日本茶を世界へ:海外展開で産業を支え、文化を未来につなぐ
日本茶は単なる飲み物ではなく、日本の文化遺産の一部です。茶道(茶の湯)は何世紀にもわたり高尚でほとんど神聖な伝統とされ、人々の生活に深く根付いてきました[1]。しかし現在、国内の日本茶業界は需要減少と生産者の減少という大きな課題に直面しています。
本記事では、B2Bパートナー企業や日本の茶農家の皆様に向けて、日本茶の海外展開の意義とその文化的重要性について考察します。私たちの取り組む築地でのワークショップや越境EC(電子商取引)の事例、そして世界で高まる日本茶人気のトレンドを交えながら、海外市場の活用が日本茶産業の持続可能性につながることをお伝えします。
▼ 日本茶を世界へ:海外展開で産業を支え、文化を未来につなぐ
国内市場縮小の現状と課題
近年、日本国内における日本茶(特にリーフ茶)の消費は年々減少傾向にあります。総務省の家計調査によれば、1世帯当たりの緑茶(リーフ茶)の購入数量は2008年頃と比較して約3割も減少しています[2]。背景には若年層の「茶離れ」やライフスタイルの変化があります。実際、若い世代の間で急須でお茶を淹れる習慣は薄れ、茶道教室への参加者も減少するなど、伝統的な茶文化の担い手が少なくなっています[3]。一方でペットボトル入り緑茶など手軽な飲料の消費は約2割増加しており[4]、コンビニエンス志向の中で急須離れが進んでいる現状がうかがえます。
需要低迷に伴い、日本茶の茶葉そのものの市場卸売価格も長期的に低迷傾向にあります[5]。こうした状況下で茶農家の経営は厳しさを増しており、後継者不足や高齢化が深刻です。実際、この20年で茶農家の数は約77%も減少し、2000年に約5万3千軒あった茶農家が2015年には1万9603軒にまで減り、2024年時点では1万2千軒を下回るまでになっています[6]。さらに茶農家の高齢化も進んでおり、茶農家の7割以上が65歳以上というデータもあります[7]。若い世代で茶業に従事する人はごくわずかしかおらず、このままでは生産の維持が困難になる恐れがあります。実際、農林水産省も「生産現場で離農や高齢化に伴い栽培面積・生産量の減少ペースが増大しており、このままでは国内外の需要を満たせなくなることも懸念」と指摘しています[8]。国内市場の縮小と生産基盤の弱体化は、日本茶産業にとって喫緊の課題と言えるでしょう。
日本茶の文化的意義と危機
日本茶には経済的価値だけでなく深い文化的意義があります。日本人にとってお茶は古来より生活と切り離せない存在であり、茶の湯に代表される日本の茶文化は千年以上の歴史を誇ります[9]。茶道では一服のお茶に主客が向き合い、侘び寂びの精神やおもてなしの心を体現する場ともなってきました。そのため日本茶を嗜むことは、日本の美意識や精神文化を継承する行為でもあるのです。
しかし、その伝統文化が今危機に瀕しています。グローバル化や生活様式の近代化に伴い、若い世代の間では日本茶は「古臭い」と見なされる傾向すらあると言います[10]。事実、現代の日本では「若者の家に急須や茶器がない」「茶道は特別な場以外では縁がない」という声も聞かれるようになりました。かつて高いステータスを持っていた茶道も若者離れが進み、「お茶=年配者のもの」というイメージが広がりつつあります[11]。このままでは、茶の湯の所作や作法、お茶を丁寧に淹れて味わう習慣といった無形文化が途絶えてしまいかねません。
文化的側面は栽培や地域社会にも及びます。お茶の産地では、茶畑の風景や栽培技術そのものが地域の伝統として根付いてきました。例えば静岡県に伝わる「茶草場農法」は、生物多様性を守りつつ美味しい茶葉を育てる知恵として評価され、2013年に国連の世界農業遺産(GIAHS)に認定されています[12]。このように茶の栽培・加工技術も含めて日本茶文化なのですが、農家の離農や茶畑の放棄が進めば、その伝統技術や田園風景も失われてしまいます。日本茶の衰退は経済的損失のみならず、日本の誇る文化遺産の喪失にもつながるため、私たちは強い危機感を抱いています。
海外市場で高まる日本茶の人気
世界に目を向けると、日本茶は今まさにブームと言える状況が展開されています。ここ数年で抹茶はグローバルに流行し、その鮮やかな緑色と健康効果から欧米のミレニアル世代やZ世代を中心に人気が爆発しました[13]。実際、ヘルシー志向の高まりや日本食ブームも後押しし、海外のカフェでは抹茶ラテや抹茶スムージー、抹茶を使ったデザートが定番メニューになっています[13]。2025年6月、京都・宇治市内の老舗茶店では需要急増に生産が追いつかず「抹茶売り切れ」の貼り紙が掲示される事態となりました[13]。これは世界的な抹茶人気によって在庫が追いつかない状況を象徴する光景でした。実際、「世界がお茶に目覚めた」と言われるほど海外需要が高まっており[14]、抹茶専門の卸業者が一時的に販売制限を設けるケースも出ています。ある海外ティーブランド創業者は「常に在庫切れ状態だ」と語るほどで、日本産抹茶の供給不足が新たな課題になるほどです[15]。
こうした海外需要の高まりは、数値にも表れています。農林水産省の統計によれば、日本の緑茶(抹茶を含む)輸出額は年々増加を続け、2024年には前年比25%増の364億円と5年連続で過去最高を更新しました[16]。輸出量で見ても8,798トンと、20年前の約10倍に達しています[17]。特に伸びが顕著なのが抹茶などの粉末茶カテゴリーで、2024年は輸出額272億円(前年比25.9%増)と大きく拡大しています。しかし抹茶以外の煎茶やほうじ茶などリーフ茶も海外で着実に人気を獲得しており、同年のリーフ茶輸出額は92億円(前年比21.1%増)に達しました[18]。つまり海外市場では、日本茶全体への関心が高まっているのです。
抹茶ブームは他の日本茶への入り口にもなっています[19]。たとえば近年では、日本の焙じ茶(ほうじ茶)が「次なるトレンド」として注目を集め始めました。ほうじ茶は香ばしく低カフェインな特徴が海外の若者にも受け入れられ、スターバックスが日本で「ほうじ茶フラペチーノ」を発売したことなどをきっかけに知名度が向上しています[20]。ほうじ茶はすっきりした甘みとコーヒーに通じる香ばしさを持ち、夜でも飲みやすいお茶として欧米や東南アジアでも人気がじわじわと広がっています[20]。実際、北米や欧州では日本産ほうじ茶を専門に扱うブランドや、日本茶カフェで煎茶や玉露・玄米茶といった多様なお茶を提供する動きも出てきました。こうした流れは、日本茶が「抹茶だけ」にとどまらず、その多様性ごと海外で評価され始めていることを示しています。ある老舗茶園の担当者は「国内市場が縮小する中で、弊社の国際販売は過去7年間で毎年2~3倍に拡大した」と述べており、海外市場が新たな成長エンジンとなっている例も報告されています[21]。
このように海外には、日本茶の持つ品質や健康価値、そしてエキゾチックな文化的背景に惹かれる新たな顧客層が数多く存在します。海外展開は日本茶業界にとって、単なる販路拡大以上の意味を持ち始めているのです。
ワークショップとECによる海外発信の取り組み
海外市場の可能性を感じつつも、「具体的に何をすれば良いのか?」と疑問に思われる生産者や関係者の方も多いでしょう。私たちの会社では、その解の一つとして体験型ワークショップとEC(電子商取引)を活用した日本茶プロモーションに取り組んでいます。
東京・築地にて定期的に開催している外国人向け日本茶ワークショップでは、参加者(主に海外からの観光客)の皆様に日本茶の魅力を直接体感していただいています。内容は単なる抹茶の点て方レクチャーに留まりません。茶筅を使った抹茶体験はもちろんのこと、日本茶の多様性を知っていただくために煎茶や玉露、ほうじ茶、玄米茶といったリーフ茶の淹れ方や味わいの違いも紹介しています。例えば、抹茶と煎茶では茶葉の栽培方法から抽出方法まで異なること、ほうじ茶は独特の香ばしい香りがありミルクとの相性も良いことなどを説明し、実際に試飲いただきます。参加者からは「煎茶やほうじ茶を初めて飲んだけれど美味しい」「お茶ごとにこんなに風味が違うとは驚き」という声が聞かれ、日本茶の奥深さに感銘を受ける様子がうかがえます。
ワークショップを通じて日本茶に興味を持った参加者に対しては、帰国後も継続して日本茶を楽しんでいただけるようフォローアップしています。当社の運営する越境ECサイトでは、英語をはじめ多言語で日本茶の商品情報を発信し、海外在住でも気軽に煎茶や抹茶、高品質な茶器などを購入できる環境を整えています。ワークショップ参加後にECサイトを利用してリピート購入してくださるお客様も多く、リアルな体験とオンライン販売を連携させることで、日本茶ファンとの長期的な関係構築に成功しています。
また、ECを活用することで、生産地から海外消費者へ直接商品を届けるダイレクトトレード的な仕組みも実現できます。これにより中間流通コストを抑えつつ、産地の物語や農家の顔が見える情報発信を行うことで、消費者にとって商品の付加価値が高まり、結果的に生産者側の収益性向上にもつながります。実際、オーガニック栽培茶やシングルオリジン(単一農園)のお茶など差別化商品は海外市場で高い評価を受けやすく、適正な価格で取引される傾向があります[21]。当社のECサイトでも産地直送の新鮮な茶葉や希少な手揉み茶などを紹介したところ、「ぜひ飲んでみたい」と海外のお客様から反響をいただきました。これは、生産者にとっては新たな収入源となるだけでなく、自分たちのお茶が世界の消費者に喜ばれているという誇りと励みにもなっています。
さらに付け加えれば、体験型のアプローチは単に商品を売る以上の効果をもたらします。ワークショップで直接お客様と接することで、現地の生の声や嗜好を知る機会にもなりますし、日本茶に対する理解を深めてもらうことでブランドロイヤルティを高めることができます。観光庁や文化庁も訪日観光客向けに日本文化体験プログラムを推進しており、その中で茶の湯や茶摘み体験は人気コンテンツとなっています[22]。当社の築地での試みも、そうした日本政府の方針と歩調を合わせながら、日本茶ファンの裾野を世界に広げる役割を果たしたいと考えています。
海外展開がもたらすメリット
海外市場に目を向けることは、日本茶業界に次のようなメリットをもたらします。
-
新たな需要創出による収益向上:国内で減少した需要を海外の新興マーケットで補うことで、茶産業全体のパイを拡大できます。特に健康志向の高い欧米やアジアの消費者からは日本茶への関心が高まっており[23]、適切にアプローチすれば安定した新規顧客層を獲得できます。実際、国内市場が縮小する中でも海外売上が年々倍増している茶園も存在し、そのような成功例が増えれば業界全体の収益底上げが期待できます[21]。
-
価格の安定と適正評価:国内では供給過多から茶葉価格が低迷しがちですが、海外では品質の高い日本茶にプレミアム価格を払ってでもほしいという需要があります。海外展開によりマーケットが分散すれば、一地域・一国の需要変動に左右されにくくなり、結果として価格の安定につながります。また無農薬・有機茶や希少品種など、付加価値の高いお茶ほど海外で正当に評価されやすい傾向があります[21]。これは生産者がこだわり抜いた高品質なお茶に対して、適切な対価を得られる機会が増えることを意味します。
-
日本茶ブランドの国際的認知向上:海外で日本茶のファンが増えることは、日本茶ブランド全体の価値向上につながります。抹茶ラテや緑茶スイーツが世界中のカフェやレストランで提供されるようになれば、日本茶=おしゃれでヘルシーな飲み物というイメージが定着し、ブランド力が高まります。国際的な認知度が上がれば、日本国内でも逆輸入的に日本茶が再評価される可能性もあります。さらに海外の顧客との接点を持つことで、マーケティングや商品開発において新しい発想やコラボレーションが生まれるでしょう。現地パートナー企業との協業を通じて、日本茶を使った新商品の開発や販促イベントの開催など、今までになかったビジネス展開も期待できます。
-
産地の維持と文化継承:海外に安定した販路を確保することは、茶農家の経営の安定化につながり、結果として後継者育成や産地維持の追い風になります。収益が見込めるのであれば若い世代も茶業に参入しやすくなり、高齢化で失われつつあった技術の伝承や茶園の維持管理が続けられるでしょう。これは単に産業の存続というだけでなく、その土地ならではの茶文化・農法の継承にも寄与します。先述の静岡の茶草場農法のように、地域に根差した伝統的な製茶法や景観も守られていくはずです。海外展開によって得た収益の一部を環境に優しい農業技術や茶畑景観の保全に投資する、といった循環も生まれれば、日本茶産業は真の意味で持続可能(サステナブル)なものとなるでしょう。
おわりに
国内需要の低迷や生産者の高齢化という課題に直面する日本茶業界にとって、海外展開は新たな希望です。世界中で高まる日本茶ブームを追い風に、日本の茶農家と事業者が手を取り合い海外市場に目を向ければ、停滞していた産業に再び活力を与えることができます。日本茶は単なる商品ではなく、日本人の精神や美意識を体現した文化そのものです。その文化を次世代に残すためにも、私たちは海外のお客様に日本茶の価値を伝え、愛好者になっていただく努力を続けていかなければなりません。
幸い、抹茶やほうじ茶をはじめ日本茶への関心はグローバルに広がっています。この絶好の機会を捉え、B2Bのパートナー企業の皆様には日本茶の普及に向けた協働を、そして茶農家の皆様には高品質なお茶づくりと新たな市場への挑戦をお願いしたいと思います。私たちのような海外販路を持つ事業者も全力でサポートいたします。
日本茶の鮮やかな緑と豊かな香り、そしてそこに込められたおもてなしの心は、国境を越えて人々を魅了する力があります。その力を信じ、日本茶を世界のより多くの人々の日常へ届けることで、国内の産地と文化を守り育てていきましょう。海外展開によって日本茶産業に持続可能な未来を築き、日本の誇る茶文化を末長く次世代へとつないでいく――私たちはその使命を胸に、これからも歩みを進めてまいります。
[1][3][2][10][12][13][16][18][20][21][23][22][5][6][7][8]
[1] [3] [10] [11] [21] [22] Surprising Changes in Japanese Tea Culture & Business - Fresh Cup https://freshcup.com/surprising-changes-in-japanese-tea-culture-business/ [2] [4] [5] [8] maff.go.jp https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/230929-4.pdf [6] [7] [14] [17] [18] [23] 11 Facts about the Matcha Shortage You Should Know — Ooika (覆い香) https://ooika.co/learn/11-matcha-shortage-facts?srsltid=AfmBOopXC-ZWxPdrqxCdimnQ9e7-tmtDvpBIGO4bLriWzVCvzW5wJ_TY [9] [19] [20] Matcha is Just the Beginning – Hōjicha is the Tea Trend to Watch | JAPAN HOUSE Los Angeles https://www.japanhousela.com/articles/hojicha-is-the-tea-trend-to-watch/ [12] Globally Important Agricultural Heritage Systems Chagusaba in Shizuoka 02 https://www.chagusaba.jp/english/02/index.html [13] [15] [16] Japan's heat-stressed matcha tea output struggles to meet soaring global demand | Reuters https://www.reuters.com/business/japans-heat-stressed-matcha-tea-output-struggles-meet-soaring-global-demand-2025-07-04/
この記事が役に立つ!と思った方はシェア
海外進出相談数
27000
件突破!!
最適サポート企業を無料紹介
コンシェルジュに無料相談






























