インバウンド市場が企業にもたらす新たなビジネス機会

訪日外国人の消費行動が変える企業戦略

日本を訪れる外国人観光客の数はコロナ禍以降、力強い回復を見せており、観光庁によると2025年には年間訪日者数が3,500万人を超えるとの見通しもあります。こうした中で注目されているのが、外国人旅行者の消費行動です。単なる「観光」や「宿泊」にとどまらず、訪日中の買い物、飲食、エンタメ体験、金融サービス、通信インフラなど幅広い領域にニーズが広がっています。これにより、観光業に限らず、異業種からのインバウンド参入が相次いでいます。特に地方都市では、訪日外国人を起点とした新たな産業創出や地域経済の活性化が期待されており、企業戦略における“インバウンド視点”の重要性が急速に高まっています。

インバウンド対応の裾野が広がる業種

かつては主に観光業や宿泊業、免税販売を行う小売業が中心だったインバウンド対応も、今ではその裾野が大きく広がっています。たとえば、外国人観光客に快適な通信環境を提供するためのモバイルWi-FiやSIMカードを手がける通信企業、多言語対応のPOSシステムを提供するITベンダー、宗教・文化配慮を行う飲食チェーンなどがその一例です。また、金融分野では海外発行のクレジットカードやQRコード決済に対応するキャッシュレス化の動きが加速し、医療や災害時のインフラ整備などでも外国人視点の導入が求められています。つまり、もはや“インバウンド対策＝観光施策”ではなく、あらゆる業種にとっての新たなマーケットチャンスと捉える必要があるのです。

インバウンドを取り込む企業の共通点とは

インバウンド市場で成果を上げている企業には、いくつかの共通した特徴があります。まず第一に、訪日外国人のニーズを正確に捉えたサービス設計と情報発信を徹底していることです。単なる翻訳ではなく、文化的背景や行動様式に配慮した「受け入れ体制」が整っていることが信頼と満足度に直結しています。次に、デジタルマーケティングの活用が挙げられます。SNSやインフルエンサーを通じた口コミ戦略、海外OTAでの情報展開など、多チャネルでのタッチポイント設計が効果を生んでいます。また、自治体や地域の観光団体と連携し、地域全体で訪問体験を高めている点も見逃せません。こうした多面的なアプローチが、インバウンド市場で選ばれる企業づくりにつながっているのです。

インバウンド企業の主な業種と注目ビジネスモデル

宿泊・観光・交通にとどまらない広がり

インバウンド市場の成長に伴い、参入する企業の業種は多岐にわたるようになっています。従来の宿泊業や観光業に加え、飲食、交通、通信、小売、医療、エンタメ、さらには製造業やIT業までが新たなターゲットとして外国人観光客を意識し始めています。たとえば、ある地方の酒造メーカーが海外のSNSを通じて工場見学の予約を受け付け、英語対応ガイド付きツアーを提供するなど、従来は訪問対象でなかった業種がインバウンドをきっかけに観光コンテンツ化する動きも加速しています。また、交通業界では、多言語で利用できるアプリや乗換案内サービスの提供、観光地周遊パスの開発など、利便性向上に力を入れる企業が台頭しています。

成功モデルに見る共通点とは

注目すべきは、インバウンド需要を着実に取り込んでいる企業に共通するビジネスモデルの特徴です。第一に、ターゲット国や地域を明確に定めたマーケティング戦略があります。中国、韓国、東南アジア、欧米など、訪日理由や関心分野は大きく異なるため、国別にカスタマイズされたサービスや発信が成果を左右します。第二に、受け入れ体制の整備です。多言語での接客対応や案内表示、予約・決済手段の多様化はもちろんのこと、文化・宗教への理解を踏まえたサービス設計が評価されています。第三に、訪日体験後のリピート促進や越境ECへの導線づくりも重要です。訪日前・訪日中・訪日後を一連のカスタマージャーニーとして捉える視点が成功の鍵となります。

今後注目されるインバウンド領域とは

今後、特に注目されるインバウンド領域の一つは「地方創生型ビジネス」です。政府の観光分散施策の後押しもあり、大都市圏以外での体験型観光や農泊・漁泊体験、文化交流型プログラムの需要が増えています。これにより、地方の中小企業や農林水産事業者も、インバウンド市場との接点を持つようになりました。また、健康志向やサステナビリティを重視する外国人観光客の増加に伴い、ビーガン・ハラール対応の飲食、エコツーリズム、地域資源を活用したSDGs型事業にも関心が集まっています。これらは、商品・サービスとしての独自性を持ちつつ、地域社会との共存や持続可能性という観点でも支持を得やすく、今後のインバウンド戦略において有力な柱となるでしょう。

インバウンド企業が直面する課題と対策

言語・文化の壁と接客対応の難しさ

インバウンド需要の増加とともに、企業が直面する最大の課題のひとつが、外国人観光客との円滑なコミュニケーションです。多言語対応が十分でない店舗や施設では、サービスが十分に伝わらず、顧客満足度が低下することがあります。特に地方や中小企業においては、外国語スタッフの確保が困難であり、言語サポートツールの導入も進みにくい状況が見受けられます。また、文化的背景や期待値の違いもサービス品質に影響を与え、トラブルの原因となることもあるため、現場での教育や体制整備が不可欠です。

観光客の多様化とマーケティング戦略の再構築

訪日外国人観光客は、国や地域によって求める体験や購買行動が大きく異なります。たとえば、アジア圏の若者はSNSで話題のスポットに関心を持つ一方で、欧米の観光客は自然体験や文化的価値を重視する傾向があります。このようにニーズが多様化する中、従来の日本市場向けの手法では成果を上げにくくなっており、インバウンド市場に特化したマーケティング戦略の見直しが必要となっています。国・地域別の消費傾向や行動データをもとに、訴求内容やチャネルを柔軟に選択していくことが重要です。

解決の鍵はテクノロジーと現場教育の両立

これらの課題を乗り越えるためには、テクノロジーの導入と人材教育の両立がカギとなります。たとえば、Webサイトの多言語対応や翻訳機能の強化、AIチャットボットの導入により、初期接点のストレスを軽減することが可能です。同時に、店舗スタッフやガイドなどの現場担当者には、国際マナーや異文化理解を含めた研修を実施し、柔軟な対応力を育むことが求められます。こうした取り組みによって、外国人旅行者の満足度を高め、リピーター獲得にもつながっていくでしょう。

注目されるインバウンド企業の最新事例

外国人観光客を惹きつける「体験型観光」の成功事例

インバウンド対応において、近年特に注目されているのが「体験価値」を軸としたサービス展開です。たとえば、京都を拠点にするある老舗和菓子店では、店舗での販売に加え、外国人観光客向けに和菓子作り体験を提供することで大きな成果を上げています。言葉の壁を超えて、日本文化を“体験”できるコンテンツは、訪日観光客にとって忘れがたい思い出となり、SNSでの拡散や口コミによる集客効果も高まります。こうした事例は、商品やサービスに体験要素を組み合わせることで、新たな付加価値を創出できることを示しています。

テクノロジーを活用したインバウンド対応の最前線

デジタル技術を活用したインバウンド戦略も急速に進化しています。とくに注目されているのが、AIやIoTによる多言語対応、キャッシュレス決済の導入、訪問客の行動分析を活用したマーケティング施策などです。たとえば、浅草の人気飲食店では、タブレットを使った多言語メニューとオーダーシステムを導入し、外国人観光客の注文ミスを削減しただけでなく、回転率の向上にも成功しています。また、訪問者の属性データを蓄積することで、国別の需要傾向に応じたキャンペーン施策を展開できるようになり、再訪率の向上にもつながっています。

地方発の中小企業も積極的に展開

インバウンド対応は都市部に限られた取り組みではなく、地方の中小企業でも成功事例が増えています。たとえば、熊本県の温泉旅館では、欧米圏の自然志向ニーズに応える形で、長期滞在型の宿泊プランと地元農業体験を組み合わせたプログラムを提供し、高評価を得ています。海外からの観光客にとっては、都市部では味わえない地域独自の文化や風景が魅力となっており、観光コンテンツの差別化が可能です。さらに、地元の通訳ボランティアや自治体との連携も進めることで、サービス品質を確保しつつ、地域ぐるみでの受け入れ体制を強化しています。

インバウンド施策の今後と企業に求められる視点

ポストコロナ時代の観光戦略に必要な視座とは

2020年以降のコロナ禍を経て、インバウンド市場は大きく様変わりしました。量的な集客から質的な体験提供への転換が進み、訪日観光客は単なる観光地巡りではなく、「その地域でしかできないこと」を求める傾向が強まっています。このような流れに対応するには、企業は従来の広告・集客モデルから脱却し、地域文化や歴史、人との触れ合いといった“文脈”を提供する存在へと進化していくことが求められます。まさに今、日本独自の価値を見つめ直し、それを外国人目線で再編集することが重要です。

自社リソースだけに頼らない外部連携の必要性

多くの企業がインバウンド対応に取り組むなかで課題となるのが、言語、文化理解、法制度対応、デジタル技術の運用といった専門性の高さです。こうした点においては、自治体や専門支援会社、翻訳・通訳サービスなど、外部パートナーとの連携が不可欠となります。実際に成功している企業の多くは、社内に全ての機能を抱え込むのではなく、適切なパートナーと協力しながら、柔軟かつ迅速な体制を構築しています。特に地方企業にとっては、地域全体のネットワークを活かし、連携によるスケールメリットを生かすことがカギとなります。

持続可能な取り組みを見据えた中長期視点の導入

一過性の集客に終わらせず、継続的なインバウンド収益を確保するためには、短期的な成果だけでなく中長期的な取り組みも視野に入れる必要があります。たとえば、定期的なフィードバック収集と改善を繰り返すPDCAの仕組みや、多言語対応スタッフの育成、越境ECとの連携によるアフターフォローの仕組みなど、顧客の“滞在後”も意識した施策が今後は重要性を増します。また、観光庁やJNTOの最新施策、国別の旅行トレンドの変化を定期的に把握し、柔軟に戦略を見直していく体制を構築することも、安定した成果を上げ続けるためには欠かせません。

まとめ｜インバウンド対応企業として持続可能な価値を届けるために

本記事では、訪日外国人観光客をターゲットとする企業の現状と、成功に向けたアプローチについて解説してきました。市場としてのインバウンド需要は確実に回復・拡大しており、単なる「対応」ではなく、「戦略的な価値提供」が企業に求められるフェーズに入っています。

特に注目すべきは、訪日客のニーズが多様化していることです。アジア圏、欧米圏、個人旅行者、リピーターなど、国籍や属性によって求められるサービスの内容は大きく異なります。そのため、企業は「誰に何をどう伝えるのか」という観点から、自社の魅力や地域資源を丁寧に見つめ直し、マーケティングと現場体験の両面で統合的な戦略を立てることが必要不可欠です。

さらに、インバウンド施策は短期施策で終わるものではなく、中長期的な視点で捉えることが成功の鍵となります。自社リソースだけに頼らず、専門パートナーや地域・自治体との連携を通じて持続可能な運用体制を整えていくことが、今後の競争優位性につながります。

Digima～出島～では、こうしたインバウンド市場への対応を検討する企業様に向け、各国・地域におけるマーケティング支援やパートナー企業のご紹介など、実務に根ざしたサポートを提供しています。グローバル市場で選ばれる企業を目指す第一歩として、ぜひご相談ください。