、海外ビジネスを成功させたいと思う経営者・経営幹部の方、ぜひお問い合わせください。

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