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インドネシア新労働法「Omnibus Law」とは何か?― 日本企業が直面する“変化”と“対応の勘所” ―

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2020年10月、インドネシア政府が成立させた「Omnibus Law(雇用創出法)」は、同国のビジネス環境に大きな構造転換をもたらす改革法案として注目を集めました。約1,000ページにも及ぶこの法律は、70以上の既存法を横断的に改正するものであり、その影響は労働法だけにとどまらず、投資、環境、土地利用、ライセンス制度など、インドネシアでビジネスを展開するあらゆるプレイヤーに及びます。

特に、労働法制に関する変更点は、日本企業を含む外国企業の人事戦略やコスト構造に直接影響を与えるものとして、進出済み企業・検討中企業の双方にとって重要なポイントです。従来、複雑な手続きや高額な解雇補償などが外資進出の障壁となっていたインドネシアですが、この新法により規制緩和が進み、「雇用の柔軟性」と「投資のしやすさ」を両立させる新たな環境が整いつつあります。

本記事では、このOmnibus Lawの成立背景と労働分野における主な改正点を解説するとともに、日本企業がとるべき対応や実務上の勘所について、わかりやすくご紹介します。

▼ インドネシア新労働法「Omnibus Law」とは何か?― 日本企業が直面する“変化”と“対応の勘所” ―

第1章:背景:雇用創出と投資誘致を両立させる国家改革

なぜOmnibus Lawが必要とされたのか

インドネシアは、2億7,000万人以上の人口を抱える巨大市場でありながら、長年にわたって複雑な法制度や労働規制の存在が、外国からの直接投資(FDI)の足かせとなってきました。とくに労働法に関しては、解雇コストの高さや雇用契約の硬直性が企業経営の柔軟性を奪い、外資系企業にとって“リスクの高い国”という印象を与える一因となっていました。これらの制度上のボトルネックが、若年層の失業率や非正規労働の増加にも影響を及ぼしていたのです。

こうした中で、ジョコ・ウィドド政権は「雇用創出と投資環境の改善」を最優先課題と位置づけ、既存制度の全面的な見直しを進めました。その集大成が、2020年10月に議会で可決された「雇用創出法(Omnibus Law)」です。この法案は、約70本の法律を一括改正するという極めて包括的な内容であり、これまでに例のないスピード感で制度改革を進める姿勢を国内外に示すものとなりました。

雇用創出と経済成長の「両輪」政策として

Omnibus Lawの成立には、「インドネシアをASEAN域内で最も投資しやすい国にする」という明確なビジョンが存在します。そのためには、国内雇用の創出と外資投資の誘致を両立させるという、難易度の高いバランスを取る必要がありました。労働市場に柔軟性を持たせつつも、現地労働者の権利や生活を損なわない制度設計が求められたのです。

このため、新法では労働者の保護を全面的に撤廃するのではなく、「補償体系の透明化」や「契約ルールの明確化」といったかたちで、雇用主・労働者の双方にとって予見可能性の高い制度に改められています。さらに、外国人雇用や最低賃金の決定方式などについても、過度な規制を緩和しつつ合理性を確保することで、企業の経営判断と人材戦略に柔軟性をもたらす改革となっています。

第2章:労働分野の主な改正ポイント

解雇補償の簡素化と上限設定でコスト予測が可能に

インドネシアにおける労働関連の最大の課題の一つが、「解雇にかかるコストの高さ」でした。従来の制度では、退職手当、勤続手当、補助金など、複数の手当てが複雑に絡み合っており、企業側にとって解雇判断が極めて困難な状況が続いていました。これにより、長期的な雇用維持が難しい場合でも人員調整ができず、経営の柔軟性が損なわれていたのです。

Omnibus Lawでは、こうした制度的な障壁に手を入れ、補償体系を一本化し、かつ支給額に上限を設定することで、解雇に伴う法的リスクと財務インパクトの予測可能性を大幅に改善しました。これにより、企業は人件費の見通しを中長期的に立てやすくなり、組織再編や経営判断の自由度が向上しています。

ただし、こうした変更は一方的な企業優遇と受け止められるリスクも伴います。労働組合との事前協議や、従業員への丁寧な説明を怠ると、トラブルや摩擦を生む可能性があるため、制度変更の実務運用にあたっては、透明性と信頼構築が不可欠となります。

有期雇用契約(PKWT)の柔軟化で人材活用の幅が広がる

もう一つの大きな改革が、有期雇用契約(PKWT)の取り扱いに関する柔軟化です。旧法下では、有期契約は最長2年までとされ、延長も1年までと制限されていました。これを超えた場合には、事実上無期雇用と見なされるルールがあり、短期プロジェクトや期間限定業務への対応が非常に難しい状況にありました。

新制度では、こうした制限が大幅に緩和され、業種や職種に応じた柔軟な契約期間の設定が可能になっています。これにより、たとえば建設業やIT業界など、プロジェクト単位で人材を配置する必要のある分野では、より実情に即した雇用運用ができるようになります。また、季節的な需要の変動に対応する際にも、有期契約が活用しやすくなったことは企業にとって大きなメリットです。

一方で、契約の更新や終了に関しては、説明責任や手続きの適正性が求められます。契約満了時に突然の終了を通知するような対応は、トラブルや訴訟の原因になりかねないため、契約書面での明示、更新手続きの管理、従業員への事前通知など、実務面での丁寧な運用が重要です。

外国人雇用の手続き簡略化で専門人材の活用がしやすく

これまでインドネシアで外国人を雇用する際には、「RPTKA(外国人雇用計画)」の事前承認が必須であり、準備・申請・承認までに相当の時間と労力を要していました。日本企業にとっては、日本人駐在員の赴任や専門職の派遣において、この煩雑な手続きが進出障壁の一つとなっていたことは否めません。

Omnibus Lawでは、この点に明確なメスが入れられ、手続きの簡素化が進みました。とくに、特定の専門職についてはRPTKAの免除対象となるケースが新たに設けられ、政府が定める職種であれば、比較的スムーズに就労ビザの取得が可能となります。また、オンライン申請システムの導入によって、手続きの透明性と処理速度も向上しています。

この変更により、製造業やIT・通信業、医療・教育など、高度な知見を有する外国人材の活用がしやすくなり、現地法人の人材戦略において柔軟性が広がります。一方で、現地の労働力確保や技能移転という観点からは、引き続き外国人雇用の「理由説明」や「教育・監督体制の整備」が求められるため、適正な記録管理と労働当局との連携が今後も重要となります。

最低賃金の決定方式変更で給与制度の見通しが立てやすく

インドネシアではこれまで、各地方政府が独自に最低賃金を設定しており、その決定には労働組合の強い影響力が反映されることが一般的でした。その結果、毎年大幅な賃上げが繰り返されるケースもあり、企業にとっては人件費の予測が難しく、特に中小企業には経営圧迫要因となっていました。

新しい法律では、この最低賃金の決定方式が「インフレ率」や「経済成長率」といった客観的なマクロ経済指標を基準とする形式に改められました。これにより、賃金上昇が極端に振れるリスクが抑えられ、企業側にとっては給与水準の中期的な見通しを立てやすくなっています。

この制度改正は、単なるコスト抑制だけではなく、持続可能な雇用関係の維持にも寄与すると考えられます。企業は給与体系の安定を基に、従業員への福利厚生や能力開発への投資を計画的に進めることができるようになります。ただし、一部の地方では依然として労働団体との対話が重視されており、実際の運用には地域差がある点に留意する必要があります。

第3章:日本企業が取るべき対応と戦略

雇用契約・就業規則の再点検は必須

Omnibus Lawの施行により、従来の雇用関連の制度や運用が大きく変化しているため、すでにインドネシアに進出している日本企業にとっては、就業規則や雇用契約書の内容を新法に準拠させることが最優先の課題となります。特に、解雇時の補償体系や契約期間の定義、退職金制度の扱いなどは、企業側・従業員側の双方の権利義務に直接関わるため、見直しが不可欠です。

現行の社内ルールが旧法ベースのまま運用されている場合、今後の労働監査や労務紛争でリスクが顕在化する可能性があります。そのため、労務コンプライアンスの観点からも、雇用に関わる文書の見直しを行い、新制度に即した社内整備を進めることが求められます。また、採用から契約更新、退職までのプロセス全体を通じて、企業側の判断基準や手続きの妥当性を文書化しておくことが、トラブルを未然に防ぐ効果的な対策となります。

現地法律専門家との連携によるリスクヘッジ

Omnibus Lawの運用において注意すべき点の一つが、法文上の規定が整っていても、実際の現場では地方ごとに解釈や対応が異なるケースが多いという点です。たとえば、労働局(Disnaker)の職員や地域ごとの担当官によって、雇用契約の解釈や許認可の手続き方法にばらつきが生じる可能性があります。そのため、日本本社だけでの判断には限界があり、現地の専門家との連携が不可欠です。

現地の法律事務所や労務コンサルタントと定期的に情報を共有し、最新の法令解釈や実務事例を確認する体制を整えることで、法的リスクを最小限に抑えることが可能になります。特に解雇や再契約といったセンシティブな場面では、事前相談を通じて客観的なリスク評価を行い、文書・手続きの妥当性を確保しておくことが推奨されます。

従業員への丁寧な説明と合意形成

制度変更は企業側にとって有利な面が多くなる一方で、現地従業員からすれば、処遇や権利の変化に対する不安が募る場面も少なくありません。とくに解雇補償の上限設定や契約期間の変更といった制度改正は、従業員にとってマイナスに受け止められるリスクもあるため、透明性をもって丁寧な説明を行うことが重要です。

たとえば、契約内容の変更時には個別の面談や書面での説明機会を設け、変更理由と背景、具体的な影響について明確に伝えることで、従業員の理解を得やすくなります。また、説明にあたっては通訳や現地人事責任者の同席などを活用し、言語や文化の壁を越えたコミュニケーションを意識することが望まれます。

信頼関係は企業と従業員の長期的な協力関係の基盤です。制度改正を単なるルール変更として処理するのではなく、「企業としてどう向き合い、支援していくのか」という姿勢を示すことが、円滑な職場運営につながります。

おわりに

インドネシアの新労働法「Omnibus Law」は、これまでの制度の複雑さと硬直性を見直し、より柔軟で実務的なビジネス環境を整備することを目的に策定された国家的な改革です。労働関連の法改正にとどまらず、外資誘致やデジタル経済の振興といった幅広い分野にわたり、インドネシアが「選ばれる投資先」として国際競争力を高めようとする明確な意思が読み取れます。

一方で、制度変更は企業経営にとって新たな機会をもたらす反面、法解釈や現場対応の複雑さが伴うのも事実です。とくに労働法に関しては、企業の運用スタンスが現地従業員の信頼や職場環境に直結するため、法令対応とともに、コミュニケーションや社内体制の整備も求められます。

日本企業にとっては、このOmnibus Lawを単なる“法改正”として捉えるのではなく、今後のインドネシア展開における戦略的な再構築の契機とすることが重要です。制度の本質を理解し、変化に柔軟に対応する姿勢を持つことで、現地での持続的な事業運営と、より強固なパートナーシップの構築が可能になるでしょう。

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    東南アジアのほぼ全域にグループ事務所をもち、シンガポールをハブにして海外進出する日系企業様のシンガポールをハブにして事業展開をサポートすることができます。
    グループの監査法人にて監査サービスの提供も可能で、監査まで一気通貫して提出が可能です。

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