【一問一答】フィリピン外資規制とネガティブリストに関して専門家に聞いてみた「15の質問」
東南アジア市場の中でも安定した経済成長と英語圏文化を背景に、多くの日本企業が進出を図るフィリピン。しかし、その第一歩となる「出資比率の検討」や「法人形態の選定」において立ちはだかるのが、外資規制の存在です。特に「ネガティブリスト」によって定められた業種別の出資制限は、事業構造やパートナー選定に大きな影響を及ぼします。
本記事では、従来の制度解説を一歩進め、フィリピンの外資規制に関する最新の動向を踏まえながら、実務で直面しやすい疑問にQ&A形式で答えていきます。また、M&Aや合弁設立といった資本構成の戦略、さらには税務・会計・資金回収の観点も織り交ぜ、読者の「実行可能性」にフォーカスした内容をお届けします。
単なる制度理解にとどまらず、フィリピン市場での持続的な事業展開を見据えた“戦略的視点”を得るための実務ガイドとして、ぜひお役立てください。
▼ 【一問一答】フィリピン外資規制とネガティブリストに関して専門家に聞いてみた「15の質問」
1. フィリピン外資規制の基礎と現状
Q1 外資規制とは何か。なぜネガティブリストが重要なのか?
外資規制とは、外国資本による国内産業への参入を制限または制御するために政府が設ける法制度のことです。フィリピンにおいては「ネガティブリスト(Foreign Investment Negative List)」と呼ばれる一覧が外資参入の可否を定めており、外国企業が特定の業種に何%まで出資できるか、あるいはそもそも参入できるかどうかが明示されています。
このリストは国家主権の維持、雇用保護、国内産業の育成などを目的としており、年々見直されてきました。とりわけ日本企業にとって重要なのは、「一見自由に見える業種でも、一定条件下では制限されることがある」という点です。たとえば、小売や教育、運輸などの分野では100%出資が原則できない、あるいは一定の資本金要件が求められるなどの条件が付されています。
Q2 フィリピンの外資ネガティブリストとは具体的にどういうものか?
フィリピンのネガティブリストは大きく「List A(憲法・法律で外資参入が制限されている業種)」と「List B(安全・防衛・中小企業保護を理由とした制限業種)」に分かれています。代表的な制限業種には、マスメディア(100%フィリピン資本)、武器製造、土地所有、一定規模未満の小売業などがあります。
また、業種によっては外資比率が最大40%までに制限されているケースも多く、出資割合によって会社の意思決定権や利益分配比率にも大きな影響が及びます。たとえば不動産業では土地の所有こそ制限されますが、リース・開発事業には一定の外資参加が認められているなど、読み解きには慎重さが求められます。
Q3 最新の改正・緩和動向は?前政権からの流れをどう読むか?
2022年に任期を終えたドゥテルテ政権は、経済活性化を目的に外資規制の緩和を加速させました。とりわけ注目すべきは、小売自由化法や公共サービス法(Public Service Act)の改正で、100%外資による小売業参入の資本金要件を緩和したほか、通信・運輸・空港などのインフラ関連分野にも外資が参入しやすくなりました。
現在のマルコス政権もこの流れを引き継ぎ、投資環境改善に積極的です。ただし、こうした法改正は施行までに細則やガイドラインの整備が必要であり、現場レベルでは依然として解釈が分かれるケースも見られます。実務での判断には、現地法務や行政機関(BOIやSEC等)との密な連携が欠かせません。
2. 部門別・業種別の規制実務:どの業種で何が制限されているか?
Q4 製造業・食品業界で注意すべき外資規制とは?
製造業全体としては、フィリピンでは比較的外資に対して開放的な傾向があります。特に輸出型の製造業や加工食品の生産においては、100%外資による出資が認められるケースも多く、経済特区(PEZA)などを活用すれば関税優遇や法人税軽減も可能です。ただし、食品業界では、製品カテゴリーによっては特別な許認可(FDA登録等)が必要となるほか、農業関連の一次生産物に近い業種では、外資出資比率に制限がかかる場合があります。
また、国内市場向けの販売を前提とした事業形態においては、一定の資本金要件が義務付けられることもあり、製造設備の設置場所や販売計画と合わせて慎重に制度確認を進めることが求められます。
Q5 不動産・インフラ・建設分野における外資規制の特色と対応ポイント
フィリピンでは土地の所有が原則としてフィリピン国民またはフィリピン資本の法人に限定されているため、不動産やインフラ投資を検討する企業にとっては大きな制約となります。外資系企業はリース契約(最長50年+延長25年)を通じて用地を確保するのが一般的ですが、土地を担保に融資を受けるといった柔軟な資金戦略が難しい点には注意が必要です。
建設分野では、プロジェクトの性質や資本金の水準によって、外資比率が最大40%までに制限されることがあります。また、工事ライセンスの取得にはフィリピン人技術者の雇用や登録が必須となる場合があるため、現地の法務・人材環境に即した計画が不可欠です。
Q6 サービス業・IT・BPOなどでの外資参画スキームと戦略的配慮
IT、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といった知識集約型のサービス業は、フィリピン政府の重点産業に指定されており、外資規制は比較的緩やかです。特にBPO分野は100%外資での進出が可能かつ資本金要件を受けない業種であり、英語能力と若年人口を活かした高い競争力を持つ分野でもあります。
一方、教育、マスメディア、広告代理業などの一部サービス分野では、憲法レベルで外資規制が明示されており、出資比率上限や運営権の制限が課されています。IT系でもクラウドサービスや個人情報保護に関わる分野では法改正が進んでおり、適用範囲や許認可の取得要否について最新情報の確認が必要です。進出初期には、ローカル法人との提携やホワイトラベル方式の検討など、戦略的な参入手法も重要な選択肢となります。
3. 資本構成とM&A、合弁・出資の戦略的アプローチ
Q7 100%外資出資が可能な業種・条件とは?
フィリピンでは、多くの業種で100%外資の出資が可能となっています。たとえば、IT・BPO、製造業(とくに輸出加工区における業種)、小売業(一定資本金要件を満たす場合)などが代表例です。
とくに小売業においては、かつては原則として資本金が250万ドル以上(約3億円程度)に制限されていましたが、2022年の小売自由化法の改正により、資本金が2500万ペソ以上(約6,000万円程度)であれば100%外資の出資が認められるようになりました。ただし、この「資本金」は実質的に現地法人に拠出され、かつ事業運営に使われる必要があるため、単なる登録上の数字では認められない点に注意が必要です。
Q8 合弁会社設立や理想的な資本構成とはどう設計すべきか?
100%外資が認められていない分野、あるいはリスク分散を重視する場合には、合弁会社(Joint Venture)という選択肢が現実的です。たとえば、不動産開発、建設業、小売業(低資本の場合)、教育・ヘルスケアなどの分野では、現地企業との出資比率を40:60以下に抑え、フィリピン側の過半数出資とすることで規制を回避するケースが一般的です。
この際、重要なのは単なる比率の設定にとどまらず、「出資契約書」「株主間契約(SHA)」「取締役構成」などを通じて経営の実質的コントロールやリスク分担をどう設計するかです。たとえば、拒否権付きの少数株主構成、優先株式の活用、利益配当ルールの設定などにより、戦略的な柔軟性を確保することが可能となります。
Q9 M&A・買収による進出戦略の際、外資規制はどのように影響するか?
既存の現地企業を買収することでスピーディに市場に参入するM&Aは、事業の即時立ち上げや人材・施設の確保において有効な手段ですが、外資規制が制限される業種では「出資比率の変更」によってライセンスが無効になるリスクがあります。
たとえば、現地企業がもともと100%フィリピン資本で保有していた許認可(小売、サービス、不動産など)が、外資が過半数を取得したことで取り消されるリスクがあります。また、M&A後に必要となる再登録やSECへの報告義務、競争法上の事前審査義務(特に一定規模以上の取引)にも注意が必要です。
こうした点を踏まえ、M&A実行前には、外資比率に関する再確認と規制対象ライセンスの継承可否の精査が欠かせません。必要に応じて「段階的買収」や「特定事業部門の切り出し」など、柔軟なスキーム設計が求められます。
4. 会計・税務・資金回収の視点から見る外資規制対応
Q10 外資規制と会計・税務上の留意点(源泉税・配当・資本剰余)
フィリピンにおける外資系企業の税務上の最大のポイントは、「配当金に係る最終源泉徴収税」と「資本剰余金の取り扱い」にあります。フィリピン法人が外国株主に配当を支払う場合、原則として25%の源泉税が課されますが、日本とフィリピンの租税条約により、10%(または15%)に軽減される措置があります。ただし、これを適用するには事前の証明書提出(BIR Form 0901など)や手続きが必要であり、準備不足だと税額控除が認められないリスクがあります。こうした点は、資本構成の段階から税務上の出口戦略として意識しておくことが肝要です。
Q11 資金回収・利益送金における制度リスクと回避策
外資企業がフィリピンから本国に資金を回収するには、配当・ロイヤリティ・サービスフィーなどの方法がありますが、いずれも外貨送金に際して中央銀行(BSP)や商業銀行を通じた規制遵守が求められます。また、送金目的に応じた書類提出が要求されることがあるため、取引実態を証明できる会計記録の整備が必要です。
たとえば、技術支援料やマネジメントフィーの名目での支払いも認められますが、契約書・成果物・移転価格の合理性を備えていないと、税務上問題視される可能性があります。資金回収を長期視点で最適化するには、契約設計・会計処理・銀行対応までを一体的に設計する必要があります。
Q12 優遇制度(BOI・PEZA)と外資規制の関係、活用時の実務ポイント
BOI(投資委員会)やPEZA(経済特区庁)による税制優遇制度は、外資企業にとって大きな魅力です。たとえばPEZA登録企業は、一定期間の法人税免除や輸入関税の免除など、複数のメリットを享受できます。ただし、これらの制度に登録するには、対象業種や事業形態に関する厳格な条件を満たす必要があります。
さらに、PEZAに登録した企業であっても、その株主構成が一定比率以上の外資である場合には、外資規制上の適用可否に影響することがあります。BOIやPEZAのスキームを活用する際には、出資比率・ライセンス・法人登記・施設の場所など、複合的な観点から制度設計を行うことが実務的な成功の鍵となります。
5. 進出後の継続対応とモニタリング体制
Q13 規制変更・改正時に備えたモニタリング体制の作り方
フィリピンにおける外資規制は、政治情勢や経済戦略の変化によって頻繁に見直される傾向があります。たとえば、小売自由化や公共サービス法の改正のように、外国企業にとって有利な動きが進む一方で、産業保護的な流れに転じるリスクもゼロではありません。
こうした動きに的確に対応するためには、政府発表の省庁サイト(BOI・PEZA・DOF・SECなど)の定期確認に加え、JETROや在比商工会議所などが発信するアラートの活用も有効です。また、法務・税務アドバイザーとの定期的なレビュー会議や契約内容のアップデート、規制動向のレポート収集体制を構築しておくことで、想定外のリスクにも柔軟に対応できる土台が整います。
Q14 現地パートナー、法務・税務アドバイザーなどの選定基準
現地での安定的な事業運営に不可欠なのが、信頼できる専門家のパートナー選定です。外資規制対応には、単なる翻訳レベルを超えた制度理解+実務経験のあるアドバイザーが必要とされます。たとえば、出資比率の調整やライセンス取得時に、税務・法務・登記・BIR・BSPなど複数の関係機関をまたぐ対応が求められるため、ワンストップで伴走可能な体制を整えることが重要です。
また、単独でのコンサル契約だけでなく、パートナー候補企業の紹介実績や過去の対応履歴、ローカルとのネットワーク力などを総合的に判断し、継続的な信頼関係を築ける体制づくりが求められます。
Q15 実務でよくあるトラブル(外資制限の違反、ライセンス剥奪等)とその防止策
外資規制に関する実務上のトラブルで最も多いのは、「実態と登録情報の乖離」による問題です。たとえば、出資比率を正しく設定したにもかかわらず、後日見直された際に契約内容や会計処理と整合しない点が発覚し、是正が求められるケースがあります。
また、PEZAやBOIのインセンティブ条件を満たしていない事業活動(例:国内販売中心など)を行っていたことが判明し、優遇措置の否認や追徴課税につながる事例も報告されています。これらを防ぐためには、定期的な自己点検(社内コンプライアンスレビュー)や、第三者による監査的な視点を導入することが有効です。
制度を「読み解く」だけでなく、「運用の一貫性」を保つことが、外資規制に対応する上での最重要ポイントとなります。
まとめ:制度理解の先にある“戦略的”な進出を目指して
フィリピンへの進出は、日本企業にとって東南アジア市場を広げるうえで大きなチャンスであり続けています。その一方で、同国特有の「外資規制」は、法人設立からM&A、事業継続、資金回収に至るまで、あらゆるフェーズに影響を及ぼす重要な制度です。
本記事では、制度の基本構造から業種別の具体例、資本構成や税務の戦略的設計、実務トラブルの防止策に至るまで、Q&A形式で実務者目線の情報を整理しました。とくに、100%出資が可能な業種であっても、ライセンスや事業内容との整合性が問われる場面や、改正の余波が現場で“解釈待ち”となるケースもあり、単なる法令知識だけでなく「現地実務の肌感覚」を持つことがますます重要になっています。
フィリピン市場を起点にASEAN地域へと視野を広げる企業にとっても、外資規制への理解と対応力は、将来的な地域統括戦略の地盤ともなるはずです。今後も規制の改正や優遇措置の見直しは続くと予想されるなかで、単発的な法令チェックではなく、継続的なモニタリングと体制構築による「規制との共存戦略」が、進出成功の鍵となるでしょう。
制度を読み、リスクを測り、事業を育てる—— 本記事が、その第一歩となれば幸いです。
フィリピン進出でご不明な点やご相談事項があれば、是非、お気軽にご相談ください。
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東南アジア・東アジア・欧米進出の伴走&現地メンバーでの支援が強み
私たちは東南アジア・東アジア・欧米進出の伴走サポートを強みとしております。
対応する主要各国にメンバーを配置し、海外進出後も支援できる体制を整えています。
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昨今の国際情勢を見てみると良くも悪くも変動性が高く、かつウェブ・SNS等の膨大な情報が仇となり、
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特に強化しているエリアは現在日本企業の進出が増加傾向にあるASEAN各国です。
2025年、カンボジア・プノンペンにも新しい拠点を追加しております。
どの国が最適か?から始まる、海外進出のゼロ→イチを伴走する支援をさせていただきます。
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■サポート対象国(グループ別)
海外進出支援や活用・生活を支援する対象とする国は以下の通りです。
※サポート内容により、対応の可否や得意・不得意な分野はあります。
↳欧米(アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ)
↳アジア①(タイ・カンボジア・ベトナム・マレーシア・インドネシア・フィリピン・ラオス)
↳アジア②(日本・香港・シンガポール・台湾・韓国)
↳アジア③(ドバイ・サウジアラビア・インドバングラデシュ・モンゴル・ミャンマー)
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■海外進出(前)支援
日本企業の海外ビジネスのゼロイチを共に考え、目標達成のために共に動くチーム
対象法人:これから海外進出を開始する企業 / 海外事業担当者不在、 もしくは海外事業担当者が不足している企業
契約形態:①伴走支援(月額 10万円〜)②スポット支援(施策により変動)
『ポイント』
✓ゼロ地点(「海外で何かやりたい」のアイデア段階)から伴走サポート
✓BtoB・BtoC・店舗開業など幅広い進出支援に対応
✓現地で対応する駐在スタッフを各国に配置
✓現地で専門分野に特化したパートナー企業・個人と提携
『対応施策』
⚫︎海外進出の準備・設計・手続き/申請サポート
↳各種市場調査・事業計画設計(稟議書策定) /会社設立/FDA等申請等
⚫︎BtoC販売促進サポート
↳マーケティング企画設計/分析/SNS運用/ECモール出品〜運用
↳プロモーション(広告運用/インフルエンサー施策含む)/各種制作
⚫︎BtoB販路開拓サポート
↳現地パートナー起業候補の探索〜交渉〜契約/展示会サポート
↳セールスマーケティングキット制作
⚫︎飲食店開業サポート(ほか店舗開業サポート含む)
↳エリアマーケティング〜テナント居抜き探索
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■海外進出(後)支援
現地日系企業の現地での集客課題を共に考え、目標達成のために共に動くチーム
対象法人:すでに海外へ進出済みの企業 / マーケティング関連業務の担当者不在、もしくは不足している企業
契約形態:①伴走支援(月額 500ドル〜)②スポット支援(施策により変動)
『ポイント』
✓丸投げ(担当者もいない・知識もない)ウェルカムの代行サポート
✓BtoB・BtoC・店舗運営など幅広い集客支援に対応
✓現地で対応する駐在スタッフを各国に配置
✓現地で専門分野に特化したパートナー企業・個人と提携
『対応施策』
⚫︎マーケティング関連施策サポート
↳各種マーケティングリサーチ
↳デジタルマーケティング全般の企画設計/分析/PDCA改善
⚫︎セールス支援サポート
↳インサイドセールス全般(営業代行/メルマガ配信)
⚫︎各種プロモーションサポート
↳MEO/SEO/リスティング広告/インフルエンサーマーケティング
↳EC運用/SNS運用
⚫︎各種制作サポート
↳サイト/LP/ECサイト/オウンドメディア/コンテンツ(記事・動画)
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【26ヵ国39拠点】各国日本人駐在員が現地にてサポートいたします。
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2007年に日本の会計事務所として初めてインドに進出し、翌年ASEAN一帯、中南米等にも進出しました。歴が長く、実績・ノウハウも豊富にございます。
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